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屋敷は小高い場所に建っており、オレンジ色の屋根が軒を連ねる旧市街の街並みが一望出来たりする。
遠方には中世を彷彿とさせる尖塔が何本が建っているが、その直ぐ下には電車が走っており。
現代との調和が成されている。
屋敷の前を通る小路は石畳で整備されているものの、街までは基本長い下り坂が続く。
車椅子のアリアにとっては、両手を使って踏ん張りを利かせながら降りるので一苦労だろう。
しかも、結構な頻度で階段も有る。
「ん?」
すると。
段数は少ないが、早速階段が二人の前に現れた。
「アリア君、手を貸──」
ルークが言い終える前に、アリアは大胆にも勢いを付けて最上段から飛び出した。
これは事故なんじゃないかと思う角度で地面へと落下するアリアだったが、何と車椅子でウィーリーして両後輪で見事に着地している。
涼しい顔をして、こんなの出来て当然とばかりにスタンドも出していない。
「あ、はい。何でしょうかルークさん?」
ニッコリ笑って前輪も着地させるアリア。
落下の衝撃で乱れた髪の毛を耳の後ろへと流したりなんかしている。
相も変わらず、白くて綺麗な首筋だ。
「あ、えっと……凄いな。車椅子ってそんな動き出来るワケ?」
「長い階段は流石にスタンドを使いますけど、この程度でしたら。あ、そうそう。最近ムーンウォークも覚えたんですよ?」
そう言ってアリアは、上半身と肩を一定のリズムでくねらせながら後輪を動かし、石畳の上を滑るように後退してみせる。
「いや、おい。どうやってるんだ、それ……!?」
「他にも、セグウェイみたいな動きを鋭意練習中です」
「君は何を目指してるんだ……!?」
等と雑談を交えながら、二人は人気の無い小路へと下って行く。
アーチ状の短いトンネルを潜り抜け、建物に囲まれた十字路へと差し掛かる。
幅は車二台がギリギリスレ違える程度だ。
二人は其処を右に曲がり足を止めた。
「うん。間違い無い、ここだ」
ルークがパソコンを出現させて位置を確認する。
どうやらこの先は行き止まりになっていて、他の小路も今は封鎖されてしまっているようだ。
街の発展に伴い、増改築を繰り返した為、このような袋小路が至る所に出来てしまっているらしい。
この辺り一帯は既に空き家となっているが、中世の街のような佇まいは観光客にも人気のスポットで。
街の景観維持の為に取り壊される事無く、そのまま残っている。
「この先の行き止まりに、バッグを置いたらしい」
二人は奥まで歩を進めたが、冷たく堅牢な壁が有るぐらいで他には何も無い。
正面と左右を囲う様に聳え建つ高い壁は、教会地区と旧市街地を区切っていた時代の名残りらしい。
アリアは周辺を調べているが、特に怪しい物は見付からないようだ。
「長居は無用だな。アリア君、もうすぐ日暮れだ。明日は朝から調査を──」
「妙ですね」
と、アリアが行き止まりの壁を見ながら言う。
ルークが振り返ると、彼女は華奢な手で、壁をペタペタと触っていた。
「見て下さい、ルークさん」
「ん……?」
「この壁に空いてる穴です」
アリアが壁の一点を指差したので、ルークは覗き込んだ。
壁には丸く穴が空いているのだが。
その穴の中にはコインがスッポリと入っているのだ。
更に視線を持ち上げて広げてみると。
穴は一つではなかった。
無数に穴が空けられており、それぞれに釘や瓶ジュースの蓋等がめり込んでいる。
「何だ、こりゃあ。悪戯にしては……」
そしてその穴の近くには、染みがあった。
サッカーボール程の大きさの、丸く黒い染みである。
「これは、何か奇妙です。ルークさん、急いでこの場所を離れましょう」
アリアはそう言って壁に背を向ける。
と、目の前の十字路の角に。
指を掛けて此方を覗く、黒っぽい人影が見えた。
人型だが、昆虫のような両眼と灰色の外套に身を包んだ容姿をしており、人間では無い。
恐らくは、敵のスタンド。
「ルークさん、敵です! あの十字路の角にいます!」
アリアはスタンドを指差し、隣のルークの裾を引っ張った。
後ろは行き止まりで、両側は高い壁に囲まれている。
逃げ場は無い。
「何処だ、アリア君!?」
だが。
アリアが目を離した一瞬の内に、前方のスタンドは姿を消した。
角の奥に引っ込んだ、と言うよりは。
その場から姿を消した、という表現がしっくりとくる。
「気を付けて下さい。まだ近くにいる筈です」
アリアはゆっくりと車椅子を漕ぎ、前進して行く。
「恐らくですが。ディードさんから聞き取った情報の内の幾つかは、罠でしょう。バッグを置いた場所を調べに来る人間を、監視していたようです」
「どの道、予想していた事さ。考えようによっちゃ、このまま本体を捕まえて情報を吐かせれば万事オーケーだ」
警戒し、前方の十字路を注視する二人。
その背後の壁から、音も無く。
先程角からアリアを覗いていたスタンドの上半身が、ズルリズルリと這い出して来た。
『ウジュ……ウジュウジュ』
不気味な音を滴らせ。
ゆっくりと、三本の鋭利な指先をアリアへと伸ばす。
その指先が、風で流れたアリアの銀髪を僅かに掠めた。
「……っ!?」
途端にアリアは車椅子を左へと半回転。
左眼の視界に敵スタンドを捕捉する。
『シルバー・チャリオッツ』!
即座に見舞う剣撃。
白銀の軌跡と共に敵スタンドの腕を瞬時に斬り裂いた。
◆
「っ!」
右腕から鮮血が吹き出し、男は顔を歪めた。
アリアとルークが入った袋小路から、少し離れた尖塔の上。
二人を監視出来る位置を陣取る、此方も二人組の男達。
「大丈夫か? ジャック?」
ライフルのスコープから顔を離した長髪の男が、負傷した右腕を布で縛るジャックへと訊ねた。
「ああ、何とかな」とジャックは苦笑う。
「誰がどう見ても。俺の。完璧だっただろ、奇襲。それでもあの女、俺のスタンドの攻撃に一瞬速く気が付きやがった。自分の間合いに入るモノは即座に探知する。そんな凄味を奴からは感じる」
「ああ、見ていた。優れたスタンド使いのようだ」
「だが。右腕の代償に。凄く痛ぇが、奴の髪に触れる事は出来た。これでもう、あの行き止まりからは逃げられねぇ。駄目押しに、頼むわカルザル。ほらよ、保険だ」
ジャックはそう言って、ライフル弾を一発カルザルへと手渡した。
カルザルは静かに射撃体勢に入り。
スコープを覗き込んだ。
◆
「や、やったのか。アリア君!」
「いえ。取り敢えず、一太刀入れるのが精一杯でした。敵スタンドは再び壁の中へ消えましたから、今の内に此処を離れましょう」
ルークは頷き、アリアと共に壁から離れて行く。
十字路を左へ曲がれば、来た道に帰れる。
「今は、退くしかないな。アリア君、君の屋敷へ……」
ルークが隣のアリアを見ると、アリアは地面を滑るように少しずつ後退して行く。
「……。えっと、特技。だったっけ、それ。凄いとは思うけれどね」
「ル、ルークさん。違います、これは……! まさか、あの時。私は。躱し切れていなかった……!?」
アリアは、両手でしっかりと車椅子の後輪を押さえ付けているが。
やはり少しずつ滑って後退して行く。
「あのスタンドが潜んでいる壁へ……! 引き寄せられています!」
「な、何だってぇ!?」
ルークは慌ててアリアの車椅子を押さえるが、自分の方へ引き寄せる事も出来ない。
何か強力な力で固定でもされているようだ。
その二人の横を、別の十字路の小路から転がって来た空き缶が通り過ぎ、行き止まりの壁に激突する。
それでも空き缶は止まらず、原型を留めぬ形になりながら壁へとめり込んで行く。
次いで、ルークの上着の内ポケットからペンが飛び出し、ネクタイピンも飛ばされて行った。
同じように破壊と共に壁にめり込んで行く。
「ま、マズイぞ……! この結末はマズイ! だいたい分かって来た。引っ張られた後、どうなるのか」
「引き寄せられているのは金属類、ですか。強力な磁石のように、この周辺一帯を飲み込んでいるようです……!」
「MRIみたいなモノか!? だが、それよりもっと。どんどん強力になって行くぞ」
その間にも、様々な金属類が飛んで来る。
恐らくは、敵が予め隠しておいたのだろう。
まるでこの袋小路全体が巨大な罠である。
と、何処からともなく。
大量の釘と瓶ジュースの蓋が二人目掛けて高速で飛んで来た。
「『チャリオッツ』!」
臆する事無くスタンドで迎撃に入ったアリアが、即座に剣戟で弾幕を張った。
飛来する金属類を高速で、片っ端から切断、分解していく。
しかし、それでも弾き切れなかった金属片が二人の身体を容赦無く斬り付けて通過行った。
「う、ぐ……!」
「仕方、有りません。ルークさん、手を……!」
アリアは車椅子の後輪から手を離し、ルークの手を掴む。
すると弾かれたように無人の車椅子は壁へと飛ばされて行き、粉々になって行く。
「く……!」
アリアは地面の上へと倒れ込んだ。
これ以上引き寄せられる心配は無いが、文字通りアリアの機動力はゼロである。
直ぐに抱え上げようとした、ルークの視界の端に。
フワリと宙に浮かぶ物体が映った。
花の蕾のような形状をした、小型の飛行物体だ。
その物体に付いている衛星の反射坂に似た箇所が、鈍く光った。
と、狙撃音。
「っ!? ルークさん、私から離れて下さい!」
うつ伏せのまま、アリアがルークを押し退けた。
どうにか両手で上体を起こしてスタンドを出したアリアだったが。
小型の飛行物体から飛び出した弾丸が、彼女の脇腹を抉った。
「……っ!?」
「アリア!」
ルークは駆け寄り、アリアを抱き抱える。
そして小型の飛行物体が塞いでいる小路を避けて、時折飛来する金属片からアリアを守りながら奥の小路へと走り去った。
◆
「やったじゃあねぇか、カルザル。俺の『リング・ア・ベル』とお前の『マンハッタン・トランスファー』。あと一息だ。始末出来る。あの男の方は、慣れてない。戦闘に、圧倒的にな」
「……。」
「これで、俺達を探ろうなんて輩はいなくなる。予定通りだ。『七つ眼』の誕生も安心して待つ事が出来る」
「……。」
カルザルは無言のまま、スコープから顔を離した。
そして、手早くライフルを分解し始める。
ジャックは目を丸くした。
「何、やってんだ。お前?」
「場所を移す。お前も来い」
「おいおいおいおいおいおい。だから、何言ってんだお前は。この場所を離れるならよぉ。俺の『リング・ア・ベル』は一旦能力を解除しなきゃあならねぇ。潜んでいる、あの壁から離れ過ぎるからな。
今やっとの思いで『リング・ア・ベル』が直に触ったってのに。今度は金属だけじゃあねぇ、あの女を引き寄せられるんだぜ!?」
「……恐ろしく頭の回転が速いヤツだ、あの女は。射撃音を聞いて、ワザと俺に心臓を狙わせた。あの一瞬。狙われた軌道が分かるのなら、防御も間に合う」
「はぁ?」
「心臓への攻撃は防がれた、と言っているんだジャック。ヤツのスタンド、中々に素早い。弾を切断して本体へのダメージを最小に押さえた。そして、何より安心出来ないのは。あの女に、此方の場所がバレたという事だ」
お疲れ様でした。
ここまで読んで頂けた事に感謝の意を。