帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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 律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)の被害者が今なお増え続けています。
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26.雑に登場

 ヨークシンの路上。夜も更けているが、大都市だけあって明るく、人通りも全くなくなったわけではなかった。

 怒り心頭という様子の黒服のマフィアたちが、あちらこちらで騒ぎ立て、道の端からそれを遠巻きに見ている一般人がいた。

 

 セメタリービルから脱出したうちの1人、長い金髪をまとめ、腰に刀を佩いた青年が、競売客として同道していた2人をそのまま後ろに連れ、茹だった様子のマフィアの1人、30代前半くらいの男に近づいた。

 

「ちょっと、そこのニイさん、ニイさんったら」

 

 一言かけて気付かれず、肩を掴むと、マフィアの男は怒気を青年に向けたが、青年の表情は気楽そうな笑みから動かなかった。

 

「賊の件は十老頭で預かるって話、聞いて――」

「んだこのクソガキ!? ぶっ殺されたくなきゃ失せろやコラァ!!」

 

 青年へ間近から放たれた叫び声を、近くにいたマフィアたちも聞いていた。

 その衆目環視の中で、青年はマフィアの男の顔面を殴り飛ばした。男は数メートル吹っ飛び、声も出せず痙攣するばかりになった。

 

「ったねーなァ、ツバかけんじゃねーよ」

 

 ジャケットの袖で頬を拭い、青年が周囲を見回し、硬直したマフィアたちに、言い聞かせるようなトーンで告げる。

 

「なあ、今聞いたよな? 賊の件は十老頭で預かるって言ったよな?」

 

 1秒待ち、2秒待ち、マフィアの誰もが動かないと見るや、青年は眼光を鋭くして、刀の柄の先を左手で握ってみせた。

 

「聞いたのか聞いてねえのか、どうなんだ?」

 

 青年が凄むと、その視界の中から外へ、マフィアたちが散っていった。青年は転がったマフィアの首の後ろ、服を掴んで引きずり、シャッターの降りたレストランの前に置き、それからため息をついた。

 

「年上だっつーに」

 

 

……

 

 

 昼と夜の競売客が押し寄せる大都市ヨークシンには、多くの宿泊施設があった。

 ノストラード(ファミリー)以外にも多くの組がホテルを利用しており、組長を十老頭の1人に数えられるミトラ(ファミリー)も同様だった。

 

「外のバカ共を帰してたらもうこんな時間か」

 

 青年は、ミトラ組の部屋の1つに戻るなり、誰かいないかと探した。

 最初に見つけた組員へ視線を向けると、二回りは年上に見える、顔に皺を刻んだ黒服の男は、バッと頭を下げた。

 

「お疲れ様です」

「上には繋がったかい?」

「先生の言う通り、陰獣の方々を出動させて貰えるよう頼みやした。他の組との連絡網の方にも、"早まったことはするな"と」

「横の通達には、ちゃんと組長の名前を出したんだろうな?」

「はい、確かに」

「ありがとさん。ワフツ、ジョウイ、お前らも休んでいいぜ」

 

 振り向いて言うと、共に帰り着いた2人が頷き、別室へ向かった。青年がそれと真反対の出口へ踵を返そうとすると、黒服が声をかける。

 

「ガイ先生、どちらへ?」

「見回りだよ。ヨソの組の念能力者(れんちゅう)にも手伝ってもらってね」

 

 見た目青年の用心棒・ガイ=ガノスは、玄関に立て掛けられていた刀を腰に佩きながら答える。

 

「落ち着いた仕事場だと思ってたんだけどなァ」

 

 

……

 

 

 数十分後、幻影旅団アジト。

 

「追手がかからなかった?」

 

 フランクリンとフェイタンが戻り、12人が揃ったところで、クロロは2人と状況を共有していた。

 

「ああ。ビルからの離脱は予定より早くなったとはいえ、そもそも競売客を逃がしちまってるから、途中で撃ち落とされるもんだと思ってたんだが。地上にちらほらマフィアの連中は見かけたものの、すんなり帰って来れちまった。何がなんだかわからん」

「ワタシたち始末したいなら、あそこに押し込めとくべきだたね。拘束の念、十分強かたよ」

「会場には念能力者もいくらかいたんだろ?」

 

 ビルから飛ばされた1人、ノブナガが口を挟んだ。

 

「フランクリンの能力を見てビビったんじゃねーか? 同じ念能力者や銃を持った兵隊を出したって、薙ぎ払われちまう、ってよ」

「まさか。世界中の筋モンが雁首揃えているってのに、"相手が強いから退く"なんて判断があるか? アイツらからしたら戦争しかねえだろ」

 

 毛皮を纏った、濃い頬髭と逆立った髪がライオンを思わせる男が、ノブナガに反論した。

 

「オレはノブナガとウボォーギン、どちらの意見も正しいと思う。だからこそ、フェイタンとフランクリンが戻るまで待った」

「どういうことだ?」

「フランクリンの力が脅威で、その背景、つまりオレたちの戦力が未知。かといって、すごすごと引き下がるわけにはいかない。なら、入念な準備の上攻撃すればいい」

「攻撃ったってよォ、気球の出入りも勘定に入れてアジトはカモフラージュしてるんだぜ?」

「ウボォー。なら、どうやってお前達をアジトへ飛ばした?」

 

 見透かすような視線が、ウボォーギンの顔に向けられた。

 

「瞬間移動に使われた念能力は非常に高度なものだ。アジトの位置を知っているだけでなく、5人同時、これだけの距離、正確な位置へ飛ばした。

 更に、分断されたフランクリンたち2人を足止めし、競売客の脱出時間を確保。これらが陰獣の連携作戦だとすると、最初からオレたちの存在がわかっていて、準備をしていたとしか考えられない」

「そりゃ矛盾してねーか? 最初から準備ができてたなら、今準備できてなきゃおかしいだろ」

 

 骨ばった額に、高めに撫で付けたオールバックの男が言った。

 

「フィンクスの意見も正解だろう。他に不自然な点として、会場の警備がさほど厳重でなかったこと、ここを突き止めていながら競売の予定を変更しなかった点が挙げられるが、それらは一応辻褄が合わないわけではない。誘い込むためだとかな。

 しかし、今現在の対応には矛盾がある。オレたちを排除する準備が十分なのに、実行に移す気配がない。フランクリンを脅威として見たのなら、挑発する意味もないしな」

「じゃあなんなんだよこれは!?」

 

 フィンクスが腕組みし、指で二の腕を叩く。顎に手を添えて唸っていたシャルナークが、そちらを向いた。

 

「マフィアとは無関係の念能力者集団、とかどうかな。マフィアじゃないなら、メンツにこだわらなくても不自然じゃないだろ? 会場からの排除はできるけど、オレたちの戦力がわからないから直接対決はまだ避けてる、っていうのも筋が通るぜ」

「そりゃ筋は通ってるけどよ……ご自慢の陰獣を差し置いて、そんな連中をわざわざ雇うか? それこそメンツの問題がありそうなモンだけどな」

「あ、そか」

 

 間を置いて、誰も発言しないのを確認してから、クロロが口を開く。

 

「マフィアと直接の関係を持たない、雇われの念能力者集団、というところはオレも同意見だ。フランクリンとフェイタンを足止めした不可視の枷もそうだが、特に瞬間移動に関しては、並大抵の念能力者が数人協力したところで成立しない規模だ。

 陰獣を主戦力として、そいつらを立てようとしている動きとも取れる。裏方働きに注力するのであれば、むしろマフィアと無関係なのは都合がいい」

「結局よ、オレたちはどうするんだ?」

 

 ウボォーギンが言った。

 

「相手に手練が増えたからって簡単に手を引いちゃ旅団(クモ)の名折れだ。そうだろ団長」

「ああ。だから、こちらから打って出る」

「!」

 

 クロロ以外の全員が、改めて傾注し、方針決定の言葉を待った。

 

「競売品は確実にいただく。そのためにまず、正体不明の念能力者集団をあぶり出す。セメタリービルそのものも調べておきたいが、目立つリスクは取れない。まずはマフィア構成員から情報を引き出していく」

「ちょっと待ったーー!!」

 

 場違いな、少年の高らかな叫び声が、アジトの一室に響き渡った。入り口の陰から、声の主、デプスが()()と姿を晒した。

 フェイタンが舌打ちしながら数メートルの高さの足場から飛び降り、デプスへ急接近しながら袖から短刀を飛び出させて掴み、斬りかかった。

 デプスは短刀を握る手を掴み、そのまま力を込めて砕き、真っ向から腹へ前蹴りを突き込んで吹き飛ばした。フェイタンがコンクリートの壁にぶつかり、白い土埃が舞った。

 

「今のは不可抗力っす」

 

 デプスはすぐに両手を上げ、その場にいるフェイタン以外の全員の方をざっと見回した。フェイタンは服こそ汚れたが、大したダメージを受けた様子はなかった。

 ノブナガは居合の構えを取り、他の面々も身に纏うオーラがその厚さを増して、臨戦態勢となっていた。クロロだけは、腰の高さほどの段差に座ったまま動いていなかった。

 

「お前は陰獣か?」

「違うっす。どっちかというと、謎の念能力者集団の方っすかね」

「聞いてやがったのか……」

「ほら、当たってた」

「うっせ」

 

 至って平静に問いかけてくるクロロと他の団員を、デプスが見比べているうち、団員たちは構えを解いた。切り替えたシャルナークとフィンクスが言い合った。

 

「目的は?」

「幻影旅団の皆さんに、人殺しをやめて欲しいなって」

 

 旅団員のほとんど全員が、呆然とした。

 

「出頭は望まないのか?」

「もう絶対に人を殺さないって約束してくれるならいいっすよ。あ、死ぬ寸前まで拷問するのとかもナシで」

 

 デプスの口ぶりからは、たった今思いついたことをそのまま話している様子がありありと窺えた。ウボォーギンが、くっくっと喉を鳴らし、挑発するように言う。

 

「そいつは聞けねえな。オレの生きる楽しみといや、盗みと殺しだぜ。オレ以外だってそうさ」

「オイ、一緒にすんなよ」

「んだよ、そこまで間違ってねーだろ? ともかく、そういうことだ。帰んな」

 

 シャルナークに言い返し、ウボォーギンがデプスの目の前まで進み出て、その顔を見下ろす。

 

「ここじゃ多勢に無勢だ。フェイタンをぶっ飛ばしたのは褒めてやるが、お互い本気で暴れりゃ、死ぬのはお前だぜ」

「じゃあ、全員ぶっ飛ばしたらいいんすか?」

「ははは、そりゃ認めざるを得ねえだろうな」

「お前、288期合格者のデプス=ハーゲンか?」

 

 背中越しにクロロの声を聞いて、どうしたのかとウボォーギンが横にどいた。デプスがクロロの顔を見返す。

 

「そっすけど」

「ハンター試験でヒソカという男を見たか?」

「さあ?」

「そうか」

 

 立ち上がりもせず、その場からデプスに言葉を投げかける。

 

「なんにせよ、お前の言いなりにはなれないな。オレ達幻影旅団は盗賊であり、これからもそうあり続ける。どうしてもというなら、ぶつかって止めてみせるしかないと思うが」

「ん~~、そうなるっすよね~~」

「お、やるか? やるのか?」

 

 喜色を浮かべたウボォーギンが、ポケットに手を突っ込み、口を半開きにして唸るデプスの顔を覗き込む。

 

 次の瞬間、その場にいるデプス以外の12人全員が、自身のオーラの消失を知覚した。

 

「!?」

 

 反射的に、体表を覆うべきオーラを補充しようとするも、誰も、全く手応えを得られなかった。

 デプスがポケットから手を引き抜き、そろり、と一歩下がり、バツの悪そうな笑みを浮かべる。

 

「お試し、ってことで。マフィアに顔が割れてる人もいるっすから、もう下手なことはできないはずっすよね? それじゃ、これで……」

「てめえっ!!」

 

 顔面めがけて振り抜かれたウボォーギンの拳をはたいて払い、部屋の入り口へ駆け込む。ウボォーギンはすぐさまその後を追ったが、入り口から出たところで既に、デプスの姿は見えなくなっていた。

 

「……ってくれるじゃねェか……!!」

 

 裂けんばかりに、歯を剥いて口元を歪め、こめかみに血管を浮かせ、目を見開き、ウボォーギンは、無人の廊下の先――そこにいないデプスを、射殺さんばかりに睨んだ。




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