終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話 作:星野純三
魔王の、左腕。
心当たりがないこともない。
ゲームでは、魔王の復活に五百年かかった理由が、前回の大戦において魔王の五体がばらばらに引き裂かれたから、ということになっているのだ。
ばらばらに引き裂かれた。
それはつまり、比喩ではなく……。
実際に魔王の身体が切り取られ、あちこちに保管されていたからではないだろうか。
そして、それらの一部は聖遺物として、聖教の寺院で保管されていた。
それがなんであるか、きちんといい伝えが残っていたのかもしれないし、いつのまにか失伝したのかもしれない。
いずれにしろ、リアリアリアは魔王軍の狙いがそれであると知っていた様子である。
だから彼女は、シェリーを通しておれにあのとき「寺院に聖遺物あり」と伝えてきた。
時系列的に五年後のゲームにおいては、ゲーム開始時ですでに、この国は滅んでいる。
きっとトリアの聖遺物も魔王軍に奪われたのだろう。
これまでも、魔王軍はそうして奪われた魔王の身体を取り返していたのかもしれない。
魔王軍が各国を侵略する理由の一部は、それだったのかもしれない。
だとしたら……。
「聖教はなんといっているのですか」
「現在調査中、だとさ。馬鹿げた話だと思わないか」
「素直にぶちきれですわ。各国に手をまわして圧力をかけてやりますわ」
ディアスアレス王子は、さわやかに笑った。
マエリエル王女は、唇を尖らせて怒っていた。
大陸では主流の聖教とはいえ、大国が中心となって圧力をかければ無視はできないだろう。
ましてや、ことは魔王軍の根幹に関わることである。
「他国と連携、できるんですか」
「アリスちゃんの活躍のおかげで、どの国も
「なるほど、
でもあれ、国内ですら端末の増産が追いついてないんだよなあ。
リアリアリアが自前の工房で生産しているので、彼女の教えを受けた魔術師たちがブラック労働でがんばっている。
工房の拡張は急務であるが、その前に生産特化の魔術師の数がぜんぜん足りていないという。
「あ、他国の魔術師を使って端末の増産を?」
「最初から相互乗り入れが可能なシステムにする。端末の規格を統一した方が、対魔王軍では有利となるだろう。他国でもアリスの応援ができるというわけだね」
「技術が流出して、アリス以外にも
おれは魔王軍の脅威が去ったあとのことについて、いちおう懸念を示してみた。
実際のところ、そんな後のことまで考えている余裕などまるでないのだが、とはいえいまのおれは王族に仕えている、その点について指摘しないわけにはいかないのだった。
対してディアスアレス王子は笑って首を横に振る。
「それはそれで、喜ばしい」
と。
うん、おれと危機感を共有できているのは嬉しいな。
というかこのひと、ほんと優秀なんだよな……。
人の上に立つ者として、英才教育を施されてきたからなのだろうけど、ものごとの先がよくみえている。
「魔王軍相手の戦力は、いくらあっても足りることはない。先日の戦いをみた者たちの心に、そう強く刻まれたことだろう」
マリシャス・ペインとアリスの戦い、か。
あの日の夜の
彼らは、アリスの強さと、それ以上に魔族の強大さを母国に伝えてくれたことだろう。
各国がそれに対してリアクションを返してくるまでに、もうしばらく時間がかかるだろうが……。
まだ東方で安寧を貪っている国々も、そろそろ魔王軍という脅威について充分に認識してくれた頃合いである。
西方の、いままさに魔王軍の侵略を受けている国々なら、なおさらだ。
魔王軍の通り道の小国からは、アリスを派遣してくれ、という懇願がなんども来ているとのことである。
「もちろんきみが充分に休養をとった後のことだけど。アリスにはしばらく、国内で活動してもらう。とうぶんの間、他国への出張はないよ」
しかしディアスアレス王子は、おれにそう告げる。
「今回の一件で、貴族たちは肝を冷やした。アリスが離れている間にこの国が侵略を受けたらどうするんだ、ってね」
「あ、そこは保身に走るんですね」
「ずっと警鐘を鳴らしていた王家としては、忸怩たるものがありますわ。ですが実際に、戦力が足りていないと判明してしまったのです。はからずも、アリスちゃんの活躍によって」
アリスが活躍すればするほど、対魔族、対魔物におけるアリスの有用性が白日の下に晒される。
相対的に、既存戦力の価値が低下してしまう。
「アリスちゃんを摂取すればするほどアリスちゃんなしでは耐えられなくなるのですわ」
「麻薬みたいにいわないでください」
「実際にそういうことなのですから、仕方がありませんわ。これも、
そのへんは焦っても仕方がないからなあ。
そもそも、おれがアリスをやるのだって、本来は実験のひとつにすぎなかったはずだ。
もっと適正の高いやつがいると、そう思っていた。
実際には、
そのせいで後続のハードルが高くなりすぎてしまっている、というのはあるかもしれない。
そのおれだって、妹から魔力を供給されることに何年もかけて慣れていった。
もともと魔力供給適正が高い兄妹という関係で、シェリーが魔法の天才であったにもかかわらず、である。
いやこれ、改めて考えると、もともとかなりハードル高いな。
アリスの次が出てこないのも、残念ながら当然、ということなのかもしれない。
「リアリアリア様は
「戦力は低下するが、数を揃えることも必要、か。検討に値するね」
「ですわね……。特殊遊撃隊の拡充は急務ですもの」
さっそく、リアリアリアからの提案を伝える。
王子も王女も、システムで戦闘できる者がおれだけであることに強い懸念を抱いているから、この提案には乗ってくるだろう。
王国の計算外は、マリシャス・ペインなんていう大物が出てきてしまったことだ。
魔王軍の幹部なんていう一部の例外を知ってしまった。
知った以上、なんの対策もなしでいるわけにはいかない。
かといって、既存の魔王軍への対策も進めないわけにはいかない。
「アリスを大駒だけに当てるには、まず
ディアスアレス王子のいう通りだった。
トリアの戦いで、アリスは雑魚と戦い、消耗したうえでモール・ドレイク亜種、さらにはマリシャス・ペインとの連戦を強いられた。
ついでにいえば、アリスに変身する前にもアランの姿で限界まで戦っている。
いやほんと、あの日はヤバかったわ……。
あんなことがなんども続けば身体が無事で済むはずもない、というのはリアリアリアに指摘されるまでもない事実だった。
当然、王子も王女もそのことをよく承知している。
「現在開発中の、
ディアスアレス王子がいう。
あー、あの使い捨て電池みたいなやつ。
ある程度、目処がついたのかな。
「とてもじゃないが、量産、というわけにはいかないがね。試作品はすでにできている」
「おれがテストしますか?」
「いや」
王子は首を横に振った。
「それは、候補生の仕事だよ」
つまり将来のアリスの後輩、ということである。
※※※
最後にひとつ、あの夜の出来事のついでに、決めておかなければならないことがあった。
我が師匠、エリカである。
「きみの師匠については、こちらから正式に、特殊遊撃隊所属候補生の師範として迎え入れたい」
ディアスアレス王子はそう告げた。
「グリード・クロウラーを、多少なりとも傷つけてみせたのだろう? それもほかの騎士たちと同じ、数打ちの
アリスの
それが変形する武器は、いずれも対魔族、対魔物を想定した、特別に頑丈で鋭利なものとなる。
対して、一般的な騎士たちが装備する
先日の戦いでは、騎士たちの武器がリザードマンにほとんど効いていなかった。
おれが槌鉾を使うよう指示したあとは、だいぶ戦うことができるようになったが……それとて、グリード・クロウラーのような巨大な魔物相手では蟷螂の斧に等しい。
「師匠の剣は自分よりおおきな相手を想定したものですから。でも、いいんですか。武術顧問にも派閥とかあるでしょうに」
「彼らが魔王軍との実戦で役に立ったなら、また考えるがね。いまの段階で役に立ったのは、きみの師の武術だ。そうだろう?」
それは、そうだな。
王都で歯牙にもかけられなかった師匠の武術が、巡り巡って、こんなかたちになるとは……。
胸が熱くなる。
おれの師匠が、そこまで認められたことに。
おれが初めて出会った頃の師匠は、武の道について完全に諦めていた。
自分の剣は誰にも継承できず朽ちるのだと。
それがいま、こうして見事に花開こうとしているのだ。
「あー、その。師匠、けっこう難儀な性格をしているので、一応」
あのひと、この地で認められなかったコンプレックスで、こじらせてるんだよなあ。
王子たちの方で声をかけるとのことなので、いちおう、そう忠告しておく。
ディアスアレス王子は穏やかに笑ってみせた。
「仕事柄、難儀な性格の相手は慣れているよ」
「宮廷の政治は魔境ですわ。わたくしは面倒なこと全部、兄に丸投げしておりますわ」
マエリエル王女がなぜか胸を張る。
まあ、この人はどっちかというと商売の方に才能があるって話だしなあ。
「騎士たちの武器の問題も、なんとかしないといけないとは思っている。だが、いまきみに使ってもらっている
「そうなるでしょうね」
「だから、まずは対魔族、対魔物の戦術を確立したい。特殊遊撃隊所属候補生を叩き台としてね」
なるほど、そのための師匠でもあるわけか。
アリスという前例がいるとはいえ、実質、ほとんどイチからの構築となる新しい戦理、それを成し遂げるには最適の人材だと。
おれはふたりに頭を下げた。
「エリカ師匠のこと、どうかよろしくお願いします」
「おいおい、よろしくお願いされるのはこちらの方だよ」
ディアスアレス王子は首を横に振る。
「それに、アラン。きみにも頑張ってもらうことになる。休養をとれ、といったばかりで申し訳がないのだが……」
「自分に、ですか」
「正確には、きみときみの妹さんにだね。対魔族、対魔物の戦術理論、現場でいちばん詳しいのはきみたちだろう?」
おれは少し考えたすえ、うなずいた。
そうかもしれない、と。