帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾 作:これからはずっと一緒だよ
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最終試験翌朝。意識の戻っていないゴンを除いたまま、合格者向けの講習が始まっていた。講習は、固定式の長机と椅子が並んだ段々畑様の部屋で、試験官たちやネテロの立会のもと、ビーンズによって行われていた。
(来ないなぁ……)
デプスは机に頬杖をつきながら、たびたび、部屋に2箇所ある扉を見ていた。しかし、ハンターライセンスが手渡され、ハンター協会の規約の説明なども過ぎ、講習が終わりに差し掛かっても、ゴンは来なかった。
(なんで来ないんだろ)
本来、ゴンは講習の途中に乱入し、イルミと一悶着起こすはずで、デプスはそれを待っていた。
しかし、デプスがボドロの脚を折ったことがきっかけに、歯車は狂っていた。
まず、骨折で満足に戦えなくなったボドロは、毎試合自主的に降参する旨を告げていた。
多少のダメージであれば、レオリオはボドロの回復を待つために試合を後回しにするよう審査委員会へ要求していたが、骨折は数時間程度でどうにかなるものでもなく、そうはならなかった。
これによってキルア対イルミの試合より先にレオリオの合格が決定。最終試合でキルアはボドロを殺害せず、単にボドロより先にキルアが降参を宣言するのみに留まった。
最終的に、合格者向け講習の開始後、講習そっちのけでキルアによるボドロ殺害とそれによる反則失格について議論が紛糾するということもなくなり、講習時間の大幅な延長もなくなった。
……というところまで、デプスの理解は至っていなかった。
しかし、わかっていることもあった。
(ヒソカがいなくなった分の軌道修正は要る……よな?)
だから、わかっていることについてベストを尽くそうと、デプスはポケットからメモ帳とペンを取り出した。何事かを書き込んでは破り取って折り畳んでいった。
「――さて、以上で説明を終わります。あとはあなた方次第です。試練を乗り越えた自身の力を信じて、夢に向かって前進して下さい。この講習の終了を以って、合格者8名を、新しくハンターとして認定いたします!」
退室の指示を受け、ルーキーとなった7人が出ていく。ハンゾーやポックルの挨拶回り、ボドロの"あと1年はライセンスを封印する"という決意表明を受けた後、部屋の前の廊下には、クラピカ・レオリオ・デプスだけが残っていた。
「ゴンは目が覚め次第個別で説明を受けるんだったな。オレは終わるのを待つが、お前らどうする? もう帰るか?」
「私も行こう。ギタラクルのことを話しておく必要がある」
「すんません、所用があるんでついていけないっす」
なぜ、とレオリオが言う前に、デプスは折りたたまれた4枚のメモ用紙を差し出した。上面に"キルアさんと会ったら開けること"と書かれ、それぞれ、ゴン、クラピカ、レオリオ、キルアの宛名も添えられていた。
「"キルアと会ったら"……? どういう意味だ?」
「そのまんまの意味っすよ。あの時、兄貴になんか言われておかしくなったってんなら、自分の家に帰ってると思うっすから。
んで、ゾルディック一族の本拠地は"ククルーマウンテン"ってたっかい山の上らしいっす。詳しいとこは
「聞いてたってんならそりゃいいがよ、お前は来ねーのか?」
「急ぎの用事が2つ3つあるんで、キルアさんに会いに行く時間が多分取れないっす。
レオリオとクラピカから連絡先を受け取ると、デプスは軽く頭を下げた。
「じゃあ、またそのうち。メモ、失くさないで下さいね。ゴンさんによろしくっす!」
控えめに笑って軽く手を振り、デプスは急ぎ足でホテルを後にした。
……
(めちゃくちゃ後ろ取ってくるなぁ)
ホテルを出て、市街地も離れ、自ら人気のない場所を探して歩くデプス。その第2の視界に、ギタラクル――イルミの姿が映っている。
一見して他の通行人と変わらない振る舞いでありながら、"絶"によって気配を絶ち、デプスの後方、20メートル前後の距離を常に保っていた。
(講習中にイルミにだけ"円"でちょっかいかけといたから、リアクションがあるとは思ってたけど。"隠"でオーラ量を偽装しとくの、やっぱ格下と思ってもらえて得するな)
一方、イルミ。
(多分尾行に気付いてるし、誘われてるんだろうけど。飛び道具を透過させる能力にしても、視界の外から直接攻撃するだけだしなー……)
広い自動車道に出て、脇道に逸れ、交差点に出て、無人の公園を通り抜け。数十分、互いに膠着状態が続いていた。
(そろそろ)
(仕掛けるか)
10メートル四方の駐車場をデプスが横切る時、偶然にも両者は同時に動いた。停められた軽自動車の窓ガラスから"
(うわ、外した)
(放出系か!)
イルミは瞬時に"絶"から"纏"へ切り替え戦闘状態に入り、音を立てず低い軌道で跳んだ。両手の指に針を挟んで鉤爪のようにし、背後からデプスに飛び蹴りを仕掛けた。
命中するまでにデプス自身は前を向いたまま動かず、盾がそのまま蹴りを受けた。デプスはびくともしない。
(盾に別の念があるのか? なら一旦離れて……!!)
反動で距離を取ろうと思ったイルミは、盾を蹴って跳ぼうとした時になってようやく、自分の足が盾にぴったりくっついて離れないことに気がついた。
次の攻撃に向けて手足にオーラを集めたために目での"凝"はできず、盾にオーラを見ることはできなかったが、その接着力の正体にイルミはすぐ感づき、目を見開いた。
(これは"
デプスの背中、盾に足をつけたまま、頭から仰向けに落ちていく。イルミの手が地面に手をつくより先に、虚空から生えたデプスの手がイルミの頭を掴んで止めた。
イルミは、後頭部で何かが弾ける感触とともに、自他のオーラが全く感じられなくなった。
(ここまでやってようやく、汗一つ。暗殺者教育ってのは大したもんっすね、同じ立場なら死ぬほど絶叫してたっすよ)
デプスが"
(除念って可能性が残る以上、"命だけは"ってわけにはいかない)
念を失ったイルミがデプスの手から逃れることはできない。上方で待機していた4機の"
デプスは、イルミの頭をその場にゴトリと落とし、手をポータルから引いて戻した。続けて"
(この先いくらでも、無関係の人間を殺して回るやつだった。変えられないなら、死ぬしかなかった。そうだよな……)
終わった後、デプスはしばしイルミを眺めていた。キルアの親族ということもあって、実行前に完璧に済ませておくべき葛藤が、今も少し残っていた。
盾の先端をイルミの胴体に当て、表面を走る黄色の波紋を伴って能力を入れ終えると、もう片方の手のひらを、転がった死体に向けた。脳内のダイヤルが回り、新たな能力を指し示す。
(ほんとは対集団防御用なんだけど、こーゆー使い方もできるか。"
シャボン玉を吹くように、指先ほどのオーラの粒が流れ出る。それらは羽虫よりやや緩やかに飛んで、イルミのどこかしらに張り付くと、触れた部分をじわじわと削り取っていった。
粒は服や血肉を削るほどに少しずつ大きくなり、倍の大きさになったところで2つに分裂し、また別の場所に取り付く。
(怖い話とかホラーゲームじゃ、死体を隠す方法として"食べる"とか"食べさせる"ってのがよく出てくるけど、こうして虫がたかるやり方は初めてかも。グロい……)
虫たちは、ポケットから転がった携帯電話も、込められた念の失せた針も、残さず腹に収めた。飛び散った血が駐車場のアスファルトに染みた以外に、イルミの痕跡はなくなった。
「……あれ?」
幾分すっきりしない気分で駐車場を後にしようとしたところで、デプスは、何か忘れているような、と振り返った。
「あっ、財布まで食わせちゃった……」
取り返しのつかないミスに、デプスの気分は、よりいっそう沈んだ。
"
放出系。オーラを指先ほどの粒、"虫"の集団にして放つ。
虫は人間が歩く程度の速さで動き、オーラや生物を捕食する。
捕食したものをオーラに還元して吸収し、吸収したオーラを使って分裂する。
盾に込められた第6の能力。