3本足の戦車が滅びた都市を駆け抜ける。
大量の軌道兵器が降り注ぎ、まるでメギドの炎によって焼かれたのかと見間違うほどの惨状を見せつけるビル群は、殆どが溶けるか衝撃で粉砕されていた。
戦後生まれた彼らにとってこのような場所は珍しくなく、死んだ人々のことなど気にせず墓荒らしに没頭していた。
「このビル群、全部武装ビルじゃないですか?」
「装甲も多少マシな場所から引き剥がせば売れるし、内部から部品取るのもいいな」
「熱で歪んでて、とても作業なんて出来ませんって」
ボロボロになった残骸であろうとも生産施設を失ったこの時代の人々にとっては貴重品、どうやって金に変えるか戦車のキューポラから身を乗り出し思案していた…
ー
ディスプレイの光以外は無い、そんな薄暗い一室に機械音声が響く。
『全防衛システム沈黙、敵部隊最終防衛ライン突破』
『隔壁閉鎖、エラー発生、隔壁を閉鎖出来ません』
『都市ネットワークの稼働率5%、敵の詳細位置ロスト』
100年以上が過ぎた都市でも根幹たる指令部は稼働しているらしく、さまざまな報告が壊れかけのディスプレイに表示される。
全てが危険を指し示す赤色、次点で警告を示す黄色で画面が埋め尽くされており打つ手は無いといった状況だ。
「…プランW、決行」
『緊急時のため即時決行は承認されました』
『この事態はプランWの規定に合致します』
指令部は埃や土が積もり、外壁は割れているという散々な状態であり一人の女性以外に動いている人は居ない。
その中で一番高い場所にある座席に座っていた青と白の長髪と白衣が特徴の女性は、そのプランとやらを発動すべくとある区画へと向かう。
ー
『貴様は我々の計画にとって最も危険足り得る存在だ』
『他の転生者と同じように凍結処分、それで良いな?』
良くないに決まっている、自己中心的なクソ野郎が。
転生者として二度目の生を受け、第三次世界大戦では自分の国を守るため戦った。
しかし建設が進められていた要塞都市を乗っ取った「転生者」を名乗る者達に捕らえられ、コールドスリープ装置に入れられた。
『君なら我々に賛同してくれると思ったんだけど』
阿保か、武器無しでどれだけ強くても技術が進んだこの世界じゃあ関係ない。
それに世界の終わりに備えて自分達の街を作るなんてエゴだ、ゲームか何かと勘違いしてないか?
『解凍シーケンス終了まであと…』
さっきから記憶がどんどん湧き出てくる、今まで止まっていた脳が急に動き出したみたいに…
「聞こえますか?」
「うぉッ!?」
復活した視界に現れたのは目を瞑ったままの女性、白衣を着ているが医療従事者には見えない。
研究者だろうか、そんな気がした。
「協力して下さい、このままでは貴方も死にます」
「…第一声がそれかよ、冷凍されてすぐ協力しろって言われても困るぞ」
かろうじて話せるが、身体はガタガタだ。
歩こうものならぶっ倒れるのが目に見えている。
「貴方の脳には爆薬が仕掛けられています、この都市が完全に陥落すれば貴方の頭も吹っ飛びますよ」
「…そんなことだろうと思った、まあ奴らならやるだろうな」
彼女のポーカーフェイスは完璧で、機械のように口以外が動く気配は無い。
自分を利用しようとしているのか、それとも本当に自分を頼らざるを得ない状況なのかは分からない。
「分かった、まだ死にたくないんで協力してやるよ」
「案内します、立てますか?」
「いやその…肩貸してくれ」
女相手に格好もつけられないとは、悲しいものだ。
えっちらおっちらと歩き、案内されるままに進む。
既に敵の機体は司令部のある巨大施設に張り付いているらしく、防衛設備も全てやられたと聞かされた。
「まさか、多脚戦車に易々と攻略されるような要塞だったか?」
「戦時中の衛星軌道爆撃と核融合弾の一斉投入により地上施設の9割は破壊されています、既に自力での迎撃は不可能なのです」
「生き残りもお嬢さんだけか」
「…はい」
含むところがあるようで、彼女は少し黙ってから肯定した。
今まで全く感情を外に出さなかったが、中々の事情があるらしい。
そうなると少し協力したくなった、これも彼女の掌の上でも受け入れよう。
「もう歩ける、先導してくれ」
「わかりました」
さっきから歩いていた基地の通路もボロボロだ、崩れて通れない場所や断層のようにずれてしまっている場所もある。
「この場所です」
「格納庫?」
まだ非常用の電灯は生きているようで、赤い光が一機の人型兵器を照らす。
重工なシルエット、両脚から伸びる跳躍ユニット、各所の発光するセンサー部…
「戦術機、撃震か?」
「知っているのですね」
「この世界には無かった兵器だ、こんなものを作ってやがったとは」
彼女は近場のディスプレイをどうにか動かし、機体に武装を搭載し始めた。
それと同時に開いたコックピットに入り、操縦桿を握ればすぐさま動かし方が脳に伝わる。
「なるほど、そういうことか」
コックピットの中に置かれていたヘッドセットを付けると視界にカメラの映像が映し出される。
これが戦術機の特徴の一つ、網膜投影だ。
「機体チェック問題無し、燃料と武器はどうなってる?」
「今終わりました、少し前から進めていましたから」
背中の兵装担架に突撃砲二門、両手には盾と突撃砲を持つことにした。
敵戦車の主砲は80mm、戦術機の装甲が原作通りなら一撃で爆散する威力だ。
「出撃準備完了、外に出…」
格納庫の出撃口が爆発によって吹っ飛ぶ。
巨大なシャッターは変形し、多脚戦者の砲塔が外から覗いた。
「やりたい放題だな、無事か?」
「はい」
咄嗟に飛び出て盾を低く構え彼女を守ったため、衝撃波はどうしようもないが飛び散る破片からは守れたようだ。
「気を引くから基地の中に逃げてくれ」
突撃砲の120mm砲を寸分違わず敵戦車に叩き込むと驚いた様子で引いていった。
沈黙したものだとばかりに思っていたのだろう、やはり油断し切っている。
「逃すか!」
軍用の通信が一気に増えたのは確認済み、敵も狼狽えている。
ここから出るのは今しかない、戦術機の機動性を活かして外に飛び出した。
機体のメインカメラが地上を映す、灰色の都市の中で場違いな砂上迷彩の車両は分かりやすかった。
「多脚戦車が4、多脚歩兵戦闘車が2…指揮車1!」
専用の対空車両は居ない、空はこちらのものだ。
そして目標は決まった、部隊の統率を司る指揮車を真っ先に潰す。
「戦い方がお粗末なんだよォ!」
突撃砲の持つ二つ目の砲、36mm機関砲は装甲の薄い天板をあっさりと貫通した。
多脚歩兵戦闘車が自慢の40mm機関砲をこちらに向かって放つが遅い、既に貴様らのリーダーは致命傷だ。
『暗号通信の解読終わりました、繋ぎます』
「お前いつの間に?!」
『私の仕事ですから』
さっき逃したばかりの彼女が敵の暗号通信をあっさりと突破したらしい、これで内情も筒抜けというわけだ。
『戦術機があるなんて、聞いてねえぞ』
『隊長がやられた、あの野郎許さねぇ!』
『さっきので砲塔が動かなくなりやがった、誰か助けてくれ!』
各々が言いたい放題である、だが今の損害報告で他の車両が損傷機の援護に向かった。
もう助からないと見た指揮車両から離れ、先程120mmを打ち込んだ車両の周りに集まってこちらを牽制している。
「…こういう判断は早いのか、一応経験は積んでるみたいだな」
ビル群を盾に機体を飛ばし、敵の対空砲火をやり過ごす。
空中で炸裂し金属片をばら撒く対空用の砲弾は持っていないようで、全てビルに当たって初めて信管が作動している。
「軍人、ではないな」
ビルの影に隠れて急降下、側面に回り込み36mmを放つ。
40mm機関砲を持つ歩兵戦闘型の弾薬庫に弾丸が命中、誘爆し左側面が吹っ飛んだ。
『ギャッ!?』
『三番機がやられた!弾幕張れ!』
『機関銃でどうしろって…』
パニックになり弾を撃つことしか出来なくなった多脚戦車など的でしかない。
36mm弾が雨霰と降り注ぎ、身を乗り出して機関銃を撃っていた者は血煙になり、次々と煙や炎を噴いて車両が破壊されていく。
「この程度で調子に乗るからこんなことになる!」
火だるまになった搭乗員が車両から転がり落ちてきて首を折って死ぬ、錯乱して味方ごとこちらを撃つ、まさしく地獄だ。
『逃げろ、もう駄目だ!』
パニックになった生き残りが外に出て逃げ出した、人の身ではどうしようも無いというのに。
『逃げる?どこに行くってんだよ』
「阿保が」
120mmが炸裂、生身の人間は皆動かなくなった。
ー
「あー、畜生どうなってるんだこれは…」
あれから数日、都市指令部の修繕に追われていた。
都市のメンテナンスを担当する自律機械群を統括するメインコンピュータは既に破壊され、サブコンピュータが辛うじて動きそうとのことなので工具片手に配線を弄っている。
「メインコンピュータから部品を取ってくるか、どうにか作んなきゃな…」
黄色のパワードスーツはオレンジ色の警告灯を光らせながら、高さ3mもある大きなメンテナンス通路に居た。
作業服姿の男は一日のほとんどをメンテナンス通路で過ごしている。
『ドローンのメンテナンス、最低限の25機終わりました』
「ありがとう、こっちも一応は繋げられそうだ」
『いえ、カンナギさんもお疲れでしょうし休みませんか?』
「アンジェラが言うならそうするか、すぐ行く」
彼女の名前はアンジェラで、戦術機に次ぐ転生者によってこの世界へ持ち込まれたものの一つだ。ロボトミーコーポレーションというゲームのキャラクターであり、とある人物の模造品であり、人と同じ自我を持つアンドロイドである。
「これでやっと楽になるな、いい加減作業ロボットは乗り飽きた」
「初めてとは思えない乗りこなし様でしたが?」
「…転生特典ってヤツだよ、使おうとした物ならなんでも使えるようになる」
自分が冷凍保存された最も大きい理由の一つであり、やろうと思えば知らない兵器を即座に乗り回し、使ったこともない電子機器を操作してみせる敵からしたら厄介すぎる能力だ。
特に巨大な要塞都市を持ちつつも運用ノウハウが蓄積されていなかった転生者グループにとって敵対している上、仲間に引き込める可能性が低いため恐ろしいにも程があったのだろう。
なんてことを主観混じりに説明してみると、彼女はいつも通り目を瞑ったまま頷いた。
「実は貴方についての情報は破壊されたメインコンピュータにあり、知ることが出来なかったのです」
「…それでよく俺を起こす気になったな」
「最後の手段、プランWの要項にはそうありましたから」
正直言って彼女についてはよく分からない。
話を聞いている限りこの都市の維持管理に尽力していたらしいが、それ以外のことになると口数が減るのだ。
「で、このまま行けば機械が機械を整備し続けて人の手を借りなくても整備は進むって話だよな?」
「はい、既に多数のメンテナンスロボットが作業に従事しています」
彼女もメインコンピュータの大破が原因で本来の仕事である都市のメンテナンスが出来なくなり、自らの手でどうにかやってきたらしいが出来ないことの方が多かったらしい。
「それでなんだが、今後はどうすれば?」
「外の調査をお願いします、ゆくゆくは物資調達を行いたいので」
「了解…と言いたいんだが、寝ている間何があったのか聞いてもいいか?」
「分かりました、お話ししましょう」
第三次世界大戦、突発的に始まったそれはどこの国も望んだものではなかった。
そのために人類を滅ぼすかもしれないと思われていた戦争は思いの外あっさりと終結した。
衛星軌道に浮かべられていた質量弾が地上へ落ちることも、核融合弾が投入されることもなかったのだ。
しかしそのドサクサに紛れてこの要塞都市を占拠した一団は圧倒的な技術力で世界と交易を開始した。言うまでもなく、転生者共だ。
永久機関、人型兵器、人工知能、循環型シェルター…それらを売りつつ終末論を唱え続けた。
「この世界は終わる、そのために備えなくてはならない」
なまじ技術があるためにそれは大多数の人間に受け入れられてしまった、第三次世界大戦があっさり終わり過ぎたのも原因の一つらしい。
その結果あまりにも危険だと判断され、あらゆる兵器を要塞都市の迎撃できる数の3倍叩き込んだ。
だが彼らのカウンターが発動、大規模な電磁波攻撃と同時に行われた1000発を超える核融合弾の一斉射は一瞬で地上から文明を根こそぎ刈り取った…
「なんというか、呆気ないな」
「元から世界を自ら滅ぼして、その後の世界を得るつもりだったのでしょうね」
「聞いている限りはそう聞こえる、よく俺が生きてたなって思えるさ」
「…この都市のさらに地下、今はアクセスが難しいですがそこには大量の物資と兵器が眠っています。やる気だったのは確かでしょう」
物資を集めて修理を進め、その地下とやらを使えるようにするのが当面の目標なのだろうか。
しかしそれでアンジェラは何がしたいのか、それが分からない。
「なあ、都市を直してどうする気なんだ?」
アンジェラはいつも通りのポーカーフェイスを崩さない。
「それが仕事ですから」
ダウトだ。