底辺キング   作:シェーク両面粒高

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当作品はイクイノックス号(父キタサンブラック母父キングヘイロー)を全力で応援しています(10話ぶり5回目)

大外からごぼう抜きとか強スギィ!


第54話 新顔

 年が明けた2月1週目の日曜日の東京レース場。

 今まさに東京新聞杯(GⅢ)のゲートが開こうとしていた。6枠11番にキングヘイローの姿があった。

 

『これも収まります…………スタートしました! ほぼ揃いました。内から2番人気ケイワンバイキングが出てまいります。キングヘイローも先行してまいりました!』

 

 シニア級を対象とした府中でのマイル重賞、東京新聞杯。キングヘイローは1番人気でレースを迎えていた。

 メイクデビュー以来となる1600mのレースとなった彼女はスタートを難なく決めた。勢いに任せれば先頭に立って逃げれそうなぐらいの勢いではあったが、主張してくるウマ娘3人を先に行かして2番手集団の外側でレースを進め始めた。

 位置取りとしては問題ない。

 

 先頭の3人から3バ身ほど離された2番手集団で向こう正面から第3コーナーへ入っていった。

 

『欅を越えて800mの標識を通過しました。先頭から3バ身ほど開いてマウンテンストーン、その外にキングヘイローが追走しています。現在4番手の外!』

 

 先頭集団は第4コーナーを回って残り600mのハロン棒を通過して直線に入っていった。

 その後ろで、キングヘイローはじわじわと差を詰めながらコーナーを回り直線を向く。

 

 ……手ごたえは良い。これなら──

 

『直線に向いてさあ先頭はケイワンバイキング体半分のリード! マイネルマックスが2番手で400mを通過! そしてその外をついてはキングヘイローが上がってきたっ!』

 

 先頭の3人の外に持ち出したキングヘイローはあっという間に2番手のウマ娘までを交わした。他のウマ娘とは手ごたえが違っていた。

 

 残り200mを過ぎ、抜け出た先頭のケイワンバイキングを狙って更にキングヘイローは加速し続ける。

 

『ケイワンバイキング2バ身ほどのリード! しかし外からキングヘイロー並んできたっ!』

 

 キングヘイローは並んだその勢いのまま抜き去っていった。完全に先頭に抜け出た彼女は1バ身、2バ身と差を広げていく。

 その光景を見て俺の周りにいる俺のチームの連中も色めき立ち、彼女たちの応援する声も一層大きくなっていた。

 

『キングヘイロー2バ身のリード! 後ろからシンボリフェザー、ロードアックスも差を詰めてくるが──』

 

 ゴール前、後方で接戦となる2、3着争いを尻目にキングヘイローは3バ身とその差を広げてゴールラインを駆け抜けていった。

 

『キングヘイローが1着でゴールインッ!!! 2番手はケイワンバイキング残したかっ!?』

 

 GⅠほどではないにしても、背後のスタンドの観客からは歓声が上がって彼女の勝利を称えていた。もちろん、俺のチームの4()()()()()()たちも。

 俺は小さく拳を握っていた。

 

『キングヘイローです! 久々の勝利となります! 一昨年の東京スポーツ杯ジュニアステークス以来、またこの東京で重賞を勝ちましたっ!』

 

 一方、キングヘイローは派手にガッツポーズをするわけでもなく、負けた時と同じように淡々とした様子でウィナーズサークルへ向かっていた。

 

 

 ◇

 

 

 ウイナーズサークルから戻ってきたキングヘイローと合流した俺は、設置されたインタビュースペースのバックパネルの前で記者たちを相手にしていた。勝利者インタビューというやつだ。

 某テレビ局の男性アナウンサーのインタビューはレースの振り返りから始まり、今はテンプレ的な勝利の感触について触れていた。

 

「キングヘイローさん。改めてにはなりますが、1年と3ヶ月ぶりの勝利となりました。今のお気持ちはいかがですか?」

「嬉しいです」

 

 あくまで淡々とキングヘイローは答えていた。

 

「前走の有馬記念から距離短縮となるマイル戦となりました。その意図は?」

「トレーナーとも相談して、今の私に合うレース選択をしました」

 

 アナウンサーはマイクを俺に向けた。

 

「坂川トレーナー、キングヘイローさんと相談されて東京新聞杯を選ばれたようですが、どのような思惑があったのでしょうか?」

 

 色々分析してこのレースを選んではいたのだが、馬鹿正直に答えるには時間もないし必要もない。当たり障りなく答えることにした。

 

「菊花賞、有馬記念と長い距離で負けが続いていましたから。彼女が言ったように、一度マイルを試してみるのも良いと思い出走を決めました。無事結果が出たのでほっとしています」

「このあとの出走予定など聞かせていただけますか?」

「まだ何も決まってはいませんが、3月か4月のレースに出る予定です」

「3月か4月……GⅠとなると、大阪杯でしょうか?」

「かもしれませんね」

「マイルとなると5月にヴィクトリアマイル、6月に安田記念がありますが」

「選択肢のひとつですね」

「なるほど…………以上、勝利者インタビューでした。キングヘイローさん、坂川トレーナー、ありがとうございました」

 

 

 2人で軽く頭を下げてからその場から離れ、控え室へ向かった。

 その道中の廊下でキングヘイローが口を開いた。

 

「……大阪杯に行くの?」

「今のところ行く予定はねえな。前に話して決めただろ。あくまで上半期の大目標は安田記念だ」

 

 公の場ではああ言ったものの、大阪杯は今のところ出走予定には入っていなかった。

 

「だから次走もマイル前後……3月のマイラーズカップか中日新聞杯、中山記念あたりだな。お前がどうしても大阪杯に出たいって言うなら話は別だが」

「…………」

「なんだよ」

「……はあ。大阪杯に行くかもってさっき言ったから少し驚いただけよ。隠すことなんてないじゃない。はっきりと安田記念が目標だって言えば良かったでしょう? 一流らしく、堂々としていればいいのよ」

「俺たちに得があるならそうするが、言ったところで得なんてねえしな。お前が言いたかったら別に言っていいぞ」

「なら次走の後に宣言するわ」

 

 そう言った彼女に対し、さっきから気になっていることを尋ねた。

 

「勝ったにしては落ち着いてるな。どうかしたのか?」

 

 彼女はレース後からあまりにも淡々としていて不気味なぐらい静かだったのだ。メイクデビューから始まり東スポ杯の時も、当時の彼女はしっかりと喜んでいた。

 

「何もないわよ。久々に勝ったんだもの……しかも重賞。嬉しいわ。ただ──」

 

 キングヘイローは俺から目線を外して前方を見据えてその続きを口にした。

 

「我慢できるなら、負かした相手の前で喜ぶのは…………って、思うようになっただけよ」

 

 これまでの経験で、彼女の考え方が変わってきたのかもしれない。

 

 

 

 なんてことを話しているうちにキングヘイローの控室にたどり着いた。中からはウチのウマ娘たちの話し声が聞こえていた。

 キングヘイローが扉を開けて中に入ると4人のウマ娘の姿があった。

 

「キングお疲れ様です! 先行して上がり最速タイ。ラップ的にも優秀です。文句なしの勝利でしたね。おめでとございます!」

「……おめでとう」

「ありがとう。ペティさん、モエさん」

 

 真っ先に声を掛けてきたのは見慣れた2人。

 

「キング! あなたほんとうに凄いわっ! 圧倒的だったじゃない!」

「ありがとう。ダイアナさん」

 

 キングヘイローに駆け寄って抱きついたのは新顔のウマ娘の1人だ。

 キングヘイローがダイアナと呼んだウマ娘……去年の11月に俺のチームに入ってきた、今現在クラシック級のウマ娘ダイアナヘイローだ。サイドと前髪をふんわりと流してセットしたショートボブの黒鹿毛で、黒地に黄色のラインが一本入ったメンコを左耳にだけ着けているウマ娘だ。

 彼女がウチのチームに入ってきた経緯だが……端的に言うとキングヘイローに運命的な何かを感じたかららしい。

 

「……」

「キングどうしたの? キングって勝った後はクールに決めるタイプなのかしら?」

「…………ふふっ──」

 

 キングヘイローは小さく笑ったかと思うと、堰を切ったようにいつもの高笑い声が上がった。

 

「おーっほっほっほ! ダイアナさん、キングの完璧な走りをその眼に焼き付けたかしら!?」

「へっ? ええ、もちろんよ! 素晴らしい走り、一流の走りだったわ!」

「ええ、ええ! そうでしょう! ダイアナさん、あなたにはキングと一緒に笑う権利をあげるわ! 行くわよっ」

 

「「おーっほっほっほ!」」

 

 2人しての高笑いが控室に響いた。

 

 あれだけ頑張っていたのにクラシック級は悔しい敗北の連続だったから彼女も喜びもひとしおだろう。

 勝って喜びを爆発させているキングヘイロー見ているとこっちも嬉しくなる。

 

 そして俺は残るもう一人の新顔に視線を移した。キングヘイローに声を掛けるタイミングを見計らっているのか、遠目からその様子を見ているようだった。

 俺は()()()()()()()()()彼女に話しかけた。と言うのも、彼女にはこの2日間で課した課題があったので、その進捗を尋ねるためだった。

 

「スズカ、どうだ。課題の方はうまくできそうか?」

「トレーナーさん……はい。メモは取ったんですけれど……」

 

 自信無さげに返事をしたのはサイレンススズカその人だった。去年の宝塚記念を勝ってGⅠウマ娘になり、毎日王冠でアルファーグのエルコンドルパサーとグラスワンダーを退け、そしてあの天皇賞秋で────

 

 彼女は車椅子から俺を不安そうに見上げた。

 

「ですけど、何だ?」

「いえ、ちゃんとできるか不安で……」

「最初からなんて誰もできねえよ。つーかできるならこんなことやる意味ねえからな。できないからやるんだ。お前なりの考えや言葉でいいから。期限は設けねえが、来週も同じことやってもらうぞ」

「は、はい……頑張ります……!」

「12Rももうすぐ始まるから、時間を見てスタンドに行くか」

 

 俺がサイレンススズカに課している課題とは、土日の中央のレースを全て見た上で勝ちウマ娘の短評を書くというものだ。

 彼女は逃げで中央を席巻したウマ娘だが、話を聞いているとシリウスに移籍してからは走りたいように、思うままに走れと言われていたようで、作戦を立てたりやレースの分析はあまりしていなかったようだ。シリウスの前のチームではそのことを意識して色々勉強していたらしいが、移籍後に覚醒したことを考えると天崎の判断は正しかったのだろう。

 ……しかし、俺としては前のチームのトレーナーの気持ちの方が理解できる。おそらく、俺がサイレンススズカを最初に担当しても()()するだろう。

 

 サイレンススズカはチームシリウスの……天崎の所にいたウマ娘だ。彼女について俺と天崎の間に一悶着あった末にウチのチームに移籍することになったのだ。何があったかはまた後の機会に語るとしよう。

 

 思うところがある俺は、復帰に向けてのトレーニングに加え、このように座学的なこともサイレンススズカに叩き込んでいた。

 

「キングさん、おめでとうございます」

「ありがとうございますスズカさん!」

 

 高笑いが終わってダイアナヘイローから解放されたキングヘイローにサイレンススズカは話しかけていた。

 取りあえずは皆仲良くしているようで一安心した。

 

「俺は出るわ。キングはウイニングライブの準備忘れずにな。スズカは12R始まるまでにはスタンドに来いよ」

 

 俺はそう言い残してきゃっきゃと騒ぐ控え室をあとにした。

 

 

 

 

 センターで踊るキングヘイローは本当に嬉しそうで、輝いて見えた。

 

 

 

 

 シニア級2年のカレンモエとサイレンススズカ、シニア級1年のキングヘイロー、クラシック級のダイアナヘイロー、スタッフ研修課程のペティ。以上の5人がウチのチームのウマ娘だ。

 年末までに5人揃ったことから、去年に引き続き振り分けされたウマ娘がいない状態で俺は今年を迎えた。……振り分けられたウマ娘がいないというのも、何か不思議な感じがした。

 

 去年11月に初めての重賞京阪杯に挑戦し惜しくも2着に敗れ、次走は3月のオーシャンステークスに出走予定のカレンモエ。

 天皇賞秋で左脚を骨折し、紆余曲折ありウチのチームに移籍してきたサイレンススズカ。

 マイル路線を選び東京新聞杯を快勝し、上半期のマイル王決定戦GⅠ安田記念に照準を定めたキングヘイロー。

 1月のメイクデビューで勝利、エルフィンステークスで2着に敗れるが、3月のフィリーズレビューにて桜花賞優先出走権を狙うダイアナヘイロー。

 

 

 

 今年もまた新たな1年がスタートしていた。

 

 




ダイアナヘイローについては第37話で少しだけ描写してます
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