帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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14.雑に新生活

 よく晴れ、日の高くなりつつある朝、デプスの借家の庭で、ポンズが電話ボックス様の箱を組み立てていた。

 それは木の骨組みとアクリル板でできていて、引いて開ける扉には細い鉄の閂が取り付けられていた。パーツを入れていた形様々なダンボールが、開けられたまま芝の上に放置されていた。

 

 最後にもう1つ、芝の上に置かれた透明な蓋付きの水槽からサッカーボールサイズの蜂の巣を取り出し、ポンズはそれを電話ボックスの上部に取り付けた。

 水槽の中から取り出され運ばれる間、巣はまるでもぬけの殻かのように静まり返っていたが、いざ取り付けてポンズが扉を閉めると、数匹の蜂が出てきて巣の周囲を這い、きょろきょろと周囲を見回していた。

 

 ポンズは扉の外から人差し指の先を小さくクルクルと回して見せ、蜂たちに向かって合図を送った。それで全工程が終わり、パン、と手を打って、組み立てを見学していたデプスに振り返った。

 

「よし、完成! デプスくん、デート行こっ」

 

 腕を組み、横から話しかけると、デプスが手を口元に添え、レルートさーん、と家屋に向かって呼んだ。ぱたぱたという足音の後、玄関の扉が開いて、身支度を済ませたレルートが出てきた。

 

 ポンズと同様、着替えた以外に荷物は持っていない。デプスは盾も肩掛け鞄も邪魔になるからと自室に置き、ライセンスやカードキーが入った財布を上着ポケットに入れていた。

 レルートは、ポンズがデプスと腕を組んでいるのを見て、残った手に自分の手を繋いだ。

 

 それから、デプスたち3人は歩いて街を回り、あちこちで買い物をしていく。

 

 雑貨店やスーパーマーケットでは、好みの出るような日用品を買い付けた。デプスが歯ブラシやらマグカップやらを選んでカゴに入れる度、ポンズが同じものをもう1つ入れるので、レルートは何も言わないながらも困惑していた。

 

 衣料品店では、デプスの目を頼りに服を選んだ。ポンズは当初、ハンターとしての活動に向かない実用性の低い服を嫌がったが、レルートが、デプスとのデートにも半端な格好で行くつもりなのか、と言うと、慌ててデプスに謝った。

 

 化粧品店にも入り、そこでは完全にポンズとレルートに任せて買い物をさせたが、2人はケア用品しか手に取らなかった。 

 デプスが理由を問うと、2人して"いらないから"と真顔で言い切ったので、それならいいが、と納得した。ポンズは化粧をしてもどうせ落ちるから、レルートは化粧をするまでもない自信があるからと、ニュアンスはそれぞれ違っていた。

 

 昼時には、あえて店に入らず、屋台や店頭販売をしているところを探して食べ歩いた。レルートは粉物などの炭水化物を敬遠したが、いいダイエット法があるからとデプスが勧めて食べさせた。人を選ぶものに当たることはなく、3人とも満足した。

 

 あっという間に3時間近くが経ち、ふと疲れを自覚したレルートがそれをこぼすと、デプスは切り上げることを決め、家へ帰った。行く先々で宅配サービスを使ったので、手荷物はなかった。

 

 帰り着くと、レルートが率先して、冷蔵庫からペットボトルの麦茶を出して、シンプルなグラス3つに入れ、ダイニングテーブルの上に置いた。

 外は明るく、大きな窓のあるLDKは電気をつけずとも明るかった。3人がテーブルにつき、麦茶を飲んで一服すると、デプスの正面に座ったレルートが話を切り出す。

 

「今日のお買い物で、大体のものは揃ったのよね?」

「そっすね。家電とかは事前に置いてもらってて、あとはポンズさんの私物の残り……液体系の薬が日を空けて届くくらいっすね」

「じゃ、これからの話をしましょうか」

 

 レルートが、デプスの隣に座るポンズを見た。

 

「……私?」

「ポンズさんが来年ハンター試験を受けるかとか、他にも何かやりたいことがないかってことっす」

「ああ、そういうこと。来年も試験は受けるし、ハンターになるつもりはあるわよ」

 

 そう答えて、ポンズは両肘をテーブルの上に乗せ、隣のデプスの顔を覗き込んだ。

 

「でも、何がしたいかってことだとデプスくん次第。今の私のモチベーションってデプスくんだから。デプスくんと一緒に仕事をしたい、ってことになるのかしらね」

「んん? じゃあそもそもなんでハンター試験受けたんすか?」

 

 次の問いに、ポンズはつまらなさそうに頬杖をついて天井を見上げた。

 

「自分で言うのもなんだけど、私の才能を一番活かせる職がハンターだったから。ホントにそれだけなのよね。専門分野の生化学や薬学もいろいろ使いようがあるし、プロハンターの資格があれば一般に違法とされる薬物でも投入できるし、って思ってたんだけど」

「へえー」

(キメラアントの件に出張って死んだのは……まあ、過小評価してたってだけのことか)

 

 デプスが生返事すると、ポンズが再びデプスの顔を見つめる。

 

「だから、デプスくんに質問。デプスくんは、どんなハンターになりたいの?」

「うーーん、そうなるっすよねえ~~」

 

 テーブルの上に両腕を組んで乗せ、その上に顎を置き、デプスが唸る。本来の目的について、デプスは誰にも語るつもりはなかったが、人殺しの眼(ハートマークス)で半ば言いなりになったレルートやポンズであれば、という葛藤が心中で渦巻いていた。

 

「……レルートさん、ポンズさん、絶対に秘密って言ったら、死んでも守ってくれます?」

「いいわよ。もしデプスの秘密のために拷問にかけられたりしたら、毒でもなんでも飲むわ」

 

 レルートが真っ先に、にこやかに答えた。

 

「ポンズちゃんもそうなんでしょ?」

「もちろん。デプスくんは私の全てだから」

「……マジすか」

 

 至極当たり前だと言わんばかり、なんでもないようにポンズが頷いた。この時の2人の言葉にあったのは、上下の忠義ではなく、血のように濃い恋心だけだった。

 

「むしろ、命を担保にした秘密をデプスくんと共有できるなんて、素敵なことじゃない?」

(うわ……)

 

 ポンズがそう微笑みかけてくるのを見て、デプスは内心穏やかではなかったが、その想いの強さに、自身も決断に踏み切った。

 

 デプスは、前提情報として念能力の概念を伝え、デプス自身のこれまでの経緯、デプスが持つ手札――能力と、未来に関する一部の知識についても話した。

 情報量の多さは、2人は優秀な頭脳の持ち主ゆえに。突拍子のなさは、2人のデプスへの盲愛ゆえに。デプスの話したことは、全てすんなりと受け入れられた。

 

 自分たちを変えてしまった人殺しの眼(ハートマークス)に関する説明を受けても、2人は動揺もしなければ、文句を言うこともなかった。話が終始あまりスムーズに進むので、デプスの方が困惑気味だった。

 

「暗黒大陸……あたしは半信半疑だったわね。ポンズちゃんは?」

「私はあると思ってたわ」

 

 ふふん、とポンズは胸を張った。が、すぐに首を傾げた。

 

「でも、暗黒大陸となると、デプスくんと一緒に行くのは難しいわね。ハンター協会最強って言われてるネテロ会長でもまともに歩けない場所なんだし」

「そこは方法がないでもないっす。もうちょっとしたらポンズさんには念を覚えてもらうんで、それで"発"……特殊能力が完成さえすれば、オーラ量は蒼電閃(ブルーレイ)で補えばいいっすから」

「そうだけど、結局デプスくんにおんぶに抱っこなわけでしょ? あーあ、悔しいな~~」

「いや、素でプロハンター目指せる時点で人類の上澄みも上澄みなんすけど……」

 

 ポンズがため息混じりに言い、デプスは呆れた。

 

「なんにせよ、それならポンズちゃんのやることは念の修行メインってことね」

「いや、レルートさんにもやってもらうっすよ」

「あたし? 戦いとか精神修養とかそういうのからっきしよ?」

 

 レルートが自分の顔を指差した。

 

「"纏"でオーラを固めてるだけで老化を遅らせられるっすし、オーラは生命エネルギーっすから、使えば使っただけ痩せるっす。有用すぎて危険だから習得マニュアルがないってだけで、やろうと思えば誰でもできるのが念っすよ」

(うろ覚えだけどたぶんそんな感じのはず)

「あら。お昼に言ってたダイエットって、念の話だったのね。ポンズちゃんの前で言うものだから、怪しい薬か何かかと」

「健康に痩せられる即効性の薬なんてないわよ」

 

 言いながら、ポンズが麦茶を一口飲む。その間に、レルートが浮かんだ疑問を口にする。

 

「でも、あちこち出かけるなら、結局この家は不便なんじゃない?」

「それはどうかな、っと」

 

 指を鳴らすと同時、デプスの横、テーブルの外側に、人間大の青い楕円――"離送橋(ポートピア)"が出現した。楕円の中には、天空闘技場のデプスの個室が映っていた。レルートとポンズは息を呑んだ。

 デプスは立ち上がって、その楕円を通って、個室とダイニングスペースを往復してみせた。

 

 眼を瞬いてから、"離送橋(ポートピア)"の輪郭をぐるっと見回しながら、ポンズが言う。

 

「これが念……とんだ魔法ね。危険視されるはずだわ」

「得意系統とか諸々の都合上、同じことができる人はあんまいないっすけど、魔法みたいなことができるってのは正しいっすね」

 

 天空闘技場の個室に"人を観る照星(ゲイザースター)"1つを残したまま借家まで移動、個室側と借家側の2つの視界を使って"離送橋(ポートピア)"を繋いだのだった。

 能力が2つ必要で、しかも飛行船で何日もかかる距離に"人を観る照星(ゲイザースター)"を維持できることが条件の手順だったが、デプスはぶっつけ本番で、可能であることが確認できていた。

 

(ゴンとかキルアが来たらスーパールーキーの噂が絶対出てくるから、後はその話が出てないかを毎日チェックすればおっけーっと)

「ともかく、これでいつでも帰ってこれるっすから、とにかくいいとこに家を借りるってのは合ってたわけっす。今後もいつでも帰ってこられるっすよ」

「つまり、いつでも帰ってきてたくさん愛し合えるわけね」

 

 目を細めるレルートの言に、デプスは固まった。

 

「なんだか真剣な話になっちゃったけど、そもそもあたしが言い出した"これからの話"って、これからの付き合い方に関してポンズちゃんに合意を取るって意味よ?」

「付き合い方? 合意って言われても、私はデプスくんと一緒にいられさえすれば、後はなんだっていいわよ」

 

 ポンズの返答を聞いて、レルートが立ち上がった。テーブルを回り込み、デプスの腕を取って立たせる。

 

「え?」

「まだ明るいけど、合意は取れたし、いいわよね? 着いてから何日も生殺しにされて、もう限界なの♥」

 

 デプスがポンズに視線を向けると、ポンズはデプスとレルートの顔を見比べた後、デプスに向かってにっこりと笑った。そして席を立ち、デプスのもう片方の腕を取った。

 

「あの」

「大丈夫、錠剤は先に届いてるから。行こ♥」

「っすか……」

 

 2人に連れられ、デプスは観念して2階への階段を上がっていった。




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