ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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銀の戦車

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 一階に降りたアリアとルークは、たっぷりと陽射しが降り注ぐ、整備された中庭へと差し掛かった。

 他の生徒の姿は無いようだ。

 

 瑞々しい緑の葉を蓄えた木々が、木漏れ日を作ってゆらゆらと風に揺れている。

 二人が木の側を通ると、その木の枝葉から小鳥が二羽、羽ばたいていった。

 

「凄い庭だな。ベンチまであって、ちょっとした公園じゃあないか?」

 

「学院長様の御趣味だとか。一応、一般の方にも開放されてはいます」

 

「自慢したいだけだな、そりゃあ」

 

「そ、そうかも知れませんね」

 

 笑いを堪えながら、アリアが相槌を打つ。

 足元は石畳が模様の様に敷き詰められており、車椅子のアリアでも難なく走行出来た。

 

「そう言えば、ルークさん。車の運転って出来ますか? ここからは結構離れているので……」

 

 アリアが訊ねると、不意に車椅子を押す力は弱まった。

 返事も無い。

 

「……ルークさん?」

 

 不思議に思い、アリアが振り返るが。

 後ろにいる筈のルークの姿は無い。

 アリアは直ぐに車椅子を操り、百八十度ターンする。

 

「ルークさん? 何処、ですか? もしかして木陰で休憩してますか?」

 

 見回すが、誰も居ない。

 中庭は不気味な程に静かだ。

 

 と、左目の視界の端。

 少し離れた位置に有る、階段状になった煉瓦花壇の裏側に。

 芝生の上に仰向けで倒れているのだろうか、ルークの両足だけが見えた。

 

「っ!?」

 

 アリアが漕ぎ出すと、両足は凄まじい速さで裏側へと引き擦られ、姿を消した。

 遅れて到着したアリアが花壇の裏側へと回り込むが、芝生と木以外は何も無い。

 隣接する校舎の廊下に並ぶ窓ガラスは全て閉じられており、しかも内側からしか開かない仕様だ。

 

「ルークさん!? 返事をして下さい! ルークさん!」

 

 アリアは周囲を見回すが、ルークの姿は忽然と消えている。

 

「まさか、そんな……!? これは、既に!」

 

 余りに速く。

 ついさっき、情報を得たばかりのルークが狙われ、連れ去られたという事実。

 

(スタンド攻撃……! 似ている。行方不明になった方々と。今起きた、この状況) 

 

 途端にアリアの左目は細められ、警戒体勢となる。

 

(このまま敵が、私を見逃すとは思えない。……しかしそれは、とても好都合です)

 

 いつでも車椅子を動かせるように、車輪に両手を乗せた。

 

(この敵を倒し、ルークさんを救出する!)

 

 呼吸を整え、アリアは集中する。

 強く、深く──。

 

 

 

 

(何だぁ? この女、逃げねぇぞ?)

 

 アリアの背後。

 花壇の煉瓦の隙間から、空気の抜けた風船の様に薄っぺらな物体が音も無く出て来たかと思うと。

 一瞬で膨らんで男の姿になる。

 校舎の屋根の上から二人を観察し、この中庭でルークを襲った男である。

 

(てっきり逃げてよぉ~。こっちの射程距離に勝手に入って来るかと思ったんだぜ?)

 

 男は自らの唇を舐め、数歩アリアに近付くとスタンドを出現させた。

 右手に四、五十センチ程の針状の剣を持った人型のスタンドで、腕や足の表面は凹凸状の装飾に覆われている。

 

(だったら、このまま。さっきの男や女共を拉致ったみてぇに。俺の『ソフト・マシーン』。その綺麗な首筋にポッカリ風穴開けて、この女もよぉ~)

 

 目の前には。

 此方に背を向けた状態の。

 車椅子に乗った隙だらけの少女が一人だけ。

 

(行くぜ! 射程距離に入った!)

 

 男のスタンド、『ソフト・マシーン』はアリアの首筋目掛け、その右手に持つ針状の剣を繰り出す。

 スタンドすら見る事が叶わない相手だと。

 致命的な油断を抱えたまま。

 

 

 攻撃は。

 突如としてアリアの背後に出現した、彼女のスタンドによって防がれる。

 白銀に、そして一部が金色に輝く甲冑を全身に纏った。

 細身の中世騎士を彷彿とさせる人型スタンド。

 その右手に持つカップヒルト・レイピアの根元で針先を受け止めたアリアのスタンドは、守護霊であるが如く男へ睨みを利かせる。

 

「こ、この女! スタンド使いか!?」

 

 男が驚愕する中、アリアは素早く車椅子を操作して自身を反転。

 スタンドの剣が吐き出す金切り音と山吹色の火花もそのままに、重心を外して敵の針先を明後日の方向へと受け流す。

 彼女の意思を寸分の狂いも無く再現する騎士のスタンドは、透かさずレイピアを返して反撃に転じる。

 

「『シルバー・チャリオッツ』!」

 

 猛烈なまでの、突きの連打を嵐の如く瞬時に前方へと展開。

 男の両手足をスタンドごと幾重にも貫き、制圧する。

 背後へと吹っ飛ばされた男は校舎一階の壁に激突し、悲鳴を上げた。

 

(な、何ぃ……!? コイツ、ヤバい……! コイツのスタンド……!)

 

「命までは頂きませんので、悪しからず。貴方には色々と、お尋ねしたい事が有りますから」

 

 アリアはスタンドを引っ込めると、両手足の傷口から血を流して倒れる男へ向かって自走する。

 辛うじて、男は立つ事は出来た。

 急所は外れており、致命傷ではない。

 

(ちくしょう、何て……!)

 

 いや、違う。

 正確には。

 外して貰った、が正しいだろう。

 

 アリアは、男の上着のポケットに丸められて入っているルークを一瞥した。

 

「成る程。攻撃した相手を、萎んだ風船の様に薄くする能力ですか。貴方のそのスタンド。人を沢山連れ去るには、最適任の能力ですね」

 

 少しずつ。

 間合いと敵の攻撃の予兆を見計らう様に。

 アリアは近付いて行く。

 

(何て事だ。この女、行方不明の女共を追ってやがる……! 生意気にも、学生なんて身分で。こんな、一人じゃストッキングも上げられねぇような体で……!)

 

「この間合いから攻撃してきた事から、スタンドの射程距離は一メートルからニメートル。受けた剣圧の強さから考察する攻撃パワーは、私の『チャリオッツ』よりも上。以上の点から、貴方のスタンドを近距離パワー型と判断致しました」

 

 アリアは男から一定の距離を置き、車椅子を止めた。

 やや右斜めを向いて、左目の視界を広げる徹底ぶり。

 

 中庭でルークと話していた時の、年頃の少女の面影は何処にも無い。

 完全に戦士としての雰囲気を漂わせている彼女の声色は、実に冷ややかであった。

 

「お茶でもしながらお話を、と言いたい所ですが。先ず返して頂きたい人がいるので。──返答次第では、再起不能になって貰います」

 

(ス、スタンドの射程距離を確実に計算に入れてやがる……! 経験豊富な奴だ、闘い慣れているな……!)

 

 男はポケットを探り、小さく丸めた物体を幾つか取り出した。

 

「俺の『ソフト・マシーン』が薄っぺらく出来るのは、人間だけじゃあないんだぜ?」

 

 その幾つかの物体を、男はアリアの頭上高くへと投げ放った。

 アリアはハッとする。

 中庭の煉瓦花壇の端の一部が、持ち去られている。

 

「能力を解除してやればよぉ。重さと質量は元に戻るんだぜぇ?」

 

 無数の黒い影が太陽の光を遮り、アリア目掛けて落下した。

 これは煉瓦ブロックだ。

 

 当たり所さえ気を付ければ大怪我にはならないし、ひょっとしたら当たらないかも知れない。

 しかし車椅子のアリアにとっては、只でさえ走行し難い芝生の上で。

 この後無造作に転がる事になる煉瓦ブロックを避けながら正しく走行出来るか、実際かなり怪しい。

 

 最初から、倒す事を目的とした攻撃ではない。

 これは退く為の時間稼ぎである。

 

「『チャリオッツ』……!」

 

 特に焦る様子も無くスタンドを出現させたアリア。

 覆い被さるかのように降り注いだ煉瓦ブロックの雨を、『シルバー・チャリオッツ』は凄まじいまでの剣捌きで瞬時に切り伏せて弾き飛ばしていく。

 しかも切断した煉瓦ブロックはモーゼが海を二つに割ったが如く、アリアの走行を妨げないように左右へと落下していき。

 小綺麗に、芝生の道を形作った。

 

 そのまま道の真ん中を走行したアリアは、男目掛けてスタンドを突進させる。

 

「っ!? 『ソフト・マシーン』!」

 

 男がスタンドを出現させると、アリアの攻撃は文字通り空を斬った。

 突然、男の姿が消えたのだ。

 遅れて『シルバー・チャリオッツ』に追い付いたアリアは、周囲を見回す。

 と、校舎一階の壁に取り付けられている、雨水排水用のパイプが目に付いた。

 

「あらあら」

 

 左目を細め、詰めが甘いとばかりに短く息を吐く。

 パイプの入口には、真新しい血が付着している。

 アリアは車椅子を後退させ、屋根を見上げた。

 

 

 

 パイプの中を移動し、屋根の上へと移動した男は。

 息を荒くしながら隠しておいたリュックの元へと移動した。

 中には、双眼鏡と一緒に携帯電話が入っており。

 その中に丸めたルークを捩じ込んだ。

 そして男は迷う事無く、電話を掴む。

 

 その時だった。

 

 

「こんにちは」

 

 車椅子に乗ったアリアが、屋根の上に着地。

 涼しい顔で現れたのである。

 少し車椅子は傾いているが車輪を力強く押さえ、その場に止まっていた。

 

「お友達とお話中でしたか? ……ああ、その様子ですと、これからのようですね」

 

「何ぃ……!?」

 

 男は携帯電話を放すと、ルークを掴んで引き擦り出す。

 スタンドを出現させて剣先をルークへと向けた。

 薄っぺらになったルークは昏睡状態にあるのか、目を閉じたままである。

 

(コイツ、スタンドを使って車椅子ごと上がって来たのか……!? さっきの剣捌きもそうだが、これは相当に訓練されたスタンド能力……!) 

 

「随分と、悠長な方なんですね」

 

 アリアが、不気味に微笑した。

 『シルバー・チャリオッツ』を出現させ、少しだけ車椅子を漕いだ。

 

「私を動けなくしたいのなら、もっと早くに人質を使うべきでした。今のその一瞬の迷いが、貴方の敗北を決定的なモノにしたんです」

 

「おいっ、近付いてんじゃあねぇ~っ! 誕生日ケーキに蝋燭立てるみてぇに、コイツの顔面に針先ブチ込んで殺すぞっ!」

 

「はい、私はもう近付きません。攻撃は終わっていますから。貴方の負けなんです。既に私に倒されていて、御仕舞いなんです」

 

「な、何言って──」

 

 気が付けばアリアのスタンドは、いつの間にか。

 その場で、右手の剣を高速回転させていた。

 直後、男の頭の上に鈍い衝撃が走る。

 

「ぶ……!?」

 

 意識を手放す直前に、男は理解した。

 この感触と重さは間違い無い。

 これはさっき自分が使った、煉瓦ブロックだと。

 

 スタンドを引っ込めたアリアはうつ伏せに倒れた男の元へと、自走して来た。

 

「先程、貴方が使った煉瓦を一つ、拾って持ってきました。『チャリオッツ』が貴方の頭上に弾き飛ばしていた事に、気が付かなかったようですね。──御愁傷様」

 

 ルークの身体が元に戻り、無事を確認出来た事に取り敢えず安堵したアリアは、男の荷物を一瞥した。

 リュックの中には双眼鏡と、携帯電話が一つ入っている。

 

「これで何か、進展が有れば良いのですが……」

 

 

 




お読み下さり、ありがとうございます。
好き勝手にやってしまいました。
一応、スタンド解説も。
 ↓



【スタンド名】
『シルバー・チャリオッツ・A』
【本体】
アリア・ヴァリフレード

破壊力   C
スピード  A
射程距離  C
持続力   B
精密動作性 B
成長性   C

【甲冑を身に纏い、素早い剣捌きで攻撃する近距離パワー型のスタンド。基本性能と能力、及びスタンド像は原作と同様だが、本作品ではOVAに登場したカラーリングを採用。
 また、本体であるアリアも十年もの間スタンドの鍛練を積んでおり、破壊力と射程距離は原作のヴァニラアイス戦時に匹敵する性能となっている。
 尚、本体であるアリアは右眼が見えない事で感覚が非常に鋭くなっており、スタンドの感覚を通じて、近付く気配を敏感に察知出来る】
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