終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第74話

 死の暴君(デスタイラント)

 それが、間もなくおれたちに襲来する六魔衆の名だ。

 

 もちろん、人類が勝手につけた名前である。

 あまりにも理不尽で傍若無人なそのありさまから、全長二十メートルにも届く五本首の竜は、そう名づけられた。

 

 こいつは、戦場での目撃例がない。

 ひどく気まぐれに、前線より少し奥に単独で浸透し、町を、砦を、破壊し尽くしては去っていくのだ。

 

 いちど、こんなことがあった。

 死の暴君(デスタイラント)が、いつものように単独で町を襲う際、聖教本部から派遣された精鋭とかち合ったのである。

 

 聖教はこれを好機と判断。

 その総力でもって死の暴君(デスタイラント)を包囲、討伐を試みた。

 

 彼らの勇敢な試みは、あえなく失敗した。

 聖教本部の精鋭は、この戦いで戦力の七割を喪失し、以後、組織的な抵抗が不可能となった。

 

 幸いなのは、このとき聖教本部の最精鋭たる聖僧騎士には被害がなかったことだろう。

 死の暴君(デスタイラント)との戦いに参加した五人の聖僧騎士は、ほかの仲間の献身によって、その全員がかろうじて逃げ延びた。

 

 今回、その彼らが雪辱戦を挑むかと思ったのだが……。

 どうやら聖僧騎士たちを指揮する者は、冷静に彼我の戦力比を計算した様子である。

 

 出撃した六人の聖僧騎士は、死の暴君(デスタイラント)を避けた。

 こちらに迫るもう一体の六魔衆である大いなる女王(エルダークイーン)の方を足止めするとのことである。

 

 おれとしても、死の暴君(デスタイラント)を相手にするのだけは勘弁、って感じなんだけどね……。

 なにせやつは、ゲームにおいても六魔衆で最強を誇り、加えて対多数の戦いに長けた相手なのだから。

 

 全長二十メートルの巨体でありながら、五本の首がそれぞれに動き、噛みついたり、尻尾でなぎ払ったり……。

 あるいはブレスを放ったりしてくるのだ。

 

 具体的には通常攻撃が全体攻撃で、二、三回攻撃くらいある。

 紙装甲のアリスにとっては、まさに天敵といってもいいだろう。

 

 

:敵は、くだんの物から放射される魔力を感知できる様子だ

 

 

 ディアスアレス王子が告げる。

 視聴者を意識して、くだんの物、の具体的な名称には触れない様子だ。

 

 

:我らの勝利条件は、くだんの物を封印の櫃に納め、誰とも知れぬ場所まで移送すること

:封印の櫃については、聖教本部より間もなくこの近くに搬送される予定ですわ

 

 

 マエリエル王女が補足を入れてくる。

 王城に詰めているこのふたりは、この短い間にあちこちと連絡をとりあい、細かい手続きや各所との調整をしてくれたに違いない。

 

 

:つまり、きみたちが死の暴君(デスタイラント)を倒す必要はないわけだ

:時間を稼いでください、健闘を祈っております

 

 

 時間を稼ぐだけの簡単な仕事。

 そうはいっても。

 

 くだんの物、つまり魔王の首を持っているリアリアリアがそれを無事、封印の櫃に納めるまで、呑気に相手が待ってくれているはずもない。

 少なくとも、死の暴君(デスタイラント)をおれたちで押さえつけ、邪魔させないようにして……。

 

 リアリアリアが離脱するだけの時間を稼ぐ必要がある、ということだ。

 

「エネス、あなたは部下と共に公都へ。わかりますね」

「ですが、リアリアリアさま……」

 

 エネス王女は、自分も戦うつもりだったのか、リアリアリアの指示に抵抗を示す。

 この会話が放送に乗らないよう、リアリアリアが指示して、カメラがおれとブルームを中心に映していた。

 

「消耗したあなたと第零では、六魔衆を相手に、足止めすらできません。ほかの者たちも実力が足りません。あなた方が公都の避難に尽力してくれる方が、よほど助かることですよ」

「かしこまりましたわ」

 

 理性では、それがよくわかっているのだろう。

 エネス王女は不承不承、といった様子でうなずいた。

 

「我々は離脱いたします。みなさん、どうかご無事で。エステル、アイシャ。あなた方も共に参りますよ」

「へいへーい。まっ、ぼくはもう魔力切れだからね」

「あの、わたくしは、まだいささか余裕がありますが……」

「アイシャはこんな危険な場所で端末を触るより、安全なところから魔力を送るべきでしょ。それができるのが王国放送(ヴィジョン)システムなんだから」

 

 その通りだ。

 今回は森が結界で覆われ、内外での通信が不可能だったからこそ彼女たちに危険を冒してもらったが……。

 

 安全なところから、危険な前線に魔力を送るシステム。

 それが本来の王国放送(ヴィジョン)システムである。

 

 特に、魔力量は膨大なものの戦闘力に欠ける王族たちの魔力を、前線の兵士が利用することができるというのが、とてつもなくおおきい。

 エネス王女のように戦闘が得意な者もいるけれど……。

 

 その彼女とて、専門で鍛えに鍛えた騎士や魔術師に比べれば、武芸では一歩も二歩も劣る。

 

 以前、おれや一般的な騎士の魔力を百として、シェリーがおよそ二千、リアリアリアが三千という話をしたと思うが……。

 この国の王族は、エステル王女でも優に一万を越えるのである。

 

 ちなみにアイシャ公女は特に魔力量がおおきく、数値にすると十万近いらしい。

 ほかにも二、三万クラスがごろごろいるというのが、品種改良を重ねに重ねた、この大陸の王族というものであった。

 

 この資源を無駄にすることなく、適切なかたちに変換して戦力化する。

 王国放送(ヴィジョン)システムの神髄とは、その点にあるのだった。

 

「アリスさま、ではせめて、これを」

 

 アイシャ公女は赤と青の指輪をはずし、おれに手渡してくる。

 おれはそのうち、バリアを張ることができる青い方だけを受けとり、右手の中指にはめた。

 

「ありがとう。こっちだけ、受けとっておくね。左手には回転制御(スピンコントロール)の指輪があるから」

「はい。――ご無事で」

 

 

:おっと、これは公女殿下からアリスちゃんへの婚約指輪かぁ?

:ロリとロリの婚約、いい

:こんな状況なのに、呑気なやつらがいるな……

 

 

 コメント欄で騒いでる奴らがいる。

 うちの王子たちはホントさぁ……。

 

 

        ※※※

 

 

 エネス王女たちと別れたあと。

 おれ、シェル、リアリアリア、ブルームの四人は、森の出口に近いあたりで立ち止まる。

 

 適宜送られてくるコメントによれば、敵はリアリアリアのいる位置を正確に把握し、間もなく到着するとのことであった。

 

「戦いの場を整えるといたしましょう」

 

 リアリアリアが小杖(ワンド)を振る。

 周囲の木々が虹色に輝き、景色が変化した。

 

 周囲の森が、一瞬で平原となる。

 続いて平原のあちこちから、象でも隠れることができそうな鋭くとがった大岩が、ぼこぼこと生えてきた。

 

 岩はみるみる高く成長し、高さ二十メートルを越える。

 斜めになった巨大ビルのようだな、と思った。

 

 それが無数に、周囲の空間に乱立する。

 よくみれば、その表面は黒く輝き、ただの岩石ではないようだった。

 

 ああ、これは、つまり……。

 怪獣映画で都心を舞台に防衛隊が活躍するようなシチュエーションをつくったってことか。

 

「破竜鉱、と呼ばれる鉱石です。竜のブレスから身を守る程度の遮蔽にはなりましょう」

 

 はたして、このフィールドをまたたく間につくりあげたリアリアリアは冷静に語る。

 

「無論、死の暴君(デスタイラント)の巨体にのしかかられれば砕ける程度のもの、頼りにするには、いささか心もとないものですが……」

「ううん、アリスにとってはとっても助かるよ!」

「吾輩にとっても、こちらの方が都合がよろしいですな」

 

 紙装甲で機動力頼りのおれに配慮しての、地形変更だろう。

 ブルームも歓迎してくれている。

 

 間もなく到着するであろうムルフィの場合、射線が遮られてしまってやりにくいかもしれないが……それはそれ、と考えておこう。

 そうして、待つことしばし。

 

 それが、やってきた。

 破壊の権化が。

 

 頭上に影が差す。

 間髪入れず、なにか巨大なものが落下してきた。

 

 大地が揺れ、立っていられなくなる。

 おれを除く皆が飛翔し、そして……。

 

 瞬時に暴風が吹き荒れた。

 ブルームをはじめとした皆が吹き飛ばされる。

 

「ちょっ、まっ」

 

 近くの破竜鉱の大岩が粉々に砕け、破片がおれを襲う。

 慌てて地面に着地し、即座に身を低くしたおれは、右手を突き出し、青の指輪からバリアを張った。

 

 がんっ、がんっ、と指輪のバリアにおおきな石がぶつかる音が響く。

 ひえー、こんなものが頭に当たったら、ただじゃ済まないぞ。

 

 おれ以外は、まあ自前のバリアでなんとかできるだろうけど……。

 風が吹き止む。

 

 おそるおそる顔をあげた。

 破竜鉱の大岩でつくられた障害物がことごとく消え、まっさらな平原が広がっていた。

 

「え――っ」

 

 百メートルほど先の平原に、丘が生まれている。

 いや、まるで丘のように巨大な存在がそこに立ち、周囲を睥睨しているのだ。

 

 四本足で、巨大な蜥蜴のような鱗だらけの胴体と太く長い尻尾を持った、全長二十メートルの巨体である。

 二対四枚でコウモリのような漆黒の翼が、ゆっくりと折りたたまれる。

 

 その上に繋がる首は五つに分かれ、それぞれの首の上に爬虫類の頭部があった。

 それぞれの首が、まるで蛇のようにうねり――一。

 

「死を」

 

 五つ首の竜、死の暴君(デスタイラント)

 その五対十個の真紅の瞳が、おれを睨んだ。

 

「授けよう」

 

 中央の頭が、爬虫類の口を動かしてそう告げた。

 五つの首が、一斉に空気を吸い込む。

 

 まずい、来る。

 おれは慌てて立ち上がるが、しかし――。

 

 五つの口から一斉に吐き出された炎はあまりにも広範囲に広がり、おれとおれの周囲数十メートルを飲み込もうとしていた。

 いまからでは逃げる場所がない。

 

 バリアを張ったところで、酸欠で死ぬ。

 確実な死が迫るなか――。

 

 平原から、ふたたび無数の岩石が隆起した。

 一瞬で、さきほどの破竜鉱のビルディングが再生する。

 

 炎が大岩に衝突して、弾かれた。

 

「このように、ある程度は自在に岩を操ることが可能なのです」

 

 背後でリアリアリアの声がする。

 いやいやいやいや、心臓に悪いからそういうの最初にいってくれ。

 

 

:あっぶなっ

:いまのマジでやばかった

:逃げ場なかったね、絶対にもう駄目だと思った

 

 

「わたしは場を整えることに専念いたします。アリス、ブルーム、攻撃は任せましたよ」

「おっけー、任せてっ」

「ふむ、腕が鳴りますな」

 

 ブルームが大岩のビルディングに飛び込む。

 おれも少し遅れて、それに続いた。

 

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