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「男の名前はディード。三十五歳。今回の失踪事件の被害者達は、やはり。この男が拉致していたらしい」
「あらあら。と、いう事は一気に解決ですね」
「それが、もう暫く掛かりそうだ。君の予想通り、何処かに彼女達を監禁しているのは間違いないらしいが。この男は金で雇われていただけで、拉致した人間はバックに入れて指定の場所に置いていたらしい。しかも置き場所は毎回変更になっている」
「つまり、引き渡す人間の顔は見ていないし、彼女達を監禁している場所も知らない。敵の目的も不明。という事でしょうか」
「ああ」
中庭でアリアとルークを襲ったスタンド使いを倒し、スピードワゴン財団に引き渡して二日後。
客室に通されたルークは丸テーブルを挟んでアリアと向かい合って座り、紅茶と苺のショートケーキを食べていた。
アリアが客人として、家にルークを招いたのである。
もし次に戦闘になりでもしたら、一般人を巻き込む危険があったからだ。
なので、放課後。
ルークはアリアを迎えに来た高級車に同乗し、屋敷に招かれた。
少しばかり気が引けたが、壁際に立つメイド達が見守る中。
二人はティータイムをしながら事件について話す事にした。
ちなみにケーキは、ルークが店に二時間並んで買ってきたモノである。
助けて貰ったお礼のつもりでアリアに食べたい物を訊ねると、駅前の人気洋菓子店『グラン・ボネ』の苺のショートケーキが食べたいとの、結構具体的な要望があった。
人気過ぎてお昼前には売り切れてしまうらしく、何より自分が並ぶと他の客の迷惑になってしまうと、健気な悩みを打ち明けた事も手伝って。
意を決して、ルークは一人で女性比率九十八パーセントの列に朝から並んだのだ。
「状況は進展していない。だが、俺達に有利な点が一つある」
「……監禁場所を移動させる事が難しい、という事ですね。あの能力が使えなくなった今、全員を一度に移動させるのは不可能です。しかも、後々の事を考えると一ヶ所に集めている可能性が高い」
「念の為、昨日の内に警察には情報提供しておいた。捜索の包囲網は街の中心を囲うようになっている筈だ。まず逃げられない」
ルークは苺にフォークを突き立てると、一口で食べる。
テーブルの側には、紅茶のポットや皿、レモンやミルク等が乗ったワゴンが用意されており。
紅茶の御代わりや菓子を取り替えるタイミングを図るかのように、メイド達は視線を送って来ている。
「しかし俺達のやる事には変わりは無い。この前ので分かった。ありゃ一般人には無理だ。だから監禁場所を特定するなら、警察より早い方が良い」
アリアは話しに耳を傾けながらも、剥がしたショートケーキのフィルムに残った生クリームを名残惜しそうに一瞥した。
「取り敢えず、俺の方で夕方調べとくよ。君には明日手伝って貰う」
そう言ってカップを持ったルークだったが。
アリアが半眼で此方を睨んできたので、ばつが悪かった。
一先ず紅茶を啜る事にする。
「何故、ディードさんはルークさんを襲って来たんですか? 幾らなんでも早過ぎます」
ルークは目を反らしてゴクゴクと、紅茶を飲んだ。
「スピードワゴン財団の人間だと知って、街に入った時から付けて来ていたのでしょう? それは、ルークさん達が敵の正体を知っているからではないですか?」
「……。」
本当に。
勘が鋭い娘だと、ルークは心の中で苦笑う。
そして彼女の強さは『信頼』出来る強さだと、ついこの前実感出来た。
出来れば巻き込みたくない、等という願望は結局の所。
彼女には侮辱的に映ってしまうだろう。
「──今から、六年前。この街から五十キロ程離れた海岸沿いに、奇妙な死体が流れ着いた。腐敗は進んでいたが、死体には首筋から全身の血を抜かれた形跡が有り、骨格と歯形から成人女性である事が判明した。そしてその後の調査で、その近海で同じような女性の死体が合計で四十三体見付かっている」
ルークはアリアの表情を盗み見ながら、慎重に言葉を選んだ。
「断定は出来ない、が。その死体の特徴から見て、吸血鬼化した人間達の餌になった可能性が高い。──君の言う通りだ。俺達は今回の敵の正体に、見当が付いている。そして類似的な事件はこの数年で拡大し、この街にまで及んだ」
「──矢がスタンド能力を引き出すように、石仮面は被った人間を吸血鬼化させる。以前、私が救出したスピードワゴン財団の方が、こっそり教えて下さいました。つまり、そういう事なんですよね?」
アリアの声色は、若干震えていた。
左眼も、潤ませていて。
「確信出来ました。やはり。私の父が保管していた石仮面と矢が、使われてしまっている。と、そういう事、なんですよね?」
「おい、言っておくが。俺が君に言わなかったのは、君が罪悪感を抱くからとか、そういう事じゃないぞ! 悪いのは全部、盗んで使っちまう奴等なんだからな!」
ルークはテーブルを叩いて立ち上がった。
「いいか! 君はもっと幸せに生きるべきなんだ! そうなる義務がある! 今まで辛い事が多かった分、こんな事件なんて俺達に任せて、昼間からスイーツ巡りでもすれば良いんだ!」
「……っ」
呆気に取られ、目を丸くするアリア。
客室全体に沈黙が流れ、壁際のメイドの一人から白い目で見られる。
車椅子の可憐な少女相手に、立ち上がって大声で叫ぶ大人。
この空気、どうしたモノかとルークは冷や汗を掻いた。
と、メイドの一人が、空になったアリアのカップに紅茶を注ぎにやって来た。
切り揃えられた前髪に、フワリとしたツインテールの黒髪の少女である。
「あ、レンさん。気を遣わせてしまいましたね」
「いえ、アリア様」
抑揚の無い声で、レンと呼ばれた少女は恭しく頭を垂らす。
それからついでに、ルークから見えないように身体でアリアのケーキの乗った皿を隠すと。
別の皿に置かれているクリームの付いたフィルムを手に取り、フォークを使って丁寧に素早くクリームを取り除いた。
そして、クリームの付いたフォークを使って、残っているアリアのケーキを三等分に切り分ける。
「失礼を致しました」
手際が良かったので、ケーキを切り分けた事をルークは不思議にも思わなかった。
「ルーク様も。お代わりを、どうぞ腰掛けてお待ち下さい」
そう言ってルークを自然に座るように促し、紅茶を注いだ後。
リンゴを手に取って果物ナイフで手早く切り分けて皿に乗せた。
カットされたリンゴはウサギ型になっている。
「まぁ、可愛らしい」とアリアが喜んだ。
それを見てルークも安堵する。
去り際に、アリアはレンに耳打ちで「ありがとうございます」と伝えた。
僅かにだが、レンが微笑んだ。
と、その時。
客室の扉が少しだけ開いて、運転手兼執事を勤める初老の男性が顔を覗かせた。
丁度目が合った茶髪のメイドに耳打ちすると、男性は扉を閉めた。
茶髪の少女は面倒臭そうに頭を掻いた後、アリアの側に近寄る。
「おいアリア。お前の通っている病院の医者から電話だとよ」
思わずルークは紅茶を吹き出しそうになった。
しかし、誰も気にしていない様子である。
「あらあら、そうですか。ルークさん、少し席を外しますね」
「あ、ああ構わないぞ」
「直ぐに戻りますので。レンさん、頼みますね。皆さんで自己紹介でもしてはどうでしょうか」
「承りました、アリア様」
アリアが自走して部屋から出て行くと、当然のように沈黙が流れた。
気まずいので、ルークは自己紹介をする。
「あ、えっと。俺はルークだ。アリア君から聞いているかも知れないが、スピードワゴン財団から派遣されている」
すると、レンが軽く会釈をしながら。
「レン・オオトリです。アリア様の身の回りのお世話を仰せつかっています。宜しくお願い致します、ルーク様」
「ああ、宜しく。君は……日本人なのか?」
「はい。スシとテンプラは嫌いですが、日本人です」
レンはそう言った後、茶髪の少女を見た。
露骨に嫌そうな顔になる茶髪の少女だったが。
「……ミリィだ」
ルークに視線も合わせずに、ミリィはダルそうにそう言った。
レンは最後に、壁際にいる金髪の小柄な少女の方を見た。
しかし、見ただけで直ぐにルークに視線を戻す。
「彼処に立っているメイドが、フェンネルです。今は喋る必要が無いので手に持っていませんが、普段は携帯電話等のメールによって会話を行っています。彼女は自分では喋りませんが、とてもお喋りで。一時間近くメールで会話をするので、手が疲れます」
レンがそう言うと、フェンネルはポケットから携帯電話を取り出し、ニコニコしながら素早く操作した。
するとレンが携帯電話を取り出し、送られてきた文面をルークに見せる。
『宜しくお願いでぇ~す! 所でそのケーキって、もしかしてもしかしてもしかして。駅前にあるお店の奴? 良いよなぁああああああ~~、お嬢。私も一回並んだけど直ぐに売り切れて。チョコレートケーキなら有りますよ、こっちの方も売れ筋ですよって言われたんだけど。私はイチゴケーキが食べたいのよ! 言葉に気を付けて貰いたいわ!』
「あ、うん。今度また買ってくる」
あの僅かな時間でここまで打ち込んでいた事、文面に圧倒されながらルークがフェンネルへと言う。
「所でルーク様。アリア様はいつ頃、この街を出立されるのでしょうか?」
「ああ、君達もスピードワゴン財団から派遣されていたんだったな。詳しい日程とかは、この事件が解決してからだろうな」
「そう、ですか。私個人と致しましても、先程ルーク様が仰った通り。アリア様には幸せになって頂きたく思います。お二人の捜索に差し支えない程度に、私も微力ながら力添えをしたいと考えております」
レンが、アリアの紅茶のカップに蓋を乗せながらルークへと言う。
成る程な。
と、ルークは一人納得する。
アリアが生まれつきのスタンド使いであるなら、派遣される人間もそうではないかと予想していたが。
府に落ちたルークはレンと、他の二人のメイドにも順に目をやる。
「君達も、なのか?」
「……はい」
レンは名刺代わりに宣言する。
「全員、スタンド使いです」
スピードワゴン財団は、世界最先端の医療技術を有し、あらゆる産業分野にも進出している団体である。
元々は大手の石油株式会社として各界へ出資等を行っていたようだが、その後は科学発展の為の団体として新たに設立された。
そして、医療や科学の発展を目指す裏側で、密かに。
スタンド使いを集めている。
ルークもその一人である。
「しかし、驚いたな。スタンド使いってのは俺も知らなかった。君達は別の支部から派遣されたって事か?」
「いえ、それは……」
レンが少し言い淀んでいると、客室の扉が開き。
アリアが戻って来た。
そこで、彼女達の間に一秒にも満たないアイコンタクトのようなモノがあったらしく。
恭しく頭を下げたレンが、壁際の定位置に戻った。
「それは、ルークさん。私がお答えします」
アリアは、真っ直ぐに此方を見据えて口を開いた。
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂けた事に感謝します、グラッツェ!