帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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ヨークシン編
21.雑な面接


 8月初頭。

 公共交通機関どころかまともな舗装路すら途絶えて久しく、デプスは山道をひたすら走っていた。歩幅は長い直線で20メートルを超し、茂みや枝葉、それと身に着けた肩掛けカバンを、突風が揺らしていた。

 

(こんなところに家建てるのはもうバカなんじゃない?)

 

 音とさえ競える走りで数分かけて、デプスは門へたどり着いた。

 いつか見た刑務所のそれより大きく、鉄門とそこから横に伸びる壁の高さは7メートル以上。

 鉄門の隙間からは、まだ歩くのかとうんざりするような広い丘が見え、その上に、ここからなら片手で掴めそうな、洋風の白壁屋敷が、ポンと乗っていた。

 デプスは、鉄門に備え付けられたインターホンを押した。

 

「えー、御社の面接に来たデプス=ハーゲンっす」

 

 ミニチュアの屋敷から出てきた黒点がじっくり時間をかけて皺の寄った老執事になり、さらにその老執事のペースに合わせて屋敷まで行くのは、デプスにとって大層な苦痛だった。

 

「ちょっといいすか?」

 

 と声をかけ、老執事が頷くのに食い気味で、デプスは音楽プレイヤーから伸びるイヤホンを耳に差し入れた。

 

 屋敷に着き、上階の待合室に通されて待機を言い渡されたデプスは、まず、その場にいる者の人数を、1人、2人、と数えた。ついでに名前も思い出そうとしたが、思い出せたのは5人中3人だけだった。

 

 いずれも所在なさげで、そしてよそよそしかった。いかにも高そうで柔らかそうな座椅子やソファに腰掛けていたり、誰とも目を合わせないように部屋の外側を見ていたりした。

 

(黙ってるセンリツ怖すぎない?)

 

 男とも女ともつかない背の低い出っ歯の女性が無言で佇んでいるのを見て、デプスはとても失礼なことを考えた。続いて、煙草の臭いに気がついた。

 見れば、もみあげと髭が繋がり、裸ベストの胸元を毛で飾った不良風の男――バショウが、煙草を吸っていた。

 

 デプスは顔をしかめ、壁際に立ち、音楽プレイヤーを止めて携帯ゲーム機を取り出し、音声を切って遊び始めた。

 

「お待たせいたしました」

 

 老執事の声が聞こえたのは、それから15分ほど経ってからだった。もうか、と思って見回すと、いつの間にか7人目にクラピカが来ていた。

 クラピカの目は、老執事がたった今リモコンで天井から降ろしているモニタの方へ向けられており、デプスの存在に気付いているかすらわかりはしなかった。

 

(声かけてくれればよかったのに)

 

 デプスはゲーム機をしまいながら、クラピカのそっけなさに呆れた。

 

 老執事がモニタを点灯させると、ニンジンのような顔の男が映った。黒い葉のついた肌色のニンジンに、薄く鋭い目、薄笑いを浮かべる口がついて、頬骨が砕けたかのような、鼻以外が平らな顔つきだった。

 

『君らが(ライセンス)を持っているか否かは問わない。要はこちらの望むものを手に入れてくれるかどうかだ。

 オークション開催まであと一ヶ月あるが、それまでに、これから渡すリストの中から1つ。どれでも構わないので、探して来てくれ』

 

 老執事が、手のひらより一回り小さいカード状の端末を配布した。

 端末は課題となる物品のリストが表示されていて、電源以外のボタンは、表示を切り替えるためのものがわずかについているばかりのものだった。

 

("刃骨症患者の尺骨、本体骨との角度30度以上かつ刃渡りが本体骨全長を越えるもの"、"50歳以上のサヨー族の最終残留頭髪・黒"、"フルカラーDNA編み込み爪母、培養可能なもの"……文章で想像できたりできなかったりするなぁ)

 

 人体収集家らしいラインナップだと流し見し、電源をオフにしたところで、ニンジン男が続ける。

 

『それをクリアすれば、正式に契約し、護衛と収集活動を担ってもらう。では、健闘を祈る』

 

 その場にいた老執事含む8人のうち7人は、それを解散の宣言と受け取ったが、デプスは違った。真っ先に木のドアの前へ張り付き、ドアノブをガチャガチャとめちゃくちゃに回す。

 

「うおおおおおお開かねええええええ!!!!」

「……」

『……』

 

 ドアの方……というより奇行に走ったデプスを見ている7人とニンジン男は、少しヒいた。薄笑いする口の端がヒクついた。

 

『雇用の条件には"強い"ことが含まれる。最低でもその館から無事に出られる程度にはな』

 

 言い捨ててニンジン男の姿が消えたのを合図に、次々とドアを剣が突き破り、しかしデプスはそれより速く盾を背から外して前に構えた。

 デプスの全身を使ったシールドチャージは型抜きのように扉を吹き飛ばし、その奥にいる、剣を持った何者かたち3人を、一足先に館から脱出させた。

 

「みっつ!」

 

 廊下に開いた穴の外で、細長く黒い風船が3つ、オーラを吐き出してしぼんでいった。デプスの背後にいたうちの何人かが、それに気付いた。

 

(んで、まだいるな)

 

 シールドチャージで廊下に半歩出たデプスを、左右から別の何者か……黒衣(くろご)のようなものを着た顔も見えない黒ずくめの5人が、3本の剣と2丁の自動拳銃で狙おうとしていた。

 銃口が向くのはこめかみか首元か、と見たデプスだったが、そんなものは関係ないと両方の銃に手を伸ばし、銃口の中へ"伸縮自在の愛(バンジーガム)"を詰め込み、部屋の中へ飛び退った。

 

 その濃いピンクのオーラは執事を除く全員にはっきり見えていたが、銃を構えた2人は構わず引き金を引いた。

 もれなく銃身が内部から爆ぜ、それでも引き金を引き続けたが、オーラの中に弾丸が浮かぶだけだった。

 

 2人の脇から剣を持った3人がすり抜け、バショウ、クラピカ、髪を斜塔のようにまとめた女――ヴェーゼへ躍りかかった。

 クラピカとヴェーゼは後退し、バショウは前に出て、1人が剣を振り降ろしたところで腕を掴むと、押すような前蹴りをかます。

 

「オラァ!」

 

 蹴られた1人は、先の3人の後を追った。バショウが後ろ足を大股に開いて構え、叫ぶ。

 

「やはりオーラの塊、念の人形か!」

 

 室内から壁の上方へ伸びる階段の先、扉の奥から現れた新たな2人の黒衣が、剣を持って駆け下りてきて、階段半ばのクラピカの行く手に立ちふさがった。クラピカは手すりに乗り上げて跳び、シャンデリアに乗って支柱を掴んだ。

 

 残りの黒い剣士2人のうち1人は、ヴェーゼから豪華な椅子を投げつけられて仰向けに倒れ、バショウがその椅子を持ち上げてもう一度叩きつけると、パンクしたゴムボールのようにしぼんでいった。

 それと、弾切れしてなおデプスに向かって引き金を引き続ける黒いガンマンを見て、壁際で老執事を守るように立つ残りの3人を見てから、クラピカはシャンデリアから飛び降りた。

 

 後者の1人、短髪でたれ目の細身の男の腕を掴んで引き、逆の手で喉元に短刀を突きつけた。とっさに抵抗もできず集団の中から引き抜かれた男は顎と両手を上げた。

 

「ヤツらを止めろ。3秒待つ。1――」

「オーケイ! わかったよ」

 

 クラピカが早口に指図して急かすと、部屋に残っていた全ての黒子たちがオーラを吐き出し、ただの布きれになった。持っていた剣や銃もカーペットの上に落ちた。

 

「なぜわかった?」

 

 男が、横目でクラピカを見て言った。クラピカは、男から目を離さずに言う。

 

「私の判断の理由は2点。

 1つ、執事を囲んでいる3人の中で、椅子に潰された念人形から視線を外すのが一番早かった。自分が攻撃して手応えを確かめているわけでもないのに、無力化されたと判断できるのは、術者だから。

 2つ、人間サイズの念人形11体の維持・操作を行うのに、それらを射程内に収められるのはこの部屋のみ。廊下の外へ出た人形のしぼむスピードがより速かったのも、破壊ではなく、制御下を外れたことによる自己崩壊だったから。以上だ」

「よく見てるな。完敗だ」

 

 男は、観念したように笑った。

 

「オレはシャッチモーノ=トチーノ。君達に先んじて館の主人に雇われているハンターだ。"殺すつもりで試せ"と指示を受けていた。……もう何もしないから、それを下げてくれ」

 

 シャッチモーノが顎で短刀を指すと、クラピカはシャッチモーノを解放した。シャッチモーノは両手を上げたまま、無事な椅子の1つに座った。

 

「おどかすつもりが、おどかされちまったな。脱出、頑張ってくれよ。……っても」

 

 シャッチモーノの視線の先には、新鮮な脱出路があった。

 

「まあ、なんだ。帰るまでが遠足ってやつだよ」

 

 老執事を守るフリをしていた、まとめた黒い後ろ髪にパーマをかけた男――スクワラは、第2の刺客役として、何をどうしていいかわからず、ひたすら黙って立っていた。

 

 一行は老執事と刺客2人を残して丘へ飛び降りた後、門まで駆ける。放し飼いにされた犬の中には敵意を見せるものもいたが、なぜか、誰かに命令されたように、すぐに大人しく座り込んだ。

 

「ん? 1人足りなくねーか?」

「ほっときゃいいでしょ」

「んだよ」

 

 指摘をヴェーゼに切り捨てられると、バショウは次にデプスを見た。

 

「そっちの坊主、さっきの出会い頭のぶちかまし、見事なもんだったな。盾が得物なのか?」

「いや、盾は盾っすよ。まあ投げたり殴ったりもしますけど。あ、名前はデプスっす」

「オレはバショウ、よろしくな。すると、さっきのうにょうにょしたオーラが本命なのか?」

「っすね。何かと便利っす」

「へえー、あのうにょうにょがねえ……」

 

 和やかな会話を聞きながら、センリツは別のものを聴いていた。それは話し声よりも、足音よりも、風の音よりも、か細かった。

 

(デプスって子の心音……落ち着いてるから、一見してウソはついていないようでもあるけど。"この程度のことはどうであってもいい"って感じがするわね。これは余裕? それとも傲慢?)

 

 

……

 

 

 駅までたどり着き、連絡先の交換などもせず4人が解散した後、デプスはクラピカの前に回り込もうとしたが、クラピカが先にデプスの腕を掴んで人気のない方へ連れ込んだ。

 

「ちょいちょい、クラピカさん? 久しぶりに会って挨拶もなしにこの仕打はちょっと」

「こんなものを一方的に渡しておいてよく言うな。ある程度こちらで裏が取れたからいいものの」

 

 クラピカが取り出して見せたのは、かつてデプスが渡したメモだった。

 文面は、"ヨークシンの地下競売に緋の眼が出品されるという話ですが、幻影旅団が狙っているとも聞きます。お気をつけて"とあった。

 

「確かに私はハンター試験中に一度、幻影旅団の話をした。しかしその時のデプスの反応は、あまり関心がない者のそれだったと記憶している。このような情報にアンテナを張っているというのは矛盾がある」

「そりゃ、クラピカさんが触れて欲しくなさそーにしてるからっすよ」

 

 今日一日無表情を貫いているクラピカに向かって、デプスが肩をすくめた。

 

「何だと?」

「直に手伝うって言ったら断られるだろうから、情報共有ならいいかな、って思ったんすよ。今日までで、構成員の念能力もある程度掴んでるっす。出どころは言えないっすけど、マジっすよ。ネタも気持ちも」

 

 デプスは、右拳で左胸を叩いて笑った。

 

「……なぜ、そこまでして私に肩入れする?」

「そりゃ、クルタ族の話とか聞いてひどいなーって思ったのが一番っすよ。月並っす。あとは……」

「あとは?」

「……今日の課題アイテム、代わりに探して来て貰えないかなーって、へへへ……」

 

 クラピカは大きなため息をついた。それから、フッと笑った。

 

「すまない、誤解していた。君は私の知るデプスのようだな」

「どーゆー意味っすかそれ!?」




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――放出系ハンター、シャッチモーノ
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