ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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『アルク・ブラック』

 ◆

 

 

 

 すっかり薄暗くなった袋小路で。

 レンは月明かりを頼りに一人、メールを開いていた。

 近くには再起不能になった敵が倒れてはいるが、スタンドで死なない程度には治療はしてある。

 

『分かってるってば、レンちゃん。取り付いてる私のスタンドはバッチリ会話も聞いてるし、状況はさっきのメールで確認した。お嬢の判断は正しいよ。そこにスピードワゴン財団が到着するまで、レンちゃんを見張りとして置いておく判断も含めてね』

 

 レンは無言でメールを返信し、フェンネルの返事を待った。

 直ぐにメールが届いた。

 

『ミリィなら、もう寝るとか言って仕事放棄して部屋に入ってるよ。レンちゃんに言われた通り、お嬢がルークと大学に向かった事はメールで伝えてあるけどさ』

 

 その一文を見ると、レンはつい穏やかに笑みを溢した。

 そしてフェンネルへ「分かりました、ご苦労様。貴女はそのまま、マンションの方へ向かって下さい」と返信する。

 月を仰ぎ、レンは静かにスピードワゴン財団の到着を待つ事にした。

 

(頼みましたよ。フェンネル、ミリィ……)

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「何とか、間に合ったな」

 

「大学行きのバスはこれで最後だったようですね」

 

 二十時四十五分。

 エベール女学院大学前と表記されたバス停に、二人は降りた。

 アリアは搭乗する際はルークが抱えて乗り込み、幽霊の車椅子は小さくしてポケットに仕舞った。

 運転手には少々奇妙に映った二人組であったが、特に何を聞かれるワケでもなく。

 そのまま大学前まで乗って行く事が出来た。

 

 降りたのはアリアとルークの二人だけ。

 それもその筈。

 既に校舎の明かりは一階の一部分を残して落とされており、月明かりと青い静けさに包まれているのだから。

 

 学生なら講義のある昼間に入るし、強盗ならモノ好きしか入らない。

 つまりは、例え開門されてはいても、こんな時間に訪ねる一般人はいないという事だ。

 

 二人は堂々と正面から敷地内に入り。

 これまた大胆に警備室へと向かった。

 ルークが窓口に立ち、呼び鈴を押して警備員がやって来るのを待つ。

 

 当然だが校舎は施錠されている為、中に入るには警備室横に有る専用の扉から入らなくてはならない。

 バスの中で大学の情報を集めたが、大学は主に三棟に別れていて、今二人がいるのは中央棟の前。

 元々建っていた旧棟を取り壊して三年前に建て直したらしい。

 事務室は、左手に建つ実習棟の一階にあるようだ。

 

「はい。どう……されました?」

 

 アクリルの板越しに、警備員の男が不思議そうに話し掛けて来た。

 ルークは受付けの壁を殴りながら警備員を睨む。

 

「フラン・アベルトはまだいるか? ここの事務室で働いている筈だ」

 

「……失礼ですが、どちら様ですか? アポイントメントって知ってます? 厄介事なら困るんですが」

 

 もう一人の警備員が、受話器を取って耳に当てている。

 

「はぁ!? 九時までに来いってあれだけ脅してやったってのに! つまり奴はまだ、事務室で残業なんて決め込んでやがるのか!?」

 

 ルークは警備員に怒鳴った後、アリアに視線を送る。

 するとアリアは短く頷き、ルークの隣に自走して来た。

 

「あのクソ野郎、俺の妹に手を出した挙げ句に金まで要求しやがって! 妹は体を売って金を作って頭がおかしくなって電車に飛び込んで! こんな身体になったっていうのによぉ!」

 

 アリアを見た警備員は困ったような視線をもう一人へと送る。

 受話器は置いてくれた。

 

「お兄ちゃん、もう……良いから。お仕事しているなら、仕方ないよ。私はただ、フランさんに一度会って気持ちを確認しておきたかっただけだから。それだけ、だから……」

 

 と、アリアがハンカチを片手にそんな事を言う。

 警備員の二人は暫く何かを話し込んだ後、「穏やかに話すなら通すよ」とアリアに言ってから結局通してくれた。

 ルークも「分かった」と頷きアリアに続いて校舎へと入る。

 

 二人が中に入ったのを見届けた警備員達だったが。

 彼等の耳や口元からは、黒色の液体がドロドロと溢れ出ていた。

 

 

 

「ほぼ君の言われた通りにしたが、アリア君。やっぱり恋人設定にしなくて正解だったよ」

 

「ドロドロの三角関係でも良かった気もしますが。出来る限り、関わりたくない雰囲気を出したかったので」

 

「いや、君高校生だろ? 俺の彼女だって言ったら色々と不味いだろ」

 

「そう、ですか?」

 

 アリアは首を傾げてみせた。

 ルークに車椅子を押してもらう格好で夜の廊下を進んで行く。

 節電対策なのか、人がいない場所は流石に薄暗い。

 限り有る資源は本当に大切に使わないといけないよなぁ、なんてエコな精神を再認識するワケでもなく。

 二人は実習棟へと渡った。

 

 渡って、直ぐに分かった。

 明かりの点いている場所が一階に一つだけ有る。

 中の光が廊下に溢れて、そこが事務室だと遠くからでもハッキリ分かった。

 

「まだ中に居るみたいだな。残業するなんて、大変な仕事だよなぁ~。学生のサポートとかやるんだろうか? 手当てとかは出るのか?」

 

 ルークは少しばかり、自分の境遇と重ねて考える。

 

「平日はずっと仕事だし、土日は寝てたいし。家と職場の往復だから出会いも無くて彼女が出来ない……! 情報処理に適性が高いスタンドっていっても、結果やってるのは俺だからな。爆発の事故現場とかから幽霊のパソコン拾って来て中のデータを朝まで調べて……!」

 

「ル、ルークさん……大変なんですね」

 

 途中から愚痴った背後のルークにアリアが苦笑いを浮かべる。

 不可解な事件が有れば、即座に調査に派遣される。

 基本的に人海戦術で行う事なのでそういった気苦労は無いと考えていたが、ルークは別のようだ。

 アリアの勝手なイメージだが、きっと狭い部屋の中で書類の山と格闘しているのだろう。

 

「まあな。きっと今回の任務が終わったら、暫く家にも帰れないぞ。書類がミルフィーユみたいに重なってるんだろうなぁ~。まあ、でも──」

 

 事務室の明かりが落ち、一人の長身の男性が出て来たので、二人は廊下の中央で揃って止まった。

 画像の男、フラン・アベルトである。

 

「だからと言って、人を拉致なんてしないけどなぁ?」

 

 ルークのその言葉で此方に気が付いたのか、フランは戸締まりをしながら二人を眺めた。

 しっかりと戸締まりを確認した後、フランは廊下のスイッチを入れて互いの姿を確認する。

 更にポケットから携帯電話を取り出し、一度画面を確認した。

 

「……君、可愛いね。左眼に眼帯してるけど、それ抜きにしても可愛いよ」

 

 フランは先ず真っ先に、アリアの容姿を誉めた。

 ルークがアリアの肩を軽く叩いて、車椅子から離れる。

 

「フラン・アベルトだな。行方不明事件の事で、ちょっと聞きたい事が有る」

 

「あ、なぁ~んだ警察? いや、それにしちゃ若いね。そっちの女の子も含めると。ピザのクォーターみたく情報量が多いよなぁ~、情報量が」

 

「別に逮捕しようとか、そういう事じゃあないさ。俺達はただ、行方不明の事件について聞きたい事が有るだけだ」

 

「ププッ。警察じゃあないなら、つまりお前達一般人って事だろう? 話す責任も無いね。僕はね、忙しいんだよ。これから家に帰って、ネット小説の続きを見なきゃあならない。毎日二十二時十分キッカリに続きが投稿されるんだ。

 以前読んでいた作品は、五話で更新が止まってから投稿が半年途絶えてね。僕しか読んでいない事にモチベーションが上がらなくなったのか、知った事ではないが。五話まで書いたら、読者が何人だろうが最後まで完結させて欲しかったよ」

 

 フランはニヤリと笑いながら、廊下の壁に肩を預ける。

 

「いや本当に完結って大事だと思うワケさ。唯一の作者の責任って断言してもいい。物事には必ず始まりが有って、必ず終わりが有る。分かる? 何人邪魔が入ろうとも、この計画は必ず終わらせる責任が僕には有るって事なんだよ。つまりさ──」

 

 廊下のスイッチを。

 フランが再び切った事で、廊下は暗黒に包まれる。

 突然の闇の訪れに目が慣れていない。

 その、二人目掛けて。

 フランの足元から勢い良く飛び出した黒い影が、アリアとルークへと襲い掛かった。

 

「君達二人を始末して、確実に完結させるって事なんだ」

 

 両腕が刃物状になった、漆黒のコートを身に纏った人型のスタンド。

 その切っ先がアリアとルークへと振り下ろされる。

 

 が。

 スタンドを持つ者だけに聞こえた、甲高い金属の共鳴音。

 そして山吹色の火花が闇でスパークした。

 

「む……」

 

 フランは警戒する。

 自分のスタンドの刃が、突如として出現した銀色の甲冑を纏ったスタンドの剣で弾かれたのだ。

 

「あらあら。真っ正面から攻撃するだなんて──意外と紳士なんですね?」

 

 微笑むアリアは、眼帯を外し、左眼でスタンドをハッキリと見ている。

 間髪入れず彼女のスタンドが素早い剣戟を放つ。

 無難に数回、斬り結び。

 飛び退く。

 

(この女……!)

 

 暗転による奇襲を読んで、見える方の目を眼帯で覆い違和感を与える事無く、強かに暗闇に慣れさせていた。

 警戒心が強く、闘いにおいて自らのスタンドの素早さに絶対の自信を持っている。

 そして何より、此方の奇襲に動揺する事無く対処した冷静さ。

 

「──警察とか。不審者とかだったりした方が、全然マシだったかな。僕の事を突き止めたから、只者じゃあないと思っていたけど。スタンド使いだったとはね」

 

 フランのスタンドはゆっくりと宙を移動し、近くへと戻って来た。

 まだ射程距離には入っているが油断は出来ない。

 

「まあ、必ず始末はするがね。僕の『アルク・ブラック』は。君達をこのまま逃がすワケにはいかないからさ」

 

 

 

 

 

 





お疲れ様です。
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