帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾 作:これからはずっと一緒だよ
今回の後書きは、アンケートや占いに関する、ヨークシン編の裏話になります。
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『……』
デプスの問いに、ライトは答えなかった。5秒待ち、10秒待ち、それでも返答はなかった。デプスは一度、携帯電話を耳から離し、電話がきちんと繋がっていることまで確認した。
「もういいよ」
もう一度携帯電話を耳に当てようとしたところで、ネオンが言った。
「……え?」
戸惑うデプスの手から携帯電話を取り上げ、ネオンが終話ボタンを押した。デプスがネオンの顔を見ると、気疲れしているのでもなく、落ち込んでいるのでもなく、見て取れるだけのものは何もない無表情だった。
「ネオンさん。まだ、ちゃんと話し終わってないじゃないすか」
「いいの。あたし、わかっちゃったから」
「わかったって、何がっすか」
「デプスは、あたしの占いのこと知ってるんだよね?」
「ひと通りのことは知ってますけど」
ネオンは携帯電話をテーブルの上に置き、シートの背もたれに体重を預けた。それから、体の前、誰もいない場所に向かって、口を開いた。
「あたし、パパに言われて占いをするんだけど、パパのことは毎月初めに占ってるの。多分、パパ、今月の1週間目の分に、"嘘ついたら死ぬ"みたいな内容が出たんだと思う。さっきみたいな話をする時、いつものパパなら、心にもないことを言って誤魔化すのに、そうしなかったもん」
親子のこと、占いのことは、ネオンが一番よくわかっている。他人が口を挟めることではない。その理解の下、デプスはネオンの言うことへの反論はなかった。
「……で、でも。折角話し合うチャンスだったじゃないすか」
「うん。あたしも、パパはいつかきっと昔みたいに……あたしが自動書記を始める前みたいに戻ってくれる、って信じてた。さっきのデプスの質問に、いっそ"今は愛してない"とかって言ってくれたら、その方がまだ信じられたと思う。そしたら、デプスと一緒に、これからどうすればいいかを相談したかもしれない」
声の調子も変わらず、ネオンが淡々と続ける。
「でもパパは、何も言わなかった。きっとパパの中で、あたしが小さかった頃に一緒に遊んでくれたりした時の気持ちとかがもう全部なくなってて、あたしを見る目が変わっちゃってるんだわ。頭では"自分の娘"ってわかってるつもりでも、心はそうじゃないっていうかさ」
「じゃあ、どうやっても戻らない、ってことっすか?」
「うん。ごめんね」
ネオンは体を起こして膝に手をつき、デプスの方に首を傾けた。真剣そうに見返してくるデプスに向かって、労うように微笑んだ。
「ごめんって、何がっすか」
「気を遣ってくれたんでしょ? あたしとパパのこと」
「そっすけど」
「でも、ダメになっちゃった。デプスはきっとダルツォルネさんに怒られちゃうし、お給料だってなくなって、クビにもなるかもしれない」
「別にいっすよ、お金に困ってるわけじゃないんで。それよりネオンさんのことっす。お父さんのこと、ホントに諦めるんすか?」
デプスの問いに、ネオンは小さく息を吐いた。
「仕方ないわ。あたしも、もうパパのことをパパと思えなくなっちゃったし。帰ったらこっそりお金作って、いつか家出でもするつもりよ」
「……」
ネオンの
整理がついたデプスは、笑った。
「なら、ウチ来ます?」
「え……!?」
ネオンの胸中が期待で急激に満たされ、その目を見開いたのもつかの間。すぐに申し訳無さと諦念が勝り、ネオンは表情を冷ました。そして、鼓動を強くする胸を押さえながら、小さく首を横に振った。
「だ、ダメだよ。そこまで迷惑かけられない。デプスがパパに狙われちゃう。逃げたって、いつか捕まるし」
「ここに来る時みたいに瞬間移動すれば足つかないっすよ。並の念能力者と違って、別の大陸とかでも行けますし」
「そんなこと出来るの!?」
「出来なきゃ言わないっすよ。それにー」
デプスがネオンの肩に手を置く。
「断るのは"迷惑かけるから"でいいんすかね? だったら、無理矢理にでも連れて行っちゃうっすよ」
「……どうして?」
裏表を感じさせず確信的に言い切るデプスの顔を正面にして、ネオンの瞳と声が揺れた。膝を包むようにして置いた手も、わずかに震えていた。
「どうしてそこまでしてくれるの? あたしの占いのため?」
「え? ああー、いや。そんなモンなくても最強なんで、関係ないっすね」
デプスは、思っても見なかったという風に目を丸くした後、鼻を鳴らして小さく笑った。それから、顔の前を払い除けるように手を振りながら言った。
「理由は、なんというか、一言では言い表せないっすけど。とにかく、どうせ家出するなら、この世界一確実な方法がおすすめっすよ。ほら、たった一言、"連れてって"って言ってくれませんかね?」
父親、組員、護衛団、侍女。ノストラード
……
翌朝、ダルツォルネは自分の携帯電話に何ら異変を感じず、デプスにも何も言わなかった。デプスとネオンと話をしたことを、ライトは伝えていなかった。ネオンが急に"もう帰る、すぐ帰る"と言い出しても、デプスを除く護衛団メンバーの誰しもが、ただの気まぐれだと信じて疑わなかった。
行きと同様、1日半近くを退屈に過ごし、護衛団としての初回任務をやり遂げた後、ネオンの館で解散になった際、デプスは辞職の意思を伝えた。警戒任務に身の入らない様子を知っていたため、ダルツォルネはすっかり納得して、いくつか励ましの言葉をかけて送り出した。
デプスが館を出ると、青みがかった早朝の芝生の上で、クラピカが待っていた。
「あれ、クラピカさん。どしたんすか。もうさっさと帰ったのかと」
「盗み聞きするつもりはなかったのだが、ダルツォルネとの話が聞こえてな」
2人並び、敷地の門へ向かって歩き出す。
「次の仕事のアテはあるのか?」
「天空闘技場のお金とかあるんで、当面は働かない予定っす。他にやりたいこともあるんで」
「ヨークシンに戻るのか?」
「そっすね。ゴンさんたちから会おうって言われてたんで。到着遅くなっちゃいますけど」
「ならよかった」
クラピカは安心したように、ため息交じりに言った。
「すまないが、デプスから3人によろしく伝えておいてくれ。このままノストラード
「了解っす。クラピカさんも、あんまり根詰めすぎない感じで、適度に頑張ってくださいね」
「ああ。大丈夫だ」
「ホントに? ホントに大丈夫なんすか?」
2人は門から出ていき、森の中へ消えていった。館には、ダルツォルネとスクワラ、いくらかの使用人、そしてネオンだけが残された。
それから数時間が経った後、ダルツォルネの部屋の扉がノックされた。いつも使用人が昼食を持ってくる時間だったが、その音の忙しなさに、ダルツォルネは異常を感じた。
「どうした?」
ダルツォルネが扉へ向かって声をかけると、侍女のひとりが血相を変えて飛び込んできた。
「ネオン様がいません!!」
「何だと!?」
「スクワラ様は"絶対に漏れはない、出られるハズがない"と仰っていたのですが、館のどこにも……!」
叫ぶなりダルツォルネは勢いよく立ち上がり、侍女を押しのけて部屋を出た。怒号に近い命令を飛ばして使用人を動かし、スクワラを問い詰め、自身も館中を何度もさらって歩いたが、確かに、ネオンの姿はどこにもなかった。
……
同時刻、デプスの借家の1階、ダイニングスペース。
大きなテーブルで、デプス、レルート、ポンズ、マチ、そしてネオンが食事を取っていた。
「てっきり一人暮らしかと思ってたのに」
わざとらしささえ覚えるように膨れながら、ネオンがオムライスをスプーンで口に運んだ。一口分をよく噛んで飲み込むと、ネオンは正面に座るデプスを指差し、右から左へ、他の3人を見回す。
「デプスって今3股してるんでしょ? 3人は不満とかないの?」
「いーえ? 全く」
「仕事でヨークシンに行ってる間も、夜の空いた時間で帰ってきてくれてたし。デプスへの不満なんてないわよ」
「アタシも、今のところは別に」
「えー!? 絶対おかしーよ!」
レルート、ポンズ、マチが、順番に否定して見せると、ネオンはデプスを指す腕をバタバタと揺らした。その様子を見て、レルートが右隣のデプスの方を向く。
「……ねえ、デプス。この子には使ってないの?」
「そりゃ、使う理由がなけりゃ使ってないっすよ。ポンズさんの時はちょっと焦って早まったっすけど、ちゃんと線引はしてるんすから」
「ふーん」
レルートがスプーンを置き、再びネオンの方を見た。
「ネオンちゃん、デプスのこと好きじゃないの?」
「!?」
デプスとネオンは、口の中のものを噴き出しそうになった。ネオンは落ち着いて飲み込んだが、デプスは咳き込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ……」
「……な、何言い出すの!?」
「だって、ネオンちゃんのために父親と話をつけようとしてくれて、それがダメになった後、ずっと飼い殺しのままにされちゃうから、って連れ出してくれたわけでしょ? デプスってば顔もいいし、それで惚れない方が不自然だと思うけれど」
「れ、レルートさん」
涙目になりながら、デプスがレルートに向かって首を横に振った。
「わかってるわよ。自分ではイケメンイケメンって言うくせに、言われた時だけ恥ずかしがるんだから。そんなところも愛してるけど」
「え、デプスってそんなナルシストキャラだったのかい? あれで完全なオフだと思ってた」
「うわぁ……」
父親の金と権力に群がる女たちとは別種の気持ち悪さをレルートから感じ取り、ネオンはちょっとヒいた。ポンズも両肘をテーブルに着け、語られた経緯を反芻しながら、ネオンの方を見る。
「言われてみれば、まるでお話みたいよね。白馬の王子様、とかそういう類の。大抵の女の子なら羨ましがる出会いなんじゃないかしら」
「……う~~」
両腕を胸元へ畳み込んで唸るネオンに注目が集まる。
「確かにデプスは助けてくれたし、これからもお世話になるけど……急に言われても、あたしはそんなつもりないもん」
ひとりだと思ってたのに、とネオンが口の中で呟いた。
「焦れったいわねえ。デプスくん、もうやっちゃえば?」
「やんないって言ってるじゃないっすか」
「てゆーか、さっきから言ってる"使う"とか"やる"とかなんのことなの!?」
「ほら話ややこしくなったー」
きちんと食事を進めながらも、ネオンを中心に言い合いが展開されていった。そこに最低限の耳目だけ向け、マチは黙っていたが、ふと、思い出したように顔を上げた。
「……ていうか、3股は不正確でしょ。これから増える予定があるんだし」
「だーかーらー! そんなつもりないって言ってるじゃん!」
ネオンがマチに向かって吠えたが、マチは涼しい顔を崩さなかった。
「いや、あんたじゃなくてさ――」
●ヨークシン編裏話
~どうして原作と占いの結果が違うのか、前回のアンケート結果が違ったらどうなっていたか~
1.占いの結果の違い
この話は"
つまり、このヨークシン編と原作のヨークシン編の間には、"もし占いの結果が原作通りだったら"という、もうひとつの仮想上の未来が挟まれています。
その"もしも"においては、9月1日にデプスが地下競売の襲撃を妨害し、結果、被害のほとんどなかったマフィア、ひいては十老頭が調子に乗ってしまいます。
すると、さしものデプスも"痛い目を見なければわからず、自分から死にに行くというのなら、もう面倒は見切れない"と、後のマフィア対ウボォーギンに手出ししないことを決定。
旅団側は原作通り7人揃って気球で脱出し、気球墜落後にウボォーギンが暴れ、マフィアが大勢死亡、残りは尻尾を巻いて逃げ出します。
そこを頃合いと見たデプスが砂地を念弾で爆発させて目眩ましとし、クラピカが戦うのを避けるため、7人全員をアジトへ飛ばします。
護衛団集合後、クラピカは"自分なら勝算がある"と主張しますが、ウボォーギンの実力を目の当たりにしたダルツォルネは撤退の一点張りで、十老頭が下す捜索指令も無視。護衛団はホテルに戻ります。
深夜にライトが合流。デプスは直接話せるタイミングを探し、ネオンを起こして、"ネオン自身が競売に参加できるよう掛け合う"という名目で三者の話し合いに持ち込みます。
話し合いの中でデプスはライトの気持ちを確かめるべく、"本当にネオンを愛しているなら、もう占いはやめさせろ。金稼ぎの道具にするのは間違っているし、親としてやるべきことがたくさん残っているはずだ"と説得。
本人の手前ということもあり、ライトはこれを承諾します。ネオンも、これまで占いで利益を得てはいましたが、一時的に物欲が満たされるのと父親が自分に向き合うようになるのとを天秤にかけ、デプスのこの説得を内心で歓迎していました。
中間管理職ゆえの苦悩を抱えたダルツォルネとは違い、しがらみなく私情のみでライトに噛みついたということもあり、この時点でネオンはデプスに多少心を開き始めていました。
その後、デプスは本文と同様の流れで旅団の念を封印し、警告を伝えます。旅団も掟遵守派とデプス接触派で分裂し、結果として全員が散り散りになります。
7人の顔が割れているということもあり、デプス接触派の中で交渉役に動くのはシャルナーク・マチ・ボノレノフに絞られました。
念を封じられた状態でマフィアに追われ、団員の負うリスクが大きく高まっているということで、やはりマチが独断専行してしまい、デプスの"
9月2日、クロロは少しでも旅団を動きやすくするためにと、(イルミは殺害されているので)ゼノとシルバに十老頭や陰獣の始末を依頼。デプスは原作外かつ水面下であるその動きに気付くことができず、暗殺は成ってしまいます。
旅団を追うと死ぬこと、襲撃はデプスが防ぐことから、本文におけるマフィア(中でも競売客や十老頭)への占いは、"深追いしてはいけない"という警告に変化しました。
ただ、イルミがいないため十老頭は操られておらず、(マフィアの)下から連絡がつかないことから、程なくして全滅が露見。それを知ったデプスは、既に"
死体の処分に悩んだ後、マフィアで用心棒をしていたというガイのことを思い出し、知恵を借りようと連絡。
ガイがヨークシンにいると知ったデプスは引き取りを提案しますが、ガイは当初これを拒否。"あくまでも、死体を見つけて持ち帰っただけにする"ということで決着し、ミトラ組、ひいてはガイの手柄ということになりました。
ついでに、マフィアの間で"謎の凄腕ヒットマン"の噂が流れ始め、その発見に賞金がかけられることとなります。
原作とは異なり、デプスがいる限り旅団が占う機会は絶対にありませんが、もしあったならば、別の結果が出ていました。
旅団事件収束後、大きな被害を出してしまったということで、原作通り競売はネットオークションになり、その知らせを受けてノストラード
9月2日夜から9月4日早朝にかけてネオンの屋敷へ移動、そこで護衛団は一旦解散、デプスはダルツォルネに辞職を伝えて去ります。
そして、デプスを監視するよう指示を受けていたダルツォルネが、デプスがいなくなったことをライトに報告。デプスの目がないと知るや、ライトはネオンに新たな顧客への占いを命じます。デプスとの約束は、最初からこうして反故にするつもりでした。
しかし、デプスも"
デプスは"
ライトの占いが"嘘をついてはいけない"というものになったのは、この一連の出来事によるものでした。
ライトがこれまでずっと嘘つきで、それがデプスの説得でようやく変わり、信じられるようになったのかと思いきや、結局は変わらなかったこと。されども肉親が失われたのには変わりないこと。立て続けにネオンはショックを受け、呆然とします。
心配したデプスが話しかけるも反応がなく、そこでデプスもネオンに何が起きたのかを察しました。
デプスは、この結果の責任を取るため、つまりネオンの心身を守るために、"
2.アンケート結果が"愛している"の場合
本文世界線の占いを受けて、ライトはネオンとの対話から逃げ続けていたのですが、やはりデプスというイレギュラーがそれを許しませんでした。"ネオンを自分の娘として愛しているか"というシンプルで綻びのない問いを突きつけられ、ライトは選択を余儀なくされます。
その際にライトが心中で掴んだのは、ネオンを道具としてコントロールしていることへの自信でした。ネオンの占いが自分を殺すことはないはずだと、これほど手をかけているのだから嘘ではないはずだと思いながら、"愛している"と答えました。
すると、破壊音とともに電話が切れ、カラオケボックスのデプスとネオンは顔を見合わせます。何度かかけ直しますが、繋がりません。
何かあったかもということでホテルに戻り、ダルツォルネを起こして事情を(虚実交えて)伝えると、ダルツォルネは本拠地の組員に連絡を取ります。
しばらく後に来た返答は、"ライトは転落死した"というもの。
詳しく聞くと、ライトは、自宅たる屋敷の階段の下で、首の骨を折って死んでいました。足を滑らせたとは考えにくい状況であり、他殺の可能性があるものの、周辺には誰もいないということでした。
そこからは本文とほぼ同じ展開になります。ネオンは全てを悟り、そして出奔を決意します。
以上、ヨークシン編裏話でした。