底辺キング   作:シェーク両面粒高

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当作品はイクイノックス号(父キタサンブラック母父キングヘイロー)を全力で応援しています(9話ぶり6回目)


第63話 自由な精神

 ずっと実家が煩わしかった。

 だから家から離れられるトレセン学園へ入学した。

 そして今は自由にやっている。

 

 私……ダイアナヘイローというウマ娘の現状を最大限簡潔に説明するならそんなところ。

 

 

 私はそれはそれは良いところの生まれだ。名家と言ってもいい。芸能関係に幅を利かせる父親は遠いながらも皇族に連なる人間らしい。

 母親も良い家柄の御令嬢。ここで言う良い家柄とは、名ウマ娘を多く輩出しているとかではなく、ただ単にお金や土地をたくさん持っている上流階級の家のこと。ちなみに母もトレセン学園に通っていたのだが、未勝利を勝てずに退学している。

 

 そんな()()家に生まれた私は幼い頃から様々なことを叩きこまれた。学校から帰ってきた屋敷には毎日毎日代わる代わる異なった分野の講師が来て、勉学は元より普段の所作やマナー、語学、音楽、ダンスを叩き込まれ、ポニースクールではレース活動を。加えて華道や茶道などの習い事や、社交界での立ち回りなど、説明するのも面倒な数々を学ばされた。

 自身の生まれに、家柄に、身分に相応しい者に成るためだ──と、親や憎たらしいデブの執事から何度も何度もウマ耳にタコができるほど言い聞かされていた。

 

 

 

 

 はっきり言おう。それらの全てが煩わしかった。

 

 

 私が従うのは私の心だけ。私は自由な精神でいたい。

 

 

 やりたいことをやりたい。やりたくないことはやりたくない。

 

 

 勉強とかマナーとか習い事とか社交ダンスとか、全てに興味がない。普通の女の子みたいに放課後は友達と遊びたい。ハンバーガーショップで駄弁りたい。夜ふかしして好きな恋愛小説を読みふけりたい。意味もなくスマホをいじりながらベッドでゴロゴロしたい。

 

 

 両親や執事は私が年齢を重ねると上流階級としての自覚が芽生えてくると踏んでいたようだが、それは全くの見当違い。表立って反抗はしてないものの、逆に鬱屈した気持ちは段々と膨らんでいった。

 

 

 

 そして私にある転機が訪れた。

 

 あれは中学生になった頃、社会勉強の一環として私の家が多大な寄付をしている病院や施設へ訪問した。それが転機だ。

 病院や施設にて、たくさんの高齢者から幼い子どもと接した。

 高齢者の方々はただ世間話するだけで喜んでくれた。歌を歌ったり、親の影響で見様見真似で覚えた落語なんかを披露すると、手を叩いて喜んでくれた。

 子ども相手には一緒に遊ぶだけで皆が楽しそうだった。少しお世話の手伝いをするだけで、施設の人も喜んでくれた。

 

 

 喜んで笑ってくれている人々を見て、生まれてきて初めて満たされたような気分になった。

 

 

 そこで分かった。私のやりたいことはこれだって。

 

 

 

 お嬢様学校に通わされ、放課後はほぼ屋敷に缶詰の私にとっては新鮮なことばかりだったのだ。

 マナーがどうとか作法はこうとか、そんなものは一切ない。あるがままに振る舞って、施して、そうしたら相手が喜んでくれる。それだけのことが堪らなく自分を充実させてくれるのだ。

 

 それから私は理由をつけては頻繁に施設や幼稚園へ通うようになった。医療団体主催のレク大会の手伝いなどもした。社会奉仕のためと訴えれば認められることが多かった……最初だけは。

 頭の固い執事に止められるようになったのだ。『お嬢様、無駄な社会奉仕は結構です』と。

 何が無駄よ。お前の腹についている醜い脂肪の方が遥かに無駄でしょうに。

 

 何度か屋敷を脱走して足を運んだりした。でも根本的な解決にはならず、執事たちの目が厳しくなって脱走も難しくなってしまった。

 

 

 

 しかし、天啓はすぐに訪れた。

 

 

 

 打開策を探っていたある日……近隣のポニースクールやクラブの対抗レース大会でのことだ。

 特に走ることに興味も情熱も無く、私にとってレースはただ単に屋敷から課される習い事のひとつでしかなかった。だがトレーニングにはそれなりに真面目に取り組んでいたし、結果もそこそこ出ていた。

 その日の対抗レースにて、私は5バ身か6バ身ほど差をつけて逃げ切って勝利した。ゴール後、2着だった相手スクールのウマ娘が私にこう話しかけてきたのだ──

 

 

 ──『あなた速いね! あなたもトレセン学園目指してるんだよね?』──

 

 

 トレセン学園。

 

 その単語が妙に耳に残った。

 存在自体は知っていたが、レースに興味のない私にとっては関りの無いものだと思っていた。

 だから今まで頭が回っていなかったのだ。トレセン学園が全寮制だということを。

 

 後の思考プロセスはいたってシンプル。

 寮のあるトレセン学園に入れば実家に縛られない。なら施設に行こうが幼稚園に行こうが文句を言う者はいない。この状況を抜け出すにはトレセン学園に入るしかない。

 以上が私の至った結論だった。

 

 

 トレセン学園に入学するというのはウマ娘にとって大きな社会的ステータスだ。私の家は代々ウマ娘を輩出してきた家系ではないが、走りが認められて合格できるなら屋敷も許可してくれると思っていて、事実その通りになった。父はゴーサインを出してくれた。

 

 ──『いいだろう。ただし──』──

 

 だが条件付きだったのだ。勉学や習い事に真剣に取り組まなければ認めないと。

 私が不真面目であったことに加え、トレセン学園に入れば習い事などできないため、本来ならば高校時に取り組む予定だった習い事などを前倒しにして学ばせるとのことだった。

 それらを修めれば入学を認めると。常識的に考えればトレセン合格のためのトレーニングだけでハードなのに、加えて前倒しの勉強や習い事なんて想像するだけで嫌になった。

 

 

 しかし私はどちらもこなして見せた。ポニースクールのコーチである丸眼鏡の“鉄の女”の厳しい指導に耐え、勉強や習い事は気合で乗り切った。言葉で言うのは簡単だが、この間は身体も頭も休まる暇がなく正直言ってかなり辛かった。それでも時々脱走してハンバーガーショップに行ったりはしていたけれど。

 

 

 

 晴れて合格し実家から解放された私はトレセン学園の門をくぐった。

 入学してからはそれはもう好きにやっていた。毎週どこかしらに訪問したり、街に出て遊んだりと充実した日々を過ごしていた。たまに土日に屋敷に戻るよう連絡が来たが、トレーニングを理由にして断った。あの家でさえもトレセン学園には手を出せないのだ。良い気味だった。

 もちろんトゥインクルシリーズで1回は勝たないと退学になってしまうことは知っていたので、予定の無い日はトレーニングには取り組んでいた。周りのウマ娘や5月から始まったジュニア級のレースの走りを見ていると、自分はおそらく簡単に勝ち上がれるだろうと分かっていたので、トレーナー探しやデビューについては焦っていなかった。クラシック級に上がってからの8ヶ月で勝つ自信はあった。

 

 ◇

 

 チーム選びは最初から年が明けての自動振り分けに任せる予定だった。トレーナーにもチームにも拘りなんて無かったから。

 けれど、あるレースとウマ娘を見てその考えは変わった。

 

 11月8日の日曜の午後三時半頃、西東京にひっそりと佇んでいる児童養護施設でお手伝いをしていた私に、テレビを見ていた5歳になるウマ娘が声をかけてきた。手作りのクッキーを施設の皆に振る舞って、その片付けをしているところだった。

 

「おねえちゃん、いまからスペシャルウィークがはしるよ! いっしょにみよっ!」

「うんっ、見よっか!」

 

 誘われた私はその娘の隣に並んで座った。

 

 あまりレースに興味のない私でも流石にダービーウマ娘の名前は知っていた。もっとも彼女が走っている姿を見るのは初めてだった。

 

「ねえなにやるのー?」「あっ、うまむすめばっかりじゃん。れーすだ!」「あたししってるよ、とぅいんくうしいーずだよ!」「トゥインクルシリーズ、ね」「そっか。今日は菊花賞か」

 

 わらわらと私たちの周りに子どもたちが集まってきた。ここの施設にいるのは保育園から中学生ぐらいの年齢の子どもたちで、そのほとんどがヒトだ。ウマ娘はその5歳になる娘しかいない。

 職員の話によると、今まで施設の子たちはトゥインクルシリーズを見る習慣は無かったけれど、この5歳のウマ娘が最近興味を持ち始めて段々レースを見るようになったそうだ。

 

「スペシャルウィークがんばれー!」

 

 テレビに映っているレースを皆と一緒に観戦していると、妙な感覚が胸に去来した。

 

 

 

(…………? あのウマ娘…………? なんでこんな…………)

 

 

 

 逃げる芦毛のウマ娘セイウンスカイを追うバ群にいる、翠の勝負服を着たウマ娘に強烈に惹きつけられていた。

 言葉では説明できない……あえて言うなら運命的な何かを感じると言った方がいいだろうか。先月偶然目にした毎日王冠でのサイレンススズカやグラスワンダーに対して似たようなものを感じたことはあるが、それとは比べ物にならないぐらい強い何かを感じていた。

 

 スペシャルウィークとセイウンスカイには目もくれず、私はその翠の勝負服を着たウマ娘──キングヘイローだけを目で追っていた。

 

 

『セイウンスカイ逃げ切った! まさに今日の京都レース場の上空と同じ、青空!』

 

 

 5歳の娘はスペシャルウィークを一生懸命に応援していたが、そのスペシャルウィークは2着に敗れてしまった。勝ったのはセイウンスカイだった。

 

「スペシャルウィークまけちゃった……うう……」

「もうちょっとだったね……でも次は勝てるよ」

「……うんっ! スペシャルウィークはつよいから、つぎはぜったいかつよねっ!」

 

 残念そうに悔しがるその娘を宥めながら、頭の中ではキングヘイローのことばかり考えていた。

 

 ◇

 

 栗東寮に帰った私はすぐにキングヘイローのことについて調べた。菊花賞までの10戦、全てのレースを見た。

 勝ったときの誇らしげな振る舞いと負けたときの悔しそうな表情はもちろん、どのレースも歯を食いしばりながら走っている一生懸命さが何よりも印象に残った。

 しかし、それだけなら他のウマ娘たちと変わらない。勝って全身で喜びを表現したり、負けて人目もはばからず泣いているウマ娘なんて珍しくもない。歯を食いしばって懸命に走っているウマ娘は他にもたくさんいる。

 

 

 だから分からない。なぜこれほどまでに彼女に惹かれるのか。

 

 

 理由を考えながらベッドに寝転がり、何の気なしに枕元にあった恋愛小説の文庫本に手を伸ばす。つい先日買ったばかりで、まだ導入部分までしか読んでいなかった。

 どこかモヤモヤする気持ちを抱えつつ、気分転換に小説を読み進めた。場面は、主人公である女の子が学校の廊下で男の子とぶつかったシーンからだった。あまりにもテンプレ的だなーと思いつつ、おそらくこの男の子との恋愛話に発展するんだろうなと予想しながらページをめくっていった。

 

 話が進むと、女の子はその男の子を好きになっていった。この女の子は初恋もまだで、初めて人を好きになる自分に戸惑って葛藤している内面描写が続いた。何てことはない、これもありきたりな内容だったが……

 

 “顔も性格もタイプじゃないのに、こんなに気になるのはなんで? ムカつくやつなのに、一緒にいたらこの時間が続けばいいなって思うし、他の女の子と話したらもっとムカつくし…………。もうっ! なんなのこれ。気づけばアイツのこと考えてるし────”

 

「あ……」

 

 その内面描写を読んでいて、今の私と重なる部分があることに気づいた。

 理由は分からないが何故か惹きつけられる……もしかしてこれが私の初恋──

 

「私もキングに……いや、女の子……ウマ娘同士だし……」

 

 ──と暴走しそうになる思考にブレーキをかけた。私も初恋はまだだけど、普通に男の方が好きだからだ。女の子同士っていうのは個人的には守備範囲外だ。

 でも、恋愛的に誰かを好きになったことなんてないけれど、今の感情はもしかしたらそれと近いのかも。思い返せばいくつもの恋愛小説における初恋の描写に、今の私の胸中は似ている気がする。

 

「……実際に会ったら、どうなんだろう……」

 

 読み疲れた頭を襲ってくる微睡みに任せて意識を落とした。

 薄れゆく意識の中、キングヘイローに会ってみたいと思いながら。

 

 

 ◇

 

 

 週が明けると、私はキングヘイローに接触して彼女と同じチームに入ろうとしていた。実際に会ってみると、それ以外の選択肢が無かった。

 生のキングヘイローと会った瞬間、画面越しに見るよりも運命的な何かを強烈に感じた。気づけばトレーナーとの契約用紙を用意していた。

 

 その後はトレーナー……坂川のトレーナー室を訪ねて、色々あった末に結局契約し、晴れて私はキングヘイローと同じチームになった。

 まさかキングヘイローのトレーナーがあんな男だとは思わなかった。作業服をはじめとしただらしない見た目と、その不遜な態度も彼女の標榜する一流には全く合っているように見えなかったから。

 彼女からは彼を信頼している空気のようなものは伝わってくる。でもその理由は分からない。性格から何からして、キングヘイローと坂川健幸の相性が良いとはどうにも思えない。

 

 チームにはキングヘイローの同期にペティというスタッフ研修のウマ娘がいる。トレーニングではデータを取ったりそのデータの意味を分かりやすく説明をしてくれるので助かっている。変人の多いスタッフ研修と聞いたから頭が良くて気難しいんじゃないかって先入観があったが、接してみるとフレンドリーで付き合いやすい、普通のウマ娘だった。

 

 二つ上にはカレンモエというウマ娘がいるが、どうにも苦手だ。無口で表情も変わらないので何を考えているのかさっぱりなのだ。ぶっちゃけ怖いから彼女にだけは“さん”付けをしないといられない。ほとんど会話もしないので、その人となりも分からない。一緒にトレーニングをした時にアドバイスをしてくれるから嫌われてはないと思うのだけれど……。キングヘイローと違って坂川との関係性も見えてこない。カレンモエのようなきちんとした感じのウマ娘といい加減そうな坂川との相性はきっと良くないだろう。嫌ってるとは思わないが、ドライな関係なのかも? 

 

 そして私に遅れて年末にサイレンススズカが移籍してきた。トゥインクルシリーズを詳しく知らない人でも知っている超有名ウマ娘だ。

 毎日王冠を見た際に何か感じたのは気のせいではなく、実際に会ったらやはり特別な何かを感じた。もっともキングヘイローに感じたほど強いものではなかったけれど。

 

 

 そしてチームに所属したからにはトレーニングが始まる。初めはキングヘイローとずっと一緒にトレーニングできると胸が高鳴っていたが、フタを開けてみればそれは叶わなかった。このチームは基本的に個別でのトレーニングを行うからだ。

 トレーニングはキツかった。でも、キングヘイローとカレンモエはさらにハードなトレーニングをこなしていて素直に凄いと思った。

 でも併せをすることもあったので、その時は一緒にトレーニングできて気分は上がり、不思議と体調は絶好調になった。

 坂川のトレーニングはGPSが入った下着のウェアを着けて行われた。私としても初めての経験で、いい加減そうな彼の印象とは裏腹にデータ重視の人間なのには驚いた。そのデータ自体には毛ほども興味は無かったが。だいたい、慣れていないせいかウェアが煩わしく感じる。

 

 そんなトレーニングの日々を過ごして2ヶ月後、1月に私は京都1600mでデビューを果たした。キングヘイローのメイクデビューと同じレース場で同距離、これでテンションが上がらないわけがなかった。

 坂川から逃げるなとか意味不明な指示が出たが無視して逃げ勝った。何となく言われる通りにしたくなかったからだ。1着という結果を出したからか、坂川からは何も言われなかった。

 

 こうして私は退学せずに最低でも3年間学園に居られることが確定した。これで私のトゥインクルシリーズでの目標は全て達成された。

 だからチームに所属してからは控えていた施設や幼稚園への訪問を再開することにした。ちょうど同時期に例の児童養護施設の職員の人が産休に入ったり、病気で入院するなどで2人ほど欠員が出ていたので、その手伝いのため積極的に通うようになった。

 

 トレーニングをよく休むようになったら、流石に坂川も良い顔はしなかったが、どうにも思わなかった。直接的に非難もしてこないし、そのへんは物分りの良い大人だなと思った。

 キングヘイローと一緒にいられないのは淋しいが、今は児童養護施設の方が優先順位は上だった。

 

 フィリーズレビュー後に、坂川にはトゥインクルシリーズやレースへのモチベーションはもうないと伝えた。この時の坂川は意外なことにすんなりと納得してくれた。少しは反発されると思っていた。

 ただその時に、走りたいときに走ってくれればいいとか言っていた。意味不明だった。

 

 その日の放課後に児童養護施設へ訪れた時のことだった。

 キッチンで夕飯の用意の手伝いをしていた私のスカートの裾をクイッと引っ張る手があった。

 

「おねえちゃん! テレビきて! はやくっ!」

 

 スカートを引っ張っていたのは5歳のウマ娘だった。

 テレビを見に来いってこと? 

 

「うんうん。分かったからスカート引っ張らないで」

「はやくはやくっ!」

「どうしたの? なにかあったの?」

「きのうね、ようちえんのともだちとあそんでて、レースみれなかったから、きょうのテレビみてるの!」

 

 彼女はスカートから私の手に持ち替えてテレビのある部屋まで引っ張っていった。

 

 テレビのあるリビングにたどり着くと、他の子どもたちの視線も画面の方へ向いていて、私が来たのを見るとにわかにその子たちも騒ぎ始めた。

 

「これ、やっぱりおねえちゃんだよね!?」

「へっ……あっ!」

 

 ウマ娘の子が指差した画面に流れる映像を見て、全ての合点がいった。

 その番組はトゥインクルシリーズ専門の番組で、レースのハイライトをちょうど流していたのだ。今流れているのは昨日行われたフィリーズレビューだった。

 つまり走る私が映っていたのだ。

 

「おねえちゃんトゥインクルシリーズのウマむすめさんだったのっ!?」

「あはは……うん」

「ほんと? すごいすごいっ! がんばれーっ、おねえちゃん!」

 

 ウマ娘の子の耳がピコピコと忙しなく動き、尻尾は荒ぶっていた。

 

 この子には自分がトレセン学園に通っていると伝えていなかった。

 年齢が上の他の子たちは私が着ている制服がトレセンのものだと大体は知っている。案の定、今そのことを知った5歳の娘に対して「オレは知ってたけどな!」と小学校中学年の子が胸を張っていた。

 

 メイクデビューや条件戦は地上波のテレビでは放映されないし、よっぽどの期待されたウマ娘じゃないとこのような番組でも特集もされない。

 一方で重賞は絶対に地上波で流れるし、トゥインクルシリーズを扱う番組なら100%特集される。だから今こうやって目の前のテレビで流ているのだろう。

 

 そんなやりとりをしている内にフィリーズレビューはゴール前を映していた。私は後方にいたのでカメラにはほとんど捉えられていなかった。

 

「おねえちゃんどこ……? あっ! ……ああ……」

 

 外から突っ込んできたのが私だと気づいた頃にはもうソルヴェイグがゴールしていた。私が負けたことに気づいた彼女の耳と尻尾は垂れ下がってしまった。

 

「まけちゃった……おねえちゃん、まけちゃったの……?」

「そ、そうなの。ごめんね応援してくれたのに……」

 

 実際にはハイライトなので彼女が応援するとかしないとかの話ではないが、しょんぼりとして目に見えて肩を落とす彼女を見て罪悪感が湧いてきた。

 

「…………つぎ」

「え?」

「つぎ! おねえちゃん、つぎはかてるよねっ!」

「へっ、次? えーっと……」

 

 

 爛々と目を輝かせて私の顔を見上げてくる。全身全霊での期待が私にぶつけられていた。

 

 

 年下の子に弱い私に対してそんな顔をされたら断れないって、この子は知っててやってるのだろうか。

 実はレースにもう興味はないとか、そんなことを言えるわけもなかった。

 

 

 考える前に口が動いていた。

 

 

「……うん! お姉ちゃん、次は勝つよ!」

「ほんとっ!? やったやったー! がんばって、おねえちゃんっ! つぎのレースのひおしえて!」

「あ、いや〜……実はまだ決まってないから、決まったらすぐに教えるね」

「わかった!」

 

 溢れんばかりの笑顔を見れて嬉しい反面、とんでもない約束をしてしまったことを認識する冷めた自分もいた。

 

 ◇

 

 翌日、あることを決めた私はトレーニングの休憩中にウェイトトレーニング室へ向かっていた。

 

 あることとは、次走のレースに向けて様々なアドバイスをしてもらうことだ。

 坂川にはあんなことを言った手前、昨日の今日でお願いするなんてプライドが許さなかった。

 本当はキングヘイローに頼みたいけれど、彼女のレースの邪魔をしたくない。

 あまり仲を深めていないカレンモエには単純に頼みにくい。

 ペティは学期末なのもあってレポートやテストで物凄く忙しそうで最近はトレーニングも休んでいるほどだ。単純に頼みにくい。

 

 残るは……

 

「……スズカ、お願いがあるの!」

「ダイアナさん?」

 

 

 ウェイトトレーニング室。ベンチに座って汗を拭っているサイレンススズカがそこにいた。




ダイアナヘイローの設定やキャラ付けに関しては、由来となったであろう曲の中の登場人物であったりその曲の日本語版を歌った歌手であったり名前が一緒の某元妃であったりとそのあたりの要素を拝借いたしました。
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