姫ティック・ドラマチカ ★辺境剣士による正体隠匿系謎解き王宮戯曲★   作:磨己途

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124 大捕り物の後

 

 死に物狂いで戦ったジョセフィーヌの救出部隊とは違い、雇われのゴロツキどもは多少傷を負った程度ですぐに戦意を喪失し、投降するか逃げ出すかしたので、人数の割に死者は少なかった。

 死者の総数で言えば、下手をすると、その前に俺がアンナを救出する際に斬り散らかした人数の方が多かったぐらいだ。

 

 屋敷内の残党の狩り出しが終わった後で、俺はアンナが捕らわれていたあの現場をもう一度訪れたのだが、そこで振るわれた暴力の凄惨さには我ながら引け目を感じるほどだった。

 

 屋敷の捜索では、プリシラの店から盗まれた大量の書物も無事発見された。

 それに加えて、おそらくダノンら呪術士連中の持ち物であろう別の書物が見つかったことは望外の成果と言える。

 ベスニヨールの本家とは別に、ランバルドに逃れた分家筋が蓄えていた知識が手に入ったのだから。

 

 接収した書物は再び盗難の憂き目に合わないよう、一旦全て王宮で預かることになった。

 プリシラには悪いが今後の研究は王宮内でやってもらうことになるだろう。

 

 今やこの事件の主犯とも言えるダノンはセドリックによって生かして捕らえられていた。

 視覚と、触媒を触る手を塞いでしまえば、呪術を用いるすべはない。

 ベスニヨール家が残していた呪術に対する効率的な対抗策を、セドリックたちは徹底的に実践してみせたのだ。

 

 ゴロツキどもの元締めであるマーカスは、混乱を極めた屋敷から一人、いち早く逃げ出しその身を眩ませていた。

 いち早く、ということであればブレーズ王も負けてはおらず、グリュンタークの屋敷に駆け付けるより先に、王都全体に網を敷いて賊の逃亡を防ぐ手立てを打っていたのだが、マーカスの狡猾さはそれを上回っていた。

 両眼の周りに痣を作った男が王都の外門を無理矢理突破して行ったという報せが入ったのは翌朝のことだった。

 

 ともかく、手落ちがあったとすればそれくらいのもので、俺たちはその晩のうちに、ほとんど全ての問題を解決することができたのだった。

 

 攫われた侍女アンナの救出。

 王女暗殺を企てた首謀者グレン・グライブ・グリュンタークの特定とその捕縛。

 実行犯である呪術士ダノンの捕縛(それは同時に、長年ジョセフィーヌを苦しめてきた呪術による病魔の問題が解消したことも意味していた)。

 強奪されたベスニヨール本家の蔵書の奪還。

 その傍流たる分家の知識が蓄えられていると見られる書物の押収。

 

 俺の心情としては複雑だが、それもこれも、ジョゼの思い切りの良い行動があったればこそと言えた。

 

 正面から押し入っても出てくるかどうか分からない証拠なら、いっそ自分を動かぬ証拠として押し付けてやればいい……。極めて乱暴な作戦ではあったが、仮に俺やセドリックが指揮を執り、常識的な方法で事に当たっていたら、数日、もしかすると半月程度は睨み合いとなっていたかもしれない。

 それどころか、マーカスらによって不気味に蓄えられていた戦力が組織立って王宮に牙を剥くような展開すらあり得ただろう。

 

  *

 

 大捕り物があった夜が明け。起きて早々、俺はアンナとプリシラ、及び少数の警護の者を伴ってプリシラの店を訪れていた。

 アンナが攫われる直前に起きた出来事をアンナ自身の口から聞かされたからだ。

 

 アンナによって語られた事実は、ジョゼとプリシラの二人が昨晩、俺が寝ている間に相談し、グリュンターク家への潜入を決心するにいたった推論と、かなりの部分で合致するものだった。

 

 俺がアンナに持たせていたミスティ宛の手紙。

 その中身が抜かれた封筒が店の中に落ちていた理由……。

 

 俺たちは最初、それがアンナを誘拐した者たちによって開封されたのだと考えていたが、あの晩、二人が思い付いたのはそれとは異なる別のシナリオだった。

 

 そもそもベスニヨール家の蔵書目当てで押し入った賊が、偶然居合わせたアンナの持つ手紙をピンポイントで探し当てた、というのは説明として少々無理があった。

 アンナ自身が、これまでずっと大事に携えていた手紙の中身を、何故か急に我慢しきれなくなって開封した、というのでなければ残る可能性は一つしかない。

 俺が手紙を宛てた当人であるところの、()()()()()()()()()()()()()という可能性だ。

 

 今では遥か昔、百年も前に死んでいるはずのミスティ。

 その彼女の魂が今になって再びアンナの身体に宿った……。

 

 ジョゼとプリシラが話すその理屈が、俺には最初、なかなか理解できなかった。

 アークレギスの現状を見た段階で、全てが、過ぎ去った過去として認識されてしまっていたからだ。

 だが、アンナの話は、その突拍子もない説を大いに裏付けていた───。

 

 

 プリシラの店で一人、家主の帰りを待っていたアンナは、あの奇妙な形の装飾品(魔力測定器)が激しく回転し始めるのを目撃し、その直後に意識を失った。

 そして、目覚めたときには、自分の手に二通の手紙が握られていることに気付いたと言う。

 

 俺がミスティに宛てた手紙と、その返事としてミスティから俺に宛てて書かれたと思われる手紙。

 二通の手紙を見比べて困惑しているそのときに、賊が侵入してくる気配を察したアンナは、とっさの機転で店のカウンターの後ろに隠れる。

 そして、持っていた手紙を店の中に隠した後、押し入ってきた男たちによって敢え無く攫われることとなった。

 

 つまり連中は、俺の手紙を読んでアンナを誘拐したわけではなかったのだ。

 

 アンナが断片的に聞いた彼らの会話から察するに、アンナはやはり当初はジョセフィーヌに間違われて攫われていたようだった。

 ただし、年恰好や身なりのせいで間違われたのではなく、アンナの身体から流れ出る魔力の残滓に彼らが気付いた、という理由ではあったが。

 

 グリュンターク家の一室に監禁されてから、アンナがジョセフィーヌではないことが判明。

 また、ほどなくしてアンナの身体から魔力の漏出が見られなくなったことに対し、呪術士連中は喧々諤々(けんけんがくがく)の論争を繰り広げていたらしい。

 

 

 ───アンナが俺たちに語って聞かせたそれらの真相。

 それはつまり、ジョセフィーヌの中に俺という存在があることや、百年前を起点とし、時空を転移する強大な魔法が振るわれたという事実は、未だ俺たち以外の誰にも知られていないということを意味していた。

 

「あそこです」

 

 プリシラの店に入るなり、アンナが店の奥を指差した。

 そのまま駆け寄って泥まみれのマットを捲り上げ、その下から折りたたまれた手紙を取り上げる。

 アンナが俺に手渡したその手紙の表には見慣れた筆跡で、『アンナさんへ。必ずこの手紙を、他の誰の目にも触れさせずにジョセフィーヌ様に手渡してください。ミスティより』と記されていた。

 

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