終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

8 / 84
第8話

 グリード・クロウラーの相手を師匠に任せることにする。

 

 おれは二階建ての建物の屋根から、倒れた少女のそばの地面に着地した。

 少女がさきほどの吸引(バキューム)から逃げようとして、転んだ姿をみていたのである。

 

「大丈夫か」

 

 抱え起こせば、その子は昔の知り合いだった。

 まあ、あまりおおきくないこの町で、同年代から少し下くらいはだいたい知り合いなのだけれど。

 

「アラン……お兄ちゃん?」

「久しぶり。走れるか」

 

 靴屋の娘で、今は十六歳のはずだ。

 器用な子だった、という記憶がある。

 

 おれは剣の訓練や肉体増強(フィジカルエンチャント)の訓練で靴底がすぐすり減ってしまっていたから、当時見習いとして親を手伝っていた彼女に、よく靴を修理してもらったものである。

 

 口癖のように「アランお兄ちゃんはがんばり屋さんなんだね」といってくれていた。

 おれが自分とシェリーの魔法を比べて落ち込んでいたとき、「でもアランお兄ちゃんには、シェリーちゃんにはできないことができるでしょう?」と励ましてくれた。

 

 そんな彼女が、立ち上がろうとして、肩を押さえて顔をしかめる。

 よくみれば、瓦礫の欠片が彼女の左腕に突き刺さっていた。

 血が服に赤黒い染みをつくり、それがじわりと広がっていく。

 

「待っていろ、すぐ止血を……」

「これくらい、たいしたことないから」

 

 彼女はおれの言葉を遮り、首を横に振った。

 

 後ろを振り返る。

 かつて彼女の家があったところは、今やグリード・クロウラーの巨体に潰されて、ただ瓦礫が残るだけになってしまっていた。

 

「父さん、母さん」

「ふたりは、あそこに?」

 

 少女はうなずく。

 

 彼女の両親が生き残っている可能性は、万が一にもなかった。

 それくらい、無残な破壊の爪痕だけが残っていた。

 

「お客さんから預かった靴を持っていかないと、って……」

「そうか」

「アランお兄ちゃん、町を守って」

 

 おれは「わかった」といって、彼女から離れた。

 

「ひとりで逃げられるな。領主様のお屋敷に行くんだ」

「うん。戦えない人は、邪魔にならないようにしろ、だよね」

「そうだ。避難の心得、よく覚えていたな」

「アランお兄ちゃんに教わったことは、忘れないよ」

 

 親を失った少女は丘の上に駆けていく。

 それを背に、おれはグリード・クロウラーをみあげる。

 

 己を傷つけられたことに激怒しているのか、魔物はいっそう暴れまわっていた。

 

 師匠がその注意を引きながら逃げ続けている間に、騎士たちが矢を射かけている。

 しかし、やはりほとんど効いていない。

 

 無理もない、彼らの装備は、人が人と戦うためのものだからだ。

 師匠の大剣でも、かすり傷をつけられる程度だ。

 

 ほかの国々も同じである。

 人類はこの五百年、人が人と戦うための技術を磨いてきた。

 だが、魔王軍にはこの技術が通じない。

 

 人が魔族や魔物と戦うための技術が必要だった。

 その技術を四百年以上渡って研究していたのが、リアリアリアだ。

 

 人の脆弱な肉体ではその強靱さに対抗できない。

 だから、肉体増強(フィジカルエンチャント)で極限まで肉体を強化する。

 

 その際、一般的な魔術師では不足する魔力を、螺旋詠唱(スパイラルチャント)で補う。

 そのために、王国放送(ヴィジョン)システムのネットワークを構築する。

 

 ただし、今のおれではこのシステムを利用することができない。

 螺旋詠唱(スパイラルチャント)を展開するための魔法はシェリーしか使えないし、王国放送(ヴィジョン)システムの使用は事前に予約し、王都側で相応の準備をする必要がある。

 

「穴からなにか出てくるぞ!」

 

 誰かが叫ぶ。

 みればグリード・クロウラーの開け穴から、何体もの人型の生き物がよじ登ってきていた。

 

 燃え上がる家々の炎に照らされて、緑の鱗がテカテカと輝いている。

 顔まで鱗に覆われた、二足歩行する蜥蜴のような化け物。

 

 リザードマンと呼ばれる魔族だ。

 その全員が、粗末な槍を握っている。

 

 みる限り、ざっと二十体ほどか。

 リザードマンたちは奇声をあげて、騎士たちに襲いかかる。

 

 騎士たちは弓を捨て、抜刀して対抗する。

 だが彼らが振り降ろす剣は、リザードマンの分厚い鱗に弾かれてしまう。

 

 リザードマンたちの槍が騎士を襲う。

 騎士たちはかろうじてその攻撃を凌いでいるが、いつまで保つかわかったものではなかった。

 

「てめぇらにまで、好きにさせるかよっ」

 

 おれは小杖(ワンド)を剣に変化させ、握り直す。

 騎士たちに襲いかかるリザードマン部隊の横あいから突撃した。

 

 すれ違いざま、二体を始末する。

 相手がこちらを振り返る隙に、もう一体。

 

 おれの小杖(ワンド)はリアリアリアから貰った特別製で、変化先の武器は魔族や魔物を屠るためのものだ。

 その切れ味も、頑丈さも、騎士たちが使うものとは一線を画す。

 

「アラン、帰ってきたのか! 助かる!」

肉体増強(フィジカルエンチャント)して鈍器で殴ってください! こいつらの鱗を貫こうとは考えないで!」

 

 おれのアドバイスに、騎士たちはすぐ頭を切り替えた。

 

 まずは隊長格の男が、手にした剣を魔法で槌鉾に変化させ、力の限りに振りかぶって、リザードマンの脳天に叩きつける。

 これにはたまらず、リザードマンは地面に倒れ伏し、動かなくなる。

 

 それをみていた騎士たちも、奮起した。

 

 小杖(ワンド)を剣にしていた者たちはそれを槌鉾にしてリザードマンを殴る。

 普通の剣を使っていた者たちは、それを援護したり剣の柄で殴りかかったり。

 

 普通なら、それでも数で勝り膂力でも勝る相手だ、苦戦は免れないだろう。

 だがいまは、おれがリザードマンたちの横から切り込み、敵はまともに陣形を組むこともできなくなっている。

 

 これほどの反撃を受けるとは思ってもいなかったのだろう、騎士たちの反撃に対してリザードマンたちは踏みとどまることができず、じりじりと後退した。

 

 ついにはリザードマン部隊の後方の一部が、臆病風に吹かれて背中を向け、逃げ出してしまう。

 

 そうなると、あとは脆かった。

 雪崩のように、逃走が連鎖する。

 

 リザードマンたちは丘の下の方へ、我先へと逃げていく。

 

「追え! 逃がすな! 奴らを放置しては民が危険だ!」

 

 騎士たちは、そのリザードマンを追いかけていく。

 そんな彼らが、ちらりとグリード・クロウラーの方をみる。

 

 師匠は、未だたったひとりでグリード・クロウラーと戦っていた。

 おれは騎士たちにうなずく。

 

「ここはおれと師匠で」

「わかった、アラン! エリカ殿を頼むぞ!」

 

 騎士たちが去っていく。

 さて、と。

 

 おれは小杖(ワンド)の剣を槍に変化させる。

 おれの身の丈の三倍以上ある長い槍だ。

 

「師匠、そろそろ息切れですか?」

「ばっきゃろー、もうとっくにいっぱいいっぱいだってぇの!」

 

 師匠は縦横無尽に建物の屋根から屋根に跳び移りながら、グリード・クロウラーの攻撃を避け続けていた。

 たまに反撃するも、その表皮を浅く切り裂ける程度だ。

 

 師匠は、あのリザードマン程度なら、二十体まとめてだって瞬殺できる実力がある。

 それは弟子のおれが保証できる。

 

 しかしグリード・クロウラーは、別格だった。

 まず、生半可な武器では傷つけることすら難しい。

 

 だから、弱点を突くしかない。

 

「師匠!」

「応!」

 

 互いに声かけ、ひとつ。

 それだけで充分だった。

 

 師匠が地面に降りて、グリード・クロウラーを引きずりまわす。

 わざわざ地上を走っているのは、グリード・クロウラーに頭を下げさせるためだ。

 

 つまり、おれが狙いやすいように。

 おれは、側面を向いたグリード・クロウラーに向かって駆け出す。

 

 時間をかけていては、おれの魔力が尽きる。

 一撃で勝負をつけるしかない。

 

 速度は数歩で最大となる。

 おれは、天高く跳躍する。

 

 グリード・クロウラーの口の端が緑色に輝く。

 師匠に向かって吸引(バキューム)を発動しようとしていた。

 

 俺は槍を構え、グリード・クロウラーに対して、横合いから身体ごとぶつかっていく。

 吸引(バキューム)が発動する直前に、緑の光がひときわ強い、口の上の突起部に槍の穂先を突き刺す。

 

 すさまじい爆発が起こった。

 おれの身体は吹き飛ばされ、木の葉のように宙を舞う。

 

 爆風のなか、目を細めて、魔物の姿をみる。

 突起部どころか口全体がおおきく砕け、その身が地面に倒れ伏すところだった。

 

「よくやった、弟子っ!」

 

 師匠が叫ぶ。

 

 とはいえ、おれもしたたかにやられた。

 今の一撃で、魔力はからっけつだ。

 

 長槍が消え、小杖(ワンド)に戻る。

 もう魔法は使えない。

 

 このまま地面に叩きつけられたら、ただでは済まないな。

 消えかける意識で、そんなことを思う。

 

 でも、あの子の両親の仇はとれた。

 

「兄さんっ!」

 

 シェリーの声が響く。

 落下速度が急激に落ちて、身体がふわりとする。

 

 おれは足から地面に着地した。

 片膝をつく。

 

「無茶をしないで!」

 

 シェリーが空を飛んで、おれのもとへやってきていた。

 逆光で顔がみえないけれど、声だけで、彼女が泣いているのはわかった。

 

 




今日はもう一回、夜に更新します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。