帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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 高評価・感想を断固お願いします。


ハンター試験編
1.雑に出遅れ


「あっ」

「?」

 

 デプスが名乗って少し後、凶狸狐(キリコ)が"しまった"というような顔になった。どうしたのかとデプスが見ている前で、額に汗粒が増えていく。

 

「悪い。今ここから行ったんじゃ、会場に着くのが間に合わない」

「えっ」

 

 ナビゲーターがいる場所が、ハンター試験会場のすぐ近くというわけではない。そこからの移動時間で開始に遅れてしまえば、ハンター試験を受験することは当然できない。

 試験会場にたどり着くこと自体が足切り試験であり、これはデプスへのタイムオーバー宣告だった。

 

「町に降りてから人に化けずにアンタを抱えて走ったんでも、ちょっと無理だ。空でも飛べないと……いや」

 

 凶狸狐(キリコ)の視線が、デプスの足下、炭化した草に向けられ、その目が糸のように細められた。

 

「アンタ、念能力者だったな。なら話は別だ」

 

 

……

 

 

「次、右向いて1ブロック!」

「おーらい!」

 

 民族衣装を着た男――に化けた凶狸狐(キリコ)を背負い、デプスは走っていた。脚にオーラを込めて、足跡が3メートルおきになるようなペースで、突風を振りまきながら。

 明るいうちの町中でそんなことをするものだから、果物などの露天商の商品は、デプスの後方でバラバラに吹っ飛んでいた。

 

「やっぱド迷惑っすよこれ! いんすか!?」

「ハンター協会がなんとかするさ! 左に2ブロック!」

 

 速く走れば走るだけぶつかってくる空気に、デプスの髪や凶狸狐(キリコ)のゆったりとした服が揺れる。

 続けること十数分、凶狸狐(キリコ)がデプスの肩を叩いてストップをかけた。急ブレーキをかけたデプスの足下でアスファルトがミシリとへこむ。

 

「ここっすか!?」

「ああ、一度来てるから間違いない。時間は……うん、大丈夫だ」

「よかったぁー……」

(ここまでやっといて無駄だったら虚無感ハンパなかった……)

 

 デプスが気疲れから膝に手をつき、2度3度肩で息をする間に、凶狸狐(キリコ)は試験会場入り口となる定食屋の扉を開けて押さえ、そこから店主に向かって受験生用の合言葉を伝えた。

 

「大丈夫かい? この後すぐ試験になるぞ」

「ああ、はい、いけるっす。体的には疲れてないんで」

 

 息を整えたデプスが、凶狸狐(キリコ)が引いて留めている扉をくぐろうとした時。

 

「待った」

「はい?」

 

 引き止める声に、デプスが振り返った。

 

「先に来てる受験生の中に、ゴンって子供がいる。気が向けば助けてやってくれ」

「ああー」

 

 知っている風に間延びした声を出したので、凶狸狐(キリコ)は、おや、と首を傾げた。

 

「ゴン、っすね。覚えとくっす」

「ありがとう。それじゃ、頑張りな」

 

 デプスは、店員に奥の席――地下試験会場へのエレベーターに連れられていった。

 

「……気のせいだったかな?」

 

 凶狸狐(キリコ)はそうつぶやいて、踵を返した。

 

 

……

 

 

 エレベータが下につき、外に一歩出れば、巨大な地下トンネルだった。エレベータを出て正面方向に伸びているが、400余名の受験生たちが視界を塞いでいる。

 到着時の音に反応してか、始点となるエレベータへ冷ややかな目を向ける受験生がいくらかいたが、すぐにデプスへの興味を失った。

 

(敵じゃないとわかってても、人にそういう顔されたらダメージ入るなぁ)

 

 その感触を忘れようと首を振ると、背が低く饅頭のような丸い顔の男・ビーンが来て、"406"と書かれた手のひらサイズのナンバープレートを差し出した。

 

「時間ギリギリですね。番号札をどうぞ」

「あっ、あざっす」

 

 軽く会釈してプレートを受け取ったデプスは、ハッとして見回す。

 

(そうだ、確かヒソカが開幕で人殺してたはず)

 

 記憶をはっきり思い起こす間もなく、壁面を伝うパイプに飛び乗って受験生たちの上に目を走らせる。

 受験番号58番の男がヒソカにぶつかる、まさにその瞬間が見えた。

 デプスはわずかに逡巡する。

 

(飛ぶ……間に合うか? それに目立ちすぎる。なら、"PRoXY(メモリアルメドレーズ)"――)

 

 頭の中のダイヤルをカチカチと1目盛りずつ回し、かつてプリントに書いた能力を、背中の盾に記憶させた能力を、1つずつ思い出していく。

 

(――あった、"離送橋(ポートピア)"! ついでに"隠"!)

 

 ヒソカの立ち位置と、自分の背後……トンネル壁の中に、不可視のポータルが生成される。

 

「あ♠」

 

 あっけなく、ヒソカの姿が消えた。それを確認し、デプスがすぐにポータルを閉じる。目をつけられまいと誰もが視線をそらしていた故に、ヒソカの消滅に気付いた者は少なかった。

 気付いたとしてもどこへ行ったのかと少々見回す程度で、わざわざ話題にしようなどと思う者はなかった。

 

(土の中、1メートル下に埋められた時に1トンの重さがかかるんだっけ? ここの2メートル奥だとどんくらいかわかんないけど、ヒソカだと普通に出てきそうだよなぁ……)

 

 パイプから降りて受験生集団に紛れ、デプスは袖で額の冷や汗を拭いながら考える。

 

(ヒソカが出てくれば、この先ハンター試験その他で大量殺人を繰り返す。ってゆーか、ヌメーレ湿原の時点でやらかすんだっけ? となると)

 

 ジリリリリリリリリ!!

 

 ……と、けたたましいアラームが4、5秒ほど鳴り、デプス含む受験者たちは音源の方を見た。

 人の顔を模した奇抜なアラームを止めたサトツが、壁面のパイプの上から、集まった受験生たちを見渡す。

 

「ただ今をもって、受付け時間を終了いたします」

(あっやばっ)

「では、これよりハンター試験を開始いたします。こちらへどうぞ」

 

 サトツがパイプから受験生集団の先頭に降り、デプスからその姿が見えなくなる。サトツについて受験生が歩き出し、その動きが後方の受験生まで伝わる。

 

(あーもーいい! ここでやって後から追いつけばいっしょ! いつ後ろからヒソカ来るかとか考えてられないって!)

 

 シィッと歯の間から苛立ち紛れの息を吐き、デプスはその場に留まった。

 それ以外の受験生集団が歩きから小走り、小走りから全力疾走へとシフトしていき、トンネルの暗闇の奥へどんどんと飲み込まれていくのを、デプスはただ見送った。

 ひとり残るデプスに、ビーンがやや遠く、エレベータのそばから声をかける。扉は開いていた。

 

「棄権されるんですか?」

 

 ビーンがネテロ会長を補佐する立場であることを記憶に確認し、デプスは少し無理をして笑い、首を横に振った。

 

「ちょっと出発まで間を空けるだけっすから、お構いなく」

「はあ。わかりました」

 

 ビーンが乗ったエレベータの扉が閉じ、5秒、10秒とデプスは待つ。

 

 20秒。メリメリと音を立て、トンネルの壁が腫れるように膨らむ。心臓と似たペースでその部分が拍動し、パラパラと小石や砂が落ちる。

 

(やっぱダメか。待ってみてよかった)

 

 デプスが30秒を数えるより前、爆発音とともに、コンクリートの腫瘍が破裂した。破片と砂塵、そして大量のオーラを纏った何かが噴出する。

 

(さっきと違う!!)

 

 トンネル内に降り立ったヒソカが、グッパッと手の感触を確かめる。纏うオーラは煮え立つように揺らめき、立ち上る蒸気の代わりに殺気がトンネル内に充満していく。

 デプスが何も感じずにそれを直視していられるのは、盾から供給される無尽蔵のオーラのおかげだった。

 

 ヒソカがデプスに目を向けた。口角が上がる。

 

(来るか? いや、行く!)

 

 デプスの背中、背負った大盾の内側から放出されるオーラが推進力となり、人という障害物がなくなったトンネルで、デプスの体が浮き上がった。さらに背中がバンと爆発し、勢いよく飛ぶ。

 頭の中のイコライザで両腕のオーラ量(ボリューム)を上げ、ヒソカの両手を目でマークしつつ、突撃していく。

 

「!」

 

 身構えたヒソカのガードの上からデプスの右拳が命中し、殴り飛ばす。オーラ越しに、硬いものにめりこむ感触があった。

 

(絶対ここで殺す。逃走に利用されかねない以上、"逆天サヨナラ場外(ムーンフライト)"は使わない!)

 

 ダメージを確かめようとするデプスの前方、数メートル飛ばされたヒソカは難なく着地し、痛々しく前腕が腫れた自らの右腕を上げ、透かしでも探すかのように見た。

 

「驚いたな♦ 全身を隙なく守っていながら、同時にボクの腕を一撃で折るだけのオーラを攻撃に回してもいる♥ でも」

 

 デプスに向き直り、折れているのにも拘らず、右腕を思い切り引く。空中に浮いたままのデプスは、見えない糸に引かれるように中空を滑り始める。

 

「!!」

("伸縮自在の愛(バンジーガム)"! そっか、あっちも"隠"が)

「その"堅"、どこまで防げるのかな♠」

 

 左拳が振るわれ、引き寄せられてくるデプスに到達するまでに、全身からオーラ量が集中し攻撃力を高める。

 自らの意思によらない飛行で視界が揺れている中で、デプスはただ歯を食いしばり、"伸縮自在の愛(バンジーガム)"を目視できるまで総オーラ量(マスタボリューム)をグッと上げた。

 

 ゴリッという鈍い音とともに、ヒソカの左拳がクリーンヒット。ただ、ここでデプスが感じたのは痛みではなかった。右腕を折った時と同じ、触れた相手側にめり込む感触。

 

(おや?)

 

 ヒソカは拳の痛みや思わぬダメージへの驚きもなく、左足を軸に蹴りで続けて仕掛ける。

 退かなかったのをこれ幸いと、デプスが体勢を立て直して叫ぶ。

 

「しゃあっ!」

 

 壁の中へヒソカを飛ばす時に見た能力たち。その1つへとダイヤルを合わせ、両手のひらをヒソカの胴に向かって突き出した。

 

「"落とし弾(ボッシュート)"!!」

 

 ハンドボールサイズの紫色の念弾が連射され、至近距離から1発目が命中。

 ヒソカには傷一つつかなかった。が、全身のオーラがごっそりと消滅する。

 

「!!?」

 

 そのまま残りの念弾が殺到し、次々とヒソカの肉体を砕き散らしていく。ヒソカの傷から、口から、水風船を割ったように血液が飛び出す。

 

「うあわわっ」

 

 まだ何かある、もっと強いはず。最悪を想定するような心づもりでいたデプスは、飛び散る肉片や血液を前にして慌てた。とっさに体を捻って反転し、ヒソカだったものから逃れる。

 

 ビシャビシャとトンネルの床を汚し、ヒソカは終わった。

 デプスは、自分の中に残る"まだ何かあるかも"という思いがじわじわ薄らいで完全に消えるまで、ヒソカの痕跡を瞬き一つせず見つめ続けた。

 

 それから息をゆっくり吸い――血の臭いへの気持ち悪さに、はっはっ、とすぐ吐いた。

 

(やっちゃった。終わってみればあっけないっていうか……)

 

 殺人そのもののショックは少なかった。それより、ヒソカという脅威へ対処した達成感と、一つのことが終わり、ひとりこの場に取り残された喪失感があった。

 

(ダメだ、ここでじっとしてたら無限にナーバスになりそう)

 

 デプスはパンッと手を叩いた。

 

「はいシャキッと!」

 

 声と音で自分に活を入れ、デプスはいずれ掃き集められ燃やされるのを待つヒソカたちに近付いた。背中から盾を取り外して、一方の先端をそれらの1つに押し当てる。

 押し当てた部分から、水に垂らした絵の具が滲むように、ピンク色の光が波紋となって盾の表面へ広がっていく。3度波紋が盾を走ると、それきり何も起こらなくなった。

 

 デプスは、頭の中のダイヤルに新しい目盛りが書き込まれるのを感じた。

 

「っし。よっ、と」

 

 盾を背負い、デプスは用済みになったものを越えて飛ぶ。




"PRoXY(メモリアルメドレーズ)"
盾に複数の能力を出し入れする、デプス自身の放出系能力。
格納した能力の使用には盾を必要としない。
能力を「入れる」には、その能力の持ち主を殺害した上で、盾で直接触れる必要がある。
最初から入っている能力は"蒼電閃(ブルーレイ)"を含む8つ。

"離送橋(ポートピア)"
操作系。空間を捻じ曲げてポータルを作り、維持する。
一度に2つ1セットしか作れず、視界内か半径2メートル以内の場所でなければ作れない。
盾に込められた第1の能力。

"落とし弾(ボッシュート)"
特質系。命中すると強制"絶"状態となる弾丸を発射する。
弾丸は半径20センチメートルほどの暗い紫色の球体、弾速は秒速20メートル。
盾に込められた第4の能力。
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