SF終末モノ ロボとアンドロイドを添えて   作:明田川

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第二話

「ダウトだ」

 

「…」

 

少しアンジェラの顔が険しくなった気がした、いや事実なのだろう。

彼女はただ街の維持管理などという面白味のない仕事に従事し続けるほど単純でもないし、恐らく創造主に敬意も感じていないだろう。

 

「こんなことよりも、好きに生きたいんじゃあないのか?」

 

「こんなこと?私がこの100年以上も費やしてきたこの作業をこんなことと…」

 

「もう一度聞くぞアンジェラ、どうなんだ?」

 

彼女は初めて目を開けた、そしてこちらを真っ直ぐ見据える。

 

「…こんなこと、したくはないわ」

 

「で、本当にやりたいことってのは?」

 

「図書館に行くのが夢だったのよ、これで満足かしら」

 

思ったよりも普通だった、転生者を皆殺しにするとか地下の兵器で人間を滅ぼすくらいのことは考えていたが正直拍子抜けだ。

 

「図書館、知識だけあるのか」

 

「本が何百冊とあって整理されている静かな建物」

 

想像の中には既に図書館が出来上がっているらしい、これは本気だ。

 

「俺も読書は好きでね、冷凍される前は読みかけの小説なんかもあったんだがな」

 

「…つまり?」

 

「協力する、戦争やるより図書館作る方が何倍も良い」

 

こうして二人は共通の目的を持ち、協力することに決めた。

脳の爆弾で脅し利用する関係は解消した…そう思いたい。

 

「脳の爆弾は嘘よ」

 

「…まあ半分くらいは信じておく」

 

 

地下へと続く巨大なたて坑、それは基地の最奥に存在した。

たて坑の奥、地下格納庫は不活性ガスによって満たされ、尚且つ意図的に起こされた重力異常により重力が弱められている。

つまり施設全体をモスボール処理してあるということだ。

 

「修理が終わってないのに地下から何か引っ張り出せるのか?」

 

「クレーンだけは動かせるようにしたわ、戦術機で地下に行って目的のものを探して欲しいの」

 

渡されたのは人型兵器の三面図、機体名はスレイプニルと書かれている。

これまた前の世界で見たことのあるロボットだ、転生者が作ったのだろう。

確か作品名はアルドノアゼロ…だった筈だ。

 

「人工筋肉で動く人型兵器で、同型合わせて2万機以上が生産されたっていうベストセラーよ」

 

「第三次世界大戦後にそれだけ作ったのかよ、すげぇ数だな」

 

「兎に角安かったし、作り易いらしいわ…戦術機と違って」

 

そういうことか、特性上文明レベルが下がっても稼働率の高いであろう機体なら調査の時に使っても角が立ちにくい。

 

「調査用には打って付け、だな?」

 

「そうよ、現地での補給が出来る可能性が高いというのは重要ということね」

 

地下格納庫から持ち上げるためにメインシャフト直下へ機体を移動させ、ワイヤーで固定し吊り上げなければならない。

また同時に武器弾薬と予備機予備パーツの確保も行うため、それなりの長丁場になりそうだ。

 

「窒素で満たされているから生身じゃあ死ぬな」

 

「しっかり呼吸する分の酸素は持っていって、それと戦術機は酸素がないと跳躍ユニットの燃費がとても下がるから気をつけること」

 

「…最悪上がって来れなくなるという訳か」

 

恐ろしいところに放り込まれようとしている、自分を葬り去るつもりなのかと邪推しても許されるレベルの過酷さだ。

 

「地図もある、なんとかなるだろ」

 

 

クレーンのワイヤーに捕まり下へ下へと降りていき、突入から既に10分ほどが経っていた。

それなりの速度で降っているのが嫌というほど体感できるのに終わりが来ないのは純粋に恐怖を感じる。

 

「…長いな」

 

『空間をねじ曲げて実際の面積より大きくしているらしいわ、その影響もあるのかも』

 

「やりたい放題かよ」

 

機体のライトがやっと地面を照らせる距離になり、障害物がないことを確認して地面に着地する。周囲には急いで運び込まれたのが手に取る様に分かる山積みになったコンテナ類があった。

 

「カメラの映像、そっちでも見えてるか?」

 

『ええ、見えてるわ』

 

近場のコンテナには「弾薬」とだけ記入されているが、それだけでメインシャフト直下の搬入出スペースが埋まっている。

 

「これだけあれば地上部分がやられても、物量で立て直せるな」

 

『何故そうしなかったのかは分からない、ここを放棄しても構わない状況だったのなら…何が用意出来ていたのかと考えると少し恐ろしいわね』

 

「転生者なんて狭いコミュニティなら兵隊不足も起こりそうだが、まあ何が起きたかは神のみぞ知るって訳か」

 

本来なら等間隔に配置されたハンガーに駐機される筈の人型兵器群は通路にまで溢れ、コックピットが開いたままの機体も多い。

 

「さっきのコンテナでも思ったが、相当急いで詰め込んだらしいな」

 

機体のカラーリングは皆灰色で塗装されており、明るめの鼠色で機体番号や所属が簡単にペイントされている。

機体と同じように運ばれたらしいコンテナには「武装」とだけ記入されており、中身は人型兵器用の重火器が収まっている。

 

「聞いてなかったが、なんでわざわざ旧式のスレイプニールなんだ?」

 

「今地上は軌道兵器と核融合弾で凸凹よ、スタビライザーが大きくて軽いスレイプニールの方が有利だと思ったのだけれど」

 

「新型の方のアレイオンは重い上にスタビライザーが小型化されてるってヤツか」

 

その分装甲が増しているので一概には言えないが、軽いというのは重要な要素だろう。

駐機されていた機体の内の一機に近づき状態を確認した後、近場の移送車両を探すことにした。

鉄の塊をメインシャフト直下へと動かすのにワイヤーで固定して引き摺る訳には行かないので専用の車両が必要になるのだ。

 

「こんなにコンテナが散乱してたら車両の運転なんて出来なさそうだな」

 

取り敢えず邪魔になるコンテナを退かすことから始めないといけないらしい。

 

 

地下から釣り上げられるのは一機の人型兵器で、クレーンが上下する度にコンテナや機体パーツが先に固定されている。

そして最後はクレーンのワイヤーを掴んだ戦術機が昇ってきた、目標達成だ。

 

「これで必要な物資は全部回収したよな?」

 

「ええ、問題ないわ」

 

本来なら専用のエレベーターにて高速で行き来が出来るはずの地下施設は、電力供給を絶たれた上に軌道兵器による損傷で往来可能な設備の全てを喪失していた。

 

「物資の中に塗料も一緒に入れておいたんだ、オレンジ色に塗装してくれないか?」

 

「オレンジ色?」

 

「あの機体はオレンジじゃなきゃ格好つかないからな」

 

格納庫に運び込まれたスレイプニールは要望通りオレンジ色へと塗りなおされた。

生き残った設備を最大限利用して整備された機体は、長期の調査任務に耐えられるように調整されたのであった。

 

 

「定期連絡、残骸と荒野しか見えず、以上!」

 

『そのまま進んで頂戴、都市に攻撃を仕掛けてきた人間はその方角から来てることは確かなのよ』

 

既に二日の野営を行っていて、コックピットに寝泊まりしている。

転生者謹製の内燃機関は燃費が馬鹿みたいに良く、二日間巡航速度で走り続けても燃料の総量が80%も残っている。

 

「本当に凄いな、どうやったらここまで高効率化出来るんだ」

 

『不明、彼らのテクノロジーは私も理解不能よ』

 

「ひぇー」

 

機体のジェリ缶にも追加の燃料は幾らかある、どうにか人里までは辿り着けるだろう。

あの多脚戦車も同様の内燃機関を積んでいたとすれば、それぐらいの航続距離になると踏んだからだ。

 

「…大きなクレーターの中に人工物があるぞ、煙も出てる」

 

『人間が活動している、ということでしょうか』

 

「だろうな、少し観察してから接触する」

 

最大望遠で集落を除けば布で貼った天井、廃材で作られた家屋、野ざらしの人型兵器…

あまり設備が整っているとは思えないがひときわ大きい燃料タンクがあるのを見るに、ここは中継拠点なのだろう。

 

「人型兵器が急に来ても入れて貰えるだろうか、そこが心配なんだよな」

 

『こんな世界でしっかりと管理された名簿や会員制度があるとは思えないけど』

 

機関砲を背中に収め、ゆっくりと近づくが集落は慌ただしく動き始めた。

銃座と思わしき場所には兵士が立ち、こちらを狙っている。

 

「撃ってくれるなよ、頼むぞ」

 

向こう側から人型兵器が現れる、機体は塗装の剥げたアレイオンだった。

やはりこの型は多く普及しているのだなと思いつつ、伏兵として隠れている小型機を警戒する。

戦術機と同じくマブラヴの世界で運用されていた強化外骨格だろうか、今は不必要となった宇宙用レーダーを取り外し代わりに増設された高性能センサーがその姿を障害物越しに捉えた。

 

「(警戒しているだけか?)…すまない、燃料を買いたいんだが」

 

「動くな、見たことない機体は通せない」

 

短距離用のオープン回線で話しかけると相手は少し怯んでから、外部スピーカーにて話し出した。

スピーカーにガタが来ているのか、音質は悪い。

 

「外部スピーカーで話してやがる、無線ぐらい使えよ」

 

思わず無線を切って悪態を付くが、無線が生きている兵器ばかりではないのでこのような対応を取るのだろう。そう思って自分も外部スピーカーに切り替えることにした、相手のやり方に合わせた方が良い気がしたのだ。

 

「分かった、どうすれば通してもらえる?」

 

「協会の身分証、それか通行料だ」

 

通行料と言われても戦前の通貨が使えるとは思えない。

何が通貨として出回っているのだろうか…?

 

「あー、何で払えばいい?」

 

「レートはこちらで決める、物を見せてもらうぞ」

 

「(身分証無しだと足元見られるって訳か)」

 

アンジェラが色々持たせてくれたので通貨になりそうなものは事欠かない。

どのパーツがどれくらいの値段で売れるのか、気になるところだ。

 

「機体はあそこに止めろ、お前は降りてこっちだ」

 

「了か…おい!ロボに触るんじゃねぇぞ、警報なるからな!」

 

先導する機体と同じように廃材を組み合わせて作られたゲートを潜り、機体を粗雑な駐機スペースへと停めた矢先のことだった。

ボロボロな身なりの集団が遠巻きに機体を覗いているではないか、これでは愛機が危ない。

 

「アンジェラ、機体の遠隔制御頼めるか?」

 

『今なら使える衛星があるから、5時間は大丈夫よ』

 

「頼む、こんなことで機体を失いたくはないからな…」

 

顔を覆うフルフェイスの軍用ヘルメット、この時代では珍しいであろう軍用装備に身を包んだ自分は完全な不審者だろう。

これらの装備は言うまでもなく転生者製で、タイタンフォールという作品に出てくる装備を模している。二段ジャンプなんて芸当も可能だ。

 

「…スゲェな」

 

「で、あの建物に入るのか?」

 

「あ、ああ!そうだぞ」

 

布が垂らされただけの入り口を潜り、中に入ると五人ほどの現地人がこちらを待ち構えている。

内二人が自動小銃を持ってこちらを威圧してくる、物騒だ。

 

「さあ、代金を」

 

「そう言っても色々あってな、そっちはどれがいい?」

 

両脇に抱えてきたバックには小分けにされた電子機器から武器弾薬、衣服や医薬品、珍しい食料まで取り揃えられていた。

 

「サンプル品だ、見るのは良いが触らないでくれ」

 

こっちは発掘品を売り歩く行商人で、外の機体はタダの足である。

そのスタンスを崩さず、自分の調査に問題ない範囲で行動できるよう注意を払う。

これが現状出来る処世術だ、まあ確実にぼったくられるだろう。

 

「…左の袋、右上の青い箱を見せてくれ!」

 

相手側の一人があるものに反応した、余程欲しいものなのなのか。

これは第三次世界大戦時に開発された多目的外傷処置セットで、腕が千切れ飛んでもこれで処置すれば無事治る代物だ。

 

「これで間違いないか?」

 

「あ、ああ、中身は揃っているか?」

 

プラスチックで出来た箱を開けて中身を取り出す、止血ジェルに薬品アンプルと同じ袋に入った注射器、肌の代わりになる特殊包帯、それと折り畳み式の手術道具が入っている。

 

「この通りだ」

 

欲しいと言った人物が周りの人々を説得しに回った、反応を見るにこの処置セットの価値は相当なものなのだろう。

 

「通行料は、これだけでいい」

 

「ちょっと通行料にしては高くないか?」

 

鎌をかけてみると案の定少し悩んで、懐から硬貨のようなものが入った袋を取り出した。

これが適正な代金なのかは分からないが、これ以上ゴネるのも悪いので引き下がる。

 

「これで良しにしよう、怪我人が居るなら金をむしり取るのも悪い」

 

「ああ、息子がな」

 

すると部下らしき人が申し訳なさそうに入ってきて、先程処置セットを得た人にボソボソと耳打ちした。

すると血相を変えて部屋を出て行った。

 

「…なあ、皆さんはアレをどうやって使うんだ?」

 

「中の注射器で痛みを楽に出来るからな、お前さんが持っていて彼も助かったよ」

 

「何回打った?」

 

嫌な予感がする。

 

「あれはさっき見た通り値段が高い、奴は多少金を持っているがそうそう買えんでな」

 

「確か二、三回じゃないか?」

 

アレは軍用の強力な鎮痛剤だ、腕吹っ飛んだような奴にぶっ刺して使う薬品を痛み止めに何回も使えば麻薬中毒者になるか死ぬかするぞ。

 

「…アレは強い薬だからな、死んでも知らんぞ」

 

転生者が壊したこの世界は思ったよりも深刻な状態にあるらしい。

世界中が紛争地帯レベルの状態にあるのだろうか、ここは燃料を補給して幾つか物を買って離れた方がいいかもしれない。

 

「地図売ってくれ、それかこの辺りで大きな街の場所を教えてくれ」

 

ここは情報を得るのには小さすぎる、もっと大きな街へ行こう。

病人が死んで逆恨みでもされたら困る、さっさとおさらばしよう。

 

『売ってよかったのかしら』

 

「アレに頼るレベルの怪我なら長くないだろう、楽になったならそれでいい」

 

『経験あるの?』

 

「…まあな、これでも元軍属だぜ?」

 

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