ジョジョの奇妙な冒険 ─泣血の独唱曲─   作:うーゆ

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『リング・ア・ベル』②

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「う……!」

 

 伝わった傷の痛みにアリアは顔を歪めた。

 

「すまない、俺の責任だ」

 

「大丈夫、です。急所は外れていますから。それより、ルークさんが。私を庇って怪我を」

 

「俺のは掠り傷程度だ。君の方が酷い」

 

 負傷したアリアを抱き抱え、ルークは走っていた。

 この先も行き止まりになっているのは分かっているが、何よりも先ず、アリアの手当てをするのが先決だった。

 その為には、あの敵から距離を置かなくてはならない。

 

「よし、ここなら」

 

 ルークはアリアを下ろし、壁に背を預けさせた。

 彼女の純白のブラウスは血に染まっており、右脇腹を押さえるアリアの右手もまた、血に染まっていく。

 

「撃たれたのか? 何なんだ、あのスタンドは。アレも、壁のヤツの能力なのか?」

 

 ルークはハンカチを取り出し、傷口に当てると。

 自らの上着を脱いで引き裂き、アリアの胴体へと巻き付ける。

 取り敢えずの応急措置だ。

 

「いえ、ルークさん。スタンドは、一人一能力です。あの引き寄せるスタンドと、もう一体。ライフル弾の軌道を変える狙撃衛星のようなスタンドがいたようです」

 

「な……!?」

 

「本体が近くにいないにも関わらず、攻撃は正確でした。敵スタンドは二体共に遠隔操作型のスタンドのようです。本体が何れぐらい離れた所から操作しているのか、まだ確かな事は言えませんが……」

 

 アリアはそう言って、握っていた左手を開く。

 そこには、斜めに斬り裂かれたライフル弾の片割れがあった。

 

「.30‐06スプリングフィールド弾ですね。使用されたのは恐らくですが、ボルトアクション式のスプリングフィールドM1903A4です。有効射程は約五百メートルですが、飛んで来た威力を踏まえると、実際はもっと近くから狙撃していた筈です。あとちょっぴり近ければ、『チャリオッツ』でも防げませんでした。……そして、もう一つ」

 

 アリアは、手にしていた弾丸を地面へと転がしてみせる。

 

「この弾丸自体には、磁石のスタンドの能力が働いていません。恐らく弾丸に対してのみ、能力の解除や区別をしていたのでしょう。

 先程の連携もそうですが、つまり敵は二人で行動している可能性が高いです。この周辺で私達の行動を見張り、かつ安全にあの行き止まりの壁との射程距離を確保出来るのは──比較的、高所」

 

 アリアは、太陽が沈んで行く西側の空の方を指差した。

 

「そして、夕陽を背に出来る方角。……敵は、あの位置に居ます」

 

「よし、なら近付ければ」

 

「──しかし、残念ながら。それは敵が私達を甘く見てくれている場合の話です。既にさっき敵がいた場所、になっているかも知れません」

 

 アリアは、背にしている壁の隙間に左手の指先を差し込み、掴まる。

 

「しかしだな、アリア君。君は確かに機動力を失ったが、これで磁力の影響は受けないだろう? あの狙撃のスタンドに注意していれば、本体の所まで行けるんじゃあないか?」

 

「……いいえ、ルークさん」

 

 頬に汗を掻きながら、アリアは右手でも壁の隙間に指先を入れて掴まった。

 立つ事が叶わない筈の彼女の両足が、ローファーごと徐々に持ち上がっている。

 スカートの裾が捲れて、黒いストッキングに包まれた細い肢体が太ももまで露になった。

 

「良くない、ですね。あのスタンドに触れられると、今度は……!」

 

 堪え切れなくなったアリアは壁から引き剥がされ、小路の上を引き摺られ始める。

 咄嗟にルークがアリアの手を掴み、阻止したが。

 さっき車椅子を引っ張った時のように、強力な力が働いていた。

 

「今度は、私の身体そのものが。引き寄せられています!」

 

「何だって!? クソッ……!」

 

「ですから、ルークさん。先ずは、この磁石のスタンドからです。この能力が解除されないという事は。本体はまだ、あの位置から動いていないという事。もう安心して、勝った気でいるんです。今が叩くチャンスなんです」

 

「だ、だが! このパワー! 俺にはもう……どうする事も出来ないぞ!?」

 

 ルークの手が、無情にもアリアの手を滑り抜けていく。

 華奢なアリアの身体がフワリフワリと宙に浮かぶ。

 

「いいえ、ルークさんの。貴方のスタンド能力となら、勝てます。後は、タイミングだけです」

 

「……っ!」

 

 最後の力を振り絞るように、ルークはもう片方の手でアリアの手を掴まえたが。

 とうとう。

 彼女の身体は強風に煽られた紙のように、敵スタンドが潜む行き止まりの壁へと飛ばされて行ってしまった。

 

「アリア!」

 

 ルークは後を追うが、アリアの身体は地面の少し上を滑るように進んで行く。

 

 あっという間に十字路まで引っ張られて来てしまったアリアだったが、自分の予想通りに狙撃衛星のスタンドの姿が無い事に、深く安堵する。

 狙撃手は、自分の場所がバレる事を嫌うものだ。

 

 しかしアリアの身体は、とうとう曲がり角に差し掛かった。

 この先はあのスタンドが潜む壁が待ち構えるのみ。

 直線で引き込まれたら終わりである。

 

「っ! 『チャリオッツ』!」

 

 アリアはスタンドを出現させ、壁に向かって素早く正確に剣を突き立てた。

 そして、『シルバー・チャリオッツ』はもう片方の腕でアリアを抱き止める。

 

「く……!」

 

 どうにか、角を曲がる寸前で持ちこたえたアリアだが。

 尚も強くなる磁力を前に、動く事が出来なかった。

 ジリジリと、突き立てた剣先が抜けていくのが分かる。

 アリアの身体が少しずつ、角から姿を現す。

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。頑張るじゃあねぇの」

 

 と、スタンドが潜む壁の上。

 正確には壁面に。

 一人の男が現れた。

 スタンドの能力で背中を壁に張り付けているのか、宙に浮かんでいる。

 

「悪い壁だ。この場所、俺のスタンドを生かすのに都合が良いもんで。つい、五人程食わせちまった。壁に黒い染みがあっただろう? スピードワゴン財団の連中は簡単だったよなぁ~。本当に悪い壁だ」

 

「貴方は……! 最低の人間ですね!」

 

「おいおいおい。これからイチゴジャムみてぇに潰れるお前の最後の台詞なんだぜぇ? どうせなら初恋の男の名前でも叫んどけ。……まぁ、そんな時間はもうねぇがな。

 俺がんな事を言う為だけにノコノコやって来たと思うかぁ? 本体である俺がスタンドに近付けば、その分パワーだって強くなるんだぜぇ! トドメなんだよ! テメェはもうおしまいだ!」

 

 急激に。

 引き寄せられる力は強まり、スタンドの剣先が外れてしまった。

 アリアは角から引き摺り出される。

 

「もうおしまい。それが貴方の最後の台詞のようですね。そしてやはり、本体が直接出て来た」

 

 左目で、壁に張り付いている本体の位置を確かめたアリア。

 大きく息を吸って、叫ぶ。

 

「──ルークさんっ!!」

 

 アリアは閉じていた手を開く。

 その瞬間、ソレは元の大きさへと戻る。

 あの時、ルークから渡されたモノ。

 幽霊の道具の一つ。

 車椅子だった。

 アリアはスタンドも使い、器用に宙でそれに腰掛け、掴まる。

 

(……っ!? 俺の『リング・ア・ベル』が効かねぇのか? だが!)

 

 そのままアリアは、車椅子ごと猛烈な勢いで壁に引き寄せられて行く。

 アリア自身がスタンド能力で引き寄せられている以上、車椅子に座っていようといまいと、関係が無い。

 能力さえ解除しなければ、どの道壁へと激突する。

 

 と、敵は考えている。

 アリアはそう思った。

 

「ええ、うっかり解除なんてしないで下さい。幽霊の道具は引き寄せられず、私が引き寄せられているこの状況が良いんですから。この勢いを、そのまま伝えられるワケですから」

 

 と、あと数メートルで壁へと激突する瞬間。

 アリアは、再び『チャリオッツ』を出現させ、真横の壁へと剣を突き立てると共に、車椅子から手を離した。

 彼女の狙い通りの角度へ、無人の車椅子は勢いをそのままに飛んで行った。

 その先には、敵スタンドの本体であるジャック。

 

「ぐぇえ!?」

 

 勢い良く飛んで来た車椅子を顔面に喰らい、ジャックは地面へと落下した。

 それは、スタンド能力を解除してしまった事になる。

 壁に激突した車椅子はしかし、壊れる事無く地面の上を二、三回跳ねた後。

 

 『シルバー・チャリオッツ』に抱えられているアリアの元へと戻って来た。

 なので、腰掛ける。

 そして、少しだけ自走して止まる。

 

 前方には。

 足を挫き、顔面から血を流して蹲る敵スタンドの本体、ジャック。

 

「貴方、スピードワゴン財団の職員の方を、五人も殺したんですか?」

 

 その冷たい左眼の威圧感に、思わずジャックは腰を抜かした格好で後退る。

 

「そ、そうだったっけなぁ。よく覚えてないよなぁ~」

 

「……あらあら」

 

 一度目を伏せ、アリアは薄く笑みを浮かべた。

 

「使用人であるレンさんから、教えて頂きました。日本では嘘を吐くと、とても重いペナルティが有るそうですよ? それは……」

 

「ひぃ……!?」

 

「針串刺しの、刑ですっ!」

 

 アリアの元から飛び出した『シルバー・チャリオッツ』は、超高速で突きの連打を男の全身へと叩っ込む。

 その猛烈なまでの剣撃に、大気は弾けて乱れ飛んだ。

 白銀色の閃光となって押し寄せ、貫く刃は余りに速く。

 瞬く間に男の継戦能力を剥奪し、壁へと吹っ飛ばした。

 

「人は壁を乗り越えて成長するモノですが」

 

 『シルバー・チャリオッツ』を引っ込め、アリアは背を向ける。

 

「貴方という壁は、少々低かったようですよ?」

 

 

 

 

 ◆

 





お疲れ様でした。
お読み下さりありがとうございます。


【スタンド名】
『リング・ア・ベル』
【本体】
ジャック

破壊力   D
スピード  C
射程距離  A
持続力   A
精密動作性 D
成長性   B


【スタンドが潜んだ壁や床は強力な磁石になる。また、『リング・ア・ベル』が直接触れたモノは生物であっても引き寄せられてしまう。反対に能力の対象外にする事も出来る】
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