終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第38話

 セウィチアでの騒動の数日後。

 おれとシェリーのふたりは飛行魔法で、慌ただしくヴェルン王国の王都に帰還した。

 

 エステル王女たちはセウィチアでいろいろ行事をこなして、三十日後くらいに戻る予定である。

 もちろん、メリルアリルもだ。

 

 いつもの王都郊外の屋敷にて、報告の際。

 改めてディアスアレス王子とマエリエル王女から謝罪を受けた。

 

「結果的に、メリルアリル嬢にはスケープゴートとなって貰うしかなかった。申し訳ない」

「すべては魔王軍を倒すまで、でしょう。その日が一日も早く来るように、頑張りますよ」

 

 そう、アリスの秘密が重要なのは、魔王軍への切り札がそれだからだ。

 正直、アリス以上の戦力が台頭してくれれば、それでもうおれなんかお役御免、なんだけども……。

 

 現状、なかなか難しいんだよなあ。

 師匠が後輩を鍛えてくれているらしいけど、そちらもアリスとムルフィのレベルにはほど遠いという。

 

「今後について考える前に、ひとまず休んでください。三日、休暇を与えます。本当はもっと休んで欲しいのですが、いろいろ予定が詰まっていましてね……」

「今後の予定、ですか?」

「セウィチアでの夜の作戦は極秘、アリスの最後の活躍は握手会での一件になります。早急に、アリスが元気であることをアピールする必要があるのです」

 

 ああ、それはそうだ。

 他国での強襲作戦だったし、あれ明らかに別の国の騎士たちが守りについていたもんな。

 

 政治的に微妙すぎて、大々的に広報するわけにはいかない。

 かといって、アリスの健在は人々は示す必要がある。

 

「詳細については、今、父とも交渉しています。なにも問題がなければ、セウィチアで水着ダンスコンサートをして貰うつもりだったんですけどねえ」

「その予定が消えたのだけは、本当によかったですね」

 

 ふざけんな、聞いてないぞ。

 というか歌もダンスもさっぱりだぞ。

 

「拙い歌とダンスを披露することで、セウィチアの民がアリスをより身近に感じることができるのです」

「ええ……。それに、なんで水着……」

「我が国には海がありませんし、きみが水泳が得意と聞いて、これは、と思ったのですよ」

 

 なにが、これは、だ。

 いい迷惑である。

 

 いや、広告塔になることは、ある程度受け入れてるけどさあ。

 ものには限度というものがあるだろ、限度というものが。

 

シェル(わたし)もアリスお姉ちゃんといっしょに水着を着たかったよ、兄さん」

 

 妹よ、ややっこしいいい方をするな。

 

「うふふ、シェリーちゃんは自分でシェルの水着のデザインもして、ノリノリでしたわー」

 

 い、いつの間に。

 ブルータス(シェリー)、おまえもグルだったか。

 

「だってアリスちゃんったら、こんなときでもないと脱いでくれないのですわーっ」

「そもそも脱ぐ必要がありません」

「パンツは見せますのに」

「あれ見せパンですから」

「水着も見せるものでは?」

 

 あれ、そうかも。

 だったら問題ない……のか?

 

 いやそもそも、なんで水着でアピールしなきゃいけないんだ?

 わからない……おれにはなにもわからない……。

 

 

        ※※※

 

 

 報告を終えて、リアリアリア様の屋敷に戻る。

 シェリーは屋敷の主人である彼女の師匠リアリアリアの部屋へ報告に行った。

 

 今回のことで、部分接続に関するデータもだいぶ集まった。

 システムのアップデート関連でも、話し合うことが多いのだという。

 

 そういうわけでシェリーはどうしても手放せない仕事が詰まっているため、休暇はおれひとり、ということになりそうだった。

 

 あいつには申し訳ないが、とはいえ……。

 おれも、少しばかり疲れている、かもしれない。

 

 セウィチアではいろいろあった。

 考える時間が欲しい。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、師匠とばったり再会した。

 鍛錬の後なのか、全身で汗をかいていて、それをタオルで拭いながら中庭から歩いてきたところであった。

 

「よう、大変だったらしいな」

「ええ、まあ」

「少し汗を流すか」

 

 師匠はおれの顔をみて、さっきまで彼女がいた中庭を指さした。

 

「でも師匠、疲れてませんか?」

「あたしに意見するなんざ、三十年早い」

 

 というわけで、おれは中庭で師匠と組み手をすることとなった。

 夕暮れ時である。

 

 基本の型から順番に、手合わせをする。

 夢中で身体を動かす。

 

 もう、この国もだいぶ暑くなってきた。

 汗がとめどもなくしたたり落ちる。

 

 組み手のスピードが次第にあがっていく。

 頭のなかが真っ白になる。

 

 そうして、いつしか。

 日が落ちて、月が昇っていた。

 

「ここまでにしておくか」

 

 師匠が動きを止める。

 おれは精根尽き果てて、地面に仰向けに倒れた。

 

 都市の明かりのせいで、空に浮かぶ星の数はそんなに多くない。

 王都は特に、街灯の数が多い。

 

 月が昇ってくる。

 悔しいな、と思った。

 

 上手くいっているようで、肝心なところで失敗している。

 大切に思った人を、守ることができなかった。

 

 身のまわりの人々だけでも守るために、幼いころから修行に打ち込んだのに。

 それだけじゃ足りなくて、妹も巻き込んで、リアリアリア様を巻き込んで、王族まで巻き込んで――。

 

 おれにできることなんて、たかが知れている。

 だからたくさんの人を巻き込んで、螺旋詠唱(スパチャ)を貰う。

 

 でも巻き込む人が増えるほど、守りたい人も増えていく。

 どこを間違えたんだろうか。

 

 乾いた風が中庭を吹き抜けて、汗まみれのおれの身体を冷やす。

 

「せいぜい悩め、青年」

 

 はたして、師匠は寝転んだままのおれの内心をどう思ったか、師匠はおれをみおろし、けけけ、と笑った。

 ちなみに丈の短い、運動の邪魔にならないズボンを履いているから、みえちゃいけないものがみえることはない。

 

「師匠、性格が悪くないですか」

「おめーさんはなにも考えず動いて上手くいくタイプじゃねーからな。悩み抜いて自分なりの結論を出して、それで初めて十全の力を出せるタイプだろ」

「おれに詳しいつもりですか」

「一番弟子のことだ、少しはわかるさ」

 

 一番弟子以外、最近まで真面目な弟子なんてほとんどいなかったくせに。

 むすっとして睨むと、またおれが考えることがわかったのか、師匠は右の靴を脱いで素足になると、おれの額をその足でえりゃっ、えりゃっと踏んだ。

 

 一部の人にとってはご褒美かもしれないが、おれは別に嬉しくない。

 いらっとする。

 

 手を伸ばして師匠の右足を捕まえようとした。

 師匠はその手をするっとかわすと、足首のひねりだけを利用しておれの身体を持ち上げ、えいやっ、と上に蹴る。

 

 おれの身体が宙を舞う。

 うわっ、達人。

 

 そういや師匠、こういう相手の力を利用する技の専門家だもんな……。

 とか、空中で考えた。

 

 落下する。

 地面に手をつき衝撃を殺して、着地して一回転、衝撃を殺す。

 

 顔をあげたところで、鼻先に師匠の右足がぴたりと当たった。

 

「参りました」

「よしよし、素直でよろしい」

「弟子を弄んで楽しいですか」

「すっげえ楽しい。新しい弟子たちが素直すぎてなあ。おめーさんみたいにひねくれたのが懐かしいよ」

 

 師匠のいまの弟子、とは特殊遊撃隊所属候補生たちのことだ。

 かなりの勢いでしごきあげていると聞く。

 

 師匠が教えられるのは、生物としての格が上の相手から身を守るための技術だ。

 

 子どもが大人を相手に身を守る技術。

 か弱い女性が男性を相手に身を守る技術。

 

 そして、ヒトが魔物や魔族を相手に身を守る技術である。

 それはつまり、今の特殊遊撃隊所属候補生に足りないものすべて、ということだった。

 

 ちなみにおれが会った五組十人以外に二軍の十組二十人も加わって、いまはなんと三十人の弟子を教えているという。

 おれの弟弟子、妹弟子も一気に増えたものである。

 

「つーか師匠、また強くなってませんか?」

「そりゃ、まだまだ一対一でおめーに負けるわけにはいかねーからな」

「トシ考えてくださいよ、トシ」

「ぶっ飛ばす」

 

 足先で、ちょこんと額を蹴られた。

 おれの身体は後ろにのけぞって、そのまま一回転して、地面に背中から落ちた。

 

 かろうじて受け身をとれた。

 いったいなにをされたのか、よくわからない。

 

「師匠、足先になんか魔法込めました?」

「おうっ、リアリアリア様に教えていただいたやつでな、えーと、慣性にスピンを与える魔法、だっけな? けっこう便利だぞ」

 

 よくわからん。

 おれは前世からベクトルとか角運動量とか行列とかサインとかコサインとかが苦手なんだ。

 

「それ使いこなせるの、師匠だけじゃないっすかね……」

 

 いや、どうだろう。

 おれがふと思い出すのは、先日、地下で戦った、大剣二刀流の騎士だ。

 

 アウエスの狂犬、だっけか。

 アリスの螺旋詠唱(スパチャ)によるごり押しが効かなかった、厄介な相手。

 

 こんご、ああいう奴がまた出てきたら、かなり苦戦させられるだろう。

 でも、いま師匠が使った魔法みたいなのを駆使すればどうだろう。

 

 いまの魔法をおれが習得できれば……おれが使えなくても、なにか魔導具に込められれば……。

 魔法を使った接近戦って、奥が深い。

 

 そうだ、まだまだ、やれることはある。

 アリス(おれ)には先がある。

 

 ぐっと拳を握った。

 上半身を持ち上げる。

 

「おー、やる気が出てきたじゃねーか」

「はい。師匠のおかげです。とりあえずその魔法について、もっと詳しく教えてくれますか」

「もちろんだ。っていっても、だいたいはリアリアリア様の受け売りだけどな。あたしはちょっと応用しただけだ」

「そこで、すぐ応用できるのがすごいんですよ……」

 

 師匠から話を聞きながら、考えた。

 

 これからのことを。

 おれがどうすればいいのか、ということを。

 

 幸い、休暇をもらっている。

 もっと強くなれるという希望の灯を燃やす時間は、たっぷりとあった。

 

 

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