これはある母娘の通話記録の一部である。
「ママ……言ってた通りで…………」
『うん。トレーナーさんからママに連絡来たら、誤魔化しと……ううん、先手打っておくね』
「……分かった。ありがとう」
『頑張ってねモエちゃん! 写真、もらえたらママにも見せてねっ』
◇
カレンモエがシニア級1年の12月。つまりカレンチャンを交えた三者面談から約3ヶ月後のある日。
当時の俺はサイレンススズカ移籍のカギとなる発表会の準備に勤しんでいた。今しがた本日のトレーニングのデータ整理が終わったので、論文作成に取り掛かろうとしていた。
「じゃあ先に失礼しますねー。学期末のレポート仕上げないと……」
「キング、このあと課題見てもらえない? 数学で分からないところがあって」
「いいわよ」
「ほんとう!? なら着替えたらキングの部屋にお邪魔するわ!」
ペティ、ダイアナヘイロー、キングヘイローがトレーナー室を後にした。
扉が閉まり3人の足音が遠ざかるトレーナー室に残ったのは俺とカレンモエ。なんてことはない、このトレーナー室のいつもの光景だった。
「悪いが今日もメシに行くのは無しだ。少し忙しくてな」
「……サイレンススズカのやつ?」
「そうだ。発表まで時間がねえんだ。今年いっぱいメシ食いに行くのは無理だろうな」
カレンモエにはサイレンススズカとのことを話してある。サイレンススズカ移籍のためには年末の発表会が重要だと伝えてあった。もちろんと言ったらいいのか、天崎の中身について話してはいない。
「……そう」
ぽつりとカレンモエがそうこぼした後のトレーナー室には俺がキーボードを叩く音のみ。
「ねえ、トレーナーさん」
「なんだー?」
目の前の画面や手元にある資料へと集中していた意識が彼女によって刹那だけ引き戻された。
「ママがまたトレーナーさんと話したいんだって」
「……ああ…………は?」
それを聞いて完全に意識が彼女の方へ向かった。今何を考えて文章を打ち込んでいたか忘れてしまうほどには、その言葉の威力は大きかった。
「また面談したいってことか?」
「うん。トレーナーさんと“お話”したいことがあるって、ママが」
「……なんで面談をしたいか、理由は聞いてるか?」
カレンチャンより白い芦毛が左右に揺れた。
「でも、“お話”は来月……1月に絶対にするって」
「…………お話、ねえ…………」
前回の面談は9月、つまり3ヶ月前だ。こんな短期間のスパンで面談を行うなんて、未勝利戦を巡る話でもない限り普通はない。
この前の面談だって一応は円満に終わったからこそ、カレンチャンの面談要請の理由が分からなかった。
まさか、この前の京阪杯でカレンモエは2着だったから、やはり現役続行に反対とかいう話だろうか。どちらにせよ、差し迫った話だろう──
「……来月?」
──そこで、唐突に違和感を感じた。
「来月なのか? カレンチャンが言ってるのは」
「うん。来月の──」
カレンモエの口から具体的な日にちが出てきた。
「……んん?」
差し迫った話なら、今すぐにでも俺に予定を空けさせてその“お話”をするのではないか。
なぜ来月まで待つ必要があるのか。
……いや、カレンチャンはカレンチャンで多忙の身なのかもしれない。SNSやメディアの仕事などで時間が取れず、来月のその日時だけ都合が良いとか、そういうことだろうか。
時間が取れないなら、一度メール等でカレンチャンに話を訊いてみようかと思ったところで、タイミングが良いと言うべきか、PCの画面上にメール受信とのポップアップが表示された。メールの差出人はなんとそのカレンチャンだった。
「ちょうどお前の母ちゃんからメール来た」
クリックしてメールを開く。
内容は今カレンモエが言ったこととほぼ同じだった。“お話”したいことがあるから1月某日に予定を空けてくれと。面談の内容は秘密だと。
文面から察するに重い話とは思えない。軽くお喋りでもしましょうって調子なのだが、相手はあのカレンチャンだ。心の奥底では何を考えているか分からない。
……結局、考えても仕方ないとの結論に至った。
今はサイレンススズカの件で俺の方が差し迫っている。発表会が終わるまではそっちに注力すべきだろう。
「分かった。その日は予定開けとく」
「! ……うん」
カレンチャンに承知した旨を返信して、この話題は終わった。
俺は再び論文作成に取り掛かった。
──カレンモエの尻尾がくるんと楽しげに振られたことに、モニターへと視線を移した坂川は気が付いていなかった。
◇
坂川のトレーナー室を出て寮へ向かっていた3人はちょうどエントランスにある掲示板の前を通りがかった。掲示板には学園の教師からの呼び出しや、行事のお知らせなど様々なビラやポスターが貼られていた。
「へえ~こんなのあったのね。素敵じゃない」
ダイアナヘイローがA3サイズぐらいの一枚のポスターに興味を示して足を止めた。キングヘイローとペティも立ち止まり、ダイアナヘイローが指さすポスターを覗き込んだ。
「どうしたの? ……“ブライダルモデル募集”……?」
キングヘイローが口にした通り、ポスターには“ブライダルモデル募集”とポスターに目立つ書体で描かれていた。
「あれとは違うんですか? なんでしたっけ……あ、ビューティードリームカップでした。ウエディングドレスっぽい勝負服のやつ」
「それとは違うみたいだけれど……えっと……」
キングヘイローはポスターに書かれている詳細に目を通した。
その内容はと言うと、ブライダル業界の企業で構成される協会とトレセン学園がコラボして、広告に使用するウマ娘のモデルを現役の学園生から募集するというものだった。
来月……つまり1月に学園の空き部屋を借りて、応募してくれたウマ娘にウエディングドレスを着せて写真撮影を行い、その中から一枚ないし一人を選ぶらしい。選ばれた写真はブライダル業界のサイトに載せられたりフライヤーなどにも使用されるとのことだ。
応募要項がポスター下部に書かれていた。真っ先に目を引いたのは太字で書かれている応募期限だった。
「……あ、応募の期限過ぎてるわね」
一週間ほど前に応募期限を迎えているようだった。まだ残っているということは、事務が剥がすのを忘れていたのだろう。
「そうなの? キングにウエディングドレス着て欲しかったのに。残念ね」
「私!?」
「もちろん。まだ応募できるなら私がキングの名前で応募してあげてたわ!」
呼び出し欄に自分らの名前がないことを確認した3人は、そんな他愛もない会話をしながら掲示板から離れていった。
──3人は応募要項のある記述を見逃していた。
その記述とは、“新郎役とのポージングや構図で撮影を行います。新郎役については男性モデルをこちらが用意しますが、応募していただく方がお連れされる男性でも構いません。なお、新郎役の方は顔を除く身体の一部分の出演となります”といったものだった。
◇
「ママは来ないよ」
「……は?」
1月某日の午後。カレンチャンとの面談がこの後控えているのだが、トレーナー室に入ってきたカレンモエに開口一番そう言われた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ううん。……ママがお話したいっていうの、嘘なの」
「…………嘘だと?」
話が全く飲み込めない。何がどうなっているのか見当もつかない俺に、カレンモエはスマホの画面を見せてきた。
「……これ見て。ママからのメッセージ」
カレンモエはスマホの画面に映っている動画を再生し始めた。おそらくLANEに送られてきたビデオメッセージなのだろう。
再生が始まった画面にはカレンチャンが映っており、愛くるしいほどの笑顔でこちらに向かって手を振っていた。
『トレーナーさん見てますか~? ……実はお話したいっていうのは嘘です。ごめんなさい』
笑顔は一転、神妙な顔になったカレンチャンは頭を深く下げた。
顔を上げたカレンチャンは何か訴えかけるような目でこちらを見ていた。
『今日はトレーナーさんの予定を空けてもらうために、私が嘘をつきました。改めてごめんなさい。私が考えついたことですから、モエちゃんを怒らないでくださいね』
スマホ越しにカレンモエへ目をやると、彼女はバツが悪そうに視線をそらした。
『でも、にぶ〜いフリしてるトレーナーさんもちょっとは悪いんじゃないかな〜って。それじゃあねトレーナーさんっ。モエちゃんのお願い、聞いてあげてくださいね☆』
動画が始まったときと同じように手を振ったカレンチャンの動きが静止した。
あっという間にカレンチャンのビデオメッセージは終わった。
カレンモエは再生が終わったスマホを引っ込めた。相変わらず申し訳無さそうにしていて、気まずい空気がお互いの間を流れている。
「まあ、大体の話は分かった。別に怒ってねえからそんな顔すんなよ」
「……ごめんなさい」
元々感情表現が豊かな方ではないにしても、ここまでしおらしいカレンモエも珍しい。そんな様子を見るとこっちが罪悪感を感じてしまう。
「で、カレンチャンが言ってたお前のお願いってなんだ?」
「……実は──」
撮影会に付き添いで来て欲しいと、彼女はそう言った。
◇
ブライダル業界が主催している撮影会とのことだった。昨今の婚姻率低下や結婚式実施率低下への対策として、人気のあるトゥインクルシリーズのウマ娘をモデルを使って注目を集めたいのだろう。ブライダル業界のマーケットの厳しさが伺い知れる。
目立つのを好まないカレンモエがモデルを受けるなんて正直意外だった。
撮影会場である校舎の一角へ向かう際、俺は彼女にこんなことを言った。
「付き添いぐらい普通に言えばいいだろうが。言ってくれりゃ予定空けとくぞ」
その時は本心だった。彼女との付き合いは長いだけに、そこまで甲斐性の無い人間だと思われていたことに少しショックを受けていた。
しかし、会場に着いたことによってその考えは払拭された。直前まで撮影会について彼女が明かさなかった理由が分かった。
ウエディングドレスを着てのものだと知ったところまではまだ良かった。問題はその次だった。
会場の受付にいたスタッフの女がこう言ったのだ。
「新郎役の方でいらっしゃいますね。衣装の着替えやヘアセットをいたしますので、あちらのお部屋へおいでください」
「は? どういうことですか?」
真顔でそう訊き返した。
「新郎役の方ではありませんでしたか。失礼いたし──」
「この人が、新郎役……です……」
カレンモエが女スタッフの声を遮った。
俺とスタッフの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
「すいません。話が見えなくて……おいモエ、どういうことだ? 説明してくれ」
「…………えーっと……」
「えー、撮影についてですが──」
言い淀んだカレンモエを見かねてか、その女スタッフが新郎役との構図で撮影を行っていると簡潔に説明してくれた。さらにウマ娘側から新郎役を連れてきて良いと。
……話は見えてきた。カレンモエは俺を新郎役として連れてきたのだ。あらかじめ知らされていたらおそらく俺は付き添わなかっただろう。前言撤回、彼女は俺のことをよく分かっていたようだ。隠していたのも納得だ。
「こちらでも男性モデルを数人用意していますので、好みのモデルをお選びくださいね」
アラサーの一般人である俺と、協会が用意したというモデルとは容姿もスタイルも何もかも比べ物にならないことは明白だ。男という生物として俺がモデルに敵う余地がない。
男性モデルでいいだろ──と、カレンモエに言おうとしたのだが……
「…………」
カレンモエの澄んだ青い瞳には、縋るような色が浮かんでいた。
「モエは……知らない男の人より……トレーナーさんが、いい……」
「…………んん……」
返答に悩む。
そんな俺たちを見ている女スタッフは口元のにやけをかみ殺そうとしていた。余計なお世話だ。
……ここまで言われたら、断れるわけがない。
「……分かった」
「! ほんとう?」
「ああ。……あっちの部屋に行けばいいんですね?」
「はい。新郎役の方はあちらのお部屋へ。カレンモエさんはこちらへどうぞ」
◇
支度が終わり待つことしばらく、撮影現場へと呼び出された。
新郎側の支度は意外と簡単なものだった。顔は映らないらしいので、白のタキシードを着せられ、髪型をセットさせられただけで終わった。
支度をする部屋では俺以外にも何人もの男がいた。中には知っている顔……つまりトレーナーも何人かいた。他にはウマ娘の彼氏と思われる若い男に加え、聞こえてくる話から察するにどうやら父兄の人間もいるようだった。
俺が現場入りして程なくして、カレンモエも部屋に入ってきた。
──漆黒のウエディングドレスを着て。
「どう……?」
照れたような表情の花嫁が目の前までやってきた。
俺だけじゃなく、スタッフたちの息を呑むような雰囲気が伝わってくる。
「あ、ああ……」
言葉が出なかった。そう言うので精一杯だった。
所々にレースがあしらわれた漆黒のドレスが胸元から足元までを包んでいる。ドレスがそんな色だからか、対照的に首から胸元にかけて露出している肌が輝くように白くて眩しい。
芦毛の髪も編み込まれていて、いつもは見えない首筋のラインにドキッとさせられる。
顔はナチュラルメイクっぽいが、普段よりも目鼻立ちがはっきりしている気がする。ローズリップの艶やかな口元にどうしようもなく目を惹かれる。メンコやリボンも外され、生の耳が露出していた。
──綺麗だ、と思った。
ずっとそばにいて見慣れたウマ娘のはずなのに、どこか変な気持ちになった。
(一回りも歳が違うガキに何考えてんだ俺は……)
何も答えない俺を見つめるカレンモエと目を合わせながら、そんなことを考えていた。
だが、こういうことはちゃんと伝えないといけない。
「……綺麗だな、モエ」
「! …………ありがとうっ」
恥じらうようにはにかむカレンモエ。
……見ているこっちが照れてしまう。
「黒いウエディングドレスなんてあるんだな」
撮影会にいる他のウマ娘は白や青のウエディングドレスを着ていたので、ドレスにもいくらか種類があるのだろう。
「うん。……“あなた色以外には染まりません”って意味なんだって」
上目遣いでじいっと俺を見つめてくるカレンモエ。
「じゃあ始めましょうかー!」
ディレクターのその声により、撮影会がスタートした。
カメラマンの指示などにより様々なポーズをさせられた。これがかなり大変だった。腕を組んだり、手を繋いだり、身を寄せ合ったり、肩を抱いたり。腕を組むにしても、腕の角度や身体の接触具合まで細かく指示された。素人の学生相手の撮影会とは思えないほど、結構な力の入れようだった。
カレンモエはそれに加えて表情の指示をこなすのに四苦八苦していた。他人の前だと特に表情の変わらない奴なので、本当に大変そうだった。何度も撮り直しをした。
カメラマンが「素材は最高級なんだけどねえ……」とぼやいていたので、表情の如何に関しては芳しくなかったのだろう。こればっかりは仕方ない。
それでも撮影は進んでいった。
「次、最後にしましょうか。……どうしましょう?」
ディレクターとカメラマンが相談が終わると、彼らの指示を受けたスタッフから俺はあるものを渡された。
銀色に輝く指輪だった。
「それをカレンモエさんの薬指にはめてあげてくださーい。そのシーン撮りますねー」
「……」
流石にそれはどうなんだろうと思う。撮影とはいえ、ここまでする必要はあるのだろうか。
カレンモエが無理なら断ろうかと思った矢先だった。
「……はい。……して?」
向かい合ったカレンモエが左手を差し出してきた。
「お願いしまーす!」
スタッフの元気な声がそう急かす。
「…………」
女の薬指に指輪をはめる行為を、俺が特別に感じすぎているだけなのだろうか。
俺は女とそういう経験がないから、意識しすぎているだけなのだろうか。
「……いいのか?」
カレンモエは優しく微笑んで頷いた。
その笑顔にひどく胸が揺さぶられる。ガキのくせになんて顔をするのだろうか。
誰にも気づかれないよう小さく息を吐いてから、カメラのフラッシュが焚かれ続ける中、彼女の薬指に指輪を通した。余計な力が入ったり、手が震えないように苦労しながら。
「オッケーです! 楽にしてくださーい」
カメラマンたちが撮った写真を確認する間、カレンモエははめられた指輪を掲げて、見惚れるようにうっとりと見ていた。
「はい! 以上で撮影は終わります。本日はご協力ありがとうございました! ウマ娘さんと新郎役さんは部屋に戻って着替えてくださーい。…………次の方どうぞー」
すぐさまスタッフに促され、俺たちはそれぞれの支度の部屋へと戻された。
こうして20分にも満たなかった撮影会は終了した。
◇
撮影会を終えて、元の見慣れたカレンモエと肩を並べてトレーナー室への帰り道を歩いていく。
「思ったより大変だったな」
「うん。ママの凄さ、分かったかも」
確かにカレンチャンなら、ポージングをキメたり表情を作るのなんてお手のものだろう。
「でも良かった。素敵なウエディングドレスも着れたし、トレーナーさんの色んなところ、見られたから」
「……」
聞き返したら負けだと思ったので、無言でいた。
「それとね……ふふっ」
カレンモエは俺より一歩前に出た。
「トレーナーさん、良い予行演習になったでしょ?」
こっちを振り返った彼女の頬は少しだけ朱に染まっていた。
「本番は、いつにする?」
照れた彼女の顔はズルいと、そう思った。
◇
撮影会から1ヶ月後。
結局のところ、自分の写真は選ばれなかった。
選ばれたのはたまたま日本へ留学していたアイルランドのウマ娘らしかった。ストロベリーブロンドの髪が印象的なウマ娘で、とても綺麗な水色のウエディングドレス姿だった。
自分は知らなかったけど、坂川はそのウマ娘を知っていたようで、アイルランドやイギリスでGⅠを13勝した凄いウマ娘だと言っていた。日本でもあまり有名じゃないらしく、同室のレッドルゼルも知らないと言っていた。
自分の写真が選ばれなかったことには何とも思ってない。むしろ選ばれて注目される方が困る。
今回、モデルをやった理由は単純。
「……」
スマホの新しくなった待ち受けを眺める。モデル参加者が希望すれば貰える自分の撮影写真を待ち受けに使っていた。
そこには腕を組んだ一組の男女が写っていた。男の方は白いタキシード、女であるウマ娘は黒いウエディングドレスを着ている。
「……ふふっ」
緊張して強張っている表情の彼がとってもカワイイ。
それと──
「……ほんと嬉しそうだなあ、モエ……」
──待ち受けの自分は、心の底から幸せそうだった。
「……あっ、忘れてた……」
LANEで母を選び、約束した通り撮影された画像を送った。
◇
おおよそ同時期。
キングヘイローとペティは2人で掲示板の前を通りかかった。
ペティの方が先にそのポスターを見つけた。
「あ、このブライダルのやつ。前ありましたねえ」
「ダイアナさんが見てたやつよね?」
ポスターには“ご参加ありがとうございました”との見出しとともに、撮影に参加したウマ娘たちの写真が載せられていた。
その中に2人がよく見知ったウマ娘の姿があった。
「……これ、モエさんじゃ!?」
「へ? ……あ、本当だ。意外ですねえ……」
その中にあったカレンモエの写真を2人で眺めていた。写真の中の彼女は黒いウエディングドレスを着ていて、差し出した左薬指に指輪をはめてもらっていた。
「こういうの興味あったんですねえモエさん」
「綺麗ね……」
「いやーほんと綺麗ですね。黒いドレスすっごい似合ってますし」
「そうね…………ん?」
「どうしたんですか?」
キングヘイローは食い入るようにポスターを見ていた。何かに気づいたようだった。
「ペティさん、これ見て」
「これ? 指輪ですか?」
「違うわ。指輪をはめてる男の指を見て」
「はあ………………え? もしかして……マジですか?」
「間違いないわ」
その男の指はキングヘイローにとって非常に馴染み深いものだった。なぜならトレーニング後の身体の状態確認やマッサージ等で日常的によく目にしているからだ。
ペティも遅れてだがキングヘイローと同じように気づいた。彼がキングヘイローやカレンモエの身体を触るのを傍で見ている機会は多いからである。
指の太さや爪の形……気づくのは必然であった。
「「…………」」
無言な2人はただお互い顔を見合わせていた。