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「アリア君!」
遅れて、行き止まりへとやって来たルークは。
仰向けに倒れたジャックの前で息を整えているアリアを発見した。
「ルークさん……」
思わず、顔を綻ばせるアリア。
その表情を見て、ルークもホッと胸を撫で下ろした。
「やったのか?」
「ええ。ルークさんの力が無ければ、勝てませんでした」
「いや、全部君の手柄だろう? 君の冷静な判断力と分析力が無ければ、間違い無く死んでいた」
「い、いえいえいえ、そんな。ルークさんが私を庇ってくれたからこそ──」
暫く、二人の謎の譲り合いが続けられていたが。
何処からともなく吹っ飛んで来たカルザルが近くの壁に激突した事で、終わりを迎えた。
「あらあら……」
「だ、誰かは知らないが。まだ息は有るな」
「ルークさん、彼の上着のポケットを見て下さい」
「ん?」
アリアが指差す先を見てみると、衝撃で開いたポケットからライフル弾のボディが顔を覗かせていた。
ルークはアリアと顔を見合わせる。
「先程使用されたライフル弾と同じですね。……この方が、狙撃衛星のスタンドの本体で間違いなさそうです」
「しかし、既に再起不能のようだぞ? 何があったんだ?」
「分かりません。ですが、念の為です。ルークさん、彼の腰にまだ拳銃が装備されているので、外して下さい」
「ああ、そうだな。ついでに弾薬も回収しておこう」
二度も敵スタンドに襲われたからなのか、ルークは少し用心深くなっていた。
ポケットというポケットから弾丸を回収し、カルザルの腰からガンホルダーごと拳銃を回収した。
「H&K P7M13ですか。持っていた弾薬の量から推察すると、もう一つ拳銃を所持していそうですが」
「相変わらずだな、君は」
取り上げた拳銃を見てそんな台詞を真っ先に呟くアリアを見て、ルークは笑うしか無かった。
すると丁度そこへ。
「アリア様」
真上から、レンが降って来た。
スタンドで落下の衝撃を殺し、フワリとアリアの隣に着地したのだ。
「レンさん……!? では、この狙撃手は」
「はい。誠に勝手ながら、私が倒しました。不用意に交戦してしまい、誠に申し訳ありませんでした、アリア様」
深々と頭を下げるレン。
実際はアリアを守るという『命令』を忠実に果たして駆け付けているのだが。
それを敢えて説明する事もないだろうと少しズレた自己判断を下し、先ず自ら危険行為を行った事を謝罪しているのだ。
レンは、非常に面倒な思考回路をしていた。
「そんな、謝らないで下さ……」
会話の途中で、アリアは顔を歪めた。
脇腹の傷口に痛みが走ったのだ。
レンが血相を変える
「アリア様!? まさか、また酷いお怪我を!?」
「少し、脇腹を撃たれて……」
「直ぐに手当て致します」
レンは『ハーティ・レグナ』を出現させると、アリアの傷口にソッとスタンドで触れる。
細胞を分裂させた傷口は活性化でもされたかの様に、あっという間に小さくなっていき、やがて完全に塞がった。
同じように、所々の小さな傷もスタンドで触れて一つ一つ治していく。
「治療、完了致しました」
「すいません、レンさん。いつも治して頂いて、本当にありがとうございます」
「いえ。アリア様のお役に立てて、光栄に思います。これからも、私の力を存分にお役立て下さい」
「……っ」
抑揚の無いレンの機械的な返答に、アリアは少しだけ寂しそうな顔をした。
それにルークが気が付く。
レンは見た所、アリアと同い年ぐらいだ。
何故アリアがあんな寂しそうな顔をしたのか、容易に想像は出来る。
「なぁレン、ちょっと──」
「ルーク様もお怪我をされている御様子。今、治療を施しますのでお待ち頂けますか?」
「ん? あ、ああ……」
上手く言葉を被せられ、曖昧に返事を返すルーク。
レンは恭しくアリアへと一礼をした後、此方へ近寄ってきた。
そしてスタンドを出現させると共に、アリアへ気付かれぬように、自らの唇の前で人差し指を立てるのだ。
静かに。
そう言っている。
「なぁ、一体どういうつもりなんだ?」
なので、ルークは小声でレンに話し掛けた。
アリアは今、一応敵のスタンド使いを見張っているようだ。
「線引きが露骨過ぎるぞ。あれじゃあ、アリア君も……」
「分かっています」
傷を探し、治療を施しながらレンが一言そう言った。
「アリア様が、私に使用人以外の繋がりを求めている事。ちゃんと、分かっています」
普段は無機質に近い彼女の瞳が、この時ばかりはとても寂しそうに潤んでいて。
ハッキリと、レンの表情に悲しみが滲み出ていた。
「でも、私には必要なんです。『命令』で繋がれた今のこの関係性が。変化の無い距離を保て、愛想も要らない。それが私にとって、唯一『安心』出来る居場所なんです。『命令』は『安心』なんです」
「君は……」
言い掛けて、ルークは言葉を飲み込んだ。
治療を終えたレンが離れてしまった事も有る。
既にレンは、普段の平然とした表情に戻っていて。
『命令』に対して一切妥協しない態度を主であるアリアへと見せ付けているのだ。
今の関係性を保つ事が、今の二人にとっての『真実』であるのか。
それを知る方法が、圧倒的に無い。
このまま見守る事が今の自分に出来る最善なのではないかと、ルークは己の心へと言い聞かせる事にした。
「何はともあれ。君達が倒した敵については、スピードワゴン財団に引き渡そう。有力な情報が得られそうだ」
まとめて倒れているジャックとカルザルを見下ろし、携帯で連絡を入れたルーク。
今日の所は引き上げようか、とアリアへ提案しようと振り返ると。
「……。」
アリアは頬を赤らめながら、落ち着かない様子で肩や脇の辺りを仕切りに擦っていた。
本人は隠れてやっているつもりなのだろうが、隣のレンも少し不思議そうに見ている。
なので、代わりにルークが聞いてみた。
「……何、やってるんだ?」
「えっ!? あ、いえ。どうぞお気になさらず」
「お怪我を?」
「い、いえ。怪我ではないのです。……ただ、少し神経質な、女性特有の悩みと言いますか……」
少し狼狽した様子で顔を赤くし、的を得ないあやふやな返答をモジモジとするアリア。
何故か、ルークからは視線を反らしている。
「先程の磁力のスタンド能力で引っ張られた時に、それはそれはもう色々なモノが引き寄せられていたようでして……。例えば、そう。この辺りに身に付けているモノだったり? するワケで。今、微妙に、その、位置的なモノ? が、結構敏感に気になってしまっているみたい、です」
「……ああ」
優秀なレンは両の手を打って合わせ、アリアの車椅子を押し始めた。
そしてルークに見えない様に十字路の角へと連れて行く。
「直ぐに終わると思いますので、ルーク様はそちらでお待ち下さい」
「ごめんなさい、ルークさん」
そう言って二人は、何やらごそごそやっている。
気にしてはいけないようだ。
もうすっかり日が暮れて、辺りは暗くなり始めていた。
結局、今日一番の進展が敵のスタンド使い二人を再起不能にした事ぐらいだ。
しかもこれで、敵側には明確に此方の目的がバレてしまっただろう。
まだスピードワゴン財団は敵の目的も不明瞭なままだというのに。
恐らく少女達を監禁している事も、計画の一部でしかない。
今後奴等の目的の為に使われるのだろう。
彼女達の命も大切なのだが、何よりその犠牲の先に辿り着く結果は、確実に災厄を呼ぶ暗雲だ。
そうなる前に、今度は先手を打ちたい。
防戦一方では進展が無いのは当然である。
「ルークさん、お待たせしました」
丁度そこへ、アリアとレンが合流した。
彼女達はこの街で信頼出来る、優れたスタンド使いだ。
しかしこのまま、彼女達の力を闘いに利用して良いのだろうか。
もっと、年頃の少女らしい日々を過ごさせるべきではないだろうか。
そうすればきっと、アリアとレンの関係性にも変化が訪れる筈である。
(……っ、今さら迷うな! アリアと一緒に事件を解決して、彼女を納得させて連れて行くんだ!)
拳を握り締めて俯くルークだったが、懐の携帯電話が鳴動を始めたのを受けて、我に返る。
電話だった。
番号から、スピードワゴン財団からだと分かる。
「俺だ」
『ルークさんですね。先日頂いた画像の男ですが、身元が判明しました』
電話の相手は若い男の声だった。
「っ!? 本当か!?」
『ええ。落ち着いて聞いて下さい。画像の男は、ルークさんが今居る街。つまりはエベールで、暮らしています。しかも働いているんです。大学で事務員として』
「働いている……!?」
『エベール女学院大学。医療系の学部がある大学です。そこの事務員です。名前はフラン・アベルト。住所は南中央区カールアル通り前に有るマンションの702号室です』
「分かった、直ぐに調べる!」
『……あ、それともう一つだけ。非常に重要な出来事です。先日ルークさんから引き渡されたディードという男ですが、殺されました。つい先程の事です』
「っ!? どういう事だ!?」
『分かりません。厳重な警備のもと、閉じ込めていたらしいのですが。昼に用意した食事に手が付けられていなかった事を不審に思い、職員が中を確認すると……。首が捻じ切られた死体だけが発見されたそうです』
「マジかよ……」
『我々にはスタンド能力が無いので何とも言えませんが。あの警備の中で密室にいる標的を的確に狙って殺す事は、人間には到底不可能です』
「ああ、俺もそう思うよ。少なくとも、財団の他のスタンド使いが到着するまでは絶対に部屋には入るな。冷却するなりして、出来るだけ現場を保管し、安全な距離から見張るんだ」
『分かりました。そちらもお気を付けて。では』
電話を切り、無言のまま携帯をポケットに入れたルーク。
有力過ぎる追跡可能な手掛かりがようやく見付かって、本来なら喜ぶべき所なのだが。
裏で起こった不気味な殺しへの不安感が、それを半減させた。
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お読み下さり有り難う御座いました。