ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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波紋疾走②

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『だからよぉぉぉお~~~! もう一回ゆっくり言えって! メモが間に合わねぇんだからよぉおお!』

 

「分かりました。では最初から。私の部屋の本棚の昆虫記大全第12巻の中に緑色のプレートが付いた鍵が隠して有るので、その鍵で一階の床下収納を開けて下さい。その床下の小さな赤色の段ボール箱の中に地下ガレージの鍵が入っているので、鍵を差し込んで暗証番号を72366……」

 

『だぁぁぁぁぁあ! だから、速いんだよ! お前本当に伝える気有んのか!?』

 

 電話口でミリィが悲鳴を上げたのを聞いて、レンは露骨に溜め息を吐いた。

 

「良いですか、ミリィ? 今のは予備の車が有る地下ガレージに下りる為の方法です。いわば第一段階なんです。貴女はまだ予備の車のキーも手に入れていなければ、地下ガレージの入口のシャッターすら開けていません。メールで打つと長文になるので、電話で済まそうとしているんです。電話なら、30秒で済むので」

 

『ならメールで打てよ! 覚えられねぇだろ!』

 

「本来なら、そうします。ですが、敵がいつ襲って来るかも分からない状況で悠長にメールを打っている暇は有りません。貴女が車で私達を迎えに来るのが重要なのです。今度は車の鍵の場所とシャッターの開き方を説明するので、メモを二枚用意して下さい」

 

『いやおい! 鍵ぐらい車に差しておけよ! バイオハザードかよこの屋敷はよぉぉぉぉお!』

 

 等と、会話しているレンの様子を見ながら、アリアは木陰の下で息を整えていた。

 本来なら車椅子で通行出来ない、起伏に富んだ悪路。

 木の根や枝葉すら、アリアには煩わしい。

 加えて敵への警戒と、精神面も磨り減らしている。

 休息が必要だった。

 

「大丈夫ですか、アリア様?」

 

 暫くすると、レンが心配そうに顔を覗き込んできた。

 アリアが苦笑いを浮かべる。

 

「すっかり息が上がってしまいました。──ミリィさんの方は、どうですか?」

 

「何度やってもメモが間に合わないので、留守番電話に何回かに分けて吹き込みました。アリア様は一度で覚えられたのに、妙ですね」

 

 そんな事を言って首を傾げるレンは、何処か人並みの少女のようなあどけない表情を浮かべている。

 自分を取り戻した、とでも思わせるくらいに。

 ──いや、実際そうなのだろう。

 

「念の為、もう一度ルーク様にメールを打っておきましょう。もう敵と遭遇しているかも知れませんが……」

 

 一言断って、レンはアリアの前でメールを打ち始めた。

 本当に何気無く、アリアはそれを眺めていたのだが。

 

「……っ!?」

 

 その指先の動きを見て、気が付いた。

 そして、フランの言葉を思い出す。

 自分が携帯電話もパソコンも苦手な事を引き合いに出され、告げられたあの言葉を。

 アリアは唇の端を吊り上げ、そこへ片手をあてがう。

 

「──成る程」

 

「アリア、様……?」

 

「少々、予定を変更する事になりそうです。ルークさん達との合流を急ぎましょう」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 無数の刃が。

 幾重もの死の軌跡を鋭く描き、内一つが、フェンネルの頬を掠めた。

 流れた鮮血が真横へと流れる程の素早い身のこなしで蹴り上げを躱し、次いで射出された銛を座席シートを楯に防ぐ。

 彼女は一気にその陰から飛び出した。

 凶刃を掻い潜り肉薄したフェンネルの掌打が、唸るが如く男の胴体を捉える。

 だが。

 

「分かっているのか、小娘? この状況……」

 

 跳ね飛ばした瞬間、男の身体は床に潜行して姿を消し。

 即座に背後。

 両腕から大鎌を出現させ、フェンネルの首目掛けて左右より振り下ろしていた。

 バスは金属の塊であり、逃げ場が無い。

 つまりは、常に男の射程距離内に身を置くことになる。

 

「出来るとでも思ったか? 我がスタンドの能力相手に。奇跡が起きる程度では勝てんぞ!」

 

 男の大鎌がフェンネルの首を切断するべく迫った、その時。

 突如としてバスは急ブレーキを踏んだ。

 

「何……!?」

 

 体勢が崩れ、男の身体が仰け反ってフェンネルから離れる。

 その間、フェンネルは両足と片手を床に着いて踏ん張りを効かせつつ、体勢を維持したまま呼吸によって波紋エネルギーを全身に漲らせる。

 そして、今度はバスが急発進。

 男の身体がフェンネルへと引き寄せられた。

 

 示し会わせたかのような完璧なタイミングで踏み込み。

 流れるような体重移動から。

 フェンネルの右肘が轟音と共に鳩尾に叩っ込まれる。

 

 

仙道烈波(ウェーブ・クラッシュ)

 

 

「うぐぅ……!?」

 

 男は苦悶の表情を浮かべて盛大に血を吐いた。

 先程よりも、遥かに重い一撃。

 身体の芯を波紋エネルギーが貫いていくのがハッキリと分かった。

 全身が痺れている感覚すら覚える。

 この波紋は、効いている。

 

『違うね』

 

 肘を出した体勢のまま、交差させた手に握った携帯の画面を見せるフェンネル。

 彼女の両眼からは、燃えるように揺らめく山吹色の波紋が立ち上っていた。

 

『奇跡は起きるものでも、ましてや待つものでもない。……見るものさ』

 

 次いで二段蹴りで胴を穿ち、至近距離から繰り出されたアーミーナイフは男の手首を拳打で打って狙いを反らした。

 ならば、と鉄骨を身体から飛び出させるも、フェンネルはその場で飛び上がり、宙で身を捻って鉄骨を避ける。

 

「……っ!?」

 

 更に肩を軸にするように高速で螺旋回転し、名一杯に遠心力を乗せた蹴りを見舞った。

 

波紋疾走(オーバードライブ)

 

 爪先は唸りを上げて斜めから男の首筋を正確に捉え。

 波紋の破壊エネルギーと衝撃は、恐るべき威力で首筋を貫通して流れた。

 男の身体はバスの壁面へと叩き付けられ、放射状に飛び散ったであろう衝撃が窓ガラスを破壊する。

 

『例えば。小石一つにしても、その存在を形作る定義はこの宇宙において優劣が付く事が無く定められていて。存在を認められた正しい個性だ。一つの個性自体に真実が有り、成り立つ事自体が奇跡とも言える。誰しもが触れているのに、その真の奇跡を理解出来ず。また見る事が叶わない』

 

 跪く男へと、フェンネルは携帯の画面を見せる。

 彼女の目と口からは波紋が迸り、特に口からは白煙を吹いていた。

 

「貴様……ゴホッ……! こ、この波紋……は……! 見ているというのか……!? 俺に流れるように! 『存在の個性』を……!」

 

『伝えた筈だ。奇跡は見るモノだって。──これはお前にだけ通用する波長、お前にだけ有効打となる波紋だ。お前の身体を流れる生命エネルギーの流れを、今! 作った! これが私だけが使える波紋、深淵仙波紋疾走だ』

 

 次いで繰り出したフェンネルの蹴りだが、これは躱される。

 男がバスの床に潜り、運転席方向へと逃れたからだ。

 

(み、見えている……! 波紋の波形そのものを、俺の個性を破壊する為だけの……! 只のそれだけの……!)

 

 男は恐怖し、そして目を剥いて怒りを露にした。

 久しく忘れていた感覚。

 スタンド能力を発現させ、波紋の驚異から逃れるように進化した筈だった。

 天敵のいない空へと飛び去り、悠々と風を捉える猛禽類のように。

 

「克服した筈だった! だが完全に途絶えなかった過去が! 今! 屈服でも求めるように存在している事実! これは因縁だ!」

 

 男は全身から鉄骨を出現させ、針山の如く武装する。

 

「細々と種を繋いできた波紋使い共との、決着の付け方を俺は知っている! 理解出来ている! それが使命だと理解している! 小娘! 貴様だけは生きて帰さん!」

 

 二人はバスの床を蹴り付け、互いに渾身の一撃を放つ。

 男の拳は半身となったフェンネルの髪の毛の隙間を抜け。

 フェンネルの蹴りは、鉄骨の隙間を潜り男の胴体に突き刺さった。

 波紋のエネルギーが男の身体を駆け回り、破壊する──。

 

「……っ」

 

 筈、だったが。

 フェンネルは気が付く。

 身体から伸びた鉄骨がバスの床と同化しており、そこから波紋が逃げてしまっている事を。

 

「『D・D・シルヴィア』! 既に! 床と俺の身体を繋いでいた!」

 

(波紋が巡回してない……! コイツ! 敢えて私の波紋を受けた!?)

 

 カウンターで飛び出した二本の長槍がフェンネルの肩と胴体を貫き、その勢いのままフェンネルは床に押し倒された。

 肺の中の空気が一気に抜け、呼吸が乱れた事でフェンネルの波紋が解除される。

 しかも貫通した槍が床に突き刺さり、身動きが出来ない。

 

「終わりだ、小娘。淘汰されるのは波紋使い共なのだ。我々の進化を妨げる事は、何者にも出来ん……!」

 

 男は戦斧を腕から出現させ、振り上げた。

 一撃の元、フェンネルの首を切断するつもりでいるのだ。

 そして携帯を回収し、ルークを始末しに行くのだろう。

 やがては、アリアやレンにも危害を加える事になる。

 

 過呼吸になりながらも、フェンネルは自身の身体を貫いている槍を引き抜こうと力を込めていた。

 それだけは許さないとばかりに、血で滑る槍を掴んで床から抜こうとする。

 目前に迫る己の死を意識しながらも、自分の闘志には微塵の揺らぎすら無い事を、フェンネルは理解し、そして安堵していた。

 

 

 

 

 ──何度、涙を流しただろう。

 

 

 

 

 槍を少しずつ、確実に引き抜きながらフェンネルは、闘志をひたすらに燃やし、その華奢な体躯に怒りを蓄え続けた。

 波紋が使えない己の肉体に怒り、仲間を脅かす眼前の悪に怒る。

 

 

 

 

 

 ──何度、お別れしただろう。

 

 

 

 

 いかに優れた技術があっても、やがては時代の中で淘汰されるモノである。

 様々な背景によって洗練される事は有るが、それが正しい事実として社会や環境に適応されるかは、結局の所結末まで分からない。

 

 どう進んで、どう終わるのか。

 進化という過程においては、波紋もまた同じ事が言えた。

 進化した吸血鬼は、アリアの父が矢を発見する以前より出現しており。

 恐らくは別の場所から偶発的に出土したものだろうが、当時、拮抗していた互いの戦力は一変する。

 吸血鬼と波紋使いとの長きに渡る闘いにも、決着の兆しが見え始めていた。

 

 波紋使い達は少しずつ、確実に滅びの道を歩き始める。

 強靭だった使い手達が次々と殺害された事もあり、また担い手も少ない。

 他からの支援を断ち切られ、味方もいない。

 人知れず正義の心を持って悪に立ち向かってきた彼等の闘いは、悪による完全勝利によって幕を閉じるだろう。

 

 ──そんな。

 誰もが絶望する中で生を受けたフェンネルは。

 1000年に一人の天才だった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「コオオオオオ……」

 

 

 世間から隔絶された、山中の中で。

 波紋使い達は呼吸するフェンネルの修行風景を見守る。

 圧倒的な密度から成る彼女の波紋力は、最強の戦士ですら天秤に乗る事が叶わない。

 人間の可能性を強力に主張するフェンネルは、そこで生きる波紋使い達に希望を与え、象徴となっていた。

 

「なぁ、もう何れぐらいやってるんだ?」

 

 近くの男が、フェンネルの修行を見守る銀髪の少女に訊ねた。

 彼女はフェンネルと共に修行した、いわば同期である。

 彼女の波紋力も一族の中では最強クラスなのだが、フェンネルには遠く及ばなかった。

 

「確か、8時間程になりますね」

 

 銀髪の少女がニッコリと微笑みながら答える。

 目を伏せ、静かに深く呼吸を繰り返すフェンネルは、自然と一体化したかのような力強さを放っていた。

 

 彼女はパソコン等の電子情報ツールにも卓越した才能を見せており。

 衛星や監視カメラをハッキングし、進化前の吸血鬼達の潜伏場所を割り出すと、次々と仲間と共に潰して回っていた。

 

「ふぃ~~」

 

 普段より念入りに修行を行った事もあり、フェンネルの身体からは滝のような汗が流れている。

 

「ありゃりゃ~~? 皆して私の修行なんか見ちってさぁ~~エロいねぇ~~」

 

 飄々とした態度で笑いながらも、フェンネルはいつもの様子で仲間達からの報告を受ける。

 声は少し、かすれていた。

 

「ふぅ~~ん、最近はやっぱり動く気配は無いか。うん、こっちの班は全員戻らせて~~、後は私がちょこちょこ見とくからさぁ」

 

 まだ少女である彼女だが、常に仲間達の中心にいて指揮を取り。

 吸血鬼達の動きを封じ込めた上で減らす方針を立て、波紋の一族を導いていた。

 

「進化した奴は仕方ない。交戦は避けてね。今後、私がちゃちゃっと何とかするよ~~」

 

 そう言ってフェンネルは、銀髪の少女を伴って仲間達の元を後にする。

 日々の過酷な修行に加えて、連日のように吸血鬼との命懸けの闘いを強いられる。

 フェンネルの肉体と精神は限界に近かった。

 

「あの、フェンネルさん? 少し休んだ方が良いですよ」

 

「大丈夫だって。あと少し。あとちょっぴりで、波紋の極地に到達出来そうなんだじぇ~~」

 

「……無理しないで下さいね」

 

 枯れた声で手を振るフェンネルを見て、銀髪の少女は不安を募らせる。

 いつも修行の後はこうなるのだ。

 ただでさえ強力な波紋エネルギー。

 それを呼吸法によって更に増大させて行くという彼女の独自の波紋は、呼吸の度に喉や内臓に負担を強いる諸刃の剣。

 

 それを補う為、波紋エネルギーの幾らかは同時に治癒に回しているらしいが。

 どの道、限界は有るのだ。

 

 仲間の誰もがフェンネルの事を信頼していたし、彼女の波紋に奇跡を見ていた。

 しかし。

 まだ若い彼女が、たった一人で期待と運命を背負い、過酷な世界を歩くには正義だけでは足りなかった。

 

 

 それから暫くして。

 フェンネルは重い病に倒れた。

 

 

 細菌やウイルスといった感染症だとか、医学的な疾患の類いではなく。

 生命エネルギーが枯渇した事による衰弱であった。

 誰よりも波紋の極地に近かったフェンネルだが、その才能と努力は最悪の形で彼女を裏切る事となったのだ。

 

 穴の空いた風船のように。

 或いは割れた花瓶の底から水が漏れ出すように。

 彼女の身体から生命エネルギーは徐々に流れ出して行く。

 

 原因はハッキリと断言は出来なかったが、強すぎる波紋力に、小柄な少女の肉体は耐えられ無かったと推察された。

 

 

 

 何が正しかっただとか、何処が間違っていただとか。

 己の正義を信じて仲間達を率い、先の見えない荒野の開拓者となっていた彼女の人生を、そんな言葉で片付けてはいけない。

 誰かがそう言った。

 

 だから。

 仲間達は、先に待つ未来を。

 彼女に託す事に決めたのかも知れない。

 

 

 

「……。」

 

 

 フェンネルは、ベッドの上で目を開けた。

 病に伏して一週間後の事だったが、鉛のように重かった身体が回復してきている。

 ふと隣を見ると、仲間の一人が自分と手を繋いだ状態で椅子から転がり落ちていた。

 眠っているようだったが、呼吸はしていない。

 フェンネルは寒気を覚えた。

 

「気が付きましたか?」

 

 銀髪の少女が、まだ身体の動かないフェンネルの手を取って微笑んだ。

 反対側の倒れた仲間は、別の仲間達が丁重に床に寝かせ、顔に布を被せた。

 その横には、更に数名の波紋使い達が静かに横になっている。

 

「ま、さ……か……」

 

 フェンネルは全てを察し、初めて恐怖した。

 まず真っ先に頭を過ったのは、手を繋いだ相手に生命エネルギーの全てを渡す禁断の技の存在。

 

 

 自分の身体を治す為に。

 こんな自己犠牲を。

 溢れた涙と熱で、フェンネルの視界は滲んだ。

 

「私……は……、こんな、の……望ん……で……」

 

「悲しい事は、フェンネルさん──」

 

 銀髪の少女が、自身の波紋エネルギーを全身に漲らせ、フェンネルの手を両の手で包み込んだ。

 

「全てが終わって、途絶えてしまう事です。一族の正義の意志が、未来に存在しない事なんです」

 

「ま……待って……」

 

「だからこれは、犠牲の精神では有りません。貴女には、未来を成すだけの力が有ります。だから……フェンネルさん……私の、私達の未来を──」

 

 銀髪の少女から、凄まじいまでの生命エネルギーが放たれ、躍動した。

 

 

 深仙脈疾走(ディーパスオーバードライブ)

 

 

 

 

 

 

 ─貴女に、託します─

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 後のスピードワゴン財団との出会いは、自分に存在する意義を与えてくれたとフェンネルは思う。

 あの時守れなかった最愛の仲間達の意志を引き継ぎ、今を歩いて行けるだけの理由が有るのだから。

 

 だから、負けられない。

 負けるワケにはいかないのだ。

 

「終わりだ小娘!」

 

 彼女の闘志ごと粉砕せんとばかりに、男は凶刃を振り落とした。

 これで全ての宿命に決着を付けられる。

 舐められ、負けっぱなしの人生も上向きに向かう。

 

「やった! 俺は乗り越え──!」

 

 刹那。

 バスの壁と窓ガラスを突き破って侵入して来たボートの先端部が、凄まじい速度で真横から男の脇腹を強襲した。

 男は弾き跳ばされ、反対側の窓から車外へと投げ出される。

 

「……ぐはっ!? な、何ぃぃぃぃい!?」

 

 転がった先は砂地だった。

 いつの間にか山道を下り、海辺へと辿り着いている。

 

「次は~~終点~~終点~~。海~辺の、墓~場~~」

 

 壊れたバスから、まるで音声を繋ぎ合わせたような車内アナウンスが流れる。

 昇降用のドアが開いて、フェンネルが降りて来た。

 傷だらけだが、闘志はより一層強まっている。

 フェンネルは携帯電話を見せて来た。

 

『目の前の敵に集中し過ぎだ。駄目駄目だろ、周りも見ねぇと。お前が余裕でいる間に、ネオン・ウルペース! グルッとバスを回り込ませて砂地に向かっていた!』

 

「こ、この小娘……が……!」

 

 男は立ち上がろうとしたが、膝に力が入らない。

 先程のダメージが回復していないらしい。

 

『更に停泊していたボートをスタンドで捕まえて走らせた。突っ込ませるタイミングはバッチリだった』

 

 フェンネルは、再び呼吸法によって波紋を全身に漲らせた。

 

 

深淵仙波紋疾走(アビスオーバードライブ)

 

 フェンネルの両眼と全身から山吹色の波紋エネルギーが迸り、口からは白煙が上がる。

 男へ有効となる波紋の波長は、もうとっくに覚えていた。

 

『さぁ~~、このまま遠慮無く叩っ込ませて貰うぜぇ~~?』

 

 近寄ると、男は片手を突き出して待ったを掛けてきた。

 

「ま、待て……! 確かに俺は波紋使いとの決着を望んでいたが、それは勝利に拘った事では無い……! 敗北を受け入れる事でも、決着は付くのだ。今はそれが望みだ」

 

「……。」

 

「俺は負けを認めよう。今後、お前達に手は出さないと約束もする!」

 

 切羽詰まったように話す男を見て、フェンネルは「うーん」と考えた。

 すると、バスの車内アナウンスが流れる。

 

 

 

 

 

「──駄目、です」

 

 

 

 

 直後。

 フェンネルの閃光のような蹴りが一発、男の顔面へと叩き込まれた。

 次いで。

 

 

 

 

 

 

「駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目っ!!」

 

 

 

 

 超高速で全身へと叩っ込まれる、烈々たる蹴りの弾幕。

 稲妻が如く放たれ続ける波紋エネルギーが標的を焼き、その身を崩壊させて行く。

 

「駄目ぇっ!!」

 

 最後の一撃は男の身体を蹴破り、灰燼とさせた。

 宙に投げていた携帯電話を片手でキャッチし、フェンネルはバスのアナウンスを終了させる。

 手にしていた携帯電話の画面には、『転送完了』の表示が出ていた。

 

(ふぃ~~。何とか……ネオン・ウルペース。奴等のメルアドと電話番号はゲット出来たぜぃ……。こっから、更にネオン・ウルペース!)

 

 出現させた群像型の蜂に似たスタンドが、フェンネルの携帯電話の中へと侵入する。

 

(それぞれ、携帯電話の位置情報を辿って追跡しろ!)

 

 途端にフェンネルの携帯電話から一斉にスタンドが飛び出して行った。

 その内の一匹が街の中央へと向かった事を、フェンネルはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 





お読み下さり感謝の至りです。




【スタンド名】
『ネオン・ウルペース』
【本体】
フェンネル

破壊力   E
スピード  D
射程距離  A
持続力   A
精密動作性 A
成長性   B

【射程圏内にある電子機器に取り付き、その機能を支配下に置くスタンド。群像型で同時に複数の機器に取り付く事が出来るが、その機能を越えたパフォーマンスを要求すると機器が故障する】
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