終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第47話

 意識が戻ったとき、おれはリアリアリアの屋敷にある自室のベッドの上だった。

 四肢は動くものの、起き上がろうとしたら猛烈な倦怠感が襲ってくる。

 

 すぐ屋敷のメイドがやってきて、あれから二十日以上経っていることを告げた。

 身体の再生だけで数日、それからしばらくシェリーがつきっきりで身体機能の維持をしてくれていたものの、先日ついに過労で倒れたとのこと。

 

「すぐ、シェリーのところに、行く」

「駄目です、あなたも絶対安静です。ご主人様から、あなたが目が醒めたら妹のところに行こうとするから交代で見張ること、絶対にベッドから出すなと仰せつかっております」

 

 さすがリアリアリア、弟子の兄の性格などお見通しということらしい。

 彼女は希代の大魔術師だ、不思議はない。

 

「我々メイドの皆が、さもありなんと納得しました。どうかご自愛を」

 

 さすが屋敷のメイドたちだ、おれのことなどお見通しということらしい。

 なんでだろう?

 

 そういうわけで、それから数日、寝たきりで過ごすこととなった。

 

 おれが起きてから数時間後には、所用で王都を離れていたというシェリーが帰宅するや否や、おれが軟禁されている部屋に乗り込んできた。

 文字通り、飛んで帰ってきたのだろう。

 

「さて、お説教です、兄さん」

「ええと、なんについて、かな」

「まずは自分の身の安全を担保にわたしを脅して、無理矢理にリミッターを解除させたことについて」

 

 あー、そういえばそんなこともあったね。

 ああしないと恐れの騎士(テラーナイト)には勝てなかったんだから、大目にみて欲しい。

 

恐れの騎士(テラーナイト)に必ず勝つ必要はなかった。あまり手札を晒さず、粘って時間を稼ぐだけでよかったはずだよ、兄さん」

「あっ、はい」

「そもそも兄さんは、いつもいつも……」

 

 あっ、これは長くなるやつだ。

 おれはベッドの上で妹のご意見を傾聴した。

 

 

        ※※※

 

 

 後日、リアリアリアが話してくれたところによれば、今回のおれは以前にも増してヤバい状態だったらしい。

 全身あちこちの骨が砕けていたうえ、魔力を流しすぎたことによる肉体増強(フィジカルエンチャント)のネガティブフィードバックもひどく、通常の回復魔法では足りずにリアリアリアが知る古代の魔法まで使用する羽目になったとか。

 

「ただ、今回のあなたの無謀については、半分くらい恐れずの魔法(レジストフィアー)の影響でもあります」

「あー、シェリーの魔法が撤退判断にも影響を与えていたってことですか」

「彼女にも伝えてありますが、こればかりは仕方がないことでした」

 

 なにせ恐れずの魔法(レジストフィアー)がなければ、そもそも戦いにならなかったから、仕方がないといえばその通りだ。

 でも。

 

 恐れずの魔法(レジストフィアー)のせいで押し引きの判断を誤り、その結果として全滅していたら……と考えると、いまになって恐怖がこみ上げてくる。

 おれの判断のミスで、全滅していたかもしれないのだ。

 

 ディラーチャやムリムラーチャ、そしてシェリーまでも。

 結果的には、最良の成果を得ることができたとはいえ……。

 

 間違えちゃいけない。

 おれは、守りたいものを守るために戦っているのだから。

 

 わかってしまえば、そのことも含めて判断の根拠にすればいいだけの話ではあるんだけど。

 

「自分の命を盾にしてリミッターの解除を迫るというのも、想定されていませんでした。これをやられたら、あなたとシェリーの関係を考えるとどうしようもない。かといって現場の判断を無碍にしたくもない。難しいところですね」

「あ、もう二度としません。めちゃくちゃ怒られて、泣かれたので」

「なるほど、シェリーの涙が、あなたにはいちばん効果的ですか」

 

 はい、効果的でございます。

 おれも多大なダメージを喰らった。

 

 恐れの騎士(テラーナイト)に全身の骨が砕かれたときより苦痛だった。

 

「わかっているのでしたら、よろしいのです。動けるようになったら、あちこちお詫びに行ってくださいね」

「あちこち、って……ディアスアレス殿下とマエリエル殿下のところには、もちろん行きますけど」

「アイシャルテテル公女殿下も、たいへん心配していらしたのですよ」

 

 あー、結局、最後まで戦えたのはあの方が魔力を供出してくれたからだもんな。

 

「アリスの姿で会いにいけばいいですかね」

「いえ、アランとしての姿で会う場をセッティングします」

「いいんですか、正体をバラして」

「彼女はもう知ったのですよ。数多ある未来のひとつに、アランとしてのあなたの姿が浮かび上がったそうです」

 

 あー、未来探知か。

 ずいぶんと特殊な魔法らしいけど……。

 

 数多ある未来のなかから、もっとも望ましい未来を手繰り寄せる力。

 でも、原作のゲームにおいては出てこなかった力だ。

 

 先日も、公女を運んでいる最中に、なんどかその力で助けられている。

 とはいえ彼女いわく、そう便利な力ではないらしい。

 

 詳しい話を聞いておきたいところだ。

 というか、アリスの正体がアランであることまで知ってしまうの、だいぶヤバい力じゃないだろうか。

 

 ヤバいからこそ、ヴェルン王国が全力で確保に走ったんだろうな。

 虎の子のおれたちをまとめて失う危険まで冒して。

 

 公国の側も、自分たちのすべてを犠牲にしてでも彼女に未来を託した。

 それが、公国の血を後の世に残す唯一の道だと信じて。

 

 あんなちいさな子に、まだ十歳の少女の双肩に、とんでもなく重いものが次々とのしかかってきている。

 そのことを知らなければ、きっとおれはなにも感じずにいられた。

 

 でもおれは知ってしまった。

 知ってしまった、からには……。

 

「また、守りたいものが増えたなあ」

 

 深いため息をついた。

 

 

        ※※※

 

 

 ディラーチャとムリムラーチャは、現在、各国を飛びまわり、対魔王軍同盟の予備段階としての、王国放送(ヴィジョン)システムを用いての魔物狩り巡業をしているという。

 本来ならアリスが赴く予定だったことだ。

 

 毎度、休暇もろくにとれない酷使状態で申し訳ないことだが、あの姉妹は、「命じられたことだけしていれば三食ご飯が食べられて、暖かい寝床を与えられて、勝手に清潔な服が出てくる、素晴らしい仕事」と真顔でいってるとのことで……。

 

 うん、今度また、たっぷりとおいしいご飯をおごってあげるな。

 おかわりもいいぞ。

 

 ってわけで、おれがベッドに拘束されている間、ほかに屋敷でフリーな人物といえば、あとひとり。

 師匠である。

 

 師匠は候補生たちの師範としての活動の合間に、こまめに見舞いにきてくれた。

 

「しかし、あれだな。おめーは目が醒めるまで怪我を全部治さない方がいいのかもしれないな」

「なんでですか、師匠」

「毎回、起きたら怪我が全治してたら、さ。おめー自分がどれだけ重傷だったかわからねーで、次もまた無茶するだろ」

 

 ソンナコトナイヨ。

 チャント、ワカッテルモン。

 

「ほらー、そうやってそっぽを向く。そんなんだからシェリーちゃんに半日も説教されるんだよ」

「シェリーがおれを心配してくれているのは、わかっているんですけどね」

「毎回、とびきりの化け物を相手に積極的に飛び込んでいく兄を持った妹はたいへんだよ、ほんと」

 

 申し訳ないという気持ちでいっぱいです。

 おれが戦わないでも敵を倒せるなら、それがいちばんなんだけど、現状それは難しいしなあ。

 

 恐れの騎士(テラーナイト)を倒せたのは七割くらいムルフィの誘爆の魔法(インドゥークション)のおかげだと思うけど、それもおれが接近戦で足止めしたからだ、というのはきっとうぬぼれではない。

 恐怖のオーラがあるから、犠牲覚悟の人海戦術も封じられていたし。

 

 王家狩り(クラウンハンター)のときだって、誘爆の魔法(インドゥークション)を喰らってくれたのは最初の一発だけ。

 あれは強力な禁術だが、充分な警戒があれば喰らわない攻撃なのだ。

 

「もっとおれが強くなれば、シェリーも安心できますかね」

「わかってねーなー。おめーが無茶をするから心配するんだよ」

「強くなれば、無茶をしなくて済みます。動けるようになったら、稽古、お願いします」

 

 師匠は深いため息をついたあと、承諾してくれた。

 

 うん、まあ。

 結局のところ、強くなるしかないのだ。

 

 

        ※※※

 

 

 というわけで、目が醒めてから三日後。

 ようやく部屋から出る許可が出たおれは、まずディアスアレス王子たちのもとへ、つまりいつもの郊外の屋敷に報告に行った。

 

 今回の報告書は、すでにシェリーたちからお城に提出されている。

 おれが王子たちと顔を合わせてするべきことは、報告書には書いていない細かいことについての質疑応答程度である。

 

 屋敷のいつもの部屋で待っていたのはディアスアレス王子とマエリエル王女、それからエステル王女と、もうひとり。

 アイシャルテテル公女であった。

 

「アラン様、ですね。あなたがアリス、わたくしを助けてくれた人。あらためて、心より感謝の言葉を。わたくしのことは、どうぞ親しみを込めてアイシャとお呼びください」

 

 十歳の公女様は、花が咲いたように笑ってみせた。

 おれが助け出したときと比べると、だいぶ顔色がいい……いやあのときはあまりにも過酷だったから、そりゃ無理もないんだけど。

 

「ええと、ひとつ聞きたいのですけど、アイシャ……殿下」

「はい、なんでもお聞きください、アラン様」

 

 あと、できれば様をつけるのはやめてくれないかな……。

 といってみたところ、「ではアラン様も、殿下、とつけるのをやめていただけますか」と返されたのでいろいろ諦める。

 

 ちいさな公女様の横で、エステル王女がにやにや笑っていた。

 てめーあとで覚えてろ。

 

 気をとり直して、話を戻す。

 

「なんでメイド服なんですか」

「エステルお姉さまによれば、罰、だそうです」

 

 アイシャ公女は、なぜかメイド服を着ていた。

 おれが指摘すると、少し恥ずかしそうに身を縮める。

 

「その……王国放送(ヴィジョン)システムのコメント欄の使い方を間違え、エステルお姉さまに恥をかかせてしまった、と……」

「恥はエステル殿下のコメントそのものですから気にしなくていいのでは」

「いい方ぁっ!」

 

 エステル殿下がおれにツッコミを入れるが、ここはあえて無視。

 どう考えても公共放送でパンツパンツいってる方が悪いでしょ。

 

「まーぼくはいいっていったんだけどねー。民の間で『パンツ殿下』って愛称が広まっちゃったことを、この子ったら気にしてたからさー。罰のひとつもあった方がいいかなって」

「エステルはもう少し気にした方がいいですわ」

 

 こんどはマエリエル王女が妹にツッコミを入れる。

 いいぞ、もっといってやれ。

 

 つーかエステル王女、パンツ殿下なんていわれてるのか、いま。

 完全に自業自得だけど。

 

「ぼくは別に、そんな気にしてないんだけどねー」

「もう少し国とか王家とかの体面とか気にしてくださいよ」

「ぼくがそのへんの体面を気にするような人間だとでも?」

 

 あっはい。

 そっすね。

 

 エステル王女以外の全員が顔をみあわせ、苦笑いする。

 この話題は切り上げよう。

 

 さて……と改めて、アイシャ公女に向き直る。

 

「おれがアリスであることを、大公家の魔法で知ったって話ですけど……具体的に、どんな未来を知ったんですか」

「それは、ええと……」

 

 公女様は、さきほど以上に頬を染めて、なぜか視線をそらした。

 うん、その反応はナニさ。

 

「未来探知、と呼ばれる魔法は、とても特殊でして……特にわたくしのそれは、常時、発動しているようなものなのです。いえ、勝手に発動するというか……」

「ああ、だからアリスで運んでいるとき、急に敵の攻撃の方向がわかったんですね」

「はい、ああ動けば避けられる、という未来がみえました。わたくしが殺される未来もみていました。複数の未来が同時にみえるのです。時にみっつ、四つ、あるいはもっと」

 

 それ、頭が混乱しないのかな。

 けっこう、使い手の方もたいへんな魔法みたいだ。

 

「すぐ先の未来だけではありません。唐突に、ずっと先の光景をみることもあります。もっとも、近年は、その……」

 

 こんどは暗い顔でうつむいてしまう。

 ああ、これはどういうことか、だいたいわかった。

 

 ろくな未来がなかったのだろう。

 なにせあの公国そのものが、魔王軍の侵攻によって詰んでいたから。

 

 ひょっとして、苗床になってる自分をなんどもみたんだろうか。

 それは辛い。

 

 だとしたら、よく正気でいられるな……。

 

「ですが二年ほど前から、そうしてみる光景の一部が変化したのです。アリスという人物によって、未来が変化したのだと、わたくしたちは理解いたしました」

 

 わたくしたち、つまりこの場合、大公家ということだろう。

 彼女の父は、そうして生まれた新しい未来にすべてを託した。

 

 きっと、その未来ですら彼女、アイシャルテテルひとりを助けることが精一杯だと知っていたに違いない。

 あとは、唯一の希望ある未来をより確実なものとするため、ほかのすべてを囮として、彼女を送り出したのだ。

 

 めちゃくちゃ残酷な魔法だな、これ。

 未来がみえるということは、そのなかでもっともマシなものを選ぶしかない、ということでもあるのだから。

 

 それにしても……気になるのは、二年ほど前になって未来が変化した、ということ。

 これって、いったい。

 

「未来が変わるなんてこと、これまでにあったんですか」

「なんどか、あったと聞きます。ですがたいていは、小事でありました。そもそも、あまり先の未来については霞がかかったようによくみえないものなのです。そうであったとしても、いまから数か月後の未来はすべて、絶望しかありませんでした。これまでは」

「それが、変わった」

「はい。いくつかの未来において、わたくしはこの国で、あなたを応援して、魔力を送っておりました」

 

 なるほど、その未来がみえたから、公国は彼女にすべてを託すことができた、と。

 ここまでは納得がいく話だ、が。

 

「それでは、アリスがおれだという件も、その未来のなかで?」

 

 そう訊ねたところ、公女様は、顔を真っ赤にして告げる。

 

「は、はい。わたくしが、その……裸で、あなたに抱かれている場面のなかで……」

 

 なんて?

 

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