帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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4.雑に這う男!

『皆様、大変お待たせいたしました。目的地に到着です』

 

 翌朝8時。定刻通りの到着を伝える船内アナウンスが、各所で休息を取っていたハンターたちの目を覚まさせた。同様に眠っていたデプスは、昨晩"マジになんなって"とキルアに肩を叩かれたことを思い出し、安堵のため息をついた。

 

 切り株のような山を土台に、そこからさらに天へと真っ直ぐ伸びる、柱のような塔。飛行船が向かい、そして受験生が降り立ったのは、その塔の頂上だった。

 

「ここは、トリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。」

 

 直径100メートル近い円形で、穴1つなく全く平ら。石造りの塔の殺風景な頂上で、試験へ意識を切り替えた数十名の受験生を前に物怖じせず、ビーンが説明を始めた。

 

「さて、試験内容ですが、試験官の伝言です。"生きて、下まで降りてくること。制限時間は72時間"」

 

 受験生側から質問が出る様子もなく、ビーンはひとり飛行船へ戻り、空へ飛び立った。十分な高度を取ってから、飛行船のスピーカーでもって開始の号令が下される。

 

『それではスタート!! 頑張って下さいね』

 

 真っ平ら故に簡単に見渡せ、しかしただ見ただけでは注目すべき物が見つからないことから、受験生たちの初動は緩やかだった。

 多くは"トリックタワー"という名称から、まずは頂上を脱する何らかのトリックを解かねばならないと考え、考え込んだり、伏せて足下を調べたり、とりあえず歩き回ったりしていた。

 

「側面は窓ひとつないただの壁か」

「ここから降りるのは自殺行為だな」

 

 頂上より外側はどうかと調べに来ていた3人組、アモリ3兄弟がそう結論づける後ろから、陸上アスリートのような軽装の男がすり抜ける。

 

「普通の人間ならな」

 

 男は頂上の端に手を着いて下半身を外へ放り出し、ただの壁、と言われた塔の壁面を、大型昆虫めいて一歩一歩手足を動かして降り始めた。

 クリア条件に補足事項はなかった。つまり、生きて下まで降りられるのであれば、どのような方法を取ってもよいということ。

 

「このくらいのとっかかりがあれば、一流のロッククライマーなら難なくクリア出来るぜ」

 

 高さ1キロメートル超。男は、飛行船内から見た塔の全貌と頂上の広さから計算して知っていた。その上でこの方法を取るだけのことはあり、焦らず冷静に降りていく。

 1手1手最大効率で進め、1分足らずで20メートル近くを降りていく。ともすれば、72時間もの持ち時間のうち、たったの1時間でクリアとなるペースであった。

 

「すげ~~」

「もうあんなに降りてる」

 

 アモリ3兄弟から少し離れたところで、ゴンとキルアも、男が降りていくのを見ていた。ゴンが、ふと視線を真下から正面へ上げる。

 

「あ……」

「ん?」

 

 

……

 

 

「ふふん、どうやら三次試験の合格第一号はオレ様のようだな」

 

 命綱はなく、落ちれば即死の高度にあるその男は、じわと汗ばんでいるものの、未だ手つき足つきは確かで、心も平静だった。

 

「ゲッ、ゲッ」

 

 その耳に、何者かの羽音と鳴き声が聞こえるまでは。

 

「? ……!!」

 

 嘴のない、赤子と老人の間の子のような歪んだ人面の怪鳥が4羽。一流アスリートに相応しい体格の男の二、三回り大きいそれらが、上下の顎にずらりと並んだ針のような牙を見せて笑う。

 振り向いてしまった男は、目と口をカッと開いた。

 

「うわあぁああぁ!!!!」

 

 しかし、絶叫しつつも塔の壁面にぴったり取り付いたままでいられる、真に一流のロッククライマーであることが明暗を分けた。

 頭上……塔の上から落ちてきたデプスが、勢いのままに怪鳥の一つを踏みつけ、曲げた脚を伸ばして真下へ押し飛ばす。

 

「グゲェッ!」

 

 怪鳥の背骨がメキリと折れ、羽ばたきもせずに落ちていった。

 

「!?」

「落ちないで落ち着いてくださいね」

 

 押した反動でデプスが跳躍し、その先にはもう一羽の怪鳥。それも続けてデプスに足蹴にされ、1羽目の後を追った。

 

「ギャアッ! ギャアッ!」

 

 狩る者から狩られる者に回ったと悟るや、残りの2羽が逃げ出した。2度目の跳躍は塔壁面へと向かい、衝突までのコンマ数秒、デプスの脳内でダイヤルがカチカチと回る。

 

("PRoXY(メモリアルメドレーズ)"――"伸縮自在の愛(バンジーガム)"! at(アット)手足!)

 

 粘着・接着性のあるオーラで包んだ両手両足でもって、見た目上男と似たように、塔に()()付いた。

 叫んだ後に口が半開きになったままの男のほぼ真横、互いに手の届かない程度の距離から、デプスが話しかける。

 

「無料サービスはここまでっすけど、どーします?」

 

 男はやはり身じろぎせず、口を閉じ目を伏せ、数秒考え、ふう、と一息ついた。

 

「……戻ってリタイアしよう」

「ありゃ」

 

 男がデプスの顔を見返す。男の表情、壁面を降りる時に浮かべていた不敵な笑顔から、険しさが抜けていた。

 

「礼を言う。一度死んで頭が冷えた。借りを返せなくてすまんな」

「いえいえ、お構いなくっす。じゃ、戻りも気をつけて~」

 

 梯子でもかけられているかのように登って引き返していくデプスを見送り、男は繰り返し自省する。

 

(驕るようでは中級者止まり……忘れてたぜ)

 

 デプスを追うのではなく、あくまでも自分のペースで、男も塔を登り始めた。

 

 

……

 

 

 塔の頂上には、外壁を降りる男を見ている受験生が数人いた。その内の1人、ゴンが、頂上に手をかけ昇りきったデプスに駆け寄る。

 

「ねえ、今のどうやったの!?」

「うおっとと、落ちる落ちる」

 

 自分より小さいゴンに向かって、わざとらしく上半身をそらし、よろめくジェスチャーを取るデプス。

 

「どうって、何がっすか?」

「戻ってくる時、何もない所にくっついてたでしょ?」

「へっ? 無理っすよねそんなの?」

「えっ?」

 

 目を見合わせたまま固まる2人。

 

「ゴンの気のせいだろ? 素手じゃタネも仕掛けもなさそーだし」

 

 ゴンの後に続くようにして、まずキルアが。それから、感心した様子の金髪の少年・クラピカと、額の汗をワイシャツの袖で拭うスポーツ刈りの青年・レオリオが、揃ってデプスの前に出た。

 

「試験中でありながら他の受験生の危機を見過ごさない姿勢、見事と言わせてもらおう、デプス。私はクラピカ、ゴンとは試験中に知り合った仲間だ」

「オレはレオリオ、以下同文だ。二次試験の後半はいたる所に糸があったけど、あんな下の鳥公の上なんてよー狙うわ」

「お褒めいただき光栄っす、デプス=ハーゲンっす」

(気のせいだったかなぁ?)

 

 デプスは2人に気安い笑顔を向け、ペコペコとごく浅いお辞儀をした。その脇で、ゴンはひとり、顎に手を添え片眉を上げていた。

 

「なんにせよ、外壁を伝うのは無理ってこったな。人によっちゃ1度2度は迎撃できるんだろうが、この高さじゃ百遍以上襲われるぜ」

「きっとどこかに、下に通じる扉があるはずだ。それを探すしかない。キミも協力して貰えるだろうか?」

「いっすよー、一緒に頑張りましょう。じゃ、あっち行ってみるっす」

 

 あっさりと承諾して、デプスはその場から離れていった。その背中を見送り、その道に覚えのあるレオリオが交渉のあっけなさに首をひねる。

 

「ノータイムかよ。一本杉のことを知ってるって話だったが、ホントに信用していいのかね」

「彼自身が新人という話だ。少なくとも新人潰しの嘘つき(トンパ)とは事情が異なる。何より、我々を利用するために他の受験生を助けるというのはリスク・リターンの帳尻が合わない」

「……ま、そうだな」

 

 義と誇りを動機にハンターを目指すクラピカ、一般市民のための医者という夢を持つレオリオ。いずれも、ここまで勝ち残ったこと、そしてロッククライマーの男の一件から、デプスにも一目置いていた。

 

「よっしゃ、そんじゃオレたちも……って、ゴンとキルアは?」

「もう行ったぞ」

 

 ホレ、あっち。とクラピカが指差す方を見ると、駆け出したゴンとキルアが、レオリオの視界の中で豆粒のようになっていた。

 肩を落とすレオリオを見て、クラピカが頬を掻く。

 

「またこの展開かよ……」

(ザバン行きバスの件、まだ気にしていたのか……)




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