ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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『グリーン・チップス・ベルト』②

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 レンの家庭環境は、一見すると極普通だった。

 父親と母親、姉と共に庭付きの一軒家に四人で住んでいた。

 学校にも通っていたし、食べる物にも着る物にも困らない。

 欲しい物だってお願いすれば与えて貰えた。

 クリスマスだって毎年家族で過ごしていた。

 

 ただ一つ。

 他の家と違う所は。

 家の中の一角に、大量の美術品が置かれていて。

 その複製品を造る作業を、レンが担当していた事ぐらいだった。

 

 両親は家で大量に高価な美術品の贋作を造り、独自のパイプを通じて世界中のコレクターや金持ちに高額で売り捌いていたのだ。

 幼い頃から親が行う作業を繰り返し見ていたレンが、ある日。

 一枚の絵の贋作を造るように母親に言われ、非常に完成度の高い品を造り上げたのが、きっかけだった。

 

 レンの造る贋作は非常に良く出来ていて、絵画に留まらず、茶碗や宝石、壺等。

 ありとあらゆる美術品の複製品を造り出していく。

 その高い技術は鑑定士さえも欺く事が有り、彼女の両親は大いに喜び、レンを褒め称えた。

 それを普通の家庭だと思い込んでいたレンにとって、両親の役に立てる事は嬉しかったし、疑問にも思わなかった。

 

 中学校を卒業した彼女は、当たり前のように高校に進学した。

 家を離れての寮生活となる事を両親に伝えると。

 絵画の複製を今まで通り造り、まとめて家に送る事を条件に許可が降りた。

 

 何故、両親はそんな条件を出したのだろうか。

 不思議に思ったレンだったが、新しく始まる高校生活に気持ちが高まり、いつしか忘れてしまった。

 

 だが、世の中には必ず際限が存在している。

 いつかは終わりが来るモノである。

 レンの場合、それは。

 新しい高校生活にも慣れた、六月の事であった。

 

 ある日、レンは教師に呼び出され、職員室に向かった。

 待っていたのは、何人かの警察官だった。

 彼等は、贋作を高額で売り捌く詐欺グループを追っているとの事だ。

 周りで、何か事情を知っていそうな人間はいないか。

 そんな質問をしてきた。

 

 勿論、警察はある程度証拠や情報を揃えて、確信を得た上で質問をしてきている。

 相手の反応を見る為だ。

 レンは直ぐに「知らない」と言ったが、心当たりはあった。

 今、自分の部屋にある複製品の絵画だ。

 

 警察はそれ以上何も訊ねる事無く引き上げて行った。

 しかし、レンの心臓は速く脈を打ち、酷く不安な気持ちにさせる。

 まさか、自分の家族が。

 レンは直ぐに父親と連絡を取った。

 

 すると父親は、贋作による詐欺の話題には触れず、一方的に場所を指定してきた。

 「一週間後、そこに来い」とだけ告げられ、レンは恐怖する。

 それは家族でしか分かり得ない、無言の肯定であった。

 

 自分は犯罪の手伝いをさせられていた。

 まだ成熟していない彼女の心は、深い絶望へと沈んで行く。

 更に追い討ちを掛けるように。

 次の日、レンが犯罪に関わっているという噂が学校中に広まっていた。

 

 今まで仲の良かった友達は手の平を返してレンに罵声を浴びせ、正義を語った。

 それが、一番辛かった。

 学校での虐めに耐えられなくなったレンは寮を飛び出し、指定された倉庫へと早々に向かった。

 もう自分には家族しかいない。

 

 祈るような気持ちで、辿り着いた倉庫の中へと入ると。

 そこには、レンが今までに造った大量の美術品が、段ボールに入った状態で山積みになっている。

 更には、レンが使っていた道具がテーブルと共に置かれ。

 まるでこの倉庫で贋作が造られていたように、錯覚する。

 

 唖然として立ち尽くしていると、両親と姉が。

 丁度車に乗って倉庫にやって来た。

 車には、やはり。

 レンの使っていた道具や、製作途中の美術品。

 

「──まさか」

 

 全てを察したレンの声は、震えていた。

 予定よりも早く倉庫に来ていたレンに、両親と姉は驚いた様子だったが。

 直ぐに笑顔で取り繕い、獲物を狙う肉食獣の如く、ゆっくりと近付いて来た。

 

「こんな……こんなの……嘘だよね……! 私、そんな……」

 

 そう。

 家族は、警察に嗅ぎ付けられた事を知り。

 レンに全ての罪を押し付けるつもりだったのだ。

 しかも、倉庫内にはガソリンの入ったタンクが用意されていて、レンごと倉庫を焼き払い、警察が焼け跡の捜査を終える頃には。

 海外へと逃亡している計画だった。

 家族は容易く、ボロボロになったレンを切り離したのだ。

 

 次の瞬間には、父親はレンに覆い被さり、首を絞めてきた。

 その隣には、母親と姉が「ゴメンね」と言いながらも、笑っている。

 

 もう、何も信じられなくなった。

 レンの中で、何かが音を立てて崩れる。

 壊れたのはきっと、家族像だ。

 温かくて優しい、家族像。

 薄れゆく意識の中で、レンはしかし。

 

 手を伸ばした。

 そしてそこにあった、彫刻刀を掴むと。

 躊躇わずに父親の喉元へと深々と突き立てた。

 これだけで、あっさりと。

 父親は血の飛沫を上げて絶命した。

 

 そして、母親が縄を持っている事に気が付くと。

 近くの壺を持って振り下ろし、彼女の頭を割った。

 両親殺害の現場を目の当たりにした姉は恐れ、ナイフを構えながら数歩退いたが。

 レンは姉の手を捻り、逆に彼女の胸へとナイフを差し込んだ。

 

 全てが終わった後、レンは荒く息を整えながらその場に留まり続けた。

 生きるという本能的な行動は、彼女の危機を救った。

 しかし同時に。

 何も信じられなくなった彼女は、自分の意志で行動する勇気を失ってしまった。

 

 その後、到着した警察によってレンは拘束された。

 捜査を進める中で、贋作の手伝いをさせられた事や、レン自身にその意志が無かった事。

 更には現場の状況等から正当防衛が認められた為、レンは解放された。

 

 だが。

 この抜き差しならない現状に、彼女自身が生きる意味を見失ってしまっていた。

 自分の手は既に、罪や血で汚れている。

 

 

 それに。

 もう、裏切られるのは。

 ──嫌だ。

 

 

 そんな時。

 彼女に手を差し伸べたのが、スピードワゴン財団であった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「アリア様。ルーク様とフェンネルを、お願い致します。私は、あのスタンド使いを倒し。この能力を解除させるので」

 

 レンは、安心を得ていた。

 如何なる状況だろうと、『命令』を遂行さえすれば。

 もう、苦しまなくて良い。

 行動の先に失敗があったとしても、それは自分ではないと割り切り、心から切り離して考えられる。

 そう、命さえも。

 

「やって、くれたなぁ~~。この、親殺しが!」

 

 ジェーンは、血塗れの顔面で荒々しく叫んだ。

 何故、知っているのか。

 訊ねる前に、レンは理解した。

 敵は、ルークを追って来た。

 当然、周りの人間の事は調べるだろう。

 

「……そう言われるのは、不愉快です」

 

「おや?」

 

 意に介さない。

 そう考えての安い挑発だったが。

 嬉しい誤算である。

 これは、最も弱い部分だと解釈するべきだろう。

 

「テメェ、まさか。そんな薄汚ぇ手で、ご主人様に奉仕してやがるのかぁ? ああ?」

 

「……っ!」

 

 激昂。

 レンが最も我慢ならない、許せない部分を。

 的確に狙い打ちしてきた。

 およそ形容し難い怒りがフツフツと煮え滾り、己の理性を剥奪して行くのがハッキリと分かる。

 

「レンさん! 今は冷静になって下さい!」

 

 アリアの呼び掛けは、逆効果だった。

 絶対に否定出来ない、消える事の無い十字架を背負った自分。

 その気持ちの全てを理解されたようで、辛かった。

 行き場の無い怒りが、レンのスタンドの拳を握らせる。

 

「来なよ。アタシをブッ倒すんだろ? 殺人鬼? それとも、アリアちゃんが心配か? ……いや、そんなワケねぇよなぁぁぁぁあ?」

 

 ジェーンは踵を返して森の中へと姿を消した。

 しかし直ぐにはレンは追わない。

 それは決して、アリアの制止に答えたワケではなかった。

 

 去る直前にジェーンが口にした台詞。

 動けば、アリアよりも己の感情を優先させた事になる。

 奇妙な事に、冷静さを欠いたレンの頭に代わって、その身体は忠実に『命令』の遂行に努めた。

 

「あの女は……私の生き方を否定しました。『命令』でしか生きられない、私の人生そのものを。それは許す事が出来ない、侮辱的な言葉です」

 

 振り返らず、淡々と背中で自身の気持ちをアリアへと吐露するレンは、まるで。

 このまま決別するかのような、悲しさと儚さがあった。

 

「……アリア様。繰り返すようですが、私は追います……」

 

「待って下さい、レンさん!」

 

 追い掛けようにも、身体の冬虫夏草とは無関係にアリアは立つ事が出来ない。

 かといって、引き留める言葉も浮かばない。

 今、アリアに出来る事は。

 

「……っ。最初に車に乗っている時、ルークさんとフェンネルさんにだけ冬虫夏草が生えたのは何故でしょうか。私とレンさんの症状が軽いのは?」

 

 冷えるような哀しみが伝わり、胸が押し潰されそうになる。

 それでもアリアは、言葉を続けた。

 少しでも、レンが冷静に闘う事が出来るようにと。

 

「この冬虫夏草の生える攻撃には、条件が有ります。車外へ出た瞬間から、私達にも急激に症状が現れたのもその為です。それさえ分かれば、勝てます」

 

「アリア様……」

 

 レンは振り返りそうになって、しかし、堪えた。

 それ以上の言葉も無く。

 レンは、アリアを置いて森の中へと走り去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 追跡を始めたレンは、我武者羅に森の中を走り続けた。

 こうしている間にも身体の冬虫夏草は増え続けている。

 ルークとフェンネルの方が、進行は速いかも知れないが。

 

 自分は空っぽの人間だった。

 目を反らしていても、その事実は覆らない。

 もう自分の心は、誰にも開く事は無いだろう。

 

 自己暗示を掛けるように。

 決して二人の為だけに走っているのではない事を、レンは再確認した。

 

 と、暫く走った先に。

 ジェーンは腕を組んだ状態で、堂々と待っていた。

 驚く事に。

 先程の腕と顔面の傷が治っている。

 

「太陽の光を克服して、尚。この再生能力。再生するとお腹が空いちゃうのが玉に傷なんだけどねぇ」

 

 ジェーンはペロリと、自らの唇を舐めて笑った。

 

「まぁ。狙い通り。バカな食料ちゃんが一人でやって来たから、いっかぁあ~~!」

 

 傍らにスタンドを出現させたジェーンは一足で距離を詰め、両拳で襲い掛かった。

 

「『グリーン・チップス・ベルトォォオオッ!』」

 

 レンはスタンドを出現させ、腰を落として身構える。

 少し矛盾した表現だが、煮え滾るような怒りに支配されていて尚、レンの頭は冷静だった。

 

「スピードワゴン財団の報告書にあった、進化した吸血鬼ですか……」

 

『押羅ァッ!』

 

 その、敵スタンドのスピードを上回る速度で、レンの『ハーティ・レグナ』は『グリーン・チップス・ベルト』の頭部へと拳を叩き込んだ。

 

「うげぇっ!?」

 

 本体であるジェーンの顔が歪み、血飛沫と共に仰け反る。

 踏み留まり、尚も拳を繰り出してきたが。

 この至近距離だ。

 近距離パワー型である『ハーティ・レグナ』は素早く左右へと躱し、カウンターで胴を穿つ。

 

「ぐぅお!?」

 

 更に、本体であるレンが『ハーティ・レグナ』と共に大胆な回し蹴りを放ち、スタンドごとジェーンを吹っ飛ばす。

 受け身も取れず、そのまま樹の幹に背中から激突したジェーンは、ズルズルと血塗れで地面へと落下した。

 

「……能力や効果範囲の維持にスタンドパワーを使っているようですね。スタンド自体のスピードやパワーは、それ程高くはないようです」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「貴女のスタンドは、真っ正面……一対一での戦闘には向いていませんね」

 

「ククク……! ハハハハハハハハハ……!」

 

 不気味さ。

 その言葉が具現化したかのような、歪んだ表情でジェーンは笑う。

 レンに恐怖は無かったが、警戒はした。

 明らかに、不利な近接戦闘の連続。

 何か妙だ。

 

「ククク……! そう、だよなぁ。お前のスタンド……『ハーティ・レグナ』だっけ? 至近距離ならお前の方が強い。それは認めてやるよ。……けどよぉ。お前、私を追って来たよなぁ、おい。テメェはとにかく、全速力で、我武者羅に私を追って来た」

 

「……?」

 

「それで、今の戦闘だ。当然、温まるよなぁ? テメェの身体。それでよぉ、どうなると思う? 温まったテメェの身体」

 

 直後、レンの身体から冬虫夏草が一斉に蠢いて生え、菌糸を吐き出した。

 

「な……!?」

 

 即座に身体の動きが鈍くなり、レンはうつ伏せに倒れた。

 代わりにジェーンが、笑いながら起き上がる。

 

「掛かったぜ、この間抜けが! 『グリーン・チップス・ベルト』! 既に! 真菌はこの森全体に広がってんだ! あとは、真菌が好む条件を満たすだけで! テメェは即座に寄生される!」

 

「く……」

 

「菌糸が出たって事はよぉ、冬虫夏草にとって。テメェは最良物件に認定されたって事だぜぇぇええ!? そのまま絶命した後で、血を吸ってやるよ」

 

 レンはスタンドを出現させて反撃に転じようとしたが。

 身体を蹴り上げられ、吹っ飛ばされる。

 

「うう……!」

 

 そのまま樹に衝突すると、菌糸が幹にくっ付き。

 レンの身体を固定すると同時に、冬虫夏草が全身を覆っていく。

 

「ア~~ハハハハハハ! テメェの身体の自由を奪ってんだぜぇ!? スタンドだって、本来のスピードじゃあ動けねぇんだよぉ!」

 

「……っ」

 

 ギリギリまで保っていた意識が、鈍く。

 白い靄に包まれて行く感覚。

 このまま意識を失えば、死。

 

「テメェはよぉ。ただ自分が安心したくて側にいるだけなんだぜぇぇええ? アリアちゃんも、テメェの事なんか側に置いときたくねぇのさぁ~~! テメェは所詮、独りなんだよ!」

 

「アリア……様……」

 

 瞼が、重い。

 自分は今、生死の狭間にいる。

 

「もう完全に虫の息だが、このまま何もしねぇで見てるのも退屈だからよぉ~~。せめて、テメェの顔面をグチャグチャに潰してやるよ」

 

 ジェーンは自らの傷口を再生させながら、ニンマリと笑ってレンの正面に立った。

 

「食らえ! 『グリーン・チップス・ベルト』、トドメをさせぇええっ!!」

 

 その両拳がレンを捉えようとした、その時。

 突然真横の茂みが揺れ。

 枝木を薙ぎ倒し、中から運転手が乗っていないトラックが飛び出して来た。

 そして、レンに襲い掛かる寸前のジェーンを跳ね飛ばした。

 

「うげぇっ!? 何ぃぃぃぃぃいっ!?」

 

 ジェーンは何度か地面の上を跳ね、転がった。

 トラックはその場で停止。

 すると荷台の扉が開き、降り立つ人影。

 その人物は、器用に車椅子でウィリーしながら地面へと着地する。

 

「な……!? 馬鹿な、どうやって!?」

 

「──最初に車の中で、ルークさんとフェンネルさんにだけ冬虫夏草が生えた事と。貴女を追って、レンさんが森の中へと入った後、寄生された鳥の群れが海の方角へ飛んで行ったのを見て、確信しました」

 

 アリアは、レンを背中に庇いつつ、ジェーンを睨んだ。

 彼女自身にも冬虫夏草は生えてきているが、まだレン程ではない。

 

「この冬虫夏草は、体内のナトリウムに反応して攻撃が始まっている。そして寄生された生物は、よりナトリウムが豊富な場所に誘導されてしまうのだと」

 

「……っ!?」

 

「地上の脊椎動物の体液のナトリウム濃度は約0.9パーセントですが、個人差は有ります。ほんのちょっぴりの差ですが。ルークさんは食事を取った後、フェンネルさんは、出発前にスナックを食べていた……普段よりも濃度が高くなっていた筈です。そして、此処は海沿いの道。車外へ出れば、潮風が吹き付けて身体の表面に大量のナトリウムが付着する……。急激に寄生が進んだのは、その為です」

 

「──へぇ、賢いねぇアリアちゃん」

 

「スタンドで樹を倒して風避けを作っただけで、二人共症状が軽くなりましたよ? そして二人が、私を此処へ運んでくれたんです」

 

 アリアは車椅子の車輪に手を掛けた。

 

「ルークさんの幽霊の車椅子と、フェンネルさんのスタンド能力。二人共、レンさんを助ける為に。自分の安全より、私を送り出す事を優先したんです」

 

「……ルーク……様。フェン……ネル……」

 

 その、アリアの声を噛み締めるように、レンは手放し掛けた意識を取り戻した。

 二人が。

 自分達だって危険なのに。

 

 それに。

 それに、目の前にはアリアが居る。

 もう、生きる事を諦めていたのに。

 こんな自分の、側に居る。

 

「フン、くだらねぇよなぁ? どの道、テメェも始末するつもりだったんだ。ソイツみてぇに、菌糸に飲まれる運命なんだよ。スタンドの能力が分かった所で、もうどうにもならねぇ。汗、掻いてるよなぁ? アリアちゃん、今」

 

「……。」

 

「そこにいる殺人鬼の為なんぞに、怒って、興奮して、可愛く掻いてるよなぁ?」

 

 直後、アリアの身体からも冬虫夏草が大量に生えて来る。

 ジェーンが軽く舌舐りをした。

 

「その身体で! 何処まで闘えるかなぁ!? 」

 

 スタンドを繰り出し、ジェーン自身も距離を詰める。

 

「『シルバー・チャリオッツ』ッ!」

 

 接近してきた所へ、アリアはスタンドで斬撃を放つ。

 その場を動かないのは、レンを守る為でもあるが。

 此処は整備されていない森の中だ。

 車椅子での移動自体がそもそも困難な場所なのだ。

 加えて、身体の反応は凄まじく鈍い。

 

 真っ向からの近接戦闘で、『シルバー・チャリオッツ』が防戦一方である。

 普段のスピードの半分以下の性能しか期待出来ない。

 

「動きがノロいよ! アリアちゃんさぁあ!」

 

 敵スタンドの打撃はアリアのスタンドの胴体を捉え、アリアへのダメージとなった。

 が、アリアは車椅子を力強く押さえて踏み留まる。

 

「……アリア……様」

 

「大丈夫、です。レンさん……。必ず。必ず助けます、から……どうか……」

 

 再び、レンの意識が遠退く。

 目の前ではアリアが必死の攻防を繰り広げ、闘っているのに。

 もう、殆ど感覚が無い。

 アリアが吹き飛ばされ、自分の直ぐ側に転がっても、声さえ出ない。

 

 きっと、もう自分は死んでいるのだ。

 いや。

 あの時。

 父親に首を絞められたあの時からもう、死んでいたんだ。

 ずっと、ずっと前から。

 体も、心も。

 

 薄れゆく意識の中で、レンはしかし。

 あの日と同じように、手を伸ばしていた。

 文字通り、無意識の行動だった。

 

 すると、温かいモノを掴んだ。

 うっすらと目を開くと、アリアが。

 自分の手を握り締めてくれている。

 傷だらけで、車椅子から投げ出されて尚。

 それでも尚、手を伸ばして、握ってくれている。

 

「必ず、助けます! だから……、だから、レンさん! どうか……どうかもう一度だけ、人を信じて下さい! 私……私は、レンさんの……友達ですから!」

 

「……っ!」

 

 もう、どうでも良い筈だった。

 信じるのも、裏切られるのも。

 なのに。

 それなのに。

 この手を離したくないのは何故だろう。

 

 レンの心に、感覚が無かった筈の身体に、汲み上げてくるモノがあった。

 ──涙だ。

 

 

『ハーティ・レグナ』ッ!!

 

 

 その想いに呼応するように出現したスタンドが、幹へと一撃を加える。

 突如として、レンが掴まっている樹の上から、大雨が降り注いだ。

 枝木や葉が散り散りになって落下し、幹は真っ二つに割れて横たわる。

 

 その水で、アリアとレンの汗が流れたからなのか、二人の冬虫夏草は姿を消した。

 

「樹の中の水分を『増やし』ました。これで、フラットです」

 

 相変わらず静かな口調だが、その瞳に凄まじい闘気を携えて、レンがジェーンの前に立つ。

 全身はずぶ濡れであり、汗を掻く事はまず無いだろう。

 

「な、な……!?」

 

「今日、ハッキリと分かりました」

 

 レンの『ハーティ・レグナ』が、地面を殴る。

 すると、ジェーンの足元から虎バサミが出現し、彼女の右足をガッチリと挟み込んだ。

 

「うぐぅ!?」

 

「私がアリア様の側に居るのは、命令だけではなかった」

 

(こ、この女ぁぁぁあ……! 地面の中の鉄分だけを増やして、この私に攻撃を……! しかも、生成の精度が上がってやがる! 逃げられねぇ……!!)

 

「私が、私の意志で……」

 

「このビチグソがぁぁぁぁあっ!!」

 

 近付いたレンへと、ジェーンがスタンドを繰り出す。

 

「──アリア様の側に居たいと、ちゃんと思っていた!」

 

 

『押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅ッ!』

 

 

 当然、レンの『ハーティ・レグナ』の方が圧倒的に速く。

 その拳による連打を凄まじい速さで叩き込む。

 瞬く間に敵スタンドの全身を破壊し、本体であるジェーンごと、殴り飛ばした。

 

(バ……カ……な!? この、私が……)

 

 地面へと無惨な姿で落下したジェーンは、意識を失った。

 そして。

 

 

 

 ジェーンが再び意識を取り戻して起き上がると。

 傷を治療して貰ったアリアが、車椅子に座った格好で。

 レンと共に、ジェーンの前に笑みを浮かべて佇んでいた。

 

「行きますよ、ダメ押し」

 

「ひぃ……!?」

 

 

『押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅押羅ッ!』

 

 

 拳打と刺突による超高速の連打撃。

 その破壊力はジェーンを跳ね飛ばし、そのまま海へと落下させる。

 アリアとレンはクルリと海に背を向け、片手でハイタッチをした。

 

 

 

 

 ◆




お疲れ様でした。
お読み下さりありがとうございます。




【スタンド名】
『グリーン・チップス・ベルト』
【本体】
ジェーン

破壊力   D
スピード  C
射程距離  A
持続力   C
精密動作性 D
成長性   D

【射程圏内に存在する生物は、体液のナトリウム濃度や皮膚表面上のナトリウム数に応じて冬虫夏草が生える。冬虫夏草が生えた生物は筋肉を支配され、真菌が好むナトリウムが豊富な環境下へと誘導されてしまう。そして、真菌はそこでその生物を絶命させる】
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