帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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 しかしなぜこんな話を……?
 その謎を解明するために、どうか我々に高評価をお願いします。
 できれば感想も下さると嬉しいです。


13.雑に小金持ち

「あーー……」

 

 少し遠くから感じる潮風の匂い、海鳥の声。それ以外は静かなものだった。前方に刑務所、後方には小さな飛行船とその発着場、そしてその奥に広がる海。孤島とは言うもののほとんどが舗装されており、陸に自然は感じられない景色だった。

 

 高さ2メートル程の大きな鉄門の前で待たされながら、デプスが何度目かもわからない伸びをした。背の盾と肩掛け鞄の他に、傍らに藍色のプラ張りのキャリーバッグが立っていた。

 白いジャンパーの右ポケットからは黒いコードが両耳に伸び、この世界のアクションゲームのサウンドトラックカセットを再生していた。ゲーム自体も、天空闘技場の空き時間でとっくにクリアしていた。

 もう何度目かと辟易しながら、デプスは左手首につけた安物の腕時計を見た。

 

(ひたすら遅い。椅子もない場所でこんなに待たせるの間違ってるでしょ……ネットと電話口でくどい手続きやって高い金も払ったのにこの仕打ちはひどいよ)

 

 門の脇の守衛室でハンターライセンスを見せて軽い手続きを済ませたデプスは、2月の寒空の下に30分以上立たされていた。オーラで手を守りながらゲームをしようとも思ったが、ゲーム機を取り出した途端、窓越しに守衛室から睨まれたので、なんとなくやめた。

 

 罪状がなんであれ、超長期刑囚が収監されるのは孤島の刑務所という決まりらしかった。それで、200階到達で一区切りつけた天空闘技場から4日かけて、デプスはレルートを迎えにここまでやってきていた。

 

 ふと、足音がした。鉄門の隙間の奥、すぐそこに建物はあったが、見える範囲には扉などはなく、デプスから見て右の方から聞こえていた。

 デプスが鉄門の左側に近付き、隙間から右の方を見ると、若い女性刑務官2人に連れられて、レルートが向かってきていた。刑務官は制服に身を包んでいたが、レルートは冬物の洋服を着ていた。事前連絡を兼ねてデプスが差し入れたものだった。

 レルートもデプスにすぐに気付いたが、両手を纏める枷は鎖で両脇の刑務官の手に繋がっていたので、手を振ったり走ったりはしなかった。

 

 数歩デプスが下がり、鉄門の片方が電子音や金属のぶつかり合い軋む音を鳴らして開いた後、刑務官2人とレルートはデプスの前まで進み出た。

 レルートの右に立っている方が、右手に持ったクリップボードとデプスの顔を見比べた。誰にともなく急かすように、レルートは小さく跳ねていた。

 

「ハンターライセンスの提示をお願いします」

「うい」

 

 盾を降ろさず、背中に手を回して直接ハンターライセンスを取り出し、刑務官に見せた。刑務官は頷いて、もうひとりの刑務官に目配せすると、2人がそれぞれ小さなリモコンを取り出してボタンを押した。

 手枷が外れると、レルートは弾かれたように飛び出し、デプスに抱きついた。刑務官の目など憚らず、体重をデプスに預け、腕を胴に回して体を密着させていた。

 

「ま」

 

 左側の刑務官は思わず口元を手で覆った。右側の刑務官は眉一つ動かしておらず、レルートの胴越しに伸ばされたデプスの手にハンターライセンスを返した。

 

「これにて、特別釈放及び身元引渡の手続きは終了となります。お気をつけてお帰りください」

「っす、お疲れさまっす」

 

 鉄門が閉まり刑務官2人の姿が見えなくなるまでそのままの姿勢で、デプスはレルートの背中をさすっていた。"あんなのでさえ好い人がいるのに、私たちと来たら……"と言う声が聞こえた。それから、レルートの両肩を軽く押して立たせた。

 

「お務めご苦労さんっした。おかえり」

「はーい、た・だ・い・ま……の――」

 

 顔を近づけようとしたレルートを、デプスは肩を押さえて止めた。

 

「んもう、ケチ♥」

 

 レルートはわざとらしく口だけ尖らせつつも、喜びを声に滲ませていた。デプスは苦笑いして、両手のひらを向けて首を小さく横に振った。

 

「恥ずかし嬉しいっすけど、そーゆーのはポンズさんと話し合った後って言ったじゃないすか。まずは借家まで行きましょーね」

「はぁーい」

 

 デプスが手を引き、2人が階段を上って飛行船へ乗り込む。

 ハンター試験審査委員会のものやメジャーな空路を行く航空会社のものと異なり、定員10名、大きさは上部のガス袋(エンベロープ)込みでようやく通常の旅客機程度だった。

 

 飛行船内部、客室部分は窓と個別座席10席があるのみ。先頭まで行ってパイロットに出発の旨を伝えると、程なくして飛行船は浮上した。

 デプスは窓際の席をレルートに勧め、自身はキャリーバッグを逆側の席の足元に立て、盾も席の上に乗せてから、レルートの隣に座った。レルートは窓の外、小さくなっていく島をじっと見ていた。

 

「やっぱ感慨深いんすか?」

「まーね。ハンター試験の試練官に選ばれた時も、ずいぶん久しぶりの外出ではあったけど、あの時は手錠とか目隠しとかつけられてて、空の旅なんて気分じゃなかったし」

 

 レルートの視線が、隣で背もたれを倒すデプスの顔に向く。

 

「それが今、若い間に愛する人ができて、その人と塀の中から空へ上がってるなんて、夢みたい。本当にありがとう」

「どーいたしまして」

 

 デプスはひらひらと手を振った。

 

「ここから4日かかるんだったかしら?」

「そっすね。旅行会社の飛行船に乗り換えられるとこまで、大体6、7時間。お昼はここで食べる用に軽いもの持ってきたっすけど、そっから家に着くまではご飯もお風呂も飛行船の中っす。

 レルートさんの着替えも一応あるっすけど、今着てるのと同じで割とテキトーっすから。後でちゃんとしたの買いに行かなきゃっすね」

「……テキトー? これで?」

 

 レルートが自分の袖から胴、足元と視線を降ろして、またデプスの方を向いた。

 

「ファストファッションだけど、よくできたコーデじゃない。てっきり、デートのために選んでくれたのかなって思ってたくらいよ」

「まあ、目が肥えてるっていうか……いろいろあって、服は男物より女物の方がわかるんすよね。化粧品とかはさっぱりなんすけど」

 

 大層な金をかけて美しく着飾る母親を身近にして育ったこと、中学時代に冗談めかしてファッションチェックごっこをしたら女子に真に受けられたことなどを思い出し、デプスは遠い目をした。

 

「ああそうだ、買い物で思い出したけど、レルートさん()とかお金とかは全くないんでしたっけ」

「ええ、罰金やら何やらで差し押さえられたのと、ちょっとでも懲役減免したくて全部処分したわ。

 親には勘当されて、面会どころか裁判の傍聴でも顔見なかったから頼れないし。昔稼いだお金が残ってれば、デプスを助けてあげられたんだけど」

「いやいや、あれば回収しないともったいないなーってだけっすよ。レルートさんは家のことだけやっててくれればいーっす」

 

 笑ってフォローしながらも、デプスの心はどこか冷えていた。

 

(そりゃ、親としても、性根の腐った超級犯罪者なんて顔も見たくないだろうしなあ。だからこそ人殺しの眼(のうりょく)使う意味があったってもんなんだけど)

 

 

……

 

 

 3日半が過ぎた。デプスたちが乗り換えた飛行船は、夜に明かりきらめく大都市の中に切り取られたようにしてある発着場へ降りた。発着場と直結している駅から、電車で十数分。到着駅の出口、繁華街の入り口が見える場所から、さらに徒歩で数分。

 どちらを向いてもマンションがあるような住宅地で、デプスの引くキャリーバッグのキャスターの音が止まった。

 

「あ、これっすね」

 

 デザインに曲線の取り入れられた、いかにもな2階建ての高級住宅。その扉横のカードリーダーにカードキーを通し、デプスがさっさと入っていく。落ち着いた表情ながら、レルートは建物の上や敷地の端に目を走らせ、それからデプスの後に続いた。

 

「ねえデプス、どうしてこの家にしたの? 3人で暮らすにはちょっと大きいし、しかも一等地よね?」

「ゲーセン近くて買い物外食その他いろいろ便利、って条件で探したら中々なくて。土地100坪で家賃月300万は高いっすけど、そもそも内見してる暇もなかったっすし、後で稼ぐこと考えたら誤差になるからいいかなーって」

(そのうち元の世界に帰るから、何十年もいるつもりないし。ヨークシン方面は物騒だからそこは避けたけど)

 

 後ろからの問いに、デプスは壁沿いに電灯のスイッチを探しながら答えた。

 

「さっ……」

「向こう半年か1年くらいは残りの2億ちょっとでやってくんで、他の無駄遣いは程々にしたいっすね。100ジェニーの重みは忘れたくないっす」

 

 1階のLDKには、備え付けで既にあらかた家具が揃っていた。それ以外にもダンボールが2つほど置かれていて、デプスは送り状を見て、事前に注文しておいた日用品であることを確認した。

 それから壁際にキャリーバッグと盾を置き、レルートの手を取って家の中を回り始めた。ガス・IH両方のコンロがあるキッチン、広い浴室、

 

「あら、個室とは別に寝室があるのね」

「ベッドの大きさのこと考えた結果っすね。本気で疲れてる時はひとりで寝たいっすから」

 

 天井の高さや部屋の多さ、そして新たな住まいへの新鮮さをひとしきり堪能したところで、デプスはレルートを連れて外へ出た。

 家屋の外は芝に囲まれており、広めの一画を花壇が占めている。レルートはその花壇の前にしゃがみこんで、デプスの方を振り向いた。

 

「庭は……なんというか、物足りないわね。芝と花壇だけ?」

「特に他に増やす予定はないっすね。ポンズさんが蜂の巣置くんで」

「蜂の巣!?」

 

 レルートは、そこにいない蜂に脅されて助けを求めるかのように、デプスの足元に縋りついた。そして、デプスの体を這い登るようにして立ち上がり、正面から抱きついた。デプスは苦笑して、レルートの背中をポンポンと叩く。

 

「ちゃんと言う事聞く訓練バチっすよ。ポンズさんの合流が遅れるってのも、その蜂の巣を運べる飛行船の便が中々ないかららしいっす」

「あたし、刺されないわよね?」

「ポンズさんが帽子の中に入れてるくらいっすから、大丈夫っすよ」

(たぶん)

「……ん」

 

 了承と取ってデプスがレルートを離そうとしたが、離れない。

 

「……レルートさん?」

「これからはずっと、あの時みたいにレルートって呼んで。敬語もなし」

 

 デプスの肩の後ろから、レルートが静かに言った。

 

「え、ずっと? 言葉遣いはちょっとこだわってるんすけど」

「気を使った話し方をしないで欲しいの。あたしは、あなただけのモノになったから……♥」

「……」

 

 デプスはしばし考えた。

 

「よからぬ雰囲気がするんで、ポンズさん待ちで」

「やん、いけず♥」




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