帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾 作:これからはずっと一緒だよ
※致命的なミスがあったため修正しました。
深夜。
ヨークシン外縁部、一般旅行客がよく利用する安宿の、10畳にも満たない部屋。唯一の家具であるベッドには、前髪を下ろし若者らしい装いをしたクロロが腰掛け、その隣では盗んできたノートパソコンが画面を光らせていた。クロロは、携帯電話を耳に当てていた。
『イルミは別件対応中……と言いたいんじゃが、十中八九死んだじゃろうな』
声の主は、ゼノ=ゾルディック。キルアやイルミの祖父であり、現役の暗殺者だった。推量の形とはいえ、知人の死を告げられたのにも関わらず、クロロは眉一つ動かさなかった。
「死んだ?」
『ハンター試験からこっち、半年以上音信不通、口座にも動きがない。うちの執事衆を裏取りに出したが、結局消息は掴めなんだわ。むしろ、知り合いだというおぬしから話を聞きたいところだったんじゃがの』
「あいにくだけど、オレも知らないよ。ちょっとした調べ物をした時に、ハンター試験に合格した、ってことだけは分かったんだけど。最後に請けた仕事は?」
『ちゃんと試験前に片付けとるわい。無理な仕事ならそもそもさせとらん』
「そっか。十老頭をマークしてもらう他にも頼みたいことがあったんだけどな……」
側面に添えられた親指が通話終了ボタンに行きかけたが、クロロはそれを戻した。
「ところで、デプス=ハーゲンって知ってる? 新人プロハンターの1人なんだけど」
『知らん。いちいちハンター試験の合格者なぞチェックしとらんよ』
「傭兵なのかなんなのか知らないけど、結構やるみたいでね。どうも人殺しが嫌いらしいから、暗殺者なら気をつけた方がいいかもよ」
『ワシらよりお前さんらの方がよっぽど殺しとるじゃろうが。で、仕事の依頼はせんのか?』
「イルミがいないならいいや。じゃ」
クロロは今度こそ電話を切り、傍らのノートパソコンに目を向けた。画面には天空闘技場で戦うデプスとカストロが静止して映っていた。キーを1度押すと、2人は動き出し、デプスの手元に引き寄せられるように飛んだ盾が、カストロの背を打った。
(この動きは……)
……
翌日の昼、ヨークシン市内。ネオンがそうと言えば全員を護衛に駆り出しての買い物が始まり、デプスも例外なくそこに組み込まれていた。集団は、市内にいくつもある店やデパートを、見境も計画もなく彷徨うようにして移動していた。
「え、これだけ? 違う色のヤツないのー?」
「申し訳ありませんが、そちらの商品はライトブラウンのみとなっておりまして……」
ブティック店内には、ネオン本人と侍女2人、ダルツォルネ。そこから店外に古株、新人の順に広がるように、最大限不自然さを排した陣が敷かれていた。
一番外側、20メートルは離れた位置にいるデプスは、頭を下げる店員や、荷物を持たされているダルツォルネたちの姿などこそ見えたが、会話は一切聞こえていなかった。
(中々、近くまで行って2人で話すチャンスがないよなー。流れ変えちゃったからか、ネオンさんの父ちゃんが来るって話もないみたいだし)
路上での警戒任務とあって、ゲームはもちろん音楽鑑賞も禁じられ、しかし実際にやるべきこともなかったので、デプスはごくごく退屈そうに、ぼーっとしていた。
(最悪、忍び込んだり誘拐したりしなきゃダメかもしんないなぁ……ん?)
突然、硬いもの同士がぶつかる音が、背中から聞こえた。その衝撃は盾に阻まれ体には全く伝わってこなかったが、音を聞くと同時に、デプスは"円"を広げた。仲間以外の念能力者の気配はなかったが、素早く遠ざかる者が2人いたのがわかった。
反射的にそちらへ振り向くも、その2人は既にデプスの視線の届くところからは隠れ、そして急速に遠ざかっていた。足下には、先程まではなかったものがあった。紙で包んだ、ピンポン玉程度の石ころだった。
拾って紙を解き剥がすと、そこには手書きでメールアドレスが記され、"能力解除について、交渉を希望する。シャルナーク"と書かれていた。
人や建物の間を縫って走り、シャルナークとノブナガは公園に辿り着いた。それは公園というよりは空き地や待ち合わせスペースという印象が強く、ベンチの他には植え込みくらいしかなかった。野ざらしで嫌われているのか、人がいる割にはベンチは空いていた。
ノブナガは顎でベンチの1つを示し、シャルナークと共に座ると、自販機で買ったペットボトルの緑茶を喉へ流し込み、膝に肘をついた。
「どう見るよ?」
「猫かぶってるね。全員が実力を隠してるんだとしたら、とんだ演技派集団だ」
「だな。真ん中の奴はお姫様にゴマすりながらも気ィ張ってやがるし、他の連中もそれなりに真面目に見張ってる。あれで実は手を抜いてるってんなら、芝居で食ってけるだろうぜ」
「一番外側に配置してる辺り、ノストラード
シャルナークが片足のつま先を上下させて地面を叩いた。
「瞬間移動を駆使すれば、本業と護衛団の二足のわらじも難なくこなせる。マフィアに入り込んで直接様子を探れるから、スパイとかカモフラージュが目的の派遣ってことになるかな。まあ、奴らにも人質の価値くらいはあるかもしれない。あらゆる意味で今はそうすべきじゃないけど」
「ウボォーなら"あの程度の奴らなら念無しでも突破して女を攫える"とか言ったりしてな」
「やめろよ、縁起でもないな」
冗談めかして言うノブナガにそう返したところで、シャルナークのポケットの中で携帯電話の受信音が鳴った。メールのものだった。
「来た」
差出人は、シャルナークの知らないメールアドレスからだった。ノブナガも横から画面を覗き込む。
「カラオケボックスだね。"今夜1時、ビッカラヨークシン2号店で。人数は?"」
「"5人"だな。フェイタンは夜中には動かせねーし」
「了解」
シャルナークが本文を打ち込み、返信を完了し、そして
「なんだよ、さっきからそわそわして」
「ボノがウボォーを抑えられてるか心配なんだよ」
「大丈夫だろ、あいつら喧嘩しねーし。第一何かあれば連絡来るじゃねーか」
「来てからじゃ遅いんだって」
2人は連れ立って、公園から出ていった。
公園横、1階がドラッグストアになっているビル。マチは2階の窓から2人を見送ると、その場から姿を消した。
……
夜11時頃。シャッチモーノとデプスとクラピカが、いずれも黒スーツに身を包み、ホテルの部屋に戻った。デプスとクラピカが着ているスーツは、ヨークシン内で新たに経費で買ったものだった。3人は、車から引き上げた荷物を分けて持っていたのを、玄関すぐの部屋に待機していた侍女とネオンに手渡した。
いずれも真っ白な化粧箱だったが、天面には金の箔押しで品目が書かれていた。ネオンは自分が受け取った箱、そして侍女が受け取った箱、それぞれの品名に忙しなく目を走らせ、目当ての物が全て揃っていることを確認すると、顔にパッと花を咲かせた。
「やったー! ありがとう!」
それから小躍りするように自分の部屋へ向かい、侍女が後に続いた。
「あれが文字通り100億ジェニーの笑顔ってわけっすね」
「こら」
「いてっ」
わざとらしく肩をすくめたデプスの頭を、シャッチモーノが軽く小突いた。デプスたちが立つ部屋には、3人とダルツォルネが残っていた。
「指定の品全て、無事に落札できたようだな」
ダルツォルネはデプスの軽口を聞き流し、シャッチモーノの顔を見た。
「シャッチモーノ、現地でのトラブルは?」
「ないぜ。他所の組も顔ぶれがガラリと変わってたし、昨日とはまた違った意味でお互い不干渉を決め込んでた」
「よし。今日はもう休め。明日も頼むぞ」
「了解」
それだけ伝えて、ダルツォルネはさっさと奥の廊下へ出ていった。近くに誰もいないことを確認して、シャッチモーノがクラピカを見る。
「最後の品のことは……」
「ああ」
最低限の言葉選びが今できる精一杯であるかのように、クラピカはぎこちなく頷いた。デプスは、黒のカラーコンタクトの下、クラピカの眼が何色なのだろうかと思った。
「話すつもりはない。お前も何も言うな」
「試験の時といい、どうもオレ達は間が悪いみたいだな」
「……」
クラピカは、ただ黙ってシャッチモーノを見返した。
「わかったって」
シャッチモーノは両手のひらを向け、軽く押すようなジェスチャーをした。
「まあ、オレを信用してくれるようになるまで、気長に待つさ」
それからシャッチモーノが自分の個室へ向かうと、クラピカは踵を返し、出口に向かいながら呟くように言う。
「外で話そう」
後にデプスが続き、2人はスーツを着たまま借りた部屋を出た。ホテルの階段の踊り場まで移動する際、ビルやマンションとは異なり、足音が響いたりはしなかったが、クラピカが突如興奮して声を大きくしないかと、デプスは少しだけ心配した。
「昼間のメール。話があるとは、
「っす。夜もシャッチモーノさんがいると話せないっすし、このことはメールで済ませたくなかったんで」
デプスは階段に腰掛けた。クラピカは立ったままその姿を目で追った。
「まず、襲撃犯は
「だろうな。両手の指から念弾を飛ばす能力と聞いて、デプスから聞いた話を真っ先に思い出した」
次の話に移れと急かすように、クラピカが返した。
「それで?」
「緋の眼を取り返して、仇討ちするじゃないっすか。仇討ちって、殺すところまで行くんすか?」
「……そうだ」
今更何を、と自分に問うてから、クラピカは頷いた。
「そのつもりで私に情報を渡したのではなかったのか?」
当時軽い気持ちでそうしたという自覚があって、デプスは言いよどみ、一度目を伏せた。それから、もう一度クラピカの方を見て、立ち上がった。
「そっすけど、
「なに?」
「これもマジの情報っすよ。出どころはお口チャックっすけど」
口に沿ってチャックを閉じる仕草をしてみせながら、静かで重苦しい空気の中、デプスはなんとか笑えた。クラピカは踊り場の内側へ寄って、鏡を見るように壁に向かい、手すりに手を置いた。
「私は……恐らく、復讐をやめることはないだろう。緋の眼の奪還を……優先はするが」
「……」
「すまない、デプス。話すことがないなら、もう行ってくれ」
クラピカの背中を見て、デプスは、具体的に何がどうとはわからないまでも、何かが既に限界なのだろうと感じた。
「……っす」
余計なことを言うまいとして、デプスは部屋へ、そして自分の個室へ戻った。
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(これは制約と誓約!! 覚悟の証!!)
――鎖野郎、クラピカ