ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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『ブラッシュ・リーパー』と『コバルト・ベルセ』③

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ここ、は……?」

 

「間一髪だったな、アリア君」

 

 錆びた天井。

 黄色変色した壁紙。

 ルークに横抱きに抱えられた状態で、アリアは。

 見慣れない場所に居た。

 

 何処かの建物の中だろうか。

 薄汚れた狭い廊下の真ん中でルークから止血を受けながら、アリアは周囲を見回す。

 

「旧校舎だよ、この場所。新校舎が建てられる前に建っていた。俺の能力で幽霊の旧校舎に入った」

 

「……っ」

 

「敵に追い掛けられた時に、パソコンで探したんだ。大学の地図の上に、旧校舎の地図を重ねて。入口をな。まさか、女子トイレの中に入るとは思わなかったがな」

 

「ルーク、さん……」

 

 アリアは左目の端に涙を浮かべ、そっと。

 両腕をルークの背中へと回して目を伏せた。

 突然の事に少々驚いた様子のルークだったが、微笑し、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「いや、ホント。間に合って良かったよ」

 

「はい……助かりました。やっぱりルークさんは、頼りになる方で──」

 

「おいっ! アリア! 生きてるのか!?」

 

 不意に背後の壁から、苛立った様子のミリィの上半身が飛び出した。

 アリアは悲鳴を上げながらルークから離れ、真っ赤な顔で振り返る。

 

「テメェな! 生きてんなら、大丈夫ぐらい先にアタシに言いやがれ!」

 

「は、はい! すいませんでした、ミリィさん! 助けに来て頂いたのに、私は……」

 

「おい! おいおい! 素敵に勘違いしてんじゃあねぇぞアリア! アタシは別にテメェを助けに来たつもりはねぇ! 考えが甘いんだよ、頭にハチミツ詰まってんのかテメェはよぉお!」

 

 一気にまくし立てるミリィだったが。

 幽霊の校舎の中を移動していたルークが偶然一階で発見した時に、「アリアは無事か!?」と結構本気で心配している。

 

「ミリィと出会ったのは偶然だったよ。この近くの本屋に用事があったらしい。んで、俺の方から彼女に助っ人を頼んだんだ」

 

 ルークがそう言うと、ミリィはそっぽを向きながら「そう、それだ!」と相槌を打った。

 屋敷で聞いた事情が事情なだけに、頑なにアリアを助けに来た事を認めないミリィ。

 

「俺はミリィと君を探して幽霊の建物の中を移動し、ここまで一緒に登って来た。何か、君にも危機が迫っている気がしてね」

 

「それで来てみれば。……フン、好い様だよなぁアリア?」

 

 ミリィは鼻で笑った後、幽霊の建物から退出し。

 廊下の端の方に倒れているフランに視線を向けた。

 

「倒した敵を庇って、その負傷か? 普段から抜け目の無ぇテメェにしては、随分と間抜けな行動じゃあねぇか?」

 

 腕組み仁王立ちで幽霊の建物の入口前に立つミリィは、教室から移動を始めた『ブラッシュ・リーパー』を悠長に眺めながら嘲笑う。

 どうやら、フランの方へと向かっているらしい。

 

「今ならよぉ。──負傷したテメェの『チャリオッツ』なら、楽に始末出来るかもなぁ? この場でよぉ」

 

 不敵な笑みを闇夜に浮かべ、ミリィが首だけを振り返る。

 

「……っ!」

 

 殆ど反射的に、アリアは『シルバー・チャリオッツ』を自らの傍らに出現させていた。

 ミリィとアリア。

 二人の視線が交差し、張り詰めた空気となる。

 

「……ふん」

 

 暫くの睨み合いの後、先に視線を切ったのはミリィだった。

 敵スタンドが移動を始めた事もあり、行く先にいるフランの方を見ている。

 

「──で? 何なんだあのスタンドは。攻撃したアタシじゃあなくて、あっちの男の方へ行くぞ? どうなっている?」

 

「……あのスタンドは、血液を探知して攻撃目標を変える性質があるようです。標的との距離が近ければ近い程、追跡スピードが増していきます」

 

 取り敢えずスタンドを引っ込めたアリアが、気持ちを切り換えて説明した。

 レンといいミリィといい、メールで会話するフェンネルといい。

 アリアの屋敷の使用人達は本当に回りくどいな、とルークは溜め息を吐く。

 今のミリィの台詞も「助けに来た。だが気を抜くな」を言えば済む話だろうに。

 

「射程距離はどのくらいだ? 本体は何処にいる?」

 

「──本体は近くにはいません。スタンドだけが自動的に目標に向かって行くんです。しかも目的を遂げるまで、決して追跡を止めない」

 

「おい、何だそりゃあ? それはつまり、あのスタンドがいる限り、負傷した人間をここから運び出せないって事か?」

 

「ええ。敗北したスタンド使いを確実に始末する事に特化した能力と言えるでしょう。このスタンドの本体が、それを望んでいるんです」

 

 二人が会話している間にも、『ブラッシュ・リーパー』は確実に移動している。

 このままだと、再びフランを二十メートル圏内に捉えてしまう。

 ミリィは様子を伺った後、後方のアリアとルークへ向けて人差し指と中指を揃えて立てた。

 

「二つ、だな。選択肢は二つだ。先ず一つはアイツを囮にして、アタシ達三人で幽霊の建物を使って逃げる」

 

「っ!?」

 

「一番安全で安心出来るやり方だ。幽霊の建物の中へは、ルークが許可した者以外は出入り出来ない。あの化け物も、アリアが建物の中へ入った瞬間に見失っている。奴の追跡能力の範囲外って事だ。校舎の外まで追跡して来るなら話は別だがよぉ」

 

「で、ですが! このままフランさんを見殺しには……!」

 

「浜辺に打ち上げられたワカメみてぇにボロボロの格好の今のお前が、アタシに言える立場か? それに、だ。あのフランとかいうボロ雑巾みてぇな奴を助けた所で、アタシ達にメリットがあるとは到底思えねぇな。アイツが、今後、お前を襲わないって保証が何処にある? いや今度は、ルークやレンが危険な目に会うかも知れねぇよな」

 

「──っ!」

 

 アリアの指先が、ルークのシャツを力強く掴んだ。

 唇を真一文字に結んで、俯いている。

 彼女にはかなり効果の有る一言だと思う。

 

 しかし実際問題、ミリィの言う事も一理有る。

 純粋に人を助けたいだとか、もう十分に罰は受けただとか、そういう慈悲による行動は人間の道徳心によるモノで。

 何の根拠も理屈も無い、本物の悪には利用されるだけの、美しい理想論だからだ。

 各々の正義や魂の純粋さに影響されると言っても良いかも知れない。

 

 人を信用するな。

 その一言と仲間の安全を天秤に掛けられては、アリアも選択を余儀なくされた。

 悔しいが、葛藤の中で天秤が仲間の方へと傾いていってしまう。

 

「──良いかアリア、よく聞けよ。お前よりも二年先輩だから忠告しといてやる。その天秤に最後まで残っているのが、本当にお前が守るべきモノだからな」

 

 振り返る事なく、ミリィが図ったかのように切り出した。

 

「その残ったモノの為に人は、行動するんだ。正義とか、道徳だとか、裏切りとか、他の全部を犠牲にしてもよぉ。それだけは切り捨てるんじゃあねぇぞ? どれだけ惨めになろうが、それが真実の行動なんだ」

 

「──はい」

 

「よし。なら、二つ目の方法だ。あのスタンドをブッ倒して、ボロ雑巾を回収する」

 

「え……!?」

 

 アリアが目を丸くして、顔を上げた。

 だが、しかし。

 直ぐに半眼となって頬を膨らませる。

 

「ミ、ミリィさん……!」

 

「最初に言っただろうがよ、方法は二つだってな。だが、アイツは元々敵だ。助けるには其れなりに覚悟が要る。覚悟が必要な選択をしなくっちゃあならないって事だせアリア」

 

 それだけ言うと、ミリィはツカツカと廊下を進み、敵スタンドへと近付いて行く。

 

「アタシが相手をする。実際ブッ倒せるかは分からんが、取り敢えずお前等と引き離す。その間に、ルーク。アンタがフランを幽霊の建物に運ぶんだ」

 

 確かに、負傷していないミリィは一方的に敵スタンドを攻撃出来るワケだが。

 あのスタンド、液状化やその逆に身体を硬質化させたりと、目標を仕留める為ならあらゆる手段を使って来る。

 きっと、そういった手段を選ばないという本体の暴力的な潜在意識がエネルギーとなっているのだ。

 

「──気を付けて下さい、ミリィさん」

 

「ああ」

 

「それと……ありがとうございます」

 

 恭しく頭を下げたアリアの台詞に、ミリィは足を止めた。

 いつもそうだ、アリアは。

 どれだけ憎まれ口を叩いても、脅しても。

 ちゃんと此方の意図を分かったように、最後にはありがとうを言ってくる。

 

「そう言うのは、終わってから言うもんだ。死亡フラグみたいになるだろうが」

 

 言い残し、ミリィは駆け出した。

 スタンド自体の射程距離は敵スタンドが圧倒的に上回る。

 あのアリアを捩じ伏せた純粋な破壊力も厄介だ。

 加えて、自在に身体を変化させるスタンドの基本特性。

 はっきり言って、真っ正面から闘う相手ではない。

 

(分かってんだ、それはな。危険な相手だってハッキリ分かっている。……だが、近付かなきゃよお)

 

 右拳を握り締め、自らの傍らにスタンドを出現させる。

 左側頭部から右足に掛けて歯車の装飾が施されている、藍色の人型スタンド。

 出現すると同時にスタンドから白煙が漂い、窓ガラスが曇り始める。

 

「この化け物をブチのめせねぇからな」

 

 敵スタンドの真横から、ミリィが自身のスタンドと共に渾身の力を持って強襲する。

 

「『コバルト・ベルセ』!」

 

 命中した拳は硬質化した敵スタンドの脇腹へと突き刺さり、轟音と共に廊下奥側へと吹っ飛ばした。

 『ブラッシュ・リーパー』は二、三度壁や床で跳ねた後、廊下の真ん中へと音を立てて落下する。

 

 ミリィの闘争本能がそのまま形になったかのような、豪拳による強力な殴打。

 しかも余りにも素早く、正確に敵スタンドの脇腹を抉っていた。

 更に殴った箇所は凍り付き、その重さで容易く起き上がれずにいる。

 

「おいおい……何てパワーのスタンドだ……!?」

 

 その能力の一端を視界に捉えたルークは、思わず足を止めて驚愕する。

 只の右ストレートが、まるでトラックにでも跳ねられたような破壊力だ。

 

「しかも、何だ? 凍っているぞ? アレがミリィのスタンド能力か?」

 

「ルークさん、急いで下さい!」

 

 幽霊の建物の中から声を飛ばすアリア。

 今の一撃で、目測二十メートル圏内から完全に敵スタンドは離れた。

 フランを幽霊の建物の中へと入れるには今しか無い。

 ルークは一気にフランの所へ駆け寄ると、両足を持って引き摺り始める。

 フランが鼻で笑った。

 

「お人好しだね、君も」

 

「黙ってろ! ついでに、アリア君に感謝するんだな」

 

 移動するルークの足取りは、遅い。

 フランのように体格の良い成人男性ともなれば、アリアを抱えるのとはワケが違う。

 真綿と鉛ぐらいの差が有る。

 

 その間にも敵スタンドは此方に向かっているのだろう。

 射程圏内の外とはいえ、あとちょっぴりでも進行を許せば巻き添えを食らう危険地帯。

 

「おい、急げルーク! 敵スタンドが起き上がるぞ!」

 

 そして、最前線で闘うミリィからも声が上がった。

 分かっている。

 時間を掛けるだけ危険である事は。

 もし今。

 自分が巻き添えを食らえば、幽霊の建物は解除され、負傷しているアリアも狙われてしまうだろう。

 一気に全滅だ。

 

「クソ……!」

 

「この大学の近くにスポーツジムが有るんだ。本気で会員になる事をオススメするよ。体力をつけなくっちゃあな」

 

「うるせぇぞ! 黙ってろって言ってるだろ!」

 

 何処までもマイペースなフランへと、ルークが激昂する。

 ここで心中するつもりは微塵も無い。

 アリアだって危険なのだ。

 

 とはいえ、一人でこの重さは流石に骨が折れる。

 アリバイ工作の為に死体を運ぶ犯人になった気分だ。

 

「ルークさん……!」

 

 すると、ジッとしていられなくなったアリアが、幽霊の建物の中からスタンドだけを進行させ、フランの足を『シルバー・チャリオッツ』で掴まえた。

 ルークと片足ずつ持って、引っ張る。

 

「射程距離に入りました、手伝います」

 

「助かった、アリア君!」

 

「はい。ですが、私の『チャリオッツ』は剣で斬る事を得意とするスタンドです。負傷したこの状態では、パワーで大人一人分の体重を引っ張るのは……少し厳しいようです」

 

「いいや、これなら行けるぞ。君と俺の二人なら、十分に間に合う」

 

 ルークの言葉通り、フランの身体は順調に引き摺られて行き。

 ミリィがもう一撃を浴びせて敵スタンドを吹っ飛ばした頃には、丁度幽霊の建物の入口へと到達する事が出来た。

 

「ミリィ! やったぞ! 君も戻って来るんだ!」

 

 ルークが叫ぶと、ミリィは敵スタンドを一瞥し。

 踵を返して走って戻って来た。

 これで全員が、安全圏に入った事になる。

 

「だが、あのスタンドは健在だ。今の内に離れた方が良いな。……ルークは其処のボロ雑巾を頼む。アタシはアリアを担いでくからよぉ」

 

「分かった。直ぐに出発しよう」

 

 ルークが賛同する。

 だが。

 ミリィに背負われた時、アリアはふと、気になった事が有る。

 

 先程フランを引き摺って来た時に、床から幽霊の建物の内部へとべったりと付着している血の跡。

 途切れる事無く、廊下から。

 この幽霊の建物の内部へと続いているのだ。

 

 フランが入る事を。

 ルークが無意識の内に許可したから。

 この血もフランの身体の一部だから、中に入る事を許可されている。

 

 もし。

 自分の時のように、プッツリ途切れる事無く、血の道が幽霊の建物の内部へと続いていたとするならば。

 今度は見失う事無く、スタンド能力での追跡が可能だとするのならば。

 絨毯の上を歩くが如く、この幽霊の建物の内部へと侵入出来るかも知れない。

 いや、既に。

 導いてしまっているとすれば。

 

 その仮説を裏付けるのか。

 『ブラッシュ・リーパー』は突如として奇声を上げ、導火線の上に落とされた炎のように血の跡の上を猛スピードで這いずって来た。

 

「……っ! ミリィさん! ルークさん! 追跡されています! フランさんの血の跡を辿って、この幽霊の建物の──」

 

 と、丁度入口付近。

 凶暴化した『ブラッシュ・リーパー』が、建物内部へと突進して来た。

 

「マジかよ……!?」

 

「く……!」

 

 そこにいたアリアとミリィが体当たりを食らい、壁へと吹っ飛ばされる。

 互いにスタンドを出現させて壁への激突は緩和させたが、それでも直ぐに立ち上がれない程のダメージはあったらしい。

 その間に。

 敵スタンドは攻撃の手を休める事無く、額から出血したアリアを狙って両の腕を振り下ろした。

 

「この野郎……!」

 

 透かさずミリィが割って入り、スタンドで『ブラッシュ・リーパー』の両手をガッチリ掴んで受け止めた。

 が、徐々に敵スタンドのパワーは上がっていき、ミリィのスタンドが押され始める。

 

(く……!? アタシの『コバルト・ベルセ』よりパワーが上かよ。しかも建物の中に入り込まれた。……やるしか。もうここで、このスタンドを叩くしかねぇぞ……!)

 

「……っ! 『チャリオッツ』!」

 

 アリアが、殆ど床に伏せた状態でスタンドを出現させ。

 その超高速の刺突による連打を敵スタンドの頭部へと鋭く見舞う。

 攻撃自体は鈍い金属音と共に弾かれたが、硬質化した頭部は蜘蛛の巣状にひび割れる。

 

「『コバルト・ベルセ』……!」

 

 と、ミリィがスタンド名を呟けば。

 瞬く間に彼女のスタンドが極寒の冷気を纏い、掴んでいる敵スタンドの腕が凍り付いて行く。

 その一瞬の硬直時間を見逃す事無く、ミリィは敵の攻撃線上からアリアを連れて脱出し、素早く真横へと移動。

 そして、ひび割れた頭部へと、至近距離からスタンドの拳を見舞った。

 

 これが、敵の頭部を完全に捉える。

 ──かに、見えたが。

 

「……っ!?」

 

 いつの間にか、『ブラッシュ・リーパー』の全身が無数の針に覆われており、『コバルト・ベルセ』の拳が貫かれている。

 

「う、おおおお!? 何ぃぃぃぃい!?」

 

 ミリィの拳にもダメージが跳ね返り、血飛沫が上がった。

 今度はその血を追跡し、敵スタンドが襲い掛かって来る。

 

「ミリィさん!」

 

「アリア、ルークの所へ行けっ! アタシから離れろ!」

 

 ミリィはスタンドでアリアを蹴飛ばし、ルーク達の方へと吹っ飛ばした。

 そして自身はスタンドを前方へと突進させ、拳の弾幕を張りながら敵スタンドを押し返す。

 当然、針がスタンドを貫き、ミリィの拳や全身にもダメージが入るが引き下がらない。

 

「く……う……!」

 

 ポタリポタリと、床に血が落ち。

 ミリィの服に薔薇が咲いて行く。

 

「ヤバイ! もの凄くヤバイぞ!」

 

「ルークさん、私をミリィさんの所へ──」

 

「来るなって言ってんだろが!」

 

 助けに入ろうとしたアリアとルークを、ミリィが一喝する。

 しかしそれは、決して捨て鉢になろうだとか、犠牲の心から来る台詞ではなかった。

 二人に向けて、ミリィは不敵に笑ったのだ。

 

「これで万事オーケーなんだよ。これで良い。アタシも含めて全員が助かったってワケだ」

 

 と、敵スタンドが突如として百八十度進行方向を変え、後方の暗闇を無差別に攻撃した。

 かと思えば、今度は右上、左下。

 その場でグルグル回りながら、自分の周囲を攻撃し続けている。

 

 その間に、ミリィはアリア達の所まで何食わぬ顔で戻って来た。

 

「ど、どうなっているんだ?」

 

 ルークが唖然とした様子で訊ねる。

 するとアリアが、暗闇の一点を指差した。

 

「ルークさん、アレを見て下さい」

 

 言われた通り、敵が攻撃している箇所をジッと見てみると。

 水滴。

 いや、血液だ。

 ハイスピードカメラで雨を撮影したかのように、水玉となった血液が、落下する事無く、空中に浮かんでいる。

 それも、『ブラッシュ・リーパー』を囲う様に、グルリと。

 

「『コバルト・ベルセ』。さっき吹き出したアタシの血の落下を『遅く』した。奴が距離の近い鮮血を自動的に攻撃するというのならば……! これでもう、アタシ達に辿り着く事は無い」

 

「……っ!」

 

「永久に、そこで自動追跡してるんだな」

 

 ミリィはアリアを背負うと、敵スタンドから更に距離を取る。

 

「ところで、ルーク。お前、ガソリンとか持ってないか? 酒瓶とかでも良いけどよぉ」 

 

「え? ああ……幽霊の瓶に入れてる酒なら有るが」

 

「お前、思ったよりも有能だな。アリアが惚れ込むのも分かるぜ」

 

「ちょっ!? ミリィさん!?」

 

 真っ赤になったアリアを横目に、ミリィはルークから酒瓶を受け取る。

 そして透かさず、敵スタンドへ向けて放り投げた。

 途中から酒瓶の動きはゆっくりになっていき、その中身を敵スタンドへと満遍なく振り掛ける。

 

「だがしかしだ。考えてもみれば、あんな怨霊みたいなスタンドを放置したんじゃあよぉ。通行の邪魔だよなぁ……!」

 

 次の瞬間。

 『ブラッシュ・リーパー』を中心に爆炎が吹き上がり、猛烈な勢いで燃え上がり始めた。

 

『ヒギャアアアアアッ!!』

 

 瞬く間に敵スタンドの身体は千切れ飛んで行き、散り散りに霧散する。

 

「やっぱりなぁ。蒸発に弱い。さっきお前の周囲を何度も攻撃して、遅くして貯めといた熱を。今、一気に解除した。酒との相性が良いみたいで、何よりだ」

 

 煌々と燃える炎を見て笑うミリィだったが。

 黒炭のようになった敵スタンドが、ミリィの血液に反応したのか、炎の中から勢い良く飛び掛かって来た。

 

「ったくよぉ。────アタシの道を、塞いでんじゃあねぇぞ。邪魔くせぇ──!」

 

 

 ミリィから飛び出した『コバルト・ベルセ』が、カウンターで豪拳による連打を敵の全身へと叩っ込む。

 

 

『邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!』

 

 

 

 余りに速く、何より鋭く。

 一撃一撃が驚異的な破壊力を宿した、超高速の連打撃。

 

 

 

『邪魔ぁぁあああっ!!』

 

 

 

 トドメの一発は敵スタンドを跳ね飛ばし、再び炎の中へとダイブさせる。

 断末魔の悲鳴を上げて、『ブラッシュ・リーパー』は夜闇の中へと溶けるように蒸発していった。

 

「これでアタシの真っ正面に、文字通りに血路が開けたってワケだ。良かった良かった」

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そして、同時刻

 マンションの一室。

 ソファーで寝ていた男が目を覚まし、テーブルの上に置いておいた人形を手に取ろうと腕を動かした。

 が、動かない。

 顔を持ち上げてみれば、自分の身体がソファーに寝たままロープでグルグル巻きになっている。

 

「はい! そうなんです! 助けに来て下さい!」

 

 横を見ると、壁に立っていた女達が居ない。

 いや、この部屋の電話を使って助けなんて呼んでいる。

 

「これは……夢か? 何で動いて──」

 

 反対側を向いた男の顔面へ、フライパンが叩き付けられた。

 

「がふ……!?」

 

「ちょっと来て! コイツ目を覚ましてるわ!」

 

 別の女性だった。

 直ぐに男は武器を持った彼女達に包囲される。

 そして気が付く。

 自分のスタンド能力が、解除されていると。

 

「まさか……!? く、食らったのか……!? 俺の『ブラッシュ・リ──』ばが!?」

 

 今度は分厚い本で殴られた。

 

「何言ってんのよこの誘拐犯が!」

 

「テメェを警察に突き出してやるからな!」

 

 そのまま。

 男はスタンド能力から解除された彼女達からタコ殴りにされる。

 

「いぎゃあああ!? い、痛い痛いよぉおお!」

 

 

 

 

 

 

 

 スタンド名『ブラッシュ・リーパー』

 本体 マーミ

 

 全治四ヶ月の怪我を負い再起不能。

 その後、誘拐された彼女達は無事に警察に救出される。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 





お疲れ様でした。
読んで頂けて嬉しいです!



【スタンド名】
『コバルト・ベルセ』
【本体】
ミリィ

破壊力   A
スピード  A
射程距離  D
持続力   B
精密動作性 A
成長性   A


【『コバルト・ベルセ』が殴ったり触れたりした物体の動作や、エネルギーの伝達速度、更には分子レベルでの振動を遅くする事が出来る】
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