終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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投稿したつもりになっていた


第29話

 おれは、ディラーチャとムリムラーチャの王都での案内を任されることになった。

 シェリーもついてきたそうだったが、彼女はこれから、ディラーチャたちの採ってきた新バージョンの王国放送(ヴィジョン)システムのデータ分析をしなければならないらしい。

 

「兄さん、いい? へんなお店にふたりを連れていっちゃ駄目だからね?」

 

 と念を押された。

 

 へんな店って、どんな店だろう。

 まさかこのふたりを連れていかがわしい店に行くわけもなし。

 

 あー、アリスのブロマイドを配っている喫茶店とかはへんな店かもしれない。

 この前、あの店の前を通りがかったら、テルファとムルフィのポスターが店の前にでかでかと貼ってあったな。

 

「心配しなくても、ちょっとばかり派手なお金の使い方を覚えさせるだけだよ」

「派手な使い方?」

 

 きょとんと首をかしげる我が妹。

 かわいい。

 

「金銭感覚を壊して、いまの生活から抜けられなくなるようにするわけさ」

「な、なんで?」

「ずっとテルファとムルフィとして頑張ってもらわないとな! ちゃんと殿下たちの許可ももらってるぞ!」

「うわあ」

 

 どん引きされた。

 傷つくなあ。

 

        ※※※

 

 というわけで、「ディラーチャとムリムラーチャの金銭感覚を壊す作戦」が決行された。

 

 資金は王子たちから出ている。

 いくら豪遊しても大丈夫だ。

 

 決行時刻は、王子たちと面会した次の日、お昼のちょっと前。

 おれはディラーチャとムリムラーチャを連れて、馬車でリアリアリアの屋敷を出た。

 

「アラン、わたしたちをきちんとエスコートできますか?」

 

 とディラーチャは最初、やたら偉そうな態度だったが……。

 

 まずは腹を満たすべく、予約した店に向かう。

 場所は、師匠のときも使った料理店だ。

 

 店の前に馬車が止まる。

 降りたふたりは、料理店の立派な門構えをみたとたん、ぴしりと固まってしまった。

 

「ちょ、ちょっとお待ちください。わたしたち、このような高級店に入ったことがありませんわ。マナーなどなにもわかりません」

「ん、それに、服もいつもの……」

「マナーが要求されるような店じゃないし、いつもの服で問題ない。個室を予約してるから、細かいことを気にする必要はないよ」

「こ、個室ですって!?」

 

 ためらうふたりを無視して出迎えにきた店員に挨拶すると、馬車のことは御者に任せて、店の門をくぐる。

 二階のいつもの部屋に案内された。

 

 丸いテーブルの中央に料理を出すためのエレベーターがある部屋だ。

 

「ここなら防諜を気にせず話ができる。今後も、そういう話をするときはこういう店を使ってくれ、と殿下からいわれてるよ」

「こ、これ、りょ、料理の名前?」

 

 ムリムラーチャがメニューを手に震えている。

 うん、おれも高級料理の名前なんてよく知らないから、いつも適当だよ。

 

「ね、値段が書いてないのですが……」

 

 そりゃ時価だよ。

 

「あ、今日はコースを頼んである。きみたちがここを利用して、もし払えないなら、遠慮なくツケておいてくれればいいから」

「いいから、じゃないわ!」

「慣れてくれ」

「わたしたち、三年間も泥水をすするような生活だったのよ!」

「今後はそんな生活をする必要がない、というわけだ。遠慮なく堪能して欲しい」

 

 彼女たちは他国への諜報や暗殺のために育てられていたという。

 それなりに、一般的な知識は叩きこまれているはずだ。

 

 だからといって、それがしっかりと身についているとは限らない。

 里からほとんど出ることもなく、実践前の段階で里が壊滅してしまったらしいし。

 

 そんな田舎から出てきた彼女たちに、とびきりうまい料理を浴びせてシャブ漬けにする。

 完璧な作戦だ。

 

 そのはず、だったのだが……。

 出てきた豪勢な料理、牛より高級な魔物の肉を切り分けて口に運んだふたりは、ちょっと微妙な顔をする。

 

「おいしい、ですけど」

「ん、まあまあ」

 

 あれー? とおれは首をかしげて、はたと気づいた。

 

「ディラ姉、味付けが薄い?」

「ソースをもっとかけましょうか、ムリム」

 

 あ、こいつら貧乏舌なんだ。

 まあこれまでの経緯を考えれば仕方がないよな……。

 

 それならそれで、と濃厚なソースをたっぷりつけた料理を頼んでみた。

 こっちは上機嫌で舌鼓を打ってくれて、内心ほっとする。

 

 ちなみに料理を頼む際は、おれだと魔力が足りなくて店の無線を使えないため、彼女たちにボタンを押してもらう。

 案内しておいて情けないな……と思うけど、こればかりは仕方がない。

 

「おかわりするか」

「ん、する」

「アラン、いろいろと気をつかって頂いて、ありがとうございます」

 

 デザートの甘いケーキもぺろりとたいらげたあと。

 ディラーチャは改めて、おれに頭を下げた。

 

「最初に食べた料理も、いま食べた甘い菓子も、わたしたちには知らないことだらけなのですね」

「知らないことは、少しずつ知っていけばいい。これから、任務の間に、いくらでも。おれたちが守るのは、こういうものだってことをきみたちに知っておいて欲しいんだ」

「ん……わたしたちが王家狩り(クラウンハンター)に勝てなければ、この味もなくなっていた、ということ?」

 

 ムリムラーチャが、デザートのプリンの三杯目をぱくつきながら訊ねてくる。

 おれはうなずいた。

 

「でも、きみたちはアリスといっしょに、それを守った。だからそのプリンも、これからいくらでも食べられる」

「食い貯め、しないと……」

「しなくてもだいじょうぶだから! あとで他の甘味処に寄ってもいいんだからな!」

 

 食い意地の張ったムリムラーチャをみて、ディラーチャが「そうですね。今日たくさん食べなければ明日死ぬ、ということはないのですね」とため息をついている。

 ちょくちょく重いなあ、このふたり。

 

「それにしても、アランは女性が寄るようなお店に詳しいのですか」

「妹とふたりで出歩くと、あちこち寄るからな」

 

 加えてシェリーが最近、喫茶店でサービスしているアリスとシェルのグッズを集めているから、というのは黙っておく。

 

「アランは本当に、妹思いですね」

「あいつのおかげで、こうしていい思いをさせてもらっているよ」

 

 おれの公的な身分は騎士見習いで、妹であるシェリーの護衛だ。

 そして、シェリーはリアリアリアの一番弟子という将来有望極まりない立場にいる。

 

 はた目には、若き天才魔術師であるシェリーのおかげで羽振りがいい兄にみえることだろう。

 実際に、そう振る舞っているしね。

 

 おれのことを軽くみて、侮ってくれる方が、いろいろ都合がいいのだ。

 そういう人が相手ならたやすく本心を聞きだせるし、こっちとしても遠慮なく対処できる。

 

 ところが、この姉妹にはその手が効かないようだった。

 

「アランは、えらい」

 

 ムリムラーチャは立ち上がっておれのそばに寄ると、表情を変えず、よしよしとおれの頭を撫でた。

 

「えらい、えらい」

「な、なんだ」

「ご褒美」

 

 ディラーチャが、おれの頭を撫でるムリムラーチャをみて、ふふっ、と笑う。

 

「里での同世代で、一時期、流行ったのです。何組もいた兄弟姉妹のペアで、弟や妹はいつも兄や姉にかばわれます。ですがそれでは兄や姉ばかりすり減ってしまう。誰かがそういい出して、ならば弟や妹が、がんばった兄や姉の頭を撫でて、よしよし、をしましょうと」

「な、なるほどな……」

「そんな彼らも年を経るごとに減っていき、生き残ったのはわたしたちだけですが……」

 

 だからあんたらの過去は重いんだよ!

 

「シェリーは、本当に良い兄に恵まれましたね」

 

 まあ、いいか、と。

 おれはムリムラーチャに撫でられ続けた。

 

        ※※※

 

 食後は、徒歩で商区をぶらついた。

 ふたりは王都でも貧民区以外ほとんど訪れていなかったようで、人通りが多くにぎやかな商区のストリートに興味津々であった。

 

 業者や老人だけでなく、若いカップルや子連れの女性なども多くみられる。

 通りの店は多くがガラス窓で、洒落た内装が丸見えになっていて、そこを訪れる人々の様子までみてとれた。

 

「皆が、武器も持たずに歩いているのですね」

 

 ディラーチャの言葉に、彼女たちがこれまで訪れた場所との致命的な治安の差が感じられる。

 

「誰も警戒してない」

 

 ムリムラーチャも不思議そうにしている。

 

「通り魔も追い剥ぎもいない?」

「いないよ。商区全体がある程度は魔法で監視されているからね」

「それは感じてる。あそこ、とか」

 

 ムリムラーチャは一軒の商店の屋根をみあげた。

 彼女の視線の先には、一匹の鳩がいる。

 

 うん、あの鳩、たぶん街警の使い魔だな。

 この姉妹が暴れた事件とそのあとの王家狩り(クラウンハンター)襲撃事件を受けて、使い魔の数を増やしたとは聞いていた。

 

「それじゃ、服を買おうか」

「えっと、ドレス、とか?」

「いや、普段着だよ。ふたりとも、いま着ているのは屋敷の人に用意されたものだよね。自分で好きな服を選びたいだろ」

 

 姉妹は互いに顔を見合わせたあと、首を横に振った。

 

「別にいらないわ」

「ん、これで機能は充分」

「機能とかの話じゃないんだよなあ」

 

 周囲を見渡せば、着飾った少女たちの姿はいくらでもある。

 

「ああいうのを着ているのが、この商区に溶け込む秘訣だ」

「なるほど、溶け込む……重要ですね」

「それが任務なら」

 

 このふたりの生い立ち的に効きそうな言葉を適当に並べたら、速攻で納得された。

 きみたち、いちいち闇が深いんだよ……。

 

「でも、ああいう服は高いと聞きます」

「有名店で買いそろえても、魔術師の研究費に比べれば吹けば飛ぶような少額だよ」

「それは、単に魔術師が金食い虫なのでは?」

 

 そうだよ。

 同時にこの国でいちばんお金を生み出しているのも魔術師なんだけど。

 

 この世界における魔法、おれの前世における科学だからね。

 空を飛ぶのも活版印刷も冷蔵庫も、魔法の力で解決してしまった。

 

 いや、解決、じゃないんだけど。

 魔法の力は科学ほど量産が効かないから。

 

 加えて技術が失伝しやすい。

 未だに一子相伝の特殊な魔法なんかがたくさんあったりする。

 

 服なんかも、魔法による特殊な染色技術があるとか聞いた。

 魔法によって編まれた糸を使った服なんかもある。

 

 そういう服をつくる技術は一部の組織で秘匿されていて、だからかなりお高い。

 国によっては、技術そのものを国家で囲い込んでいるとか。

 

 魔法で特殊な糸を編んだ防弾チョッキみたいな防具とか、完全に軍事技術だからね。

 そりゃ秘匿する。

 

「ま、とにかく、服を買うのは決定事項。お店も予約してきたから、いってみよう」

 

 まだ渋るふたりの背中を押して、おれはストリートをずんずん進んだ。

 

        ※※※

 

 その日は結局、姉妹の服を三着ずつ購入しあと、喫茶店で甘味をたっぷり食べさせ、ついでにディナーでもしこたま料理を詰め込ませた。

 

 数日に渡って、そういった生活を続けた結果。

 あまりにも遠慮なく甘味を食べ続けたムリムラーチャの身体が、少し丸くなった。

 

「動きが、鈍い」

 

 稽古を再開した彼女が、あまりにも悪い身体のキレに呆然とすることになる。

 それからムリムラーチャは、屋敷でもお菓子をみると親の仇のように睨んだあと、未練たらたらに手にとることを拒否してしばらくダイエットに務めた。

 

「戦士に脂肪は禁物なんだよなあ」

 

 とは、遠慮なくムリムラーチャの目の前でクッキーをかじる師匠の言葉であった。

 

 師匠はいくら食べても、ほんと太らないんだよなあ。

 というかそもそも背が……。

 

 おっと、殺気が。

 くわばら、くわばら。

 

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