ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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侵入者

 

 

 パソコンの画面にはこの街の地図が映し出されており、所々に印が付いている。

 ルークはキーを叩いて更に詳細な情報を上乗せした。

 

「これは……被害者の家と名前が記載された地図ですか?」

 

 アリアが画面に顔を近付ける。

 

「ああ、情報を整理する時に俺が作ったんだ」

 

「まぁ。便利なスタンド能力ですね」

 

「いや。これはパソコン使える奴なら誰でも出来るよ」

 

「そ、そうなんですか……!? こんな凄い事を、皆さんは平然と?」

 

「何だ、アリア君はパソコン苦手なのか」

 

「は、恥ずかしながら」

 

 アリアは若干赤面しながら恐る恐るキーボードを指差す。

 

「これだけボタンが沢山有ると、どれが電源なのか分からないです」

 

「立ち上げる前の段階か……!? おい、まさか携帯電話も持ってないのか?」

 

「ば、馬鹿にしないで下さい!」

 

 アリアは少し膨れた表情で鞄から小さな長方形の物体を取り出した。

 それが彼女の掌に乗ってゆっくりと姿を現した瞬間、ルークは恐ろしいモノでも見たかのように。

 一人、戦慄を覚えた。

 

(な、何ぃぃぃぃ……!? こ、これは……まさか。まさか、ポケベルじゃあないか!?)

 

 思わず、パソコンを叩く手が止まるルーク。

 

 現在は既にサービスそのものが終了しており、医療従事者や消防局といった携帯災害無線が必要な事業者のみが使っている。

 現在での使用率は二%を下回り、一般人が使うメリットが全く無いに等しい。

 そのポケベルをアリアが持っている事よりも、彼女がこれを携帯電話の機種だと思い込んでいる方が問題だった。

 

「その……あくまで個人的な好奇心で聞くんだが、アリア君」

 

「はい」

 

「それは、その……使えるのか? もしもし、とか街中でやったりしているのか?」

 

「いいえ? 電話の掛け方が分からないので」

 

「そうか、それは良かった」

 

 理解した。

 ルークは色々と、理解をした。

 

 何故スピードワゴン財団が、手紙に拘っていたのかを。

 真心を込めるだとか、丁寧だとか。

 そうではなかった。

 アリアはパソコンも携帯電話も使えないのだ。

 だから、彼女に足りない能力を補える自分の適性が高かった。

 

 スピードワゴン財団の職員を救出した、というのは何かの間違いなのではないか。

 ここまで凄まじい天然思考には出会った事がない。

 おっとりとした口調やマイペースな仕草からも、今の所は世間知らずのお嬢様といった印象だ。

 

「そろそろ話を戻そう。この地図から見ても、俺達だけで捜索するとなると範囲はかなり広い。行方不明者がもうこの街にいない可能性だってある。

 兎に角、先ずは情報だ。スピードワゴン財団を通して、警察からの情報が入って来るのを待つ。後は被害者宅を一件づつ訪問して、スタンドの痕跡のようなモノを見付ける。君も、それで良いな」

 

 それで自分に今出来る事は全部だ。

 彼女も捜索に加わっているから満足だろう。

 このまま警察と連携してスピードワゴン財団が本腰を入れて捜索すれば、事件はいずれ解決する筈だ。

 目的の一つであるアリアの説得も達成し易くなる。

 

「そう、ですね……」

 

 アリアは自らの唇に人差し指を当てながら、パソコンを物珍しそうに眺めている。

 そろそろ片付けて本題に移ろう。

 ルークがパソコンの縁に手を掛けた時、しかしアリアは言うのだ。

 

「被害者の方々は、まだこの街の中に居ます。監禁されているんです。私の予想では、恐らくこの辺りに」

 

「は……?」

 

 アリアの人差し指は、駅の有る北側から離れた。

 それも、港が有る西南方向を避けた位置、街のほぼ中央を指差している。

 

「詳しい場所まではまだ分かりませんが、この場所を中心とした半径十キロ圏内。それもマンションやアパートといった、隣人との関係性が比較的希薄な場所だと思います」

 

「君は、何を言っているんだ? どうしてそんな事が分かる?」

 

「被害者が女性とはいえ、人一人を連れ去る事が出来るだけのパワーを持ったスタンド。恐らく、敵スタンドは近距離パワー型のスタンドです」

 

「近距離パワー型?」

 

「スタンドが本体から余り離れられない代わりに、パワーやスピードが優れているタイプです。射程距離はスタンドの基本性能によって多少の誤差は有りますが、二メートルから五メートル、といった所でしょうか」

 

 アリアは地図の上を指先でなぞった。

 

「スタンドの射程距離を計算に入れた場合、短時間の内に連れ去って逃亡する為には、安全なルートが必要です。監視カメラの多い駅前や人通りを避けて行くとなると、経路はこのように限定的。

 一人ならばともかく、八人を同じ手口で連日のように連れ去っている事から、ある程度の計画性に基づいた行動であると推測出来ます」

 

「……っ」

 

「そして計画を成立させるには、拠点の存在は必須。人目を避けるには細い小路しか無く、何より車等を使えば目立ちますから、徒歩で連れ去っている可能性が高いです。

 故に、連れ去った被害者を一時的に閉じ込めておける場所が必要となります。被害者の方々のお住まい全てが徒歩圏内。それが、丁度この辺りなんです」

 

(な、何なんだ? この子は……!?)

 

「──以上の条件から考察すると。敵スタンドの能力は対象の姿を隠す、もしくは小さくする、といった連れ去るのに適したスタンド能力なのかも知れません。……このパソコンの地図情報を見て思った事は、そんな所でしょうか」

 

 鋭い視線から一転して、アリアはやんわりと微笑んだ。

 それから半分残してあったマカロンを小動物のようにモグモグと食べ、紅茶を飲み干した。

 

「あ、そういえばルークさん。パソコンが使えるなら、一つお願いしたい事があります」

 

「あ、ああ。それは別に構わないが」

 

「パソコンで被害者の方々の写真が見たいんです。私が集めた写真とは違うモノを」

 

 アリアはそう言うと、目頭を押さえながら瞑想でもするかのように目を閉じて唸った。

 

「少し待って下さい、今思い出しますので。え~~っと……何でしたっけ。名前。三文字の……この前教えて貰ったんですけど。専用のアップル? がどうとかの、写真等を投稿出来るサービスらしいのですが……」

 

「ん? ああ、それは多分写真投稿型のSNSの事だろうな」

 

 ルークはクスッと笑い、パソコンを操作して必要情報を打ち込み、少女達がプールで撮ったで有ろう一枚の写真を表示した。

 少女達四人が横に並んで、笑顔を見せている。

 

「こ、これですこれです。凄いんですね、ルークさん。あっという間に」

 

 アリアは玩具を貰った子供のように喜び、再びパソコンの画面を食い入るように見た。

 

「他の方々の写真もお願いします」

 

「……ん? ちょっと待ってくれ」

 

 ルークはそう言ってパソコンを預かると、カタカタとパソコンを十分程操作し、アリアに渡した。

 その間に、アリアは新しい紅茶を自分とルークのカップに注いだ。

 

「被害者達全員の写真だけを見れるようにしといた。更新状況にもよるが、過去二ヶ月以内のモノなら全て見れる」

 

「は、はい。ありがとうございます。……えっと……? 次の写真を見るには……?」

 

 アリアは両手の人差し指を立て、恐る恐るパソコンを数回突っついた。

 すると写真が閉じられ、別のファイルが開いた。

 

「あ、間違えました。さっきの所に……」

 

 と、顔を赤らめ狼狽した様子でパソコン突っつく。

 すると本体横のイジェクトボタンに触れたのか。

 CDドライブのトレイがカシャッと音を立てて飛び出し、アリアが「きゃっ!?」と短く悲鳴を上げた。

 

「すいません、壊しました」

 

「いや、謝るのは俺の方だ」

 

 そう言ってルークは。

 トレイを元に戻しパソコンを操作した。

 被害者達の画像を、二人で端から順に見て行く。

 すると五人程を流し見た所で、アリアが口を開いた。

 

「ルークさん。最初の方の写真に戻って下さい。二週間以内で、一番新しいモノを」

 

「? 分かった」

 

 彼女は何か気が付いたのだろうか。

 ルークは言われた通りにする。

 水着姿の少女が四人、並んで映っている以外は何の変哲も無い写真だった。

 左中央に映っているのが被害者、という事しか分からない。

 

「次の方の写真も同じ条件で」

 

 次の写真を見せる。

 今度は夜、被害者が一人だけで映っていた。

 小綺麗な店が建ち並ぶ通りの前で撮られている。

 最初は四人で今度は一人。

 

「次の方を」

 

 ルークは指示に従う。

 少女が二人で映っている以外は先程の写真同様、妙な所は無い。

 するとアリアは一旦パソコンの前から離れ、適当な紙と定規を持って戻ってきた。

 

「ルークさん、もう一度先程と同じように最初から順にお願いします」

 

 言う通りにしてみる。

 すると今度は画像が切り替わる度に、パソコンの画面に直接定規を何回か当てて、その数字を紙に書き込んだ。

 そして、何か計算している。

 

「……約百八十センチメートルですね」

 

「え?」

 

 そんな事を囁いた。

 

「被害者の方々が映っているこの写真ですが。彼女達の身長や建物、影の長さ等から逆算すると、実は全て……同じ高さから撮影されているんです。

 計算上、彼女達を撮影した高さは約百八十センチメートルです。撮影した人物のクセなのか、毎回同じ角度で、屈んでもいません」

 

「な、何を言っているんだ?」

 

「最初の写真、テーブルに置かれた彼女達の荷物は四人分です。二枚目の写真も、親しい友人と撮るには少し離れた位置から撮影されています。つまり、ルークさん。

 この写真は、友人や彼女達自身が撮った写真では無いんです。別の第三者にカメラを預け、撮影して貰ったモノでしょう。そしてそれは、全て二週間以内に撮影されています」

 

「お、おいおい。ちょっと待て。まさか、行方不明になった彼女達全員の写真が……」

 

「まだ確定では有りませんが。仮にもし。全て、同じ高さから撮影されていたとすれば。その撮影した人物というのは、一体誰でしょうか?」

 

「取り敢えず、全員見てみるか?」

 

 ルークは写真をスクロールし、アリアと共に再び画像を見ていく。

 今度は、注意深く見ていく。

 すると八人目の写真に差し掛かった所で、突然アリアがルークの手首を掴んだ。

 街中で撮られたであろう写真である。

 

「ルークさん。この写真。この、彼女の後ろを走る車の、助手席側の窓。見えますか?」

 

 そう言われ、ルークは顔を近付けて目を凝らす。

 すると、一瞬の反射の中に、小さいが映っていた。

 スマートフォンのカメラを被害者の女性に向けている、金髪の男の顔が。

 

「コ、コイツは……!?」

 

「計算上では、この写真も百八十センチの高さから撮影されています。カメラの構えている位置を考慮すると、男性の身長は百八十九センチといった所でしょうか」

 

「印刷しちまおう。画質は荒くなるが」

 

 ルークはそう言うと懐を探り、何かを握る。

 その手を机に近付けると、今度は突然プリンターが出現した。

 手際よくルークは印刷し、男の顔が印刷されたコピー用紙を机に置く。

 

「助かります。本当に便利な能力ですね」

 

「人と同じで、世の中には物の幽霊ってのも存在しているんだ。俺はその幽霊になった道具を使う事が出来る。それが俺のスタンド能力だ」

 

「そ、そうなんですね……幽霊……」

 

 するとアリアは苦笑いを浮かべながら、ゆっくりとパソコンとプリンターから離れた。

 少し青冷めても見える。

 知らない方が良かっただろうか。

 

 話を切り換えるつもりで、ルークが男の顔を指差した。

 

「この男も、俺達と同じようにスタンド使いって事か」

 

「──恐らくそうですね。ですが、彼女達を連れ去った犯人では無いと思います」

 

 男の顔が印刷されたコピー用紙を持ったルークにアリアは言う。

 

「人目に付かないように連れ去っているのなら、彼女達の前に一度姿を見せているのは不自然ですし。多分、連れ去ったのは別のスタンド使いです。仮説ですが、写真の男性の役割は彼女達を選別し、居場所を特定する事だと思います」

 

「仲間がいるって事か……!?」

 

「はい。そして役割が有り、目的が有り、計画性が有るという事は、一つの集団。もしくは組織によって統率されている可能性が高いという事です」

 

「成る程。若い女を手当たり次第、というワケでは無さそうだな。やり口が回りくどい上に、効率が悪い。しかし、彼女達を連れ去る事が先ず第一の目的だとすれば、早々に殺しはしないか」

 

「それでも時間は余り有りません。私の考えではもう何人か、連れ去ると思います。そして、計画の段階が進めば、彼女達を連れて街を離れるかも知れません。そうなれば、捜索は不可能になってしまいます」

 

「しかしだな、監禁場所を捜索するとなると。いよいよ敵と遭遇する確率は高くなる」

 

「私がスピードワゴンの職員さんを救出した事、ご存知ですよね。どうぞ良しなに」

 

「……君は本当に学生か?」

 

 目の前の少女を見て、ルークは思う。

 スピードワゴンの職員を救出した所で終わり、では無かっただろう、アリアの場合。

 

 そもそも何故、スピードワゴン財団の人間がこの街に来て。

 そして何を調べていたのか。

 恐らく彼女はスピードワゴン財団がこの街を極秘裏に調査していた事と、今回の事件との関連性について気が付き始めている。

 

「何処まで知っている? いや、分かっている?」

 

 直球を投げてみた。

 アリアなら、この質問だけで十分だろう。

 彼女は顔を背けた。

 

「……あの、今はまだ」

 

「そう、か」

 

 まだ分からない、ではなく。

 言えない、という意味だろう。

 

 穏やかに話をしてはいるが、要はこの街から離れて欲しいと訴えている現状。

 もし財団以上に彼女が敵に接触していたとすれば。

 そしてそれを代表が知れば。

 今度は彼女をこれ以上関わらせないように、強制的に連れ出す可能性も有る。

 全てがアリアを守る行為だとはいえ、出来れば互いに避けたい事態だ。

 

 アリアもそれが分かっているのだろう。

 これは信頼の問題だ。

 

「……捜索だったな。俺も行くよ」

 

 兎に角、今は目の前の問題だ。

 アリアが動く以上、彼女を守らなくては。

 ルークは紅茶を一気に飲み干し、マカロンも早食いして上着を羽織った。

 パソコンとプリンターも回収し、ついでに鞄の中に金髪の男が印刷されたコピー用紙を入れる。

 

「鍵を返してから、慎重に進めるとするか」

 

「あ、あの。ルークさん。……我が儘を聞いて貰って、すいません」

 

「人助けだろう? 気にするなよ。俺だって助けたいんだ」

 

 素っ気なく去って行くルークの背中を見て、アリアは頬を掻いた。

 

「危なくなったら、逃げて下さいね」

 

「君も一緒にな。……下まで押してやる」

 

「あ、はい。お願いします」

 

 アリアがそう言うと、ルークは彼女の背中に回り。

 車椅子を押し始めた。

 少し嬉しそうに、アリアは顔を綻ばせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人の様子を。

 中庭を挟んで、反対側の校舎の屋根の上から一人の男が見ていた。

 頭の両側を刈り上げ、派手なピアス。

 明らかに学校関係者ではない佇まいである。

 二人の姿が窓に映らなくなってから、男は双眼鏡を顔から離す。

 

「スピードワゴン財団の人間がよぉ……」

 

 男は屋根の上を移動して行き、二人の姿が見える位置で足を止める。

 

「こんなお嬢様学校に何の用かは知らねぇが。テメェ等の動きは逐一見張っておけって言われてんだよぉ」

 

 二人は専用のエレベーターに乗った。

 一階だ。

 一階に降りて中庭を通って此方の校舎に入る。

 どうやら、あの車椅子の少女と行動を共にするらしい。

 

「病院にでも連れて行くつもりか? それとも、あの女は重要人物なのか? ──まぁ、俺にはどっちだろうと関係ねぇがよぉ」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 





お読み下さり、本当にありがとうございます。



余談ですが、自分を老化させたプロシュート兄貴の声マネが凄く上手い友達がいます。
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