底辺キング   作:シェーク両面粒高

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第29話 似た者同士?

 学園の外は完全に日が落ちてしまい、昼ならさんさんと太陽の光が降り注いでいる窓からの景色は今真っ暗になっていた。

 夜の食堂はトレーナーや学園の職員、そしてウマ娘が点在するようにいて、昼の賑わいと比べるととても静かなものだった。

 

 そこの1つの丸テーブルにて、私とカレンモエは向かい合って座り食事をとっていた。

 

「「…………」」

 

 まだ食べ始めて数分しか経っていないけれど、カレンモエとの間に会話は無かった。その中で今の状況について改めて考えてみた。

 実はカレンモエと2人だけで食事をとるのは初めてのことだった。ちなみに言うなら学園の食堂で夕食をとるのも私にとっては初めてだった。普段の夕食は寮の食堂を使っているからだ。

 ちらっと、視線だけ動かしてカレンモエの姿を見やった。彼女は小さい口を動かして、伏し目がちに食事をとっていた。

 

「……ねえ、キング」

「な、なんでしょう?」

 

 見ていたことを気づかれたのだろうか、カレンモエが私に話しかけてきた。別に悪いことをしているわけではないのだけれど、なぜか後ろめたさを感じていた。

 カレンモエは食事に目を落としたまま言葉を続けた。

 

「キングって、自分のお母さんと仲は良い?」

「! ……それは」

 

 突然振られた母親に関しての話題。それに驚くとともに、カレンモエがなぜこんなことを訊いてきたのかと疑問が沸き上がった。

 

「…………」

 

 それにどう返すか考えるため、少しの間黙り込んだ。カレンモエは単なる会話の話題として訊いてきたのか、別の意味があるのか。あとその内容自体……自分と母の仲について考えた。

 結局、主観的な感情は言わず、客観的な視点から当たり障りなく答えることにした。

 

「母との仲は……あまり良好とは言えないと思います。母にトレセン学園への入学を反対されまして、それに反発して入学しましたから」

「……そうなの」

「はい……」

「…………」

 

 食器の音のみが2人の間を行き交っていた。

 

(え、終わり?)

 

 再び無言になったカレンモエはさっきと変わらない様子で口にものを運んでいる。と思っていたら──

 

「モエはね」

「え? あ、はい。なんでしょう?」

「ママとは仲良いと思う」

「そうなんですね」

「うん……」

「…………」

 

 再び無言の時間が訪れた。

 

(え、どういうこと?)

 

 カレンモエの発言の意味が分からず、何を言いたかったのか考えていたら──

 

「……でもね、ママと……カレンチャンと比べられるのは、ずっと嫌だったの。いや、今も嫌かな」

 

 ──おそらくそれは彼女の本音だった。

 

「それは──」

「モエ、カレンチャンにそっくりだから……キングはそういう経験、ある? お母さんと、比べられたこと」

 

 改めて思い返すまでもなかった。

 

「ええ。たくさんあります。トレセン学園に入ってからも、勧誘してくるトレーナーによく母のことを言われました」

「モエもそうだったよ。モエもたくさん言われた」

 

 よくよく考えると、キングヘイローとカレンモエとウマ娘は似たような境遇なのかもしれない。母親が元中央のウマ娘というのはそこまで珍しいものでもないけれど、GⅠを複数勝ったウマ娘の子どもなんてほとんどいないだろう。

 キングヘイローとカレンモエは年齢も違うし接点もない。でも、そんな共通点を持った2人のウマ娘が坂川というトレーナーの元で偶然にも出会ったのだ。

 

「キングは、お母さんとのことで悩んでることとか、ある?」

「……」

 

 否定できず、下を向いて食事をする手を止めた。どちらかといえば肯定を示す沈黙だった。

 

 ──あなたの言う一流のウマ娘ってなにかしら? 

 

「ある……みたいだね。もしよかったら、教えて欲しいな」

 

 その言葉を聞いて思わず顔を上げると、手を止めてこちらを見ていたカレンモエと目が合った。表情はいつもと変わらず平坦なのだが、その雰囲気も声色もどこか暖かい気がした。

 これは彼女が相談に乗ってくれている……ということなのだろうか。はっきり言って、これまでカレンモエとそんな深い関わりがあったわけではない。トレーニングは基本的に別だし、部室で会話に華が咲くってこともなかった。

 しかし、今この瞬間彼女は私に大して気を遣ってくれている。彼女が無口であることを差し引いても、彼女は私に対して興味がないんだなと、そんなことを思っていたけれど……それを改めなければならないと内心反省した。勝手な印象や先入観だけで人を判断してはならないのだ。

 

 でも今回の話は母との関係のことではない。それについて思わないこともないが、今私を悩ませているのは一流のウマ娘とはなにかということ。これは私に端を発することだ。

 これは誰にも相談できない……いや、相談するべきではなく、自分で見つけ出さないと意味がない。

 

「心配してくださってありがとうございます。でも……」

「うん」

「これは、私自身で解決しないといけないことですから」

 

 静かに決意するように、カレンモエにそう告げた。

 

「そう……分かったよ。でも、ひとつ聞いて欲しいの」

「はい……?」

「もし悩んでることが今の自分に解決できないことなら、一回考えるのをやめてみてもいいんじゃないかな」

「考えるのをやめる? ……それはどういう」

「モエも経験あるんだけど……悩みすぎたら疲れちゃうから。悩んでることって、いつか答えが出て折り合える日が来るんだって。今答えが出ないなら、その答えを探しながらって……そう考えるのはどう?」

「……答えを、探しながら……」

「うん。それは絶対にいつか見つかるから。そう考えたら、心が少し楽にならない?」

 

 答えが見つからないのなら、それを探しながら歩んでいけばいい──今、無理に悩む必要はないと、カレンモエはそう言っている。

 胸が軽くなり、憑き物が落ちたような気がした。

 

「……確かにそう考えると、少し気持ちが軽くなる気がします」

 

 本当にそう思った。カレンモエというウマ娘はこういう考え方ができるのかと感心してもいた。でも、さっきの話し方からすると、誰かから教えてもらったような言い方をしていたけれど。

 

「そう? なら良かった……悩んで焦るのはキングらしくないって、モエは思うから」

 

 そこまで言われて、今までの自分がずっと後ろ向きだったことに改めて気づかされた。

 

「確かに、私……キングヘイローらしくなかったかもしれませんね! おーっほっほっほ!」

 

 高笑いをしたあと、カレンモエの鮮やかな青い瞳をじっと見据える。

 

「ありがとうございます。考え方を変えて……前を見て、進んでいこうと思います」

「うん。皐月賞もすぐだから、頑張らないとね。モエもできることならなんでも手伝うよ」

「はい! よろしくお願いしますっ!」

 

 一流のウマ娘……今はそれが何かまだ分からないけれど、進んでいったその先に答えがあると信じよう──

 

 ◇

 

 

 

 

 スタートの特訓を始めて数日が経過していた。

 

 キングヘイローは簡易ゲートの中で構え、ペティが開閉用のレバーに手をかけている。

 

「キング、行きますよー」

「ええ、いつでもいいわよ!」

 

 ──ガシャン! 

 

「──ッ!」

 

 開いたゲートから勢いよく飛び出していくキングヘイローのフォームや足の運びを見る。

 洗練されているとは言い難いが、なんとか様にはなってきていた。極端に出遅れる頻度も低くなり、行き足もつくことが多くなった。初日に比べると大きく進歩していた。

 

「なあ、モエ」

「……?」

 

 俺はすぐ隣で一緒にキングヘイローのスタートを見ているカレンモエに声をかけた。

 

「お前、キングに一体何言ったんだ? 母親のこと、話したのか?」

「…………」

 

 キングヘイローから目を離さないままそう訊いたが、カレンモエの返答は無かった。

 100m走り終えたキングヘイローは再びゲートに向かっていた。

 

「……おい」

 

 痺れを切らしてカレンモエの方を向くと、それに気付いたのか彼女も顔を上げてこちらを向いた。

 自然と目が合ったと思ったら、彼女は人差し指を口元に立ててこう言った。

 

「ヒミツ……だよ」

「はあ?」

「女の子同士の大切な話だから、他の人には言えないよ。それに……」

「それに?」

「トレーナーさんには……いや、トレーナーさんだからこそ、絶対に言えないかな」

「なんじゃそりゃ」

 

 俺には絶対に言えない……もしかして、俺の悪口でも言って盛り上がったのだろうか。それで結束したとかそういうことだろうか。確かに上の立場にいる人間の悪口で結束するというのはよくあることだ。それがキングヘイローのガス抜きにでも繋がったのだろうか。自慢ではないが、悪口を言われる心当たりはいくらでもあった。

 てっきり母親のことでうまく話したのかと思ったのだが……

 

「まあいい。何話したか知らんが、うまくいったならいいんだ。やるじゃねえか、モエ」

 

 労いの意味をこめてカレンモエの肩にポンと手をやったあと、キングの元へと歩き出した。さっきのスタートの修正をするためだ。

 

 

「あの日トレーナーさんが言ってくれたことだもん。言えるわけ、ないよ……恥ずかしい……」

 

 

 背後でカレンモエがボソッと何か言ったようだが、聞き取れなかった。立ち止まって振り向くと彼女は俯いていて、その表情は見えなかった。

 

「ん? 何か言ったか?」

「……なんでもないよ。ひとりごと」

「は? ああ、そうか……」

 

 俺は特に気にも留めず、再び歩き出した。

 

 

 

 

 その日以降、スタート以外にもフォームの見直しや本番の展開を想定した疑似的なレースに取り組んでいると、時は瞬く間に過ぎていった──

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 週末に皐月賞を控えた4月の2週目の木曜日の午後、授業を終えた俺のチームのウマ娘3人がトレーナー室に集まっていた。

 1枚のプリントがテーブルの中央に置かれ、それを4人で囲むように立っていた。そのプリントとは──

 

「キングは6枠12番だ」

 

 ──皐月賞の枠順が載った出走表だった。今日の午後に皐月賞の枠順が発表されたのだ。

 

「どうなんですか、トレーナーさん? 6枠12番っていうのは」

 

 出走表を見てペティがそう訊いてきた。

 

「悪くねえ。最悪なのは極端な枠になることだったからな」

「ツイてますね。キング」

「おーっほっほっほ! 運というのは実力で引き寄せられるのよ!」

「なんですかそれ……」

 

 キングヘイローがお決まりの高笑いとよくわからない理論を展開していた。

 弥生賞の直後はこんな高笑いすることも少なかったのだが、モエと話してから完全に調子を戻したようであった。

 

 ペティはキングヘイローにツッコミを入れた後再びプリントに目を落とした。

 

「えーっと……セイウンスカイが2枠3番……スペシャルウィークが8枠18番大外ですか」

 

 目下、キングヘイローの有力なライバルとなる2人の枠順はペティの言った通りだった。

 

「で、トレーナー。キングに相応しい一流の作戦を教える権利をあげるわ。枠順が出たら話すと言っていたでしょう?」

「…………」

「トレーナー?」

 

 キングヘイローが言った通り、枠順発表後に皐月賞のレースプランを本人に伝える予定で、そのつもりだ。言いたくないから黙っているのではなく、頭の中でそのプランの最終確認をしているだけだった。

 

 なんせ()()()()()()()()()2()0()0()0()m()()()()なのだ。俺からしても、このプランを口にするのは勇気が要る。

 

「キング」

「ええ、言ってごらんなさい?」

「セイウンスカイだけマークするぞ。スペシャルウィークは捨てていい。無視だ」

「……ええっ!?」

 

 キングヘイローの驚いた声がトレーナー室で上がり、そして消えていった。

 

 

 ◇

 

 

「8枠18番かあ……」

 

 デスクにもたれ噛みしめるようにそう呟くのはチームシリウスのチーフトレーナー、天崎ひより。

 その目の前にいるのは不思議そうな顔をしているスペシャルウィーク。彼女にとって、天崎が悩むような姿を見せるのは珍しいものだったのだ。

 

「トレーナーさん、枠順、どうなんでしょうか?」

「大丈夫だよ。コーナーまで長いし、スぺちゃんは差しか追い込みだからあんまり関係ないかな。逆に包まれたりしないぶんラッキーかもね」

「そうなんですか!? 良かったです~」

 

 安心した様子のスペシャルウィークとは裏腹に、天崎の心は冷え切っていた。冷静に今置かれた状況を理解していたのだ。

 枠順が関係ないなんて、全くの嘘だった。

 

「これまで一生懸命頑張ってきたんだから絶対に勝てるよ、スぺちゃんなら。私は信じてる」

「トレーナーさん……! はいっ! 私、頑張ります!」

「うんうん。そうと決まればトレーニングに行くよ! シリウスのみんなもきっとコースで待ってる。皐月賞は3日後、きっちり最後の調整だよ!」

「はいっ! よろしくお願いします、トレーナーさんっ! 私、先に行きます!」

「あっ、ちょっと待って、スぺちゃん」

 

 身を翻してトレーナー室を勢いよく出ていこうとしていたスペシャルウィークを天崎は引きとめた。

 

「なんでしょうか?」

「今日のトレーニングのあと、ごはん食べに行こっか」

「え?」

「私と2人で、しかも食べ放題のお店だよ!」

「え……ええっ!?」

 

 スペシャルウィークは尻尾と耳をピーンと立てて、驚きのあまりか声のボリュームが1段階も2段階も上がっていた。

 

「ちょっとスぺちゃん! しぃー、しぃーだよ。マックイーンちゃんとかワールドちゃんがどっかで聞いてるかもしれないから!」

「ああぅ、ごめんなさい! でもトレーナーさん、大事なレースの……しかもGⅠの前にいいんでしょうか……?」

「GⅠだからこそだよ。直前ぐらい、好きなものいっぱい食べて英気を養わないと、ね?」

「英気を……はい! 分かりました!」

「じゃ、あとからスマホに連絡いれとくよ。くれぐれも他の娘たちに気づかれないように! それじゃコース行ってアップしよっか」

「はいっ、行ってきます!」

 

 スペシャルウィークはそう返事をすると駆け足で扉を出ていった。

 

「あっ、アップ終わったらジハードちゃんとの併せだからねー!」

「はーいっ!」

 

 スペシャルウィークの声が空いたままの扉から聞こえてきた。

 

 扉から廊下を見やり彼女が完全に去ったことを確認したのち、扉を閉めてデスクの椅子に戻った天崎は先程の会話について思い返した。

 英気を養うというのも真っ赤な嘘だったことを。

 

 1人になり静かなトレーナー室にて、天崎は口を開く。

 

「ここが緩めどきだね。皐月のあとに緩めるのはダービーに間に合うか微妙だったからちょうど良かった。スぺちゃんの目標はあくまでダービーだもん。それが彼女のモチベーション。ダービーに勝てないと、自信を無くして使()()()()()()可能性もあるからね。枠順良ければ皐月も狙ってよかったけど……」

 

 まるで誰かに言い聞かせるように喋りながら、出走表に再び目をやった。

 

「セイウンスカイが2枠3番だもんね。スぺちゃんなら勝てなくもないけど、ちょっと厳しいな……レース終わったらURAに意見書でも出そうかな」

 

 

 ◇

 

 

「2枠3番、スペシャルウィークの8枠18番と合わせると最高の枠順だな」

「そんなプレッシャーかけないでくださいよ~。そんな言い方だと、まるでセイちゃんが──」

「勝てるぞ。セイウンスカイ」

 

 コースに座り込んでアップをしているセイウンスカイに向かって、そう言い切ったのは横水幸緒だった。

 

「ずいぶんはっきり言いますね」

「今年の皐月のバ場と枠順、お前のウマ娘としての能力、そして相手関係から考えたら自明のことだ。何も驚くべきことではない」

「トレーナーさんは私を買い被りすぎですって~。100%勝ちレースだった弥生賞を落としたのはどこの誰でしたっけ?」

 

 セイウンスカイの言葉は自嘲めいているようだったが、その声の調子は明るかった。

 であるならば、その後に続く横水がどんなことを話すのか分かっているのだ。

 

「確かにウマ娘としての純粋な性能(スペック)だけならお前はスペシャルウィークに劣るだろう。実際、弥生賞の中山2000mでは敗北を喫した。だがそれをひっくり返すのがレースセンスや戦略……そして今年の皐月賞の中山2000m、つまり──」

「──()()()()()()()、ですね?」

 

 セイウンスカイが言葉を継いでそう言うと、横水は口角をわずかに上げ、目を閉じて満足そうに軽く頷いた。それを見たセイウンスカイもしてやったりと言いたげに笑みを浮かべていた。

 

「ほら、さっさとアップを終えろ。じきにブラックホークもロードワークから戻ってくる……本番まで徹底的に詰めるぞ」

「了解で~す☆ さあー、セイちゃんも頑張っちゃおうかな。よっと」

 

 丁度アップを切り上げ立ち上がったセイウンスカイは「そういえば」と前置きして横水にあることを尋ねた。

 

「トレーナーさん、キングはどうですか?」

 

 それを聞いた横水の纏う雰囲気が瞬時に鋭いものに変わる。普段から鋭利な刃物のような態度の彼女だが、それがいつにも増して鋭くなっていた。

 

「……気にする必要はない。あの不安定な走りとレースセンスのなさ、それが1ヶ月で改善できるとは到底思えないからな」

「そうですか? でも、持ってるものは最上級じゃないですか。それこそスぺちゃんみたいに。これまで皐月賞の話は腐るほどしてきましたけど、キングの話はほとんど無かったですよね。私が気づいてないとでも思いました?」

「何が言いたい? 言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

 半ば問い詰めるような横水の様子なんて歯牙にもかけないセイウンスカイは頭の後ろに両手を組んでニヤッと笑っていた。

 

「トレーナーさんが有力候補のキングをあえて避ける理由を考えたんですよ。もしかして、キングのトレーナー……坂川って人が理由だったりします?」

「坂川? はっ、あんな最低のトレーナーのウマ娘なんて気にする方が──」

「最低、ね。トレーナーさんがそこまで言うなんて、それが答えを物語っていると思いません? 私情ですよねそれ。やっぱりあの人が関係してみてたみたいですね」

 

 そうセイウンスカイに切り返された横水は言葉を詰まらせた。

 

「ねえ、トレーナーさん。坂川って人となにかあったんですか? 同期ってことぐらいは知ってますし、この人の経歴気になるところがあるんですよね。アルファーグのサブトレとしてキタサンブラックの記事に度々出てきたのに、セントライト記念を最後に一切記事に登場しなくなってるんですよ。しかもその年にアルファーグのサブトレを辞めて独立。いったいこの期間に何が──」

「お前の仕事はトレーナーの過去を漁ることか? 結構なことだな。明日にでも退学してゴシップ雑誌の記者になったらどうだ?」

 

 話題を強制的に打ち切った横水はコース外からこちらに近づいてくる1人のウマ娘に目をやった。

 

「ブラックホークが戻ってきたぞ。さっさとトレーニングに移れ。これ以上私の言うことを聞けないようなら──」

 

 このセリフが出るということは相当に横水が怒っていることをセイウンスカイは知っていた。なので、ここで引くことにした。

 

「──契約を解除するんでしょ? それは勘弁してほしいなあ。ごめんなさい。余計なこと言い過ぎました」

「お前は皐月賞のことだけ考えておけばいい。さあ、ブラックホークを逃げウマ娘に見立てて、番手のシミュレーションの最終確認だ」

「コウエイテンカイチちゃんが逃げるって会見で言い切ってましたもんねえ。じゃあ、行きますか~」

 

 

 ◇

 

 

 三陣三様の枠順発表日を経て、舞台はGⅠ皐月賞へ──

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