帰宅のために暗黒大陸を目指す雑な矛盾   作:これからはずっと一緒だよ

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5.雑に多数決

 20分と少しが経ち、ゴンとキルアが5つの隠し扉を見つけ、クラピカ・レオリオ・デプスが呼び集められた。

 

「こことここ、あとこっちにも3つ」

 

 床面は正方形や長方形の石を敷き詰めてできており、そのうち、特定の寸法の長方形のものが回転式の隠し扉になっていた。幅は50センチメートルほどで、1度に1人しか通るのがやっと。ゴンたちは他の扉が使われるのを目撃したが、その扉はもうロックされていた。

 

「つまり、扉は1人に1つずつ。みんなバラバラの道を行かなきゃいけないってこと」

「確かに……」

 

 ゴンの説明をキルアが総括し、レオリオが隠し扉の大きさを確かめて頷く。

 

「ゴンとオレはこの中の1つをそれぞれ選ぶことに決めた」

「罠にかかっても恨みっこなし。3人はどうする?」

 

 

……

 

 

「短い別れだったな」

「全く」

 

 結局、5つの扉は1つの部屋に通じていた。降り立ってすぐ目が合ったクラピカとレオリオは肩透かしの展開に呆れ、ゴンとキルアは苦笑いした。

 

「"多数決の道"」

「ん?」

 

 デプスが、視線の先、20型ほどのモニタに表示された文章を読み上げる。レオリオを筆頭に、4人もつられてそちらを観る。

 

「"君達5人は、ここからゴールまでの道のりを、多数決で乗り越えなければならない"」

 

 モニタの手前には円柱の台座があり、台座の上には腕時計様のカウントダウンタイマーが置かれていた。残りの71時間と少しが1秒刻みで減少していた。

 誰からともなく、そのタイマーを左手首に装着していった。つけ心地を確かめながら、レオリオがタイマーの表面を撫でる。

 

「残り時間の表示と、○と×のボタンか。多数決ってのはこれでやるのか?」

『その通り』

「!!」

 

 モニタとは別の壁面上部、備え付けのスピーカーから、男の声が流れ出した。

 

『このタワーには幾通りものルートが用意されており、それぞれクリア条件が異なるのだ。そこは多数決の道、たったひとりのわがままは決して通らない! 互いの協力が絶対必要条件となる難コースである。それでは諸君の健闘を祈る!』

 

 放送が終わると同時、スピーカーとは別に、ゴゴゴ……と、石の擦れる音がした。外壁や天井同様に石造りの壁の一部が上へとスライドして、扉が現れる。

 

「準備ができるまで進めない仕組みというわけか」

「! ドアの上、あれって」

 

 ゴン含む全員の視線が向いた、ドア上部。"このドアを ○→開ける ×→開けない"と書かれた装置が取り付けられていて、2つの小さなモニタには"○"と"×"がそれぞれ表示されていた。

 

「もうここから多数決か。こんなもん答えは決まってんのにな」

 

 レオリオが率先してボタンを押し、他の4人も続く。扉は電子音を鳴らして開き始め、小モニタの表示は"○5"と"×0"となっていた。

 扉の奥には正面へ続く通路があったが、突き当たりの壁に同様の装置があり、道は二手に分かれていた。

 

「って、おいおい」

 

 装置の前まで進むと、左右の道は鉄格子で閉ざされていた。5人は次の設問を確認する。"どっちに行く? ○→右 ×→左"。

 すると、デプスが真っ先に口を開く。

 

(みぎ)っすね」

「え、これ言っていいの? じゃオレも(みぎ)

「なに!? 普通こういう時は左だろ?」

 

 だったらとキルアが意思表明に乗ると、レオリオが異を唱えた。

 

「迷路解く時は右手法派なんで」

「"普通こういう時は左"って思いがちらしいから(みぎ)

「レオリオやキルアの言う通り、行動学においても無意識に左を選択するケースが多いとされているらしい。よって私も(みぎ)に投票し、過半数となるな」

「クラピカもかよ! ゴンは?」

×(ひだり)を押すつもりだったけど……3人決まったら(みぎ)でいいんじゃない?」

「そうだけどよぉ……くっそ、デプスもこっち側のタイプだと思ってたのに」

(え、オレも?)

 

 5人が(みぎ)のボタンを押し、右側の鉄格子が開く。軽く落胆こそしているものの、かといって苛立ったりする様子のないレオリオ。その顔色をちらと見て、デプスは内心ホッとした。

 

「しかし、5人という人数設定は幸運だったな。我々ならまさか決裂して立ち往生ということもあるまい」

「デプスがいなきゃ4人で、最初の扉を開けるのに5人目を待つ必要もあったしな。逆に運が悪かったら時間切れまであの部屋ってこともあったんじゃねーの?」

「ある意味罠だなそりゃ。……む!!」

 

 先頭に立っていたレオリオが、切り立った足場に出て、その奥の空間を睨む。

 下の見えない吹き抜けの空間の中心に、リングのような石の足場があり、その奥には手前と同じようにせり出した足場と、さらに奥へ進む通路があった。

 その通路には、ローブを纏い手錠で腕を固定された5人が立っていた。

 

 ローブの人物の一人が、通路天井の監視カメラに向かって何事か言うと、その手錠が外れ、ローブを脱ぎ去る。

 

 無地の囚人服を纏った、スキンヘッドに古傷の目立つ強面の男だった。男――ベンドットは、レオリオたちの方を向いて叫ぶ。

 

「我々は、審査委員会に雇われた"試練官"である!!」

 

 見え目相応に低めの、しかし威勢も通りも良い声が、真っ直ぐレオリオたちに届いた。

 5人のチーム同士で1対1の勝負を5回行い、3勝以上することがクリア条件。勝負の内容はその都度試練官が設定する。そう説明し、ベンドットは最後に付け加えて言う。

 

「それではこの勝負を受けるか否か!! 採決されよ!! 受けるなら○、受けぬなら×を押されよ!!」

「ホンットいちいちボタン押させるやっちゃな、どうせ合格するためにはこの勝負受けなきゃならねーんだろうがよ」

 

 これでいいんだろこれで、とレオリオが、そして他の4人も、○のボタンを押す。リングに設置された大型テレビサイズのモニタに、"○5 ×0"と表示された。

 先頭のレオリオがベンドットへと手のひらを向け、声を張る。

 

「そら、満場一致だぜ!」

「よかろう」

 

 決定を受け、ベンドットが頷いた。

 

「こちらの一番手はオレだ!! さぁ、そちらも選ばれよ!!」

 

 名乗りを上げたベンドットを前に、レオリオは4人の方を向いて両手を小さく広げる。

 

「どうする? あのガタイに傷跡。いかにも歴戦の猛者ですって感じだぜ」

「"戦い方が自由"とは言うが、要するに自分の土俵での戦いを強いてくるのだろう。奴の場合は恐らく肉弾戦なのだとは思うが……自信のある者は?」

「行っていいなら行くよ。後がどーなるかわかんないけど」

 

 頭の後ろで腕を組み、キルアが迷わず言い切ると、レオリオはぎょっとした。

 

「んなっ……正気か? 足下見てみろ、ただリングから押し出されただけでも死んじまうぞ」

「あ、レオリオとクラピカは知らないんだっけ」

 

 キルアが名門暗殺一家"ゾルディック"の血筋で、既に充分に技能を修めているということをゴンが共有すると、2人のこめかみに冷や汗が伝う。

 

「……味方でよかったとつくづく思うぜ」

 

 クラピカは、無言の内で同意していた。

 

「このままだとオレが行くけど、デプスもそれでいいよな?」

「そっすね、ご厚意に甘えさせていただいて、ここは様子見っす」

「オッケー」

 

 意見が纏まったのを試験官側が察知してか、通路側の足場から細い橋がせり出し、中央のリングへと繋がる。暗闇の底から響く風音もどこ吹くものと、キルアは気楽そうに歩いてリングへ着いた。

 

 キルアと男が相対する。

 

「勝負の方法を決めようか。オレは――デスマッチを提案する!!」

 

 その宣言に、デプスとキルアを除く3人が目を見開いた。

 

「一方が負けを認めるか、または死ぬかするまで、戦う!!」

 

 男の試すような視線に、キルアは挑発的な笑みで応える。

 

「いいけど、生死判定はどうすんの? 狸寝入りで時間稼ぎとかされたくないんだけど」

「道理だな。では、モニタリングしている試験官に判定を頼もう。構わんな?」

『いいよ』

 

 各通路やリング外の壁面に取り付けられたスピーカーから、試験官・リッポーが承諾を伝えた。

 

「先に伝えておこう。その歳にして、その強い心、見事!」

 

 男が半歩下がり、構えを取る。対するキルアは、自然体のまま男を見ていた。

 

「それでは――勝負!!」

 

 男が駆け、キルアに中段のフックを仕掛ける。体格差から、拳の軌跡の先はキルアのこめかみ。直撃すれば骨を砕き、即死の可能性も大きいであろう一撃。

 それをキルアは片手で掴み、ひねり上げる。

 

「う――お!?」

 

 浮き上がった男を石の床面に落とし、掴んだ手とは逆の手刀を首元に突き入れ、すんでのところで静止する。

 手刀が見えず、止まるかどうかもわからなかった男は、全身から汗を噴き出させていた。

 

「雑念ありすぎ。まだやる?」

 

 変わらず余裕の表情を浮かべるキルアの爪が、男の首の皮をわずかに裂き、つ、と血を流させていた。

 

「……まいった。オレの負けだ」

 

 強者に出会えた喜びか、強がりか、男はニッと笑って敗北を宣言した。

 

「立てる? オッサン」

「ああ、平気だ」

 

 キルアが退くと、男はすっくと立ち上がった。恐れる様子は、既になかった。

 

「聞かせて欲しい。どこでそれほどの戦闘術を?」

(ウチ)

「……なるほどな。お前と戦えてよかった」

 

 男は満足げに試練官側の廊下へ戻り、未だ姿を見せないローブの人物に罵声を浴びせられたが、笑みを崩さぬままローブと手錠を身に着けた。

 

 同じく、受験生側通路に戻ったキルアを、レオリオが手を上げて迎えた。

 

「ゴンが言うから本当だろーとは思ってたが、いざ見せつけられると脚がすくんだぜ」

「オレの勝ち星をムダにすんなよ、レオリオ」

 

 キルアが軽口を叩きながらハイタッチし、廊下の地べたに座り込む。同じくハイタッチしようとしたデプスは出遅れ、所在なさげに手を下げた。

 

「収穫も大きいが、これは想像していた以上に強力なカードを切ってしまったということでもある。残り4人に更に強力な相手が控えていないことを祈るばかりだな」

「でも、あと2勝だけすればいいんでしょ? なんとかなるよ」

 

 談笑しつつも、クラピカが通路の向かいで行われている話から聞きつけた情報――試練官が超長期刑囚であり、足止め時間に応じた減刑を報酬にここにいること――をゴンたちに共有する。

 

「これが"多数決の道"であることを合わせて考えても、やはり我々の意見の対立や議論の紛糾で時間を浪費することが狙いのひとつとなっているだろう。今問題となるのは、やつらの素性の方だろうが」

 

 その向かいで、受験生とは対照的に面白くなさそうにしていた試練官たちの一人が、また監視カメラに向かって拘束解除を願い出て、その姿を顕にした。

 中肉で背はやや低め、片目が前髪で隠れた、たれ目の若い男だった。

 

「さて、次だな。今度は肉体派じゃなさそーだけど」

「オレが行くよ!」

 

 観察するキルアのこぼした言葉に、ゴンが手を挙げて答えた。ついさっき、相手が超長期刑囚の集まりであるという話をしていただけに、デプス以外の3人はきょとんとした。

 本当に大丈夫かと問われて、悪そうな人じゃないから、と言うゴンに呆れながらも、キルアたちは合意してゴンを送り出す。

 

 

……

 

 

 二人目の男――爆弾魔のセドカンとゴンの勝負は、互いが持ったロウソクの火、そのどちらが先に消えるかだった。

 セドカンはゴンに差し出すロウソクを油の染みた消耗の速いロウソクにすり替えていたが、ゴンは火の勢いの強さを逆手に取った。自分のロウソクを地面に置いて、セドカンまで一気に接近。ロウソクの火を直接吹き消して勝利したのだった。

 

 

……

 

 

(あれ? こんなに漫画まんまのとこを見るのって初めての気がするような)

 

 デプスはひとり、首を傾げていた。その原因が自身の勝手な行動にあることには気付かなかった。

 代わりに、ゴンの機転と健闘を称える他の面々をぼーっと見ているうち、あることに気がついてハッとする。

 

「って、もう2勝? じゃあ次行かせてもらうっすよ」

「なんだよ、急にやる気だな」

「このままストレート勝ちしたら出番なくなっちゃうじゃないすか。ここらでいっちょ役に立つところを見せて、みんなの好感度を稼ぐっすよ」

「お前それオレらの前で言ったら意味ねーだろーが」

 

 へへへ、とレオリオとキルアに向かって笑うデプス。よいしょ、と大盾を背負い直し、自主的に通路の方へと進み出る。

 

(あれ、これだと誰が出てくるんだっけ? 軍人マンと爆弾魔以外からだから……マジタニはなくて、二択?)

 

 奥からは、手錠だけを外したローブの人物が進み出た。デプスは片手をひらひらと振り、ゴンたちに向けるのと変わらない気安い笑顔を浮かべ、軽く挨拶をする。

 

「こんにちはー、デプス=ハーゲンっす。よろしくお願いしまーす」

「ご丁寧にどうも。あたしの提案は"賭け"よ」

 

 静かな女の声で返答があった。

 

(詐欺師かなんかだっけ? いや詐欺はマジタニ? じゃあ単にギャンブラーだっけ?)

 

 残り3名のうち女性が1人であることは覚えていたため、デプスはそれが誰なのか、大雑把に判別がついた。ふーん、と両手の人差し指をワイパーのように振る。

 

「ギャンブルっすか。追い詰められる側が提案することとは思えないっすね」

「言うじゃない」

 

 ローブの女はくすくすと笑い、それからルールを説明した。

 受験生側の持つ"トリックタワー"攻略残り時間のうち50時間をチップとし、10時間単位で賭ける。賭けの内容は交互に出題する。チップが0になった時、勝敗とは別に敗者はチップ分のペナルティを受ける。

 

「以上! わからないところはあるかしら? ボウヤ」

 

 んー、と唸りながら、デプスは頬を掻く。

 

「体調が悪くなって賭けを続けられなくなった時はどーするんすか?」

「あら、もしかして暴力を振るうつもり? その場合は失格負けよ」

「いやぁ、そーじゃなくて……例えば、貧血で倒れるとか、賭けの内容のせいでこのリングから落っこちるとか」

「へえ、抜け目ないわね……」

 

 ローブの奥で、女はすっと目を細めた。受験生側通路でも、クラピカが感心の息を漏らしていた。

 

「いいわ。純粋な体調不良であれば、賭けを続けられなくなった方の準備不足として失格。賭けの内容が原因で事故が起きた場合は、その賭けの出題者の責任として失格。これでどう?」

「いーっすよ、それで」

「よろしい」

 

 合意が取れたタイミングで、リングに備え付けられた電光掲示板に2つの50が表示された。

 

「じゃ、最初はあたしの出題ね」

 

 顔には出さないものの、デプスは、この世界で堂々と舞台に立つという未知の展開に心を踊らせていた。うずうずして、右足で地面を何度も軽く叩いた。

 

「あたしの刑期が150年より長いか短いかを当ててもらいましょうか。補足しておくと、あたしたちの刑期は全員100年以上、長い人は500年を超えてるわ」

 

 女はデプスの反応を窺ったが、デプスは首を左右に揺らしているだけで、何かを考えている素振りはなかった。

 

(……図太いわね。さっきの追求からして、バカじゃないと思うんだけど)

「さあ、何時間賭ける?」

「150年より短い方に10時間」

 

 デプスは即答した。

 

(150超えてるやつなんていたっけ……500以上とかウソっぽくない?)

「本当にいいのね?」

「いっすよ」

 

 電光掲示板の表示が動き、受験生側が60、試練官側が40となった。女は、ふうとため息をついた。

 

「今の、当てずっぽうかしら?」

「いやー、運が良かったっすね」

 

 デプスが頭の後ろで手を組み、わざとらしく笑う。

 

「ふーん」

(やっぱり、油断ならない相手。切り替えて行かないと、火傷するわね)

「じゃあ、次はボウヤの番よ。賭けの内容を決めてちょうだい」

「そっすね――」




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