「彼女達は、私やルークさんのように。生まれつきのスタンド使いではないんです」
「……っ、まさか」
「──弓と矢だ」
二人の会話に割って入ったのはミリィだった。
気のせいだろうか、少し苛立っているように見えた。
「アンタも聞いた事有るだろう? スタンド使いってのは二種類存在する。生まれついてのスタンド使いと……」
ミリィはアリアと、ルークを順に見た後。
……いや、睨み付けた後。
「矢に貫かれて、後天的にスタンド能力を身に付けた奴」
両拳を握り締め、レンとフェンネルを続けて見た。
アリアは静かに俯く。
「原理は不明だが、その特殊な矢は貫いた相手からスタンド能力を引き出すんだ。素質が無い奴は、そのまま死ぬがな……! そうだよなぁ、アリア?」
「ミリィ……!」
壁際のレンが声量を強めてミリィを威嚇した。
ミリィは髪を掻き乱しながら軽く舌打ちをし、客室の扉へと早足で近付いて行く。
「好きでもねぇ奴の所で、好きでもねぇ仕事をやらされる。居場所すら選べねぇ奴は、何処に向かえば良いんだ……!」
誰に言うでも無い。
その言葉を置き去りにして、ミリィは扉を蹴って退室して行った。
壁際に立っていたレンはアリアへと一礼し、直ぐにミリィを追って行ったが、フェンネルは欠伸なんてしている。
携帯電話を取り出すと、器用に指を動かしてカタカタと何かを打ち込んだ。
と、ルークの携帯電話が短く鳴動した。
メールが一件、来ている。
開くと。
『あ、気にしないで? 毎回やってっから、このやり取り。さっきレンちゃんは事件解決には協力するって宣言してたけどさ。ミリィにだけは期待するだけ無駄無駄。私やレンと違って、ミリィは無理矢理スタンド発現させられた系だからさ』
「そうなのか……って、俺アドレスなんて教えたか!?」
すると、メールがもう一件届く。
『世の中にはねぇ。便利なスタンド能力も有るって事さね。私のスタンドみたいに。あ、さっきの続きだけどね。知ってると思うけど、スピードワゴン財団は、私達みたいな孤児を保護とかもしてんの。ミリィはその中の一人だったんだけど、トチ狂った研究者が財団の中にいたらしくて。
ミリィの所属していたグループの子供を片っ端から矢で撃ち抜いて、スタンドが発現する所をカメラで記録してた。でも、二十人いる内で、スタンドが発現したのはミリィだけだったのさ』
「あ……」
分かった気がした。
何故、ミリィがアリアに苛立っていたのかを。
続けてメールが届く。
『その時に使われた矢は、お嬢の父上が発見したモノの一本だった。矢が発見されなきゃ、友達は死なずに済んだかも知れない。だからミリィは、お嬢を目の敵にしているんだ。でもさ、それはお嬢はどうしようもないって。ルークがさっき言った通り、使う奴が悪い。あ、その使ったヤツは追い詰められて拳銃自殺したけど』
「……フェンネルさん?」
ルークの態度から全てを察したアリアが、フェンネルの名前を呼び、首を振った。
今回の事件だけではない。
矢がもたらした事件は、スピードワゴン財団にも存在していたのだ。
しかし、それを知りながら何故。
代表はミリィをアリアの元へと派遣したのだろうか。
また、メールが来た。
「ミリィさんの事は。その事件を知って、私がお願いしました。直接的でないにしても、ミリィさんを深く傷付けてしまった事。背負いたかったからです」
『知ったのは私とレンちゃんが派遣された後。私がうっかり、メール開いたまま机にケータイ忘れてさ。一緒に探してくれたお嬢が見ちゃったらしくて』
アリアは、本当にどれだけ背負っているのだろう。
普通なら誰かのせいにして、見ないフリをしても良いのに。
真っ直ぐに、余計な小細工無しで現実に立ち向かう。
「──それに、恨むべき相手がいないというのは、辛いモノですから」
そう言って笑みを浮かべる。
そのアリアの言葉を、部屋の直ぐ外で。
レンとミリィが、客室の扉に背を預けながら聞いていた。
「何だ、そりゃ……馬鹿じゃねぇか?」
レンにもハッキリと分かるよう、露骨に悪態をついたミリィ。
そして二階に続く階段へと足を向け「サボって来るわ」とレンの肩を叩いて階段を上がって行った。
レンは特に何も言わず、暫く待ってからアリア達の待つ客室へと入った。
「申し訳ありません、アリア様。ミリィを見失いました」
そう一言断ってから、アリアとルークの元へと戻って来る。
そしてアリアの紅茶のカップから蓋を取り除いた。
レンが戻って来て安心したのか、アリアは一度溜め息を吐いてから再び口を開く。
「先程、ルークさんから貴重な情報を提供して頂きましたので、私も話そうと思います。スピードワゴン財団が追っている、敵の事を」
アリアは自らの脚に触れ、目を閉じる。
「あの事故の日。まだ幼い私は突然父に連れられ、車でこの街に向かっていました。その、途中で。父と私の乗る車は事故に遭い、父は亡くなり、私は車外に投げ出され重症を負ったものの、一命を取り留めました。きっと、私のスタンドが守ってくれたんですね」
そう言ってアリアは、ニッコリと笑った。
相手を不安にさせない為の作り笑いである事は明白であったが、ルークは指摘しない。
「──私は薄れ行く意識の中で。炎を上げる車の前に佇む、一人の男性を目撃しています」
アリアはワゴンの上からレモンを一つ手に取ると、空中へと放り投げた。
瞬間。
彼女の側に出現した『シルバー・チャリオッツ』が、宙を舞うレモンへと超高速で剣戟を滑らせる。
レモンは瞬く間に分解され、テーブルに置かれた皿の上に輪切りとなって整列した。
「首筋に、このような痣を持った男性です」
その内、星型に刻まれたレモンスライスが一枚、彼女のスタンドの剣先に貫かれてルークの目の前に浮かんでいた。
「首に、星の痣?」
「敵です。私は……その敵を探し出す為に、鍛練を積んできました」
不意にアリアの瞳が鋭く細められ、車椅子を掴む指先が白くなる。
言葉の端に激しい憎しみが込められているのが、ルークにも感じ取れた。
アリアのスタンドが消え、皿の上にレモンスライスが落下する。
直ぐにレンが「アリア様、少々はしたないかと」と隣で咳払いをして茶を濁した。
その言葉を受け、アリアは我に返ったようだ。
「あ。ご、ごめんなさい」
「後でハチミツ漬けに致しますので、お下げ致します」
そう言ってレンは、皿を片付けた。
ルークの前を星が通り過ぎる。
「成る程。スピードワゴン財団に情報提供しておくよ。この前印刷した男の事も既に調査を依頼してある。後、出来る事は──」
「ディードさんがバッグを置いた場所は分かりますか?」
「ああ。パソコンに情報は入っている。その内、一ヶ所はここから近い」
「では、日暮れ前に少し周辺を調べましょう。レンさん、フェンネルさん。出掛けて来ます」
「今から、ですか?」
レンは不安そうに言うが、アリアはルークと共に「行って来ます」と言い残して客室から出て行ってしまう。
少し、肩を落とすレンの携帯が短く鳴動した。
『お嬢は少し、不良になった方が良いと思うよ。小細工無しの真っ向勝負なあの性格が、スタンド能力にもモロ現れてるし。だからこそ強いってのも有るけどさ』
「アリア様は、今のアリア様のままで宜しいのです」
メールの文面を見たレンは、深く溜め息を吐いてみせた。
すると、先程まで壁際に立っていたフェンネルが軽くレンの脇腹を突っつき、自らの携帯に打った文面を見せた。
『そんな心配なら、付いて行けば? まぁ並のスタンド使いならお嬢の敵じゃあないけどさ。絶対邪魔してくるだろうし。あ、ここの片付けは手伝ってね。で、ミリィは?』
「お洗濯物を取り込みに行きました」
『へぇ~。何だ、気が利く』
「……。フェンネル、もしかしたら。貴女の力を借りる事になるかも知れません。先程、ルーク様の携帯電話に貴女の『ネオン・ウルペース』が付いたようですから。くれぐれも、お願い致します」
『……はいよ』
フェンネルはニカッと笑い、敬礼した。
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お疲れ様でした。
ここまで読んで頂き、光栄です。