帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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10.雑に最終試験

 飛行船は四次試験会場から3日をかけて移動し、受験生たちは審査委員会の管理下にあるホテルのホールへと集められた。

 ホテルのホールといっても床は味気のない白い石張りで、机や椅子、絨毯などなく、ただ殺風景な1辺20メートルの正方形の空間だった。

 ホールの中心に受験生たちが、その前には布で覆われたホワイトボードとネテロがいて、2者を挟むようにした両サイドにこれまでの試験官と黒服の職員が控えていた。

 

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは、こうじゃ」

 

 ネテロの手がホワイトボードを覆う布にかけられ、するりと取り払われる。ホワイトボードに描かれていたのは、不平等なトーナメント表。頂点から倍々に枝分かれしておらず、受験生ごとに最大対戦回数が異なる形となっていた。

 

「さて、最終試験のクリア条件だが、いたって明確。たった1勝で合格である」

 

 勝った者が次々抜けていき、()けた者が上に登っていく逆トーナメント。不合格者は残る受験生9名のうち1名のみで、最大対戦回数が異なるものの最低でも2戦が保証されていた。

 

「戦い方も単純明快。武器OK、反則なし、相手に"まいった"と言わせれば勝ち! ただし、相手を死にいたらしめてしまった者は即失格! その時点で残りの者が合格、試験は終了じゃ。よいな」

 

 ネテロによる質問有無の確認が終わると、黒服職員の1人が進み出て、第1試合の対戦者を残して他の受験生を下がらせた。

 

「第1試合! ハンゾー対ゴン!」

 

 

……

 

 

 試合展開は一方的なものとなった。

 かつてクラピカとレオリオが一本杉の山やトリックタワーで見たゴンの健脚を、ハンゾーのスピードが更に上回る。ただの手刀一発が意識を持っていき、目覚めた後にも吐き気を残す。

 その時点でゴンは機動力も失っており、イニシアチブは決していたが、ゴンはただ何度降参を要求されても意地でそれを拒否していた。

 見た目大人と子供という組み合わせということもあり、ハンター試験の受験生、そして現役ハンターである試験官の目にも、その光景は凄惨なものとして映った。

 

 デプスも、目の前で起きていることから逃げ出して耳をふさぎ、打擲の音とゴンのうめき声を遠ざけたい気持ちがあった。傍目には、デプスは腕を組んだり解いたりしながら冷静に見ているだけだったが、本人なりの葛藤を抑えつけてそこに立っていた。

 

(ここで逃げるようじゃ、今後のあれこれには精神的について行けないかもしれない。それは許せない。"最強念能力者"としてベストを尽くせないし、なにより、そんなのはカッコ悪い)

 

 ゴンが胃液や血を吐き出そうと、ハンゾーは、淡々と一撃加えては目を覚まさせ、降参を要求するルーチンを繰り返していた。

 

 そうして3時間。

 

 ゴンと関わりを持ち、かつ特に情に厚いレオリオは、自覚していながらも、堪忍袋にいくつも穴を開けては、その度にハンゾーへの暴言を叫んでいた。額には血管も汗も浮き通しだった。

 隣に立つクラピカも、自分がそうならないよう耐えるのに精一杯で、心情的にレオリオを止めようという気は持たなかった。

 

「いい加減にしやがれ、ぶっ殺すぞてめェ!!」

 

 ゴンの代わりにと一歩前に出たレオリオを、2人の黒服が阻む。

 

「1対1の勝負に他者は入れません。仮にこの状況であなたが手を出せば、失格になるのはゴン選手ですよ」

「……!!」

 

 阻まれ、歯を食いしばるレオリオ。

 

「大丈夫だよ、レオリオ……」

 

 実際に窮地にいる自分を省みず、レオリオに心配させまいと無理やり笑顔を作るゴンに、ハンゾーは一瞬驚きの表情を見せた。そしてすぐ、うつ伏せに引き倒して左腕を取り、腕を折る、と宣言した。

 

「本気だぜ、言っちまえ!!」

「……!! い、いやだ!!」

 

 ゴンは降参を拒否し、ホールにいる全員が、鈍い音を聞いた。

 まだ立ち上がるゴンに対し、ハンゾーは手首の仕込み刃を取り出し、降参しなければ殺す、と脅しをかける。だが、ゴンの返答は変わらなかった。

 

「親父はハンターをしてる。今はすごく遠い(ところ)にいるけど、いつか会えると信じてる。でも」

 

 突きつけられた刃先は、ゴンの額の皮一枚を貫き、血を滲ませていた。それでもゴンは、真っ直ぐハンゾーの顔を見上げていた。ハンゾーの顔には、既に焦りが色濃く現れていた。

 

「もしここでオレが諦めたら、一生会えない気がする。だから退かない」

「退かなきゃ……死ぬんだぜ?」

 

 ハンゾーは、確かめるように、腕に力を込める素振りを見せたが、ゴンは動じなかった。それを見て、ゴンの理屈で測れない想いを曲げられないと悟り、ハンゾーは腕を引いた。

 

「まいった、オレの負けだ」

 

 くるりと踵を返し、ハンゾーが降参宣言と共に仕込み刃をしまった。そこへ、ゴンが後ろから待ったをかける。

 

「そんなのダメだよ、ずるい!!」

 

 ゴンを認めて気持ちよく終わったつもりのところへ水を差され、ここへ来てハンゾーのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

 ゴンの主張をまとめるハンゾー。"ハンゾーが負ける気なのは承知だが、もう一度勝つつもりで真剣勝負をし、その上でゴンの主観で納得できる勝ち方をできるように戦え"。これで間違いないかと、ゴンに問うた。ゴンは、強気な笑顔で頷いた。

 

「うん!!」

「アホかーーーー!!!

 

 試合中のどの攻撃よりも強烈なアッパーがゴンを吹き飛ばす。感情100%の破綻した論理での再戦は受け入れられず、今度こそ完全に昏倒させた。

 

 

……

 

 第2試合のクラピカ対デプスは、デプスの開幕降参に終わった。"あれ、もしかしてヒソカの場所にそっくり収まってる?"という気付きを得たのは、降参した後だった。

 

 第3試合はハンゾー対ポックルで、残る受験生の中でも屈指の基礎能力を持つハンゾーがあっさりと勝利した。

 

 第1試合は長引いたものの、第2・第3試合は短く済み、第4試合。

 

「第4試合! ボドロ対デプス!」

 

 ボドロとデプスが進み出る。ボドロが格闘家であり、道着を身に着けているのみで、武器や防具が見当たらなかった。

 

「武器OKって話だったっすけど、素手でこれを殴ったらタダじゃ済まなさそーっすね」

 

 言うや、デプスは盾を背中から外し、後方へ放り捨てる。自転車を蹴倒したような音を立てて、盾は床面を滑って行った。

 

「自信があるのか? 失礼ながら、格闘術を修めているようには見えぬが」

「御託はここまでっすよ、後はやってみてのなんとやらっす」

 

 手首足首を振ってほぐし、デプスが構えを取る。空手の手刀受けから若干両脇を開き、手の指も緩めた構えで、左足を前に出し、両手を握らず指先をボドロに向けていた。ボドロの評する通り、デプスはずぶの素人だった。

 ボドロは両足を猫足立ちにし、右拳を引いて裏返した構えを取った。

 

(中国拳法? ……いや、知らないんだから考えるだけ無駄か)

「始め!!」

「しゃっ!」

 

 職員の号令と同時にボドロが先手を取って踏み込み、右拳を内側に半回転戻しながらの直突き。顔面コースのそれを、デプスは左の平手で払う。

 デプスは、体全体を覆うオーラはほどほどに、"凝"で目と関節のオーラ量を高めていた。目のオーラが動体視力を強化し、関節のオーラが超高速の対応を可能にしていた。

 

「む!」

 

 足を止め、続けて左の直突き。それも、デプスの右手がはたいて逸らす。

 

(よし、バッチリ見える)

 

 デプスが口元に小さく笑みを浮かべ、ボドロの目元は険しさを深めた。拳が手刀に変わり、顔・首・胸を狙い連続で突き出され、それらをデプスが右前腕で1つ1つ合わせて受けて払う。

 

「りゃ!」

 

 最後の手刀と全く同時、上半身を全く動かさずに放たれた左からの蹴り。

 

(両方を右手で順番にガードすると、見た目がおかしくなるから……)

 

 オーラによる強化は攻防力のみに留まらず、どう対応するのが自然か、まで考える余裕をもたらしていた。

 

(こっち!)

 

 右手で手刀を払い、自分から一歩踏み出し、左手のひらをボドロの肋に押し付け、肩の力で押し飛ばす。

 

「ぐぁっ!」

 

 片足で踏ん張りが利かないボドロは、その一撃で3、4メートル後方へ飛ばされ、落着。受け身を取ったものの、起き上がろうとしたところへデプスが2歩で追いつき、顔面に拳を寸止めする。

 ボドロは怯むでも観念するでもなく、カッと目を見開いた。

 

「降参するとでも!」

「うわっ――」

 

 地べたで上体を起こしただけの上体から逆上がり方向に回転しながら飛び上がり、蹴り足がデプスの顎を狙った。ボドロの開眼に敵意を見たデプスは、その足首を左手で捕えるだけの余裕が十分にあった。

 

「――と」

(寸止めとか体力削るとかじゃ一生止まんない? なら!)

「もう止めないっすよ!」

 

 半ば自分に言い聞かせるように叫び、捕えた脚に右の手刀を叩きつける。デプスの手に、骨とぶつかる感触、そしてそこから先へ強引に押し込む感触が伝わった。

 

「がっ……!」

 

 掴んだ足首を雑に放り捨て、残る脚を睨んで右足を上げる。

 

「まいった! 降参だ!」

 

 振り下ろされたデプスの足が、ダン、と石の床を打った。降参を認めると、複数の職員がすぐにボドロをホールから運び出して行く。ボドロの額に脂汗が浮かんでいるのも、デプスははっきり見えていた。

 

 デプスが控えスペースへ戻ると、レオリオが肩を叩いた。

 

「お前、もうちょっと余裕あっただろ。なんとかならなかったのか?」

 

 デプスは首を横に振る。

 

「ゴンさんじゃないっすけど、ボドロさんもあのくらいしなきゃ負けたって納得してくれないと思うっす」

「だが、あれじゃ」

「残りの試合はまともにできないっすね。こっちだって、まともな人を進んで怪我させようとは思わないっすけど、顔面パンチ寸止めで退いてくれないんじゃどうしようもないっす」

「……なるほどな。それが最終試験ってことかい」

 

 

……

 

 

 第5試合でも、ポックルに対しキルアが即時降参。ポックルは釈然としない様子だったが、キルアには全く戦意がなかった。

 第6試合のボドロ対レオリオは、ボドロ側が骨折を理由に棄権。ハンター試験そのもののリタイアを申し出たが、それはルール外であるとして審査委員会側に拒否された。

 

 ここまでで合格者となった受験生のうち、ポックルはホテルの部屋へ去り、ゴンはホール横の控室のベッドで今なお気絶中。

 第7試合、キルア対ギタラクルの時点での観戦者は、それ以外の5名。ボドロは、ギプスを巻き松葉杖をついて戻っていた。

 

「始め!!」

 

 開始の合図と同時、出方を伺おうとしてキルアが1歩踏み出したと同時、ギタラクルがキルアの名を呼ぶ。

 

「久しぶりだね、キル」

「!?」

 

 耳から、額から、顎から。自分の顔中に刺された、手の指ほどもある長さの針を、ギタラクルが1本ずつ抜いていく。針を抜き終えると、ギタラクルの骨格は、皮膚の下でビキビキと音を立てながら、跳ね回るようにして歪んだ。

 モヒカンめいて一点に集中していた毛髪も、広がって肩まで伸び、青から黒へと色まで変化する。

 変化の音が終わると、ギタラクルの顔は全く別人のものになっていた。それは、キルアの知っている顔だった。

 

「兄……貴!!」

 

 ただ知っているだけでなく、明確に自分より力が上回り、逆らえない相手として、キルアは内心で恐怖を抱いた。

 

「奇遇だね、まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね」

「別になりたかった訳じゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ」

 

 言葉こそ平静だったが、キルアの目から余裕は失われ、顔には汗が噴き出していた。ギタラクルの目は塗りつぶされたように真っ黒で、置物の人形のようにじっとキルアを見つめていた。

 

「……そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから」

 

 ギタラクルは続ける。いかにキルアが徹底的に殺し屋として育てられ、殺し以外に望みなど持つはずがないのかを説き、キルアが”望みならある、友達だ”と反論しても、錯覚だとして取り合う余地なく切り捨てた。

 

 キルアが言葉の威勢を失い、腕が震え始めるのを見て、レオリオが一歩前に出た。警告する職員に"わかっている"と伝え、声を張る。

 

「キルア!! お前の兄貴か何か知らねーが、言わせてもらうぜ! そいつはバカ野郎でクソ野郎だ、聞く耳持つな!」

 

 外野からの大声に、ギタラクルも反応して視線をレオリオへ向けた。

 

「ゴンと友達になりたいだと? 寝ぼけんな!! とっくにお前ら友達(ダチ)同士だろーがよ!!」

「え?」

 

 ギタラクルは、意外そうに、レオリオに問い返す。

 

「そうなの?」

「たりめーだ、バーカ!」

「そうか、まいったな。あっちはもう友達のつもりなのか」

 

 顎に手を添えて思案し、ギタラクルはすぐに結論を出した。

 

「よし、ゴンを殺そう」

 

 その場にいたデプス以外の受験生全員が、この発言にショックを受けたが、最も心を動かされたのは当事者のキルアだった。前を向いていられず俯き、全身が震え、見開かれた目も揺れていた。

 

「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」

 

 イルミが服から針を抜いて指の間に構え、キルアに背を向ける。

 

「彼はどこにいるの?」

「ちょ、待って下さい、まだ試験は――」

 

 近くにいた職員に目もくれぬまま尋ね、問いに答えずに途中退場を咎められる。

 この次の瞬間、ギタラクルは精神操作の念が込められた針を職員の顔面へ投擲する。それを覚えていたデプスは、既にダイヤルを合わせていた。

 

("PRoXY(メモリアルメドレーズ)"――"離送橋(ポートピア)"!)

 

 ギタラクルと職員の間、職員の顔に張り付かんばかりの位置に、不可視のポータルが出現。投げられた針を飲み込む。針はそのまま職員の後頭部すぐのポータルから飛び出し、ホールの壁に突き刺さった。

 そのタタンという音を聞いて、ギタラクルが職員を、その後ろの壁を見る。何かが飛んで来る、というのを知覚はできていた職員も、ギタラクルと背後の壁を交互に見た。

 

「あれ?」

「!?」

 

 デプスが干渉したのは、それだけだった。

 

(ここでイルミを消したとして、キルアの実家の話をスキップするとおかしくなりそうだし。ここはグッと我慢で――)

「……」

 

 ギタラクル、もといキルアの兄・イルミが、首だけを動かし、"試合の行く末を見守る人"のフリをしていたデプスの方を見た。目が合った。

 

(えっ?)

「……いや、受験生に手を出したら負けなんだっけ。うーん」

 

 思い直したイルミが、すぐにデプスから視線を外す。

 

「そうだ! まず合格してから、ゴンを殺そう!」

 

 試験終了後なら、この場の全員を殺害しようとルール上問題ない。ネテロにもそれを確認し、イルミがキルアに向き直る。

 

「聞いたかい、キル。オレと戦って勝たないと、ゴンを助けられない」

 

 しかし、キルアは自分たちに作られた戦闘マシーンであり、ゴンのためにと戦うことはできない。イルミ、すなわち勝ち目のない敵とは戦うなという命令が刷り込まれてもいるから、立ち向かうこともできない。

 イルミが続けた言葉に、キルアはとうとう後ずさろうとする。

 

「動くな」

 

 言われた通り、キルアの足が止まった。そこへ、イルミがゆっくりと手を伸ばしながら言う。動けば戦闘開始、触れても戦闘開始。止めるには降参するしかなく、イルミを見逃せばゴンを殺すと。

 レオリオが"お前もゴンも殺させない"と叫んでも、キルアには聞こえていなかった。

 

「まいった。オレの……負けだよ」

 

 この第7試合、そして対ボドロの第8試合は、キルア側の棄権で終わった。

 ただ1名の最終試験脱落者となったキルアは、クラピカやレオリオの言葉も未だ届かず、そのまま試験会場のホテルから去っていった。




「お前は赤ゲージを持たない雑文だ」
「自身は高評価を欲しがり、感想も望む。あと誤字報告とここすきとお気に入りと……」
――暗殺者、イルミ=ゾルディック
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