12月19日の中山レース場の観客席に俺たちはいた。
ターフビジョンにはゲート前にあたる2コーナー出口付近で待機するウマ娘たちが映し出されていた。もちろんその中に翠の勝負服に身を包んだウマ娘の姿もあった。
キングヘイローは余計な動きをせず、精神を統一するようにじっとしていた。いつものレース前の彼女の姿だ。
『儚くもあり、切なくもあり、美しくもある。70秒足らずに全てをかけて全てが決まる、日本一濃密なGⅠスプリンターズステークスです──』
男性実況の口上を皮切りに、ファンファーレが鳴るのを今か今かと待ち侘びる観客たちのざわめきが俄かに大きくなってきた。
スターターがスタンドカーの向かう様子が映し出される中、俺はキングヘイローとスプリンターズステークスへの出走を決めた当時について思い返していた。
◇
マイルチャンピオンシップから一週間後の土曜日。スペシャルウィーク対モンジューが実現したジャパンカップが明日に迫り、世間が色めき立っていた頃のこと。
俺はキングヘイローと次走について話していた。
「最終確認だ。有馬記念はパスで、スプリンターズステークスでいいんだな?」
「問題ないわ」
「ほぼ確実にグラスワンダーとスペシャルウィークは出てくる。……本当にいいのか? 宝塚や天皇賞秋のリベンジは?」
「何度も言ったでしょう? キングはマイルとスプリント路線へ歩むことに決めたの。ジャパンカップではなく、マイルチャンピオンシップを選んだように。……もちろん、リベンジしたくないと言えば嘘にはなるわ。けれどこれが今の私、キングヘイローの歩むべき覇道なのよっ! おーっほっほっほ!」
高笑いが2人きりのトレーナー室に響く。
「あなたも有馬よりスプリンターズステークスの方が良いって散々言ってるじゃない」
「それはそうだがな。ま、お前が納得して選んでるんならそれでいいんだ」
「ええ。私は
マイルチャンピオンシップの前から年内の最終目標については話し合っており、その頃から俺はスプリントへの挑戦を勧めてきた。その理由もいくつかある。
シニア級1年を終えようとしている彼女の身体の成長についてだが、クラシック級の時から予期していた通り筋肉質な身体へと変貌を遂げていた。つまり、より短距離向きの身体になっていたのだ。
見た目的にはそこまで変わったわけでもない。しかし、しなやかさよりも力強さが目立つようになった走り、筋腹の大きくなったトモと下肢の筋肉、以前よりもがっちりとした胴回り、増量した肩甲帯から上肢の筋肉……まさしくマイルやスプリント向きの身体だ。
加えて彼女のメンタル……特性のこともある。
様々なトレーニングをこなして多くの課題を克服し、レースに出走して豊富な経験を積んできたキングヘイローではあるが、やはり最も高いパフォーマンスが出るのは自分のペースで邪魔されずに走ることだ。
……と言うと、当たり前のように聞こえる。それはそうだ、どんなウマ娘でも自分のペースで走って邪魔されないのが一番だろう。
しかしながらキングヘイローはそのパフォーマンスにムラがありすぎるのだ。この前のマイルチャンピオンシップのようにハマれば良いのだが、11着に敗れた安田記念のようにハマらないときはとことんパフォーマンスが下がってしまう。崩されても
菊花賞前の話のように、中長距離だと走りを崩される機会が絶対的に増加してしまう。
彼女のパフォーマンスを最大限引き出すにはやはりマイルかスプリントなのだ。だが──
「レース適性ってのはレース本番を走らないと分からねえからな。スプリントがお前に本当に合うかは分からねえぞ」
「その時はまた別の道を選ぶだけよ」
「……そうだな。もしスプリントが合いそうなら来年はあのレースを目指すか」
「あのレース?」
「3月の宮記念……高松宮記念だよ。中京レース場1200m。中央に2レースしかないスプリントGⅠの片割れだ。マイルのGⅠは半年先だし狙うにはちょうど良い」
「高松宮記念……」
キングヘイローはその名を噛みしめるように呟いていた。
「今はまだ先の話だ。明日からすぐにでもスプリント用のトレーニングを行いたいところだが、その前に座学を挟むぞ」
「座学? ……ミーティングのこと?」
「ああ。お前は中山の外回りを走ったことないだろ? 幸いウチにはスプリンターズステークスと同条件の中山外回り1200mのレースに出たことのあるウマ娘がいる。あいつの実体験の話も聞きながら中山1200mについて勉強していくぞ。……せっかくだ、チーム全員でやるのもいいかもな」
◇
その翌日の午後。午前のトレーニングを終え、昼休憩を挟んでチームのウマ娘をトレーナー室に集めた。
俺は中山レース場のコース見取り図が貼られたホワイトボードの前に立っており、目の前にあるくっつけられた長机には4人のウマ娘が席についていた。
ノートを広げペンを手に持ちやる気満々のキングヘイロー、背筋を伸ばして静かに佇んでいるカレンモエ、椅子の背に持たれ椅子の前脚を浮かせてぷらぷらしているペティ、ハンドミラーを見て髪の毛を触っているダイアナヘイローがいた。サイレンススズカは今日ジャパンカップに出るスペシャルウィークの応援のため東京レース場に行っている。なのでこの場にはいなかった。
「さて、中山1200mについて整理するぞー。スプリンターズステークスに出るキングの話だけじゃねえからな。他のみんなもしっかり聞いとけー」
各々の返事や頷く様子を見て、4人の視線が俺に集まってから話し始めた。ダイアナヘイローもハンドミラーをしまって俺の方を向いていた。
「言うまでもなく中山1200mがスプリンターズステークスの舞台になる。当日は中山レース場第5回開催の6日目、つまり3週目の日曜日だ。例年の傾向からすると1週目からAコースを使用しスプリンターズステークスもAコースになるはずだ。……おいダイアナ、Aコースって何のことか分かるか?」
「芝の生育状況によってラチの位置をずらしたコースのことでしょ」
「正解だ」
それぐらい覚えているわよ、あなたが教えたんじゃない……とダイアナヘイローは続けた。彼女にもレースを走り続ける上で色々な知識を叩き込んでいる。
「なら内より外が有利かって話になりそうなもんだが、その前に前回の第4回開催のことを話そう。第4回開催は9月の中旬から4週に渡って開催された。前半2週がAコース、後半2週がCコースだ。以上のことを踏まえて……ダイアナ、考えられることを言え」
「また私!? ……えーっと、そうね……」
流したボブヘアーの毛先をいじりながら彼女は口を開いた。
「4回目でAコースも使ってるのだから内は荒れてそうだけれど、でも9月の話よね? Cコースも2週だけ使ってるのだから外の芝も痛んで……でもそれは10月ぐらいの話なのよね。それで今回はAコース3週目だったかしら? そもそもCからAに替わって……ぅん~~、ややこしいわねっ! ふんっ、存じ上げませんわ」
「いい線行ってるじゃねえか」
「へっ? ……そう?」
「芝の状態なんて年によって違うんだから、1週目、2週目、そして前日や直前の実際のレースを見ないと分からないし判断できない。中山は元々がトリッキーなレース場だし、分からないってのはまあまあ正しい。レース開催とコース替わりから最内が有利とは言えないが、外が絶対的に有利でもない。外の方がやや有利かもってイメージでいい。そこまで極端な内外の有利不利は無いだろうってとこだ」
「……なんかふわふわしてないかしら?」
「そんなもんなんだよ。なんでも“絶対にこうだ”って決めつけるのは柔軟な発想を削ぐだけだ。……ま、今のはあくまでコース替わりだけに限定した話だけどな」
ホワイトボードに貼ってある中山レース場の見取り図に目をやる。上から見た1200mのコースと、横から見たその起伏のイラストも一緒に張り付けてある。
「そんなコース替わりだけで有利不利がはっきりするなら苦労はしない。中山自体が基本的に前有利だったり、他にも考えねえといけないってことだ。次の話に移るが、その前にこのレースを見るぞ」
俺はPCを繋いだモニターの電源を入れた。
「今から見せるのはモエが今年の3月に走ったオーシャンステークス。スプリンターズステークスと同じ中山1200mのレースだ。てな訳で、実際に走ったモエにレースやコースのことを解説してもらいながらこの映像を見ていこう。モエ、頼んだぞ」
「うん」
レース解説については事前にカレンモエに話を通していた。特に解説の内容について打ち合わせはしておらず、大雑把にアウトラインを伝えただけだった。
元々頭が良くクレバーだし、俺の担当ウマ娘として多くのことを学び知っている。内容について詳しく確認しておく必要もない。
モニターには枠入りの完了したゲートが映っていた。
「スタートは2コーナーの出口付近にある。モエ、発走前どんなことを意識していた?」
「中山1200はスタートが坂の頂上から下りに入ったとこで、第3コーナーの中間ぐらいまでずっと下り坂だからスタートから道中の流れが速い。ゲートで出遅れたらポジション取りが難しい。……重賞レベルになるとみんなゲートも上手いしテンも速いから、スタートを決めるより絶対に出遅れないよう意識した。でも、内枠だったし精神的に余裕は持ててたよ。外枠だったらスタート決めないといけなかったから」
キングヘイローがノートにさらさらとペンを走らせていた。
カレンモエが喋り終わり、キングヘイローのペンが止まってから再生ボタンを押すと、2枠3番ゲートからカレンモエがスタートした。芦毛はこのレース彼女1人だけなのでよく目立っており位置が分かりやすい。
言葉通りスタートは彼女にしたらまずまずで、それでもスタートしてすぐに先頭を形成する横一線のウマ娘と並んでいた。
『さあ先行争いはカレンモエ、それを制してビアンフェやはり行きました』
「モエさんどのレースでもほんとスタート速いですねえ」
椅子の背にもたれていたペティがしみじみとそう言った。
ここでもカレンモエのテンの速さは際立っており、スタートから100mあたりでは早くもビアンフェと共に先頭に立とうとしていた。
彼女はビアンフェに先頭を譲り、その2バ身後ろ追走する2番手でレースを運んでいた。向こう正面をウマ娘たちが進んでいく。
カレンモエは簡単にやっているように見えるが、重賞のそれもスプリントで安定してポジションを取れることがどれだけレベルの高い話か……中長距離のポジション取りとは訳が違う。
全くミスのないスタートと、加速性能を生かしたテンの速さ、レース中の冷静な思考、優れた位置取りの判断力……それらを生かすことで安定感抜群のレース運びを実現させている。元からレースセンスが高いウマ娘であったが、レース運びにおいては以前よりも更に大きく成長し、ほぼ文句のつけようのない域にまで彼女は達していた。
「バ場が稍重だったからペースが速いか遅いか判断するのは難しかったかな。でも、あの日は前残りのレースが多かったから、先頭の娘との間隔を維持したまま2番手で直線に入ろうって思ってた。詰めたら後ろの娘たちもついてきて差を縮めちゃうし。先頭の娘はいつでも交わせたけど、動くのも最後まで遅らせた。あと、すぐ後ろにいる娘の走りに合わせてライン取り工夫してたよ」
「補足するなら2ハロン目10.7秒、3ハロン目11.1秒だ。普段の良馬場ならオーシャンステークスもスプリンターズステークスも余裕で11秒を切るペースになる。中山1200はコース形態上基本的に前傾ラップになることが多いし、前半3ハロン32秒台は珍しくない。3コーナーも内回りとは違ってカーブは緩いしな」
レースは進み第3コーナーから第4コーナーへと入っていく。カレンモエは先頭のビアンフェに対し少しだけ距離を詰めながらコーナリングしていった。
「道中のスピードは中距離と比べるまでもなく速い。必然的にコーナーを回る速度も相当なもんだ。モエ、4コーナー曲がるときは?」
「下り坂で勢いがつき過ぎて、きつい4コーナーで外に振られるウマ娘がいるってトレーナーさんから聞いてたから、内側にいる娘に対して1人分から2人分くらいスペースを取るようにしてた」
カレンモエの言う通り、映像には内ラチ沿いを走るウマ娘からスペースを取ってコーナーを曲がり直線に向くカレンモエがいた。そのカレンモエも膨れることなくコーナーを曲がれている。結果的に内にいるウマ娘は膨れてこなかったが、不利を受けないためにも必要な戦略なので指示したのだ。
ここでは口に出さないが、このオーシャンステークスでは惚れ惚れするほどの走りをカレンモエはしていた。最高のレース運びだった。俺の指示もほぼ完璧に遂行していた。
……だからこそゴール前でハナ差交わされて負けたのが非常に悔しいのだが。
残り150mを過ぎて、単独先頭へ抜けたカレンモエにコントラチェックが迫っていた。
『カレンモエが先頭に立った! コントラチェックが差を詰める! 前は2人並んだゴールインッ! コントラチェックとカレンモエ、2人が並びました!』
逃げたビアンフェを交わす時に見せた瞬発力とスピードは良かったが、坂で少し脚が鈍ってしまったのだ。本当に惜しかった。
「スタートから延々と下って最後の最後に急坂を上る……これが中山1200だ。モエ、ありがとうな」
カレンモエはこくっと小さく頷いてくれた。
表情には出ないが自分の負けたレースを他の奴と見るのはしんどいだろう。それでも彼女はこうやって解説することを二つ返事で快諾してくれた。本当にありがたい。
後からまた2人になった時にでも礼を言っておこう。
レースの映像を閉じて再び4人と向き合った。
「ま、大まかなイメージは掴めただろ。中山1200mはスタートからのペースが速い。速いから4コーナー曲がるときは注意。あとは中山そのものの性質だな。直線は短いし急坂があるってことだ」
ホワイトボードに書き込みながら説明を続ける。
「そんなスプリンターズステークスとさっきの有利不利の話につなげるが、バ場だけじゃなくレース展開によって大きく左右される。コースの特徴からハイペースになりやすいから、展開によっては差し追い込みは決まりやすい。先頭争いとかでハイペースになりゃ後ろのウマ娘が有利だ。過去のレースで言うなら前で残ったのはフラワーパーク、後ろから来たのはダイイチルビーとかだな。それに加えて──」
それ以降もスプリンターズステークスの分析について説明を続ける。
そしていよいよ結論……これまでの分析などを踏まえて具体的なレースプランを提示し、それに沿ったトレーニングプランを伝える段階になった。
器用ではないキングヘイローにしたら初のスプリントに対応するだけでも簡単ではないのに、更にペースを読んだりポジションを取りに行ったりするのは負担が大きすぎる。それをGⅠに出走してくる猛者たち相手にしろと言うのは骨が折れるどころの騒ぎではない。
レースプランを指示しようとすればいくらでも細かい指示は出せる。展開のシミュレーションだって無数に行える。
しかしそれはスプリント初挑戦のキングヘイローにとって悪手だ。求め過ぎたら走りを崩す可能性は極めて高いだろう。
だから今回授ける作戦はこうだ。
一通り説明を終えた俺はキングヘイローにそれを伝えた。
「今回の課題は“マイペースにレースを運ぶこと”だ。これから本番までのトレーニングで、その中で最大限出来ることを探っていこう」
数々の分析や考察から出てきた答えは、新人トレーナーでも出せそうなものだった。
だが、間違いなくこれが最善の策だ。
◇
スプリンターズステークスの枠入りを待つ中で、このレースを選択した時のことや坂川たちと行ったミーティングについて思い返していた。
……少し思うところがあったのだ
彼にはあのミーティングで『マイペースにレースを運ぶこと』と言われた。その後トレーニングを重ねて、具体的に私に出された彼の指示は主に2つ……道中はリラックスして運ぶことと、末脚の使い所を間違えないことだ。ポジション取りは捨てていいと言われた。マークするにしても人気所のアグネスワールドとブラックホークを見ておくように言われたぐらいだった。
今までの坂川が立ててきた作戦と比較すると、今回のこれははっきり言って作戦と呼べるようなものではなかった。アクションを起こせる時間がほとんどない短距離戦とはいえ簡単なのだ。ものすごく。
だからこのレースプランを聞いたとき一瞬だけ戸惑った。もしかしたら冗談かもと思ったぐらいだ。
しかし、ちゃんと考えたらこんなレースプランになった理由はすぐに分かった。
私がスプリントに初めて挑むから、坂川はこのような指示を出したのだ。直接的に言うなら、私では坂川の作戦を遂行できないから。課題が多すぎると私はうまく走れないと彼は考えたのだろう。
彼はそう考えていると思い至ったとき、率直に言って悔しかった。
……以前、坂川から“お前は器用なウマ娘じゃない”などと度々言われた。例えばクラシック級の夏合宿や、京都新聞杯後に菊花賞を選ぶかどうか話したときだ。
その時は単純に悔しくて、そして腹が立った。私の力が足りないって言われたのと同じことだからだ。キングヘイローのプライドも傷つけられたと感じた。
けれど、今回の悔しさはこれまでとは違う悔しさが私の胸中の多くを占めていた。
坂川に応えられない自分に対して悔しく感じていたのだ。
こんな簡単な指示でさえ、確実に遂行できるとは言い難いキングヘイローというウマ娘に。
この感情や悔しさは以前からも私の中にあったのだと思う。でも、はっきりと言語化して理解したのは今回が恐らく初めてのことだった。
ことレースに関して私は坂川のことを信頼している。だから彼のこの判断は正しいのだと思っている。
でも私がもっと器用なウマ娘だったらどうだろうか?
坂川が膨大な知見を持っていることに今更疑いはない。彼は多くのことを分析し考察して、最適な作戦やレースプランを組み立てられる。
もし私が器用で……あのミーティングのときのカレンモエの話から察せられるように、彼の言ったことをなんでもこなせるようなウマ娘だったら、きっと彼はこんな作戦にしたりはしないのだ。
そのことが堪らなく悔しい。彼には無数の引き出しがあるのに、それを生かすことのできない担当ウマ娘である自分が悔しい。彼だって、本当は私に対してああしろ、こうしろって沢山言いたいはずなのだ。
でも、悔しいと思ったからといって出来るようになるわけじゃないと、成長した私には分かってしまう。そのことが一層悔しさに拍車をかける。
昔は違っていた。ダービーではあの逃げのために大量のシミュレーションをして、多くの作戦パターンを提示されて頭に叩き込んだ。その作戦もそれぞれ細部の細部まで詰められた。
でも私は結果を残せなかった。ダービーは大崩れして惨敗した。それを経験したのが今の私だ。
私が彼の担当ウマ娘になり2年以上の歳月が流れた。その中で下した結論だ。尊重はするし、ありがたいとも思う。でも悔しさは拭えない。
だからせめて結果を出したい。そうすれば彼にも応えられるし、私の一流も──
──その考えを押し留める。
『さあ、フランスGⅠウマ娘アグネスワールドが日本のGⅠでも答えを出すのか。マサラッキが高松宮記念に続き今年のスプリントGⅠを独占するのか。マイネルラヴが連覇を果たすのか。それともスプリント初挑戦のブラックホークとキングヘイローが初の栄冠に輝くのか。スプリンターズステークス、GⅠのファンファーレです!』
ファンファーレと手拍子、そして歓声が聞こえてくる。
「……」
周りのウマ娘たちを見ていると、マイルチャンピオンシップの時と同じことに気づいた。
(……ここにもいないわね)
私と一緒にクラシック三冠を走ったウマ娘はここにも1人としていなかった。
(スプリントだものね……これが私の選んだ道……)
13番ゲートに向かいながら思考を戻す。
──結果で坂川に応えたいというのは間違っていない。でもその後は
──結果を出す。GⅠを勝つ。それも間違っていない。でも、
「……ふぅ……」
早めにゲートに入って深呼吸をした。
──宝塚記念のときに掴んだもの。
──それは一流についてのこと。
──まだそれはぼんやりとしているけれど、確実に手の中にある。
──多くの経験をして、色んな人と関わった。それらが一流のウマ娘について教えてくれた。
──そして何より、坂川健幸という存在が一流のウマ娘を教えてくれた。
『16人立て。GⅠウマ娘が5人。枠入り完了です。……電撃決戦スプリンターズステークス!』
余計な思考を散らした。
レースの頭へと切り替えていく。
ゲートが揺れ、けたたましい音と共に鉄扉が開いた。
『スタートッ!』