ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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『アルク・ブラック』②

 

 

 

 距離を置いて対峙するアリアとフラン。

 だが、ルークだけは事務室への侵入方法を考察していた。

 というのも。

 ここへ来る途中のバスの中で、アリアからお願いされた事が有るのだ。

 

 接触すれば、フランは高確率で此方を始末しにくる。

 戦闘は自分が引き受けるが、その代わりに事務室の中に入って、フランのデスクを探して欲しい。

 そのデスクに、行方不明者のリストが有るかも知れない。

 それを見付ける事が出来れば敵の目的も見え、捜索も容易になる。

 そんな事を言っていた。

 

(しかしだな、アリア……)

 

 ルークは頬に一筋汗を掻く。

 アリアもフランも一旦スタンドを仕舞い、硬直状態に入ったとはいえ。

 警戒しているアリアを前にしても尚、余裕でいるフランの態度。

 行方不明事件に加担しているにも関わらず、自分には関係が無いように振る舞い、仕事で残業までして社会に貢献している。

 

 やっている事が矛盾している事に気が付いていないのだろうか。

 一体どんな精神状態で事務室に施錠をして、帰ってネット小説を読んでいるのだろうか。

 不気味な程に掴み処が無い男である。

 

(大丈夫なのか? 本当に君一人で。そりゃあ君の戦闘能力の高さは認めるが、相手はトチ狂った犯罪者だぞ?)

 

 ルークは不安そうにアリアへと目配せするが、アリアは短く頷くのみ。

 続行する意思は変わらないようだ。

 一方のフランは、腕組みしたままアリアをジッと見ている。

 

 暗い廊下で対峙する三人。

 知らない人間が見たら異常な光景だろう。

 

「──君を見て。最初に思った事を、僕は素直に告白しようと思う」

 

 そんな時。

 先ずアリアを見詰めるフランが口を割った。

 

「その短いスカートから覗いている、ストッキングに包まれた柔らかい太ももの間に。手を挟みたいな、なんて。いやもう本当に、嫉妬しているんだ隣の彼氏には。羨ましいって言葉は、きっとこんな場面を目撃した独身の男が酔った勢いで作っちゃったんだろうな」

 

「……。」

 

 中々に気持ちの悪い挑発だが、彼女の表情には変化が無い。

 流石アリアだと、ルークは思った。

 だが、その矢先。

 アリアは一転して満面の笑みを浮かべた。

 

「ええ。少しでしたら、構いませんよ? どうぞ、此方へ」

 

 そんな事を言い放つ。

 多分だが、これは怒っている。

 近付いて来た所へ、『シルバー・チャリオッツ』を全力で叩っ込むつもりでいるのだろう。

 すると何処まで本気にしたのか、フランは吹き出した。

 

「でもまぁ、それは君達を始末すれば両方解決出来る事なんだよ。脚だけ残せば良いワケなんだから。所詮、一時の嫉妬心なんだ。危うく欲望に飲み込まれる所だった。有り難う、押さえるよ。君は心まで純粋で何処までも優しい娘だね。尊い白を具現化したような存在だ」

 

「そうですか」

 

 アリアは眼帯を右眼に付け直し、両手でグッと車椅子の後輪を掴んだ。

 その姿すら舐める様に凝視するフランが口の端を吊り上げる。

 

「今日から家には帰れないワケだけど、独り暮らしでペットとか飼ってたら今の内に教えて欲しい。可哀想だから、僕の方で処分しとくよ」

 

「──最近パソコンの勉強を始めましたが。貴方という障害をクリアする事の方が、遥かに簡単でしょう。参考書は三ページ目で躓きましたから」

 

「……フフ、ハハハ」

 

 フランは手を叩いて態とらしく高笑いをした。

 それでも表情は笑っていない。

 どうやら、アリアの今の言葉が癪に障ったようだ。

 

「ハハハハハハ! ──『アルク・ブラック』!」

 

 不意に、出現させたスタンドをアリア目掛けて突進させる。

 速い。

 アリアは少しだけ身を屈めて迎撃体勢に入る。

 

「『シルバー・チャリオッツ』!」

 

 彼女の元から飛び出した騎士のスタンドが、廊下の中程で敵スタンドと交戦状態になる。

 銀色を纏った高速の剣戟は手数で勝る『アルク・ブラック』の猛攻を捌き、瞬時に無数の火花を咲かせた。

 アリアは少しだけ車椅子を前進させる。

 

 十、二十と重なる斬撃の軌跡はやがて周囲へと弾け飛び、廊下や壁を破壊していった。

 と、アリアのスタンドが放った剣が突如として空を切る。

 敵のスタンドが突然、溶ける様に足元に消えたのだ。

 刹那。

 『シルバー・チャリオッツ』の背後の壁から『アルク・ブラック』が飛び掛かる。

 

 が、『シルバー・チャリオッツ』は絶妙なタイミングでスピンしながら飛び上がり、敵スタンドの頭上を越えて壁に着地する。

 と同時、怒涛の勢いで放つ突きの連打。

 からの、横薙ぎ一閃。

 

 白銀の軌跡が月明かりに浮かぶ中。

 辛うじて足元に逃れた『アルク・ブラック』だったが、本体であるフランの両腕と指先からは鮮血が吹き出した。

 遅れて、天井から蛍光灯が落下して飛び散り、壁面が真一文字に崩れる。

 

「……。」

 

 アリアはスタンドを引っ込めると、直ぐに敵スタンドの位置を確認した。

 暗い廊下の真ん中を、黒い影の様な物体がフランの方へと戻って行くのが見える。

 明らかに、フランは驚いているようだった。

 

「やるね。君のスタンド、近距離パワー型かと思ったんだけど。結構射程が長いようだ。動きも素早い。正面からじゃ流石に分が悪いかな。恐い恐い」

 

 フランは流れ落ちる自分の血を見て言った。

 

「そして何より恐いのが、君だよ。まさかその身体で、ここまで闘えるなんてね。あのスタンドの滑らかな動き。常に自分のスタンドとの間を微調整して、能力を最大限に発揮出来る距離を保っているのか。

 攻撃の正確さとバリエーションの多さも百戦錬磨といった印象だよ。成る程。凄まじいまでのバトルセンスだ。柄にもなく……フフッ、尊敬しちまったかなぁ~」

 

 飄々とした様子でネクタイを外すと、それを右腕に巻いて止血している。

 フランの考察通り、一対一の真っ向勝負にはアリアは滅法強い。

 どんな相手にも油断をする事無く、常に全身全霊を持って冷静に対処するからだ。

 それは敵対する相手の力量を素直に認める事が出来る、無垢であるが故の境地である。

 

 しかしフランはどうだ。

 ルークは壁際に避難しつつ、フランを眺める。

 彼女の圧倒的な実力を肌で感じていながら、未だに危機感というモノを持とうとしていない。

 始末する事を宣言しておいて、今更逃げる気は無い筈。

 

 と、いう事は。

 単純に、自分の勝利を信じて疑わないのだろう。

 勝てるという確固たる自信から安心を得ているのだ。

 

「さぁ~て。じゃあどうすると思う? 今君は、自分の方が圧倒的に有利だと思ってるでしょ。違うんだなぁ~。何故なら君は、この後僕を、車椅子で追い掛ける事になるからね。戦略的撤退ってヤツさ」

 

 そう言い残し。

 フランは踵を返して、アリアとルークに背を向けて実習棟の奥へと走って行った。

 

「ルークさんは、例のモノを探して下さい!」

 

 アリアは車椅子を漕いで後を追った。

 そう、追わなくてはならないのだ。

 奴が逃げないというのは、単なる予想に過ぎない。

 始末すると宣言していても状況が悪くなれば逃げるかも知れない。

 

 最悪なのは、フランがこのまま姿を消す事だ。

 監禁している行方不明者の所へ戻られでもしたら、収拾が付かなくなる。

 本来の目的を達成する事が困難になってしまう。

 

 今は追うしかない。

 どれだけ危険でも。

 

 しかし、アリアが精一杯に車椅子を速く漕いでも、向こうは大人の男の足だ。

 あっという間に見失ってしまった。

 

 アリアは一旦車椅子を止め、周囲の様子を確認した。

 少し奥まった左手位置には講義用の教室の入口と、並んで二階への階段。

 正面はまだ奥まで続いているが、T字路になっている。

 右側は曇りガラスが嵌め込まれている教室だ。

 

 さて、何処に姿を隠したのか。

 正面のT字路まで走り切るには流石に無理が有り、右側は薄暗いとはいえガラス張りだ。

 と、なると左手奥の講義室の中か、階段の上。

 

 此方が車椅子である事を考えると、逃げ場の無い講義室の中よりも階段の上に逃げた方が現実的である。

 アリアはそこまで即座に思考を巡らせた後。

 角の床に転がっていたボールペンをスタンドで斬り払った。

 

『イギ、イギギギ……!』

 

 すると。

 破壊したボールペンの中から赤子程の大きさの、蛙に似た黒っぽい生物が飛び出した。

 その生物は奇声を上げながら床に染み込む様に溶けて消えていく。

 

(このスタンド。やはり、影ですね。ボールペンの影の中に潜んでいた。スタンドの一部を切り離して、射程距離に関係無く設置しておけるとしたら……)

 

 アリアは。

 行方不明者達の写真を見て、フランに辿り着いた時の事を思い出す。

 写真に写っていた彼女達の影の長さから、撮影された高さを導き出したのだが。

 そう、今思えばそれが違和感だった。

 彼女達の写真には全て、影が写っていたのだ。

 

 もし、今のボールペンのように。

 このスタンドを彼女達全員に設置していたとすれば、彼女達の位置情報はスタンドを通じて知る事が出来る筈だ。

 そしてその設置には条件が有る。

 自動追跡が始まる条件が何か。

 

(……っ! カメラのフラッシュ。フェンネルさんも使っていた、あの機能。人工光を当てる事で自動追跡が始まるスタンド能力。そう言えば、最初に私とルークさんを攻撃する時も廊下の蛍光灯を付けていた。成る程……)

 

 アリアは階段に向かって全力で車椅子を漕いだ。

 

(だとすれば、あの時。自動追跡の条件を満たした筈の私とルークさんに、敵スタンドが取り付かなかったのは。スタンド使いだったから。自動追跡は、スタンド能力を持たない一般人にのみ取り付く事が出来る。つまり彼の目的は、スタンド使いと一般人を区別する事)

 

 階段まで勢い良く車椅子を走らせたアリアは、出現させた『シルバー・チャリオッツ』に車椅子ごと自分の身体を放り投げて貰う。

 一気に踊場へと着地した。

 

(スタンド能力への適性が高い人間を探し出し、利用する計画だと仮定するなら。使われる可能性は高い……!)

 

 スタンドを出して周囲へと警戒を走らせ、アリアは歯噛みする。

 

(スタンド能力を引き出す、あの弓と矢を──)

 

 更にスタンドを使ってアリアは二階の廊下へと跳躍した。

 着地と共に、アリアは決意を滲ませる。

 

(逃がさない、この敵だけは。私自身の為にも!)

 

 

 

 






お疲れ様でした。
こんな所までお読み下さりありがとうございました。
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