帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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 妙に伸びているような、と思ってエゴサしたらランキングに載っていたとは……
 高評価・お気に入りを下さった方々に感謝します。
 一言つき評価に関しても、この場でお礼申し上げます。

 そして引き続き、薄汚い作品に憐れみの高評価を、雑な作品に施しの感想をお願いします。
 お気に入りはリストが汚れる実害が伴うため、自己責任でお願いします。


2.雑に命とか扱う

「あっ」

 

 一次試験開始から半日近い時間が経った頃。長い階段を含め100キロメートル近いトンネル、その出口。

 階段をあと数段で出口というところで力尽き倒れた男は、手を伸ばした先でシャッターに閉ざさるのを見て脱落の事実に打ちひしがれ、力を抜いて息を整えた。しばらくは、何かを考える余裕もなかった。

 ややもすると、徐々に茹だった頭と汗だくの体が冷めていった。シャッターの外では何やら試験官による説明の他にトラブルが起きたようだが、もはや自分には関係ないことだと自嘲する。

 

 その場に留まって休み始めてから数十分後、奇妙なことが起きた。

 

「ぅわぁあああーー!!」

 

 階段の遥か下から反響して届く悲鳴。

 ハイペースで駆け上るのはともかく、歩いて下るのに苦労はない。男は何事か確かめようと階段を下っていく。

 

「ぎゃああああ!!」

「ひィ~~~~!!」

 

 それからは、異なる声色の悲鳴が続いた。

 

(一体どういうことだ!? トンネルに残ってるのは脱落した受験生のハズ。誰かがヤケ起こして暴れてやがるのか!?)

 

 脱落者の大半は階段に差し掛かってからのもので、男が階段を下り始めてから見かけた者たちに異常はない。

 男と同じく立ち上がって様子を見に行こうとする者たちが集まっていき、階段を降る集団は10人強になった。

 

「さっきまで、あんな叫び声あったか?」

「いや……」

 

 武器に手をかける者もいる中、集団がとうとう階段の終わりに差し掛かる。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 男の叫び声は、前方から続けて放たれる叫び声に混ざる。

 階段からさらに十数メートル先、何もない空間から受験生が飛び出しては転がっていく。一様に、飛び出す時に悲鳴を上げていた。

 落着後は、壁の方へ寄って休む者、他の受験生を手当する者など様々だった。前者のうち1人が、降りてきた集団の足音に気付いて目を覚ました。

 

「あんたら、降りてきたのか」

 

 集団のうちいくらかが自発的に怪我人の手当へ加わり、残りは呆然と異常現象を眺めている。男はひとり、話しかけてきた受験生に近づいた。座り込んだ受験生が身につけているものは、足元を中心にところどころが黒く濡れていた。

 

「これは一体? 上に……あの先の湿原に何があるんだ?」

「わからん。確かなのは、ここにいるのはみんな死ぬような目に遭いかけた連中同士ってことさ」

 

 受験生は、疲れを滲ませた表情で首を振った。

 それからポツポツと語るのに曰く、"詐欺師のねぐら"――ヌメーレ湿原には、他の生物を欺いて文字通り食い物にする種が溢れていると。

 ぬかるみや濃い霧で先行集団からはぐれ脱落するのと合わさって、怪生物に翻弄されるがままの受験生を、多数生み出しているらしかった。

 

「ハンター協会の設けたセーフティだとすると、"命の保証がない自己責任"だって説明と食い違うんだが……」

「そこだ。お前ら一体、どうやってここに飛ばされて来るんだ? そういう怪生物(やつ)がいるのか?」

「さあな。オレたちが"ここで死ぬ"と思った次の瞬間には、このトンネルの中に飛び出していたんだ」

「……」

「上で力尽きちゃ命はなかろうが、ここなら協会の手の者がじきに来る。お前も休め」

 

 言って、受験生は顔を伏せ目を閉じた。受け止めきれないでいる男は、再び受験生たちが吐き出される空間に目をやる。悲鳴は止まらない。

 じきにその受験生たちが情けなく見え、それよりずっと先にリタイアした自分がさらに小さな存在に感じられた男は、拳を固く握った。命拾いしたなどとは、微塵にも思わなかった。

 

(……来年までに、倍は鍛えてやる!)

 

 

……

 

 

 男が階段を降り始める少し前、ヌメーレ湿原。

 

「もーーーー!」

 

 前方にのみ注意を向ける集団に合流すること自体は、わけもなかった。

 問題はその後、ヒソカの手によらずともここでの脱落が死を意味することを思い出したデプスは、霧に紛れて飛翔し、空を行きながら"円"を広げていた。オーラで強化された視力のおかげで、眼下の分厚い霧を透かして地上を見渡せた。

 

 ここまでに残った300余名の後方集団。スタミナ切れや視界不良で脱落したはぐれ受験生たちを、デプスは自身のそれを含めた5つの視界で捉えていく。

 1人見つけるたびに"離送橋(ポートピア)"で消しては、次の1人を探す。

 

「あっ!」

 

 3つ目の視界に、トラックサイズの人食いガメ――キリヒトノセガメに襲われる受験生たちが映った。

 

「うああああっ!!」

 

 寝かせていた首を起こしざまに受験生の1人を口で挟んで持ち上げ、もう一息で丸呑みというところで、受験生の姿がポータルへと消え、キリヒトノセガメの頭部がオーラのレーザーで砕け散った。

 レーザーを放ったこぶし大の丸い浮遊体が、起き上がったキリヒトノセガメから半狂乱で逃げ出した受験生たちの方へ向き直り、その視界を通してデプスが次々とポータルを発生させる。

 行き先は、6つ目の視界の中、トンネル内部。

 

(人命救助なんて考慮してなかったって! "人を観る照星(ゲイザースター)"、どうせなら出せる数もうちょっと盛っとくべきだったか!?)

 

 広範囲の"円"を手がかりに個別の位置を把握し、中継・攻撃ドローンとして"人を観る照星(ゲイザースター)"を送り込み、得た視界を利用して"離送橋(ポートピア)"を開く。

 湿原を進み始め霧と怪生物が現れるまでに考えた作戦は、複数の視界がもたらす情報によってデプスにワンオペファストフード店が如き負荷をかけつつも進行していた。

 

 確保した視界の外で手遅れが出ないことを祈りながら、デプスは複合能力のコントロールをこなしていく。

 

(あっちの3人に5番機を! 残りはまっすぐ飛ばして――)

 

 

……

 

 

 丸一日近い全速力での移動の末、サトツと受験生たちは湿原を抜け、森林公園へとたどり着いた。"円"で先頭集団以外に人間がいないことを確認したデプスも、霧や木々を目隠しにしてしれっと合流していた。

 今はもう、湿原の肥やしになる受験生の悲鳴も聞こえなければ、怪生物の蠢く影や、それを隠す霧も既にない。そこは普通の森のように見えた。

 空気がうまい、とデプスは深呼吸する。

 

(ふぅー……ヒソカの100倍苦労した気分)

 

 会場に出席した400余名が全員受験意思を示していたが、二次試験会場へたどり着いたのは150名と少し。

 死者――0名。決して余裕ではなかったが、スタミナを気にせず全力で稼働し続け、能力2つの複合運用に徐々に慣れていった故の結果だった。一次試験のトンネルは今、飛ばされた脱落者およそ200名で賑わっていた。

 

「それじゃ、私はこれで。健闘を祈ります」 

 

 一次試験官としての役目を終えたサトツは軽く挨拶し、森林公園を後にする……と見せかけ、樹上に姿を隠した。ひとえに、これから行われる二次試験の難易度が過剰でないかという懸念からだった。

 

 サトツ、そして受験生たちの視線の先。広けた平地の中心には、魔獣の唸り声のような異音が轟く、体育館様の建物があった。

 無視できない存在感を放っていたそれの扉は閉ざされていて、詰めかけてきた受験生を足止めしていたが、正午になるとともに開かれた。

 入り口すぐのところに座り込んでいる身長5mほどの巨人・ブハラと、その前に置かれたソファに座った女・メンチの姿があった。

 

「………………」

 

 異音の正体がブハラの腹の音であると誰もが理解し、なんともいえない空気が流れた。

 

「どお? おなかは大分すいてきた?」

 

 上を向いてメンチが問いかけると、ブハラは嘆息し、その音は腹の音にかき消された。

 

「聞いてのとおり。もーペコペコだよ」

「そんなわけで」

 

 2人が受験生たちに向き直る。

 

「二次試験は、料理よ!! 美食ハンターのあたし達2人を満足させる食事を用意してちょうだい」

「!?」

 

 常識を越えた長距離走、命のやりとり。その次が料理とあって、受験生たちは予想外の出題に面食らった。

 

「まずは、オレの指定する料理を作ってもらい」

「そこで合格した者だけが、あたしの指定する料理を作れるってわけよ。つまり、あたし達2人が"おいしい"と言えば晴れて二次試験合格!!」

 

 タイムリミットは試験官が満腹になるまで。そう補足すると、思考を切り替えた一部の受験生はメンチの方の許容量について危機感を覚えた。そして、どのような料理が出題されるかも。

 

「オレのメニューは――豚の丸焼き!! オレの大好物」

 

 いかにも楽しみそうに目を輝かせ、前半試験のメニューを提示したのは、ブハラ。

 料理とも言えないような出題内容にまたも、受験生の間にはなんともいえない空気が流れた。

 

「二次試験スタート!!」

 

 スタートの号令とともに、受験生たちは一斉に飛び出し、豚を求めて木々の切れ間に分け入っていった。

 

 デプスはひとり、その人の流れに逆らうように前進して、建物を回り込んで後ろへ進んだ。

 森林内、成人男性3~4人分はありそうなサイズの豚の死体が、川に晒されながら残っていた。試験内容を事前に知っていた故に、合流前に仕留めて血抜きがてら置いていたものだった。

 それが横取りされていないことにほっとし、デプスはすぐに火の支度をし、雑に焼き上げ、そして盾の裏にしまっておいた調味料を取り出して振りかけた。

 

("蒼電閃(ブルーレイ)"でライター要らず。やっぱ電気こそサイコーの便利属性っすね)

 

 開始からおよそ10分後。入口前へ引き返してきたデプスの引きずる豚の丸焼きを見て、ブハラが目を瞬かせる。

 

(わた)取って血抜いただけっすけど。とりあえず豚焼いとけばよかったんすよね?」

「あ、ああ……いいよな? メンチ」

 

 その"いいよな"は、"食っていいよな"のニュアンスが9割を占めていた。

 

「ま、指定事項以外は自由なのがハンター試験。いいわよ」

「やったあ」

「いようし!」

 

 入り口から数歩入った程度のところに置いたため、ブハラからは数メートル離れていたが、ブハラが上体を少し倒して腕を伸ばせば軽く届き、グレイトスタンプをひょいとつまみ上げた。

 それから見た目に似合わぬ丁寧な手付きで(しかし見た目通りのペースで)食べ終えると、きれいになった骨を脇に積んだ。デプスはちょっとヒいた。

 

「うん、うまかった。合格! ねえ、これってもしかしてマキシマイザーで味付けした?」

「そっすね。みんな大好きマキシマイザーっす」

「食べといて言うのもなんだけど、なんで持ってきたの?」

「好きだから……っすかね」

 

 デプスはキメ顔でそう言った。

 

「そっか……」

 

 ブハラはちょっとヒき、メンチは"なにコイツ……"と思った。

 

(ふむ……あの少年、湿原までは気配がなかったはず。恐らく、純粋な新人ではないのでしょうな)

 

 デプスが森に隠れてから十数分もすると、受験生の半数近くが豚の丸焼きを頭の上に持ち上げて大挙してきた。それを見ながら、デプスは次の試験をどうするか思案していた。

 二次試験後半では、試験官の不心得によって合格者が0にされてしまう。デプスはそれが、たとえ後で不合格を撤回されるとしても、気に入らなかった。

 

(……いや、どうせトラブルが起きるなら最初から不成立にするとか?)

 

 最終的に、デプス含む先着70名が提出した豚の丸焼きは全て合格となった。積み上げられた豚の骨の山は、ブハラよりさらに高くなっていた。

 

「審査になんないじゃないのよ」

「まーー、いいじゃん。それなりに人数はしぼれたし。細かい味を審査するテストじゃないしさー」

「甘いわねー、アンタ。美食ハンターたる者、自分の味覚には正直に生きなきゃダメよ」

 

 メンチがそう言うと、ブハラは気まずそうに頬を掻いた。既にメンチが試験の主旨を忘れかけているということを、受験生の前では言い出せない故だった。

 

 仕方がない、とメンチが銅鑼を大きく鳴らし、合格者70名と発表。インターバルなく、次の出題に入った。

 

「二次試験後半。あたしのメニューは、スシよ!!」

 

 この世界ではマイナー料理であるスシを知る者はほとんどおらず、受験生たちが困惑する。

 

 ふふん、と得意げに笑い、メンチが建物の中へ入る。

 

「ヒントをあげるわ!! 中を見てごらんなさーーい!!」

 

 入り口から覗き込む受験生たち。

 

「ここで料理を作るのよ!! 最低限必要などう……あれっ?」

 

 建物の中には、確かに百を越える調理台があった。しかし、食材や調味料、調理器具は見当たらない。

 

「はぁ!? どーゆーこと!? さっきまであったじゃない!!」

 

 あちらこちらの調理台に駆け、そのいずれも卓上が一掃された様に怒鳴り声を上げる。

 そんなまさか、と思ったブハラが受験生をどかして入り、同じく驚愕する。

 

「ホントだ……どうする?」

「どうもこうもないわよ! どきなさい、審査委員会に電話するわ!!」

 

 受験生集団の外れ、建物から届く声を聞いて、デプスは策が成ったとひとり満足げに頷いた。心の中で舌を出しながら。

 

(すんませーん、全部湿原の方に捨てちゃいましたぁ)

 

 

……

 

 

 急遽メンチが審査委員会への連絡を行った結果、森林公園からかすかに見える山での予備試験が決定。

 谷の間に吊るされた卵での「ゆで卵」が課題となり、合格者は40人余りとなった。

 デプスも、山の頂上で鍋を囲んでゆで卵に舌鼓を打つ受験生の輪に加わっていた。

 

(結局予備試験はこれなのね)

「うま……でもマキシマイザーかけちゃおっと」

 

 ひとり茶色の粉を振りかけるデプスを、メンチは青筋を浮かべながら見ていた。

 また、一次試験の間完全に姿がなかったため、デプスは"あれっ、あいつ……あれ?"と首をかしげる受験生を量産した。

 

 デプスを見る目のうちの1揃いは、貼り付いたような薄笑いの奥に、それらよりずっと大きな疑念を隠していた。




"人を観る照星(ゲイザースター)"
具現化系。こぶし大の球体浮遊衛星を飛ばす。数は5つまで。
視界をデプス本人と共有でき、余分に込めたオーラをレーザーとして発射できる。
盾に込められた第2の能力。
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