終末の異世界で生き残るため、TS魔法少女となってスパチャを稼ぐことになった話   作:星野純三

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第75話

 リアリアリアが生み出した破竜鉱のビルディングを、死の暴君(デスタイラント)は首や翼、尻尾を振りまわして破壊する。

 ほんの少し前までは森だった平原にいくつもの土煙がたち、無数の大岩、小岩が散乱する。

 

 その隙に、アリス(おれ)と聖僧騎士ブルームは敵の懐に飛び込んでいた。

 

 

:ありったけの魔力を送るよ

:がんばれ、アリスちゃん!

 

 

 コメント欄が高速で流れ、中継するシェルを通じておれの身体に膨大な魔力が流れこんでくる。

 それをすべて肉体増強(フィジカルエンチャント)にまわし、おれは対魔法剣(アンチマジック・ブレード)を鱗の隙間に突き立てる。

 

 同時にブルームが、大剣を腰だめに構え、全長二十メートルの巨竜の胴体に突進する。

 ふたりの一撃は――。

 

 かんっ、と。

 ふたつの乾いた音を立てて、弾かれた。

 

 かったっ。

 堅い、堅い、めちゃくちゃ堅い。

 

 反動で、思わず対魔法剣(アンチマジック・ブレード)をとり落としそうになった。

 手がしびれる、しびれる。

 

「むう……噂に聞いた竜の鱗、これほど硬いとは」

 

 以前、七人いる聖僧騎士のうち五人が死の暴君(デスタイラント)と交戦したと聞いたことがある。

 どうやらブルームは、そのとき戦わなかった者のひとりのようだ。

 

 渾身の一撃が跳ね返されたおれとブルームは空中でくるくる回転する。

 死の暴君(デスタイラント)が、鬱陶しそうに翼を羽ばたかせた。

 

 竜の周囲に暴風が吹き荒れた。

 おれの小柄な身体が引きちぎられそうだ。

 

 慌てて自己変化の魔法(セルフポリモーフ)で生やした白い翼を羽ばたかせ、暴風域から離脱する。

 ブルームも飛行魔法でおれに続き――。

 

 五つの頭部が、離脱したおれたちを見下ろしていることに気づく。

 そのうち三つの口が、おおきく開かれた。

 

 待ち構えられていたのだ。

 地上で暴れれば上空に待避すると、完全に読まれていた。

 

 口のなかに、ちろちろと炎の舌が揺らめく。

 まずい、来る。

 

 直後、紅蓮の炎が放たれるも――。

 またも地面から隆起した破竜鉱のビルディングが、その炎を防ぐ。

 

「ナイスタイミング! さんきゅっ、リアさまっ!」

 

 おれたちは、慌ててその場から離脱する。

 さて、窮地は脱したけど……。

 

「これさぁ、どうやってダメージを与えようか?」

 

 攻撃が通じないのでは、どうしようもない。

 こちらの勝利条件が相手を倒すことではないとはいえ、傷ひとつつけられないのでは、相手は好き放題できてしまう。

 

 はたして、この状況で通じる武器とは……。

 と、視界の隅で一行のコメントが走る。

 

 

:武器はムルフィが持っていった

 

 

 ディアスアレス王子のものだった。

 そうか、あれを、か。

 

「なら、到着までの時間を稼がないとね!」

「援軍を待つのですな! しぶとい戦いであれば、吾輩にお任せあれ!!」

 

 おれとブルームは左右に分かれ、破竜鉱の大岩群を壁として別々の方角から死の暴君(デスタイラント)の脇にまわりこんだ。

 タイミングを合わせて斬り込む。

 

 死の暴君(デスタイラント)は鬱陶しそうに、またコウモリの翼をおおきく羽ばたかせた。

 竜巻が起こり、おれの軽い身体が吹き飛ばされそうになる。

 

「まったくもうっ、おんなじことばっかり!! あははっ、五つも頭があって、同じことしかできないのかな!?」

 

 おれは旋風につかの間、身を任せたあと、回転制御(スピンコントロール)で己に乗った慣性を変化させた。

 相手の生んだ竜巻を利用して加速し、宙に飛び出す。

 

 その先にあるのは、いちばん左端の首の先端、竜の頭部のひとつであった。

 紅蓮の双眸が、驚きにおおきく見開かれている。

 

「アリスのごちそうを召しあがれっ!」

 

 おれはそのおおきな眼球めがけ、手にした袋の中身をぶちまけた。

 赤い粉が飛び散り、周囲に刺激臭が漂う。

 

 竜のいちばん左の頭は、それをまともに食らい――。

 悲鳴のような咆哮をあげ、激しく身もだえした。

 

 おれは慌てて、その場を離脱する。

 

 

:うわっ、めちゃくちゃ痛そうにしてる

:というか、ごちそうは目で食べるものではない

:なにを投げたの、アリスちゃん

 

 

「さっきエステル王女が魔法で出した、濃縮トウガラシの粉」

 

 

:料理魔法を攻撃に使うな

:いや、いい機転だと思うけど……

:え、うちの娘、また新しい料理魔法を開発したの?

 

 

 最後のコメントは王様だ。

 うん、開発したらしいよ、新しい料理魔法……。

 

 あのひと、そっち方面の限定的な才能だけは溢れてるんだよなあ。

 戦場では評価されない項目ですが。

 

 死の暴君(デスタイラント)はほかの四本の首も痛覚の一部を共有しているのか、めちゃくちゃ怒り狂って無差別に暴れ始めた。

 リアリアリアが、次々と壊される破竜鉱のビルディングを片っ端から再生させている。

 

 魔力が保つのかどうか不安になってくるが……。

 大魔術師たる彼女のことだ、なにか裏技を使って、うまくやってそうだな。

 

 ビルディングから少し離れた木陰に隠れているリアリアリアの方をちらりとみた。

 平然として、暴れる巨竜をじっと眺めている。

 

 彼女には彼女なりの勝算があるのだろう。

 こうなると、ひとのことより我が身の心配だ。

 

 巨竜から離れて遮蔽をとっていれば、たいした問題はないようにみえるが……。

 

「下等種どもが、忌々しい! きさまらなど、この地ごと砕いてくれるわ!」

 

 あ、キレた。

 死の暴君(デスタイラント)は翼をはためかせ、舞い上がろうとする。

 

 上空からブレスでなにもかも燃やし尽くそうというのか。

 それをされると、ちょっとまずいかな……。

 

 と、思ったのだが。

 その翼の端で、爆発が起こる。

 

 死の暴君(デスタイラント)はホバリング中に体勢を崩し、地面に落下した。

 地響きと共に大地がおおきく揺れ、土煙が巻き上がる。

 

「あれって……っ」

 

 

誘爆の魔法(インドゥークション)の爆発だな

:来たか

 

 

 いまの魔法を行使した人物が、おれのそばの地面に着地する。

 青い髪に紅の双眸の、アリス(おれ)より少し背が高い少女だ。

 

 いったいどこから飛んできたかもわからなかったが……。

 そのかたわらには、これまたいつ現れたのか、燃えるように赤い髪の少女がいる。

 

「ムルフィちゃん! テルファちゃん!」

 

 アリスとシェルに並ぶ、ヴェルン王国のもうひとつのエースチームだ。

 

「ほーっほっほっほ、ムルフィちゃんにかかれば、こんな蜥蜴ごとき一撃でパンッ! ですわっ! パンッ!」

「ん。姉さん、油断大敵」

 

 

:間に合ったか

:ムルフィちゃん来た、これは勝つる

:高笑いありがたい、ちょうど切らしてた

:つーかいま、なんで誘爆したの?

:いつもの禁術でしょ

:いつもの禁術とかいうパワーワード

:魔族と魔物を相手に使うのはアリって聖教のお触れも出てるからセーフ

:で、なんでそれが翼に効いたの?

:あの竜は、翼を起点にした魔力で飛んでた、ってことだと思う

 

 

 なるほど、死の暴君(デスタイラント)の翼がいかに力強かろうと、それだけで全長二十メートルの巨体を宙に浮かせることはできない。

 この巨竜は、翼をはためかせることで魔法を行使していたのだ。

 

 それを知っていたのか、それともただのカンなのか。

 ムルフィは、初手で死の暴君(デスタイラント)の翼に誘爆の魔法(インドゥークション)をかけ、飛行魔法に使われるはずの膨大な魔力を暴発させてみせた。

 

 やっぱりこの姉妹、おれなんかよりよっぽど魔法について造詣が深い。

 たぶん、おれが誘爆の魔法(インドゥークション)を使えても、こういう風に応用することは考えもしなかっただろう。

 

「アリスちゃん、これを渡しておきますわーっ」

 

 おれから十歩と少しの地面に着地したテルファが、マジックバッグから、彼女の身の丈よりもおおきな大槌をとり出した。

 それをおれに手渡そうと――。

 

 して、そのあまりの重さによろめく。

 

「おっとっと……おわあっ、ちょっ、お待ちくださいですわーっ」

 

 大槌を両手で握ったまま、あっちこっちへふらふらするテルファ。

 おいおい、肉体増強(フィジカルエンチャント)くらい使えるだろうに。

 

 ムルフィが、無表情にそんな姉を眺め、「んっ」と手を伸ばして大槌を奪いとった。

 

「けっこう、重い」

「けっこうどころじゃないですわーっ! わたくしちゃんと、肉体増強(フィジカルエンチャント)を使っていましたのよーっ」

「あはは、重力大槌(グラビティ・ハンマー)螺旋詠唱(スパチャ)ある前提の武器だからね!」

 

 そう、重力大槌(グラビティ・ハンマー)

 この、おれが握るにはいささかでかすぎる武器の名だ。

 

 これこそが、王国がおれのために用意した新たな秘密兵器、そのプロトタイプであった。

 実際のところ、こいつがどこまで通用するかはわからないが……。

 

 なに、それはこれから、すぐにわかることである。

 

「本当にごくろうさまっ!」

 

 おれは素直に感謝して、ムルフィから大槌を受けとる。

 うおっ、本当に重いな……。

 

 おれの場合、常時螺旋詠唱(スパチャ)された魔力を肉体増強(フィジカルエンチャント)にまわさなきゃ、持ち上げることすらできない。

 

 でも、それでいい。

 だからこそいい。

 

 ちょうど敵に向き直ったタイミングで、死の暴君(デスタイラント)が起き上がり、激しい怒りの咆哮をあげた。

 空気がびりびりと震え、全身が怖気立つ。

 

「それじゃ、いこっかっ!」

 

 おれは重力大槌(グラビティ・ハンマー)を手に、地面を蹴った。

 肉体増強(フィジカルエンチャント)で全身を限りなく強化し、この巨大な敵に対して矢のように距離を詰める。

 

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