帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾 作:これからはずっと一緒だよ
よって、高評価をお願いします。書くことが思いつく方は、感想もお願いします。
12.雑にエントリー
頂点を見上げれば朝の空へ続く、地上ほぼ1000メートルのスカイグレーの塔、"天空闘技場"。
建て増しを繰り返し、デコボコで継ぎ接ぎ様になっているそれは、都市のビル群の中でも異様に突出していた。高さだけでなく建築面積も巨大で、1つのフロアが市街地にして3ブロック四方程はあった。
塔の1階は扉や門もなく大口を開けていて、そこから長く太い舌を伸ばし曲げていくように、順番を待つ者がひたすら並んでいた。体格や筋肉量、あるいは服装で自らが戦う者であると示している者もいれば、そうではない、観客としてやってきた者も大勢いた。
中へ入ると、舌の根本は壁一面に並んだ受付のそれぞれから出て、入り口より少し奥で合流していた。ロビーには、さらに通路を隔てて先にあるスタジアムから歓声が漏れ聞こえていた。
受付列の1つで、前の男が手続きを済ませたのを見て、肩掛け鞄と大盾を身に着けた少年が、気疲れした様子で進み出た。デプスだった。
(や~~っと受付。てっぺんまで見上げて感動してたのが懐かしいわ)
「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書き下さい」
制服制帽を身に着けた受付スタッフが、窓口の窓から1枚の用紙を差し出した。デプスは用紙と、窓の手前に置かれたペンを取り、手早く書き進めていく。
(名前、デプス=ハーゲン。生年月日は……今年が1999年だから、1983年の7月10日。格闘技経験、あり。格闘技歴、10年。格闘スタイル……格闘スタイル?)
想像していなかった項目の登場に、デプスは用紙の上をペン先をトントンと叩く。
(……テキトーでいいだろ。"生涯無敵流"とか書いちゃお)
「それでは中へどうぞ」
書き終えた用紙と引き換えに整理券を渡し、スタッフは通路を手で示した。
通路の先、スタジアムへ出ると、観客たちの歓声がデプスの耳により強く聞こえてきた。5メートル四方ほどのリングが16箇所、正方形に並べられ、それを囲むようにして、スタジアムによくある階段状の観戦スペースがあった。
観戦スペースには座席などはなく、観客は段差に直接座ったり、最下段で塀から身を乗り出して立ち見していた。観客たちの中には、自身も出場者として整理券を持って待っている者もいた。
観客に混じり、目についた場所へ腰を下ろしたデプスが、スタジアムのリング群を見回す。
(ファイトマネー、1階では勝っても負けてもジュース一本分って話だったけど……)
あるリングでは、流血してなお戦闘続行する者がいた。あるリングでは、瀕死のように見える出場者がスタッフに運び出されているところだった。
(よっぽど自信とか向上心がない限り、割に合わないな)
『794番・818番の方、Fのリングへどうぞ』
観客たちの雑多な声を押しのけて、選手呼び出しのアナウンスがかかる。デプスは、自分の番号を聞いて、中央まで歩いて降り、側面にFと書かれた石のリングのそばまで行った。
受付同様の制服制帽を身に着けた、リング付きの審判の男が、荷物を置くように指示し、デプスは盾と鞄を置いた。
もう1人Fのリングへ来たのは、ポンチョの上からベルトを巻いた男だった。
中肉中背だが腕は太く、河童のように頭頂部だけが禿げ、天然パーマの黒髪が長い髭と合わさって側頭部・後頭部・首を覆っていた。濃い眉毛の下で、細い目がぎょろりとデプスの方を見た。
「……」
「……っす」
何とも言えず、デプスは軽く会釈した。
「両者、リングへ」
リングに上がると、ポンチョの男はボクシングのようなファイティングポーズを取った。デプスは手首を振り、肩を回してから、自然体で立った。
「ここ1階のリングでは、入場者のレベルを判断するぞ。制限時間3分以内に自らの力を発揮したまえ」
説明し、審判の男が両手を顔の高さまで上げ、振り下ろす。
「それでは、始め!!」
ポンチョの男が、上半身の構えをそのままに突進。顔面へ来る右フックの手首を、デプスの左手がパッと捕えた。
「!」
(そりゃまあ、ボドロさんよりゃ遅いか。あの人ハンターだし)
掴んだ右腕を左半身全体で思い切り引いて、逆に右手は真っ直ぐポンチョの男の腹へ突き出す。
(怪我させず、わかりやすく勝つ。となると、ゴンリスペクトっきゃないよな!)
チチチ、とダイヤルが回った。
("
「行ってらぁあ!!」
左手を離すと同時、掌打はデプスにだけ見える赤いオーラで包まれ、腹に触れた。その威力は肉体を破壊せず、全て"吹き飛ばす力"となってポンチョの男に浸透し、観客席最下段の塀まで吹き飛ばした。塀は砕け散り、砂塵が舞い、そこにいた観客が飛び退いて顔を庇った。
16の試合が並行して行われるここで、ポンチョの男の飛行に気付いた者たちは驚きの声を上げ、それがどよめきとなった。
ポンチョの男は、推進装置の役割を持って浸透した赤いオーラに守られ、塀を頭で砕きながらも、たんこぶが出来ただけで済んでいた。そのオーラが砂煙に混じって揮発していき、ポンチョの男の体からなくなっていくのが、デプスの目に見えていた。
「っし」
(ちゃんと使える。後は上がってく作業だな)
デプスは、うまくいったという静かな喜びの気持ちのまま、指を鳴らし、小さくガッツポーズした。
「818番、キミは50階へ上がるのだ」
審判の男が手のひら大の機械を操作し、その上部で印刷され吐き出された整理券を手で切り取って、デプスに渡した。
「っす、ありがとうございます」
(50階か。まあ、同じ50階行きのゴンと同じことしただけだしな)
……
天空闘技場は、闘技場として巨大である。
1階での選別を越えると、10階刻みのランク分けを1戦の勝敗で上下していくシステムを有する、戦闘施設にして娯楽施設。日平均の入場者は、実際に出場する選手だけでも4000人に上る。各種イベント込みでの観客動員数は年間10億人オーバー。
だが、巨大な総合施設としての顔もある。
内部には選手向けのサービスを備えた各種施設が揃えられており、更に100階クラス以上の選手には個室が、200階クラスで条件を満たした"フロアマスター"には1フロア全てが与えられる。
それだけ充実していれば、当然ながら、ネットを利用できるサービスもあった。誰でも使える、ネットカフェのオープンシートのようなスペースがそれだった。パソコンごとに支払機が取り付けられており、利用時間従量制の利用形態だった。
デプスはそのスペースの1つの席に座り、ハンターライセンスをカードリーダーに読み込ませて、ハンター専用サイトにアクセスしていた。キーボードのレイアウトや入力方式は元の世界の日本語キーボードと同じだったため、手つきも慣れたものだった。
(あれ、保釈金って裁判のために一時的に拘留を解くためのお金なの? 釈放とは違うんだ……)
調べていたのは、レルートのことだった。
元より、デプスが天空闘技場に来たのは、自分の身の回りの整理、そしてレルートの解放・身元引受や自身の拠点の確保など、それら全てにかかる費用をファイトマネーで賄うことが主目的だった。
(えっと、じゃあ検索ワードを変えて……"懲役囚"、"釈放"、"方法"とか)
検索結果に表示されたページ一覧の中から、1番上のリンクをクリックする。
("刑事罰確定後、刑務所等に収監された囚人について、手続者が特定資格または権利を有する場合、金銭の支払いと所定の手続きによって特例釈放を申請することができる"。特定資格または権利、ってのはプロハンターでクリアできるのね。相場とかは?)
マウスホイールを回し、画面をスクロールする。実例をベースに作成された、懲役年数と
(懲役100年クラスのお値段が、一、十……一億で、2億。190階で勝った場合のファイトマネーが2億くらいだったはずだから、そこまでの合計考えれば余裕ありそう。後は住むための広い家を確保すれば――)
デプスは想像する。新築の一軒家にレルートとポンズを住まわせ、リビングのソファや絨毯の上でくつろぎながらテレビを見たり、ボードゲームやテレビゲームをしたり、食事の時にテーブルを囲んだりする、穏やかで明るい生活。そして夜……
(――って、ダメだダメだ。今頃ゴンたちはキルアに会うために色々苦労してるってのに、そんなフラチなこと考えてちゃあ)
夢想もそこそこに、デプスは頭をぶんぶんと振って邪念を払った。
(レルートと約束した以上待たせたくないってんで、あっちに混ざらなかったわけだし。
あの頭のおか……恥ずかしい
ポンズに対し、怪我や苦痛を伴わない撃退手段として"
(あー、なんか気が重くなってきた。この世界に来てから、ハンター試験の準備して、試験行って、それで天空闘技場まで飛んできて、で休んでないからか?)
デプスはマウスとキーボードから手を離し、背もたれに体を預け天井を仰ぎ、ため息をついた。
「何も考えずに食っちゃ寝したりゲームしたりしたい……」
近場にいた選手やスタッフが、闘技場まで来て何言ってんだこいつ、と冷ややかな目を向けていた。
"
強化系。オーラを込めた直接攻撃の破壊力をノックバックに転化し、吹き飛ばす。
盾に込められた第3の能力。