想像を絶する強さでビックリしちゃいました……
追“憶”ではなく追“想”です。
あるウマ娘の過去編となります。
『俺は俺の意思で、禁止薬物だと知っていて、お前を騙して、ドーピングさせた』
──うそ、ですよね……そんなこと、トレーナーさんは……
『そんな理由でレースを選んでGⅠを勝てるなら、誰がこんなに苦労するか。約束なんて、くだらない』
──トレーナーさんはそんなこと言いません……何かの間違いで…………
──だって、トレーナーさんはあたしのことを、きっと大切に──
『俺はお前のことを大切になんて思ってなかったんだよ。だからお前をぶって、ドーピングさせたんだ』
◇
「っ──!」
掛け布団を跳ねのけて勢いよく体を起こした。
「──っ、はあっ、はあっ……ゆめ……?」
視覚に入ってくるのは暗い自室。うっすらと見える室内の掛け時計は真夜中を示していた。
聴覚に入ってくるのは向かいのベッドでは寝息を立てている同室の娘の安らかな寝息と、自らの浅く速い息遣い。
びっしょりと汗をかいてしまっているようで、寝間着に纏わりつく感触が酷く気持ち悪い。
「……また、だ……」
少し前の……あの日のことを夢見たのはこれで何度目になるだろう。こうやって坂川のことを頻回に夢に見るからか、あの日の光景がまだ色濃く脳裏に残っている。
その光景を頭の片隅に追いやり、同室の娘を起こさないように静かに体の汗だけタオルで拭って再びベッドへ入った。目をぎゅっと瞑って眠ろうと努めた。
「…………」
周りの人からは、坂川のことなんて忘れろと言われた。
社会にはああいう悪い人間がいるのだと。あんな人間がトレーナーになって運が悪かったのだと。
結局、寝入ったのは空が白んできた頃だった。
◇
午後のトレーニング、寝不足を感じさせないよういつも以上に気合を入れて臨んだ。
「清島先生! 今日もトレーニングよろしくお願いします!」
「おう。菊花賞まであと1週間と少し……時間はねえが、調整しながらもみっちりやっていくぞ」
「はいっ!」
クラシック最後の一冠、菊花賞まで10日を切っていた。天皇賞秋には向かわず、あたしは菊花賞を選んだ。
そしてトレーニングが始まった。
メニュー自体は坂川の元でやっていたものと大きくは違わなかった。回数や距離などが少し違っているぐらいで、違和感なくスムーズにこなせることができた。
「はあああああっ!」
清島の目の前で課された終い重視のダッシュをこなした。最後の一本を終え、指導を受けるためにあたしは早足で彼の元へ戻ってきた。
「清島先生! あたしの走り……フォームとか、どうでしたか!? 直すとこがあれば──」
「無い」
「──え」
「
「そうですか……」
「ああ」
──今日も
清島の元でトレーニングするようになったものの、彼に指導を仰いでもこんな感じで修正点はないと言うのだ。
……おそらくだけど、あんなことがあったあたしに気を遣っているのかもしれないと思った。あと、菊花賞の本番が近いからあえて直さずにいるとか。でも、万全を期したいあたしとしては、どんどん指導して欲しかった。
それに彼は超一流のトレーナーだ。彼の目から見て未熟なあたしに直すところがないと言う方がおかしい。
「清島先生、遠慮せずおっしゃってください! あたし、絶対に菊花賞までには直して──」
「……キタサン、もう一度言うぞ。
「…………」
言葉に詰まる。
彼の言ったことをその意味の通りに受け取っていいのかな。
「次行くぞ。併せだ」
「っ、はい!」
考える間もなく、次のメニューへ移っていった。
アルファーグの先輩ウマ娘との併走トレーニングだった。内側を走るあたしに対して、その先輩ウマ娘が外からプレッシャーをかけてきたり、後ろから煽ってきたり、前で加減速をしたりしてくるので、その対応が求められた。
似たようなトレーニングは何度もしたことがあった。ペース、フォーム、リズムを崩さないようにし、尚且つ掛からないように走った。
指定された距離を走り終え、先輩ウマ娘と一緒に清島の元へ帰っていく途中だった。
「いやー参った。キタちゃんやっぱ凄いね!」
「そうですか! ありがとうございます!」
「私はキタちゃんと併せすんの初めてだけど、話に聞いてた通りだったよ」
「話ですか?」
「うん。全く走りを崩さなくなったって」
彼女の口からは同じアルファーグで彼女の親友と呼べるウマ娘の名前が出てきた。そのウマ娘とは坂川の元で何度も併せのトレーニングをしたことがあった。
「あいつがさ、『キタちゃんに意地悪しても全然動じなくなったんだもん! つまんなーい』ってぷりぷりしてたの。最初は『キタちゃんペース乱したり掛かったりしてて楽しかったーぐへへ』とか言ってたのに。あ、性格悪すぎだろって一発頭はたいてやったから!」
「は、はあ」
「うんうん。キタちゃんも成長してるんだねえ……というか、いつの間にそんなキレる脚使えるようになったの? 最後の末脚ビックリしたよっ!」
「あ、いやあ……ありがとうございますっ!」
「じゃ、この後も頑張ってねー!」
彼女はそう言ってアルファーグの別のサブトレの元へ行った。
あたしも清島の元へ戻った。
「おう、お疲れ。良かったぞキタサン。ほらタオル」
清島からタオルを投げ渡された。
「ありがとうございます。それで清島先生、今の走り……」
「今のも直すところは無い。お前は完璧にこなしていた」
「な、なら良かったです! ありがとうございますっ」
ここまで良いように言われると腑に落ちなくなる。でも、先輩ウマ娘もそう言っていたことから裏付けもあると言えばある。
それに、これまでにやったトレーニングは坂川の元で──
「……っ!」
ふいに坂川の顔が頭に浮かびそうになったので、頭を左右に振って思考を振り払った。
……清島の言葉を信用するなら、下手に疑う必要はないと思った。
「キタサン、休憩終わったら次行くぞ」
「はいっ。お願いしますっ!」
そうしてトレーニングは続いていった。
結局、特に修正点らしい修正を求められることもなく、今日のトレーニングは幕を下ろした。
──トレーニングを終え、トレーナー室へ戻ってきた清島はポツリとこぼした。……ここにはいない彼に向けての言葉だった。
「……バカ野郎が……良い仕事しすぎなんだよ。俺がやれることなんて、調整だけじゃねえか……」
確かに彼女は天皇賞秋用の調整を受けてきていた。菊花賞を勝てるかどうかは分からない。
だが、良い勝負はできると、リーディングトレーナーとしての第六感がそう告げていた。
おそらく彼女は枯れてはいない。むしろ──
「お前が種を蒔いて、肥料をやって、芽を出させて、蕾を膨らませたんだ。あとは花を咲かせるだけ……俺に任せとけ、坂川」
──開花の時はすぐそこまで迫っていた。
◇
菊花賞を数日後に控えていた。
調整重視の軽めのトレーニングをこなしたあたしは、清島の指示によって運動器専門の研究施設へ行って検査を受けることになった。なにも故障や不調があるわけではなく、本番前の最終的な確認のためだった。
似たような施設には坂川にも何回か連れていかれたことがあった。今日行く施設は清島の管轄のウマ娘がよく利用しているところらしい。
改装したのか真新しい施設に入り、受付に予約を入れていたことを告げるとすぐに中へ通されて、様々な検査が始まった。概ね、坂川に連れていかれた施設で受けた検査と同じようなものだった。
「……ふう、これであとは結果を受け取って話を聞くだけだったよね」
検査を一通り終え、診察室のような場所でドクターが来るのを待っていた。結果を受け取るのと、その分析について聞くためだ。清島の話によると、変人だが信頼できる人物だと言っていたが──
「お待たせー」
「はいっ! キタサンブラックです! よろしくお願いします!」
姿を現したのは30代ぐらいの人間の女性だった。長い髪の毛をシュシュで纏めて肩から前に垂らしていた。全体的に気怠そうな印象を受けた。
「よろしくねー。えっと……あー、あなた清島さんとこの娘だったの。なになに……菊花賞出走予定なの?」
「はいっ!」
「元気ねえ……それじゃ、検査の結果だけど──」
検査結果が表示されていると思われるタブレットを眺めていた。
──その目が一気に輝きを増したのを見た。
「──素晴らしい! あなた、本当にいい身体してるわ!」
「へ……? あ、ありがとうございます……」
いきなりテンションが上がった彼女に辟易してしまった。
「故障なし、もちろん疑われるところもない。健康そのもの! でも! でも! そんなことよりあなたの筋肉が素晴らしすぎるわ!」
「ありがとうございます! 故障がないなら良かったです! ……へ?」
取り合えず故障がないと聞いて一安心した。これで菊花賞に全力で臨める。
でも、筋肉が素晴らしいってどういうことだろう?
「あの、筋肉が素晴らしいって言うのは……?」
「ふふっ。聞きたいわよね。いいわ、あなたの筋肉がどれだけ素晴らしいか説明してあげようじゃない!」
テンションが上がり続ける彼女を見ていると、清島が変人だと言った意味が分かるような気がした。
「まず筋肉の質! 筋肉がしなやかで柔軟性に富んでいるのに、筋力そのものがものすごく強いの! しなやかさと筋力をこれだけ高いレベルで両立できている筋肉なんて、いくらトレセンのウマ娘と言えど滅多にお目にかかれないわ! あなたの身体が元々持っているポテンシャルが良いのはもちろんだけど、トレーニングそのもので付く筋肉とウェイトで付く筋肉のバランスを緻密に考えてストレッチングもしっかりしないと、こんな筋肉にはならないの! それに遅筋と速筋のバランスも素晴らしい……まさに理想的な筋肉だわ!」
彼女が行っていることを全て理解できたとは思わないが、とりあえずあたしの筋肉は良いということだけは分かった。
……彼女の話はそれで終わらなかった。
「そしてその筋肉の付き方! 下肢の筋も躯幹の筋も、上肢の筋でさえも、全く左右差が見られない! 両側に均等な筋肉を……と、口で言うのは簡単だけど、実際にそうするのは至難の業よ! 弱い方を鍛えればいいとかそんな単純な話じゃないからね! 普段のトレーニングやウェイトの方法一つにも細心の注意を払わないとこうはならないし、なにより左右差があるかどうかを常にモニタリングして評価してないと不可能だわ! あなたのこの筋肉なら、右回り左回りどっちもしっかりと対応できるでしょう! それから──」
その後も話は続いていった。内容も段々難しくなっていって、あたしには理解できないことばかりだった。でも、褒めてくれているのだけは分かった。
「──ざっとこんなところかしらね! ふうっ。ふふっ、あなたの身体を診てたらねえ……」
「? どうかされましたか?」
彼女は意味ありげな視線を私に送ってきたかと思うと、その口を開いた。
「あなた、トレーナーに大切に思われてるんだなあ、って感じちゃうわ」
「──っ!?」
その言葉を聞いてすぐにあたしの頭に蘇ったのは──
『俺はお前のことを──』
──違う! あの人は……
でも、この身体をつくってくれたのは──
──違う!
あたしの心のせめぎ合いなんて微塵も気づいてない彼女が話を続けた。
「ねえねえ。あなたのトレーニング担当してるトレーナーって誰? ちょっとその人に話聞いてみたいわ」
「……清島チーフです」
「それは嘘よ。確かにあの人も身体作りは上手いわ。でも、あの人のウマ娘何人も見てきたけど、これだけ左右差失くして完璧に作り上げてる娘みたことないもの。あ、筋力トレーニングをしてくれるトレーナーが別に……いや、でもこれ実際のトレーニングも考慮に入れないと成り立たないしねえ」
「…………」
あたしは口を噤んで下を向いた。
「……なに? もしかして、そのトレーナーとケンカしてるとか?」
「っ!? なんで……」
実際にはケンカなんて軽いものではないけど、坂川と違えたことを突いてきた彼女には驚いた。
「いや適当。それかそのトレーナーと私を話させたくないかのどっちかなって思っただけよ」
「……」
どうやら墓穴を掘ったらしい。
「なーに? ケンカしてるの?」
「はい……」
「結構深刻みたいねえ。そんなこっぴどいケンカだったの? ……そのトレーナーって、男?」
小さく頷いて肯定した。
「ふーん。ねえ、なにか悩んでることあったら、おば……お姉さんに話してみなさい! ほら、私こう見えても──」
そう言って彼女は指輪がはめられている左手の薬指を掲げて見せた。
「──ね? だから、男のことだって少しは分かるわよ」
「…………」
相談しようか逡巡した末、できるだけ内容はぼかして話すことに決めた。
トレーニングに復帰してから、ずっと心が
「あの……」
「うん?」
「さっき、大切に思われてるっておっしゃいましたけど……あたし、その人にお前なんて大切じゃないって言われて」
「は? なにそのクソ男。最低な男ね。さっさとここに連れてきなさい。ヤキ入れてやるわ!」
「ええ!? いや、そんな……」
いきなり暴走しそうな彼女を宥めた。……あたしが相談してるんだよね?
「まあ、あなたの様子を見るに何かあったんでしょう。それで彼に大切じゃないと言われたと」
「はい……」
「……あなたの身体を診てね、大切に思われてるって感じたのは本当よ。そして、それは間違ってないって私は確信できる」
「……え?」
「さっき説明したけど、これだけ完璧な身体作るなら、時々思い出したように身体作りするだけじゃ100%できないわ。これはね、
「……」
「それだけじゃダメ。筋肉や身体作りの専門的な知識は必要だし、的確なストレッチングだって必要。何より、あなたの筋力のウィークポイントや、どこに筋肉が付きやすくて、逆にどこに付きにくいかとか特徴を全て頭に入れてあるのが大前提よ。清島さんもそれは分かってるでしょうけど、他のウマ娘も担当しながらあなたみたいな身体を作るのは清島さんでも無理ね。知識よりも何よりも、全ての時間をあなたに割くぐらいじゃないと、この身体は作れない」
分からない。彼女の言っていることが分からない。
言ってる意味じゃなくて、彼女の言いたいことが分からない。
「あなたのトレーナーはね、四六時中あなたのことを考えてるわ。で、絶対大切に思われてる。身体を診てると『大切だぞ~』ってその男の声が聞こえてくるもの。うえ、キモ」
笑わせようとしたのかコミカルに彼女はそう言ったが、私は笑えなかった。
だって、何もかもよく分からなかったから。
彼女の言ったことと、坂川があたしにしたことが矛盾しているから。
「……分からないんです。そう言ってくれますが、あの人はあたしに……」
「はあ。事情は分かんないけど、面倒臭そうな男ねえ。…………もしかして、その男と
彼女は小指を立てて見せた。
あたしは勢いよく首を横に振った。
「ふうん、そう。……あのね、キタサンブラックさん。男ってのはね──」
彼女はあたしの目を覗き込むようにして口を開いた。
「──みんなバカなんだから! それをね、分かっておきなさい」
「ば、ばか……」
「そうよ。バカよ」
「はあ……」
「ま、これ以上は事情を知らない私が言っても仕方ないわね。……じゃあね、キタサンブラックさん。今日は帰りなさい。またいつか会いましょう」
「え、はい。ありがとうございましたっ!」
彼女はそう言うとすぐに席を立って診察室の奥へと消えていった。
あたしも診察室を出て、施設をあとにした。
◇
10月25日、京都レース場で行われた菊花賞に出走した。
あたしは中団から内を突いて勝利した。夢にまで見たGⅠ制覇だった。
「皆さん、応援ありがとうございます!!!!! ありがとうございます!!!!!」
花吹雪が舞う中、あたしはウイニングランを行いながら大歓声を送ってくれる観客に向かって手を振りながらお礼を言った。
(これだ……! あたしが欲しかったのは、この景色なんだ!!!)
ずっと夢に見ていた景色が目の前にあった。
みんなに笑顔と元気を与えることができていると、あたしは主役になれたんだと、心の底から実感できた。
そしてウイニングライブを待たず、感情が抑えられなかったあたしは表彰式でのインタビューにて1曲歌わせてもらった。心を込めて歌った。観客も手拍子してくれて、その場がすごく盛り上がったのを感じた。
地下バ道ではドゥラメンテとリアルスティールが待ち構えており、2人に祝福してもらった。出走できなかったドゥラメンテと2着に負かしたリアルスティール……2人とも悔しくないはずがないのに。それでもこうやって祝ってもらえて嬉しかったし、そんなことができる2人はすごいと思った。
そしてこの先もまた戦おうと約束を交わした。お互い次は勝つと。みんなでトゥインクルシリーズを盛り上げていこうと。
そしてGⅠ勝利でのウイニングライブをこなした。センターに立って歌うのは本当に気持ちが良かったし、観客の盛り上がりも最高だった。今日のこの日のために頑張ってきたんだって、そう思えた。
「皆さん!! 今日はありがとうございました!!! また次もこうやって皆さんの前で歌って、元気や笑顔をプレゼントするためにがんばります!!! また、応援よろしくお願いしますっ!!!!!」
ライブを終えて観客に向かってそう言うと、更なる歓声がライブ会場を包んだ。あちこちでサイリウムが揺れていて、本当に綺麗だった。
あたしも呼びかけられる声の方を向いたりして、笑顔で手を振った。
(ああ……幸せだなあ……!)
喜んでくれてる親や弟子たち、サトノダイヤモンド含めた知り合いのウマ娘たち、そして暖かい観客たちがいて、良いライバルたちに恵まれて、これ以上ないほどの幸福感に満たされていた。
────瞬間、見ている光景に違和感を感じた。
「──え」
何が起こったのか分からなかった。いや、厳密に言えば何も起こってはいない。
ただ、恐ろしく気持ちの悪さを感じた。
(なにこれ……)
目の前の光景に強烈な違和感を感じる。
なにかが足りないような……そう、例えるなら、
(……どういうこと、なんだろう……)
その違和感はステージを降りたあとも
理由は全く分からなかった。
◇
それから2か月後の有馬記念。
いい走りは出来たがゴールドアクターの3着に終わった。でも、初めてのシニア級との戦いでここまでやれることが分かり、確かな手応えを感じ、自信にもつながった。
3着なので今度はセンターではなかったけど、しっかりとライブをこなした。あたしの名前を呼んでくれる観客もいて、すごく嬉しかった。
……ただ、菊花賞のライブの時に感じた違和感は残り続けていた。
有馬記念の次の日、あたしは清島に呼ばれてトレーナー室までやって来ていた。
「失礼します! 清島先生、なにか御用でしょうか?」
「おう、キタサン。今年はご苦労だったな。GⅠの菊花賞含む重賞3勝に最後は有馬記念3着。成績は申し分ない。よく頑張った!」
「ありがとうございます! それも、清島先生のおかげですっ!」
「……ああ」
労いの言葉をかけられた。そのために呼ばれたのかな?
昨日のうちに反省会は済ましていたので、呼ばれた理由には見当がついていなかった。
「キタサン」
「はい?」
「……今日呼び出したのは、
そう言って清島がテーブルに何か置いた。それは大きめの紙袋だった。中に何か入っているようだ。
「本当はトゥインクルシリーズを終えるときに渡そうかと思ったんだが、GⅠも勝ったしキリがいいと思ってな」
「プレゼントですか? ありがとうござ──」
「違う。中身は自分で確認してくれ。それで、お前が判断してくれ」
「……どういうことですか? って、どこ行かれるんですか?」
清島は私の問いに応えず、その足で扉の方へ向かっていった。
「中に入ってるモン……必要なかったら、そのままテーブルの上に置いといてくれ。明日にでも全部処分する。もし……いや、それはお前に任せる。お前が見るべきものだと思う。とにかく、
「えっ!? 先生、待っ──」
呼び止める間もなく清島はトレーナー室を出ていった。
残されたのはあたしと正体不明の紙袋のみ。
「一体、なんだろう……?」
早速その紙袋に手を伸ばし中身を確認した。
どこかで見たことのあるものだった。
「……? これは──」
その中には十数冊のノートが入っていた。
次回より夏合宿へと戻ります。