終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第2話

 生まれて十年ほどたったとき、唐突におれの記憶が戻った。

 この世界は、あと十五年で終わる、とそのとき悟った。

 

 だって、この世界にそっくりの物語を、おれは知っていたから。

 

 終末世界の零落姫。

 人類を代表して復活した魔王と戦う、剣と魔法のファンタジーRPGだ。

 

 物語は、かなり暗い。

 

 人類は崖っぷちに追い込まれていて、魔族と魔物に虐げられた人々の悲惨な描写が続く。

 物語の終盤では、大陸そのものが破壊されてしまう。

 

 ヒロインも主人公もロクな結末を迎えない。

 鬱展開がいろいろな意味で有名になった、同人の大作エロゲだ。

 

 同人だからってスタッフが好き勝手に性癖を開放した結果、世界観は陰鬱、起きる出来事も陰鬱、出てくる女の子たちの結末も陰鬱と三拍子揃った素晴らしいゲームだった。

 

 めっちゃ抜いた。

 正直、めちゃくちゃ好きだった。

 

 でもそれはゲームだったから。

 PCを前にして遊んでいるだけだったから。

 

 こんなクソの塊みたいな世界で生きるなんて、絶対にごめんだ。

 ましてやおれが生まれた小さな町は、その所属する国ごと、物語が始まる前にすでに滅んでいた。

 

 大陸にある七つの大国のうち、ゲーム開始時に残っているのはたったひとつだけ。

 そして、そのひとつは東西に長い大陸の最東部に存在する。

 

 おれの生まれた国、ヴェルン王国は大陸の中央南側くらいに位置していて、たしか魔王軍に侵略された順番では七大国のうち四番目。

 つまりおれに残された猶予は十五年どころか、もっと少ないことになる。

 

 それに気づいてから、おれは必死になって駆けまわった。

 転生前のおれについての記憶は曖昧で、どんな仕事で生計を立てていたかは覚えていない。

 

 いつ死んだのかも覚えていない。

 でも、おぼろげながら四十代くらいまでの記憶はあった。

 

 ゲーム三昧で、趣味にお金をつぎ込んでいた日々の記憶だ。

 なので死んだとしてもその後だろう。

 

 親や兄弟姉妹、結婚の有無なんかはまったく記憶にない。

 なので実際のところ、前世のことはどうでもいい。

 

 問題は今世のことだ。

 十歳で前世の記憶が戻ったおれには、親がいた。

 

 父は王国の騎士で、あまり裕福ではなかったが、優しい人だった。

 母はつきあいのある騎士家から嫁いできた人で、肝っ玉かあちゃんという感じのふくよかな人だった。

 

 そして、妹がいた。

 五つ年下の、ちいさな妹が。

 

 いつもおれのことを「にいたん、にいたん」と呼んでついてくる、かわいい妹が。

 

 ささやかながらも幸せな家庭だった。

 しかしこのままだと、この幸せな家庭は破滅する。

 

 町は焼かれ、人は殺されるか、魔王軍の奴隷となる。

 同人エロゲだったので、そういった人々の過酷な扱いも描写されていた。

 

 父を戦死させたくなかった。

 母を、妹を、守りたかった。

 

 なによりおれ自身が死にたくなかった。

 

 なら、どうすればいいか。

 まずおれ自身が強くならなければ、と身体を鍛えた。

 

 魔法の才能は、残念ながらたいしてなかった。

 なので、覚える魔法を絞ることにした。

 

 幸いにして、この世界でどんな魔法が強いのか、どうすれば魔族や魔物と戦えるようになるか、おれにはその知識があった。

 

 ゲームの知識だ。

 でも割と、この現実となった世界においてもゲームの知識は役に立った。

 

 肉体増強の魔法(フィジカルエンチャント)

 自己変化の魔法(セルフポリモーフ)

 

 おれはそのふたつの魔法を覚えることに全力を尽くした。

 

 下級の魔族や魔物ならともかく、上級の個体と人類とでは、個体としての力の桁が違う。

 野生の猪が全長十メートルになって突進してくるのを正面から相手にしなければいけない、といえばわかってもらえるだろうか。

 

 どれだけ武器が上手く扱えても、外皮を貫けなければ意味はない。

 些細な罠など力任せに食い破られてしまう。

 

 だから、不足分は魔法で補う。

 ゲームにおける人類は、そうして対魔王軍独自の戦術を開発することで、形勢を逆転させていくのだ。

 

 そこに辿り着くまでに、膨大な犠牲を出しながら……。

 

 おれが魔法の習得に一所懸命になるのをみていた妹が「わたしも、わたしも」と勉強を始めた。

 妹は魔法の天才だった。

 

 またたく間に十二の基礎魔法をすべて習得し、それらを自在に使いこなした。

 正直、才能の差にちょっと泣いた。

 

        ※※※

 

 おれの兄としての矜持はさておき、妹が魔法において素晴らしい才能の持ち主である、という事実は光明であった。

 

 破滅の未来を避けるため、採れる手段も増えようというものだ。 

 

 ただ、その前にひとつ、妹に訊ねる必要がある。

 そのときおれは十二歳、妹のシェリーは七歳だった。

 

「シェリー、おれは魔族や魔物と戦う」

 

 妹はきょとんとして、小首をかしげた。

 親譲りのさらさらの金髪が秋の稲穂のように揺れる。

 

「魔族? 魔物?」

「もうすぐ、大陸の西端、死の渓谷で魔王が動きだす。魔族と魔物の軍勢を引き連れて、大陸中を支配するための活動を開始する」

 

 魔王。

 その存在は、この時点ではただの伝説だった。

 

 五百年前、魔王と呼ばれる魔族が現れ、魔族と魔物の軍勢を率いた。

 大陸のすべての国を戦禍に巻き込み、危うくすべての人類が支配されかけた。

 

 人々は土壇場で団結し、魔王軍を追い返す。

 そして西の果て、死の渓谷と呼ばれる地に魔王を永久に封印した。

 

 ゲーム開始から十三年前のこの世界では、そういうことになっている。

 ちなみにゲームだと魔王の正体に関する真相もあったりするんだけど、ひとまず割愛。

 

 今の人々にとって、魔王なんてもうずっと昔の伝説で、魔族や魔物も小鬼などの小型のものが各地で散発的に暴れる程度であった。

 

 各国は、七つの大国で相争い、互いの足を引っ張るのに忙しい。

 周辺の小国も、自分たちのことで手一杯である。

 

 人類は、自分たちのことだけで手一杯なのだった。

 

 そんな状況だから、妹が魔王や魔族、魔物といわれてきょとんとするのも道理であった。

 その退治をする、なんて話を大人にしたら、子どもの他愛ない空想と笑われても仕方がない。

 

 でも妹のシェリーは、澄んだ空色の瞳でおれをみあげた。

 それから、こくんとうなずいた。

 

「わかった。わたし、にいたんと魔族や魔物を退治する」

「どういうことか、わかっているのか」

 

 シェリーは首を横に振った。

 

「わからない。でも、にいたんがやるなら、シェリーもやる」

「たいへんなことなんだ」

 

 今度は、シェリーは首を縦に振った。

 

「シェリー、わかるよ。にいたんは、真面目な話をしている」

「そうだ。真面目な話だ」

「シェリーは、にいたんを信じる」

 

 胸が熱くなった。

 

 シェリーは賢い。

 たぶんおれよりもずっと賢い。

 

 その彼女が、本当に心から、おれを信じるといってくれた。

 彼女は幼いながらも、自分の言葉の意味がわかっている。

 そのうえで、おれについてくるといったのだ。

 

「辛いことがたくさんあるぞ」

「にいたんといっしょなら、へいき」

「死ぬかもしれないぞ」

「にいたんはわたしが守るから」

「ひどい目に遭うかもしれない」

「でも」

 

 シェリーは、えへらと笑った。

 うちの妹の笑顔は世界一かわいい。

 

「にいたんが、守ってくれるでしょ。いっしょに、がんばろう?」

 

 そういうことになった。

 

        ※※※

 

 ふたりで、魔族や魔物を想定した訓練をした。

 

 おれは師匠から教わった対人剣術を、試行錯誤しながら魔族や魔物と戦うためのものに改造していく。

 だが、やはりおれ程度の魔力では限界があった。

 

「わたしの魔力を、にいたんにあげられればよかったのに」

 

 シェリーのその言葉がヒントとなった。

 

 魔力の譲渡。

 ゲームでも存在する概念だ。

 

 ゲームではエッチな行為によって為されたが、別にそれだけが魔力譲渡の条件ではない。

 お互いの身体が魔力的に馴染むために、エッチな行為が便利である、というのは事実だが……。

 

 おれの場合、相手が妹なのだから、もともと流れる血は同じだ。

 ゲーム中でも双子の姉妹が自在に魔力譲渡を行っていたから、あとは馴れの問題だろう。

 

 まずは手を繋いで、妹から魔力を流してもらった。

 

 激痛で悶絶した。

 どうやらおれの身体は魔力的に脆弱すぎたらしい。

 

 それでも、あきらめずに毎日、これを続けた。

 妹は泣きそうになって、「もうやめよう?」といってきたけれど、必要なことだと説き伏せた。

 

 そのうち苦痛も減ってきた。

 おれの身体が、妹から受け取る膨大な魔力に慣れたのだ。

 

 妹から魔力を貰った状態で、肉体増強の魔法(フィジカルエンチャント)を使って大岩を殴ってみた。

 岩が粉々に粉砕された。

 

 よし、いける。

 この調子で続けていけば……。

 

 慣れると、手を繋がなくても魔力の譲渡が可能となった。

 

 これはシェリーが魔法の天才だから、というのもあるだろう。

 彼女はとても器用に魔力を操って、おれに流しこむことができるのだ。

 

 とはいえ、それだけでは限界が来るのもわかっていた。

 大型の魔物や上位の魔族の強さは、ゲームでよく知っていたから。

 

「わたしがもっと魔法を上手に使えるようになれば」

 

 そういって、シェリーは高名な魔術師の弟子となった。

 おれが十二歳、妹が七歳のときである。

 

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