終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第22話

 アリスとムルフィ、ふたりの決闘が開始された、その直後。

 アリス(おれ)が低い体勢から放った一撃をまともに浴びて、ムルフィは数十メートル吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられた。

 

 コンクリートの壁面が破砕され、少女の身体が深くめりこんでいる。

 

 観客たちが、唖然としている。

 ムルフィの相方であるテルファも、なにが起こったのかわからず呆然としていた。

 

 コメント欄でも、皆が目を剥いているのがわかる。

 下馬評を覆して、アリスがムルフィを圧倒したようにみえたからだ。

 

 開始直後の相手の隙を突いた、ただそれだけなのだが。

 なにせアリスはおっきなお兄ちゃんの相手だけじゃなくて、ちっちゃな師匠の相手もずっとしていたんだからね!

 

「あっ、あっ、圧倒的――ッ! 圧倒的な強さを発揮したアリスちゃんの一撃が、ムルフィちゃんを粉砕した――ッ!」

 

 あ、アナウンサー(おうじ)の声だ。

 いや、砕いてないよ?

 

「いったいなにが起こったのか? 解説のマリエルさん、わかりますか?」

「ええと……わたくしも魔法で視覚をかなり強化していたからかろうじてわかったのですが……」

 

 解説者のマリエルことマエリエル王女、王族級の魔力の持ち主だということを隠しもしない。

 まあ、一般の観客にはわからんだろうが……解説を聞いている貴族は、すぐそのへんのニュアンスに気づいただろうな。

 

 おれは髪についた埃を手で掃いながら、そんなことを考えた。

 

「どうやらアリスちゃんは、地面に髪がこすれるほど身を低くしてムルフィちゃんの一撃をかわすと同時に、思い切り槌鉾を叩きつけたのですわ。見事なカウンターが決まりました、これはムルフィちゃん、さすがに……」

「ムルフィ! ムルフィ、ちょっと、大丈夫!?」

 

 テルファが慌てた様子で、高飛車お嬢様の演技も忘れて叫ぶ。

 ふっ、この程度で動揺するとはまだまだだな。

 

 おれなんて、どれだけ苦戦していてもメスガキ口調を忘れなかったぞ。

 別に、素で煽っていたわけじゃないんだからね!

 

「ムルフィ、ムルフィ! しっかりして!」

「………。姉さん、うるさい」

 

 ムルフィが、よろめきながら立ち上がる。

 小柄な少女は、おれの方を睨んできた。

 

「んー、何かな、ムルフィちゃん。アリス、嫌われるようなことした? ギリギリのところでお腹に防護膜の魔法(プロテクション)を展開したのはみていたから、無事だとは思ったけど」

「別に」

「それなら、いいけどね。アリスはムルフィちゃんと仲良くやりたいんだよ。これから仲間になるんだからね」

「仲間、なんて……」

 

 ムルフィは視線をそらし、うつむく。

 姉妹の境遇については、出会ったその日のうちに、リアリアリアと共におおむね聞いていた。

 

 ミドーラの闇子。

 ミドーラという小国の王家に飼われていた一族で、代々暗部、すなわちスパイ活動や暗殺に携わっていた人々のことであるらしい。

 

 姉妹はその末裔であり、幼少期から魔力リンクと禁術を学んでいた、将来のエリート暗殺者候補であった。

 ふたりは洗脳に近い方法で英才教育をほどこされていたという。

 

 しかし、その里は魔王軍に焼き払われた。

 姉妹はたまたま生き残り、里長の最後の言葉を頼りに旅をした。

 

 遠い昔、自分たちに禁術を授けた大魔術師リアリアリアを捜索せよ。

 彼女の力を借りて、一族の再興を果たせ、と。

 

 三年近くかけて、とうとうこの王都にたどり着いた姉妹は、リアリアリアと接触する方法を探しているうちに、人攫いたちに目をつけられ……たまたま、おれたちに出会った。

 

 姉のディラーチャがそう語る間、妹のムリムラーチャは黙ってそんな姉をみていたことを思い出す。

 話そのものにも、ようやく会えたリアリアリアにも興味がない、といった様子で。

 

「わたしには、姉さんさえいればいい」

「ちょっと、ムルフィ?」

 

 テルファが驚きの声をあげる。

 

「本当は、別に一族のことなんて、どうでもいい」

「ムルフィ! あなた、そんな……」

「魔王軍から逃げ続けて、旅を続けて、人を頼って、そのたびに姉さんが傷つけられて……わたしは、このままじゃ姉さんが死んでしまわないか心配だった」

 

 おれはゲームでのムリムラーチャを知っている。

 放浪の旅のすえ、彼女の姉は、人によって殺された。

 

 ムリムラーチャをかばっての行動であったという。

 ゲーム内での具体的な言及はなかったが、おそらく姉の彼女が禁術を使ったのだろう。

 

 ゲームでの変わり果てた彼女と目の前の少女が、一本の線で繋がったような気がした。

 彼女はただ、姉がいればよかったのだ。

 

 ゲームではその姉を奪った人類の敵にまわった。

 そして今、目の前にいる少女は、姉が望む役割を果たすことだけを考えている。

 

「大丈夫だよ、姉さん」

 

 そのとき、だった。

 壁面のそばにいたムルフィの姿が、ふっと消える。

 

 次の瞬間、彼女はアリスの横にいた。

 横殴りの一撃を、アリス(おれ)は飛び退って回避する。

 

「姉さんが願うなら、わたしは勝つから」

「あははっ、そうだね! 決闘は本気でやらないとね! でもアリス相手に接近したのはミスじゃないかな?」

「近い方が当てやすい」

 

 ムルフィは数歩の距離で左手を突き出した。

 掌から十発以上の光弾が同時に発射される。

 

魔弾の魔法(マジックミサイル)、そんなにたくさん!?」

「姉さんの魔力リンクのおかげ」

 

 魔弾の魔法(マジックミサイル)で発射される光弾の数と威力は、使用者が込める魔力で変化する。

 なるほど、魔力リンクと相性のいい魔法だ。

 

 アリスもそういう魔法が使えたら、戦い方のバリエーションが増えたんだけどね……。

 残念ながら、おれにはそういう才能がからっきしないのであった。

 

 アリス(おれ)は一瞬だけ肉体増強(フィジカルエンチャント)の倍率をあげて、己に迫る光弾を紙一重でかい潜り、ムルフィとの距離を詰める。

 接近して槌鉾を振るうも、これはムルフィの小ぶりな剣に弾かれた。

 

 アリス(おれ)の体勢が崩れたところに、また魔弾の魔法(マジックミサイル)が来る。

 これはさすがにすべてを回避することはできず、一発の光弾が肩に突き刺さった。

 

 低く呻いて、いったん距離をとる。

 正解だったようで、ムルフィは小ぶりな剣を槍に変化させて、一瞬前までアリスがいた場所を薙ぎ払っていた。

 

「こ、これは! 今度はアリスちゃんに一撃がヒットぉぉぉっ! お互い、一ポイントずつゲットです! 互角! 両者まったく互角の攻防!」

「え、待って待って、いまのも一本なの!? アリスぜんぜん効いてないよ!!」

「アリス選手、抗議していますが認められません。これは往生際が悪いですね、解説のマリエルさん」

「怒っているアリスちゃんも可愛いですね。わたくしアリスちゃんにぷんぷん怒られたいですわー」

 

 おいマエリエル王女、素が出てるぞ。

 しっかし、あの程度の威力でもヒットはヒット、か。

 

 これ、軽い魔法を連打できるムルフィの方が圧倒的に有利じゃないか?

 くそっ、今更ながら、ルールでハメられたことに気づいたぜ……。

 

 

:ムルフィちゃん、つっよ

:アリスちゃん、かなり不利じゃない?

:しょせん、螺旋詠唱(スパチャ)がないとこの程度

:今度からムルフィちゃんに螺旋詠唱(スパチャ)します

:いや、ふたりとも仲間だろ

:両方に螺旋詠唱(スパチャ)しろ

:決闘とかいってるけど、ただの練習試合

:三万の観客入れて練習試合もなにもないんだよなあ

 

 

 闘技場の観客席から歓声が響く。

 アリスを、ムルフィを応援する声が聞こえてくる。

 

 結果的に、ムルフィという新戦力をアピールする場になるなら、それはそれでいいのだろうが……。

 

「兄さん」

 

 耳もとで、囁くようなシェルの声。

 おれにだけ聞こえるように、魔法を使っているのだろう。

 

「まだ病みあがりなんだし、別に負けてもいいんじゃない?」

 

 それは、おれの身体を心配しての言葉なのだろう。

 だがおれは、無言で首を横に振った。

 

 今回、別におれが負けてもなんのペナルティもない。

 姉妹が得をするだけだ。

 

 とはいえ、テルファとムルフィに戦う理由があるように、こっちにだってプライドがある。

 アリスとして、魔王軍と戦ってきたプライドが。

 

 王国放送(ヴィジョン)システムでアイドルとして螺旋詠唱(スパイラルチャント)を獲得し続けてきたプライドが。

 人々の期待を一身に背負ってきたプライドがあるのだ。

 

「いちおう申し上げておきますと、腕などでガードしていればヒット判定にはなりませんわーっ」

「なるほど、肩に当たったからヒット判定、ということですね」

 

 解説者(おうじょ)アナウンサー(おうじ)がヒットの条件を丁寧に説明してくれる。

 

 なるほど、ね。

 それなら……。

 

 おれは武器を短剣に変化させると、ムルフィに向かって突進する。

 ムルフィはまた光弾を十発以上放ってくる。

 

 おれは迫る光弾を正面から迎え撃った。

 短剣を数度、振るう。

 

 おれに直撃する光弾だけを切り裂き、破砕する。

 光弾が爆発し、衝撃波がおれの身を打つが……これはヒット判定にならないだろう。

 

 痛みはある。

 だが、構わない。

 

 勢いを殺さず、まっすぐムルフィに突っ込んでいく。

 ムルフィは目をおおきく見開いて、驚いていた。

 

 おれが避けると思ったのだろう。

 

 回避する時間で次の手を打つつもりだったのだろう。

 ここまで強引な手に出てくるとは思わなかったのだろう。

 

 でもな、先にルールを利用して有効打を与えてきたのはそっちだ。

 こっちだって、今回のルールを利用させてもらう。

 

 大人げない?

 アリスはまだ十二歳なんだよ、お兄ちゃんお姉ちゃん!

 

「ちょっ、止まって!」

「アリスは急に止まらないっ」

 

 慌てたムルフィが、今度は突き出した左手から広範囲に炎を放つ。

 おれはこの炎も、短剣で切り裂いた。

 

 顔が、腕が余波の炎で焼かれる。

 だがヒット判定にならないなら知ったことか。

 

 構わず突進する。

 

 炎を抜けた先に、無防備なムルフィの姿があった。

 少女は慌てて槍でおれを突き刺そうとするが……。

 

 おれは武器を剣に変化させ、その一打を打ち払う。

 体勢を崩したムルフィ。

 

 おれはそこに剣を振るおうとして……。

 

「来た」

 

 耳もとで、シェルの囁き声。

 次の瞬間、おれの後ろとムルフィの後ろで、派手な爆発が起こった。

 

 そう、シェルが浮かんでいた場所と、テルファが立っていた場所で。

 魔力リンクが切れる。

 

「なっ、なにが起こったっ! 今の爆発はなんだ!? 騎士団、警備はどうした!」

「今、連絡を入れて……ちょっと、連絡不能ってどういうことですの!」

 

 アナウンサー(おうじ)解説者(おうじょ)が叫んでいる。

 役割を忘れ、取り乱しているようだった。

 

 気配を感じて、おれはムルフィの手をとるとその場から飛び退る。

 アリスとムルフィが立っていた地面が爆発し、派手な土煙があがった。

 

「襲撃だ!」

 

 誰かが、叫ぶ。

 その言葉とほぼ同時に、上空から高笑いが聞こえてきた。

 

「他愛もない」

 

 みあげれば、青い肌の大柄な魔族が、いつの間にかそこに浮いていた。

 身の丈は三メートル近く。

 

「われら真種(トゥルース)の作戦を妨げる者がいると聞いたが、所詮は脆弱な下等種どもの浅知恵か。補助する者を潰せば、ひねりつぶすのはわれにとって造作もないこと」

 

 背にコウモリのような翼を持ち、四本の腕を組んで、にたにたと笑っている。

 三つの目が、傲岸不遜におれたちを見下ろしていた。

 

王家狩り(クラウンハンター)……っ」

 

 ムルフィがその魔族をみあげて、唸るように叫ぶ。

 

「あれが?」

「ん。里を襲った魔族」

「そう、あいつがムルファちゃんたちの仇……」

 

 そうか、そういうことなら。

 

「ちょうどいいね!」

 

 アリス(おれ)は、にやりとする。

 

「なにを笑う? いま、おまえの妹がわれに潰されたのであるぞ?」

「そっちこそ、なにをいってるのかな、青い肌のお兄ちゃん。アリスの妹は、さっきからそこでピンピンしているよ?」

 

 おれが指さした先には、観客席がある。

 観客席の一番前列に座るフードの少女が、顔を晒した。

 

 銀の髪が流れる。

 

「え、シェル……ちゃん? どうして観客席(ここ)に?」

 

 周囲の観客が、驚きの声をあげて目を瞠る。

 

「じゃ、じゃあ、さっき爆発したのは……?」

「最初から、幻なんです」

 

 シェルは周囲の観客たちにそう告げて、ふわりと浮いた。

 観客席の最前列に着地する。

 

「サポーターが、ああして誰でも狙えるところにいれば、不埒なことを考える人が狙ってくるだろう、って」

 

 シェルが近くの座席をみる。

 数メートル隣の席に座っていた女が、やはりフードをとって顔を晒す。

 

 燃えるように赤い髪の少女だった。

 テルファだ。

 

「おーっほっほ! つまりこの決闘は、馬鹿な奴をつり出す餌だったわけですわ!」

 

 テルファもまた、いったん浮いてシェルの隣に降り立った。

 もちろん彼女も、さっきまであそこから己の幻影を闘技場に投射していたのである。

 

「さて、騙されて釣り出された魔族のざこざこお兄ちゃん」

 

 アリス(おれ)は笑う。

 

「なにか遺言はある?」

 

 

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