1 妖の双刀
たった一つの月光のみが闇を照らす夜の丘の上。そこには3つの影があった。それは耳を澄ましてみるとやっと聞こえるような声で何かを話している。そして影のうち一つが親指でコインを真上にはじいた。コインは月光に照らされながら宙を舞ったあと回転しながら手元に戻った。
コインをキャッチして暫く経つと3つとも霧のように消え散った。まるでそれが幻だったかのように。影が消えた丘の上は静寂だけが残る。月光のみがあたりを照らす丘の上はその後何も現れることはなかった。
俺が朝起きて郵便受けを見ると一通の手紙が入っていた。丁寧に白い封筒の中に入れられており、表面には綺麗な字で[黒葉漣様]と書かれていた。家の中に戻り中を取り出してみると、差出人は小傘で内容は刀が完成したので巳に着て欲しいとのことだった。
いつもどおり家事をして朝食を取ると暫く経ってから家を出た。大穴を飛び上がり地上に出ると、森を抜けて里の入り口にたどり着いた。よく見ると里の入り口では小傘が立っていた。どうやら待ってくれていた様だ。
「よ。わざわざ待ってくれてたのか」
「当然でしょ?私の家あなたは知らないんだから」
「ああ。だから助かった」
「うん。じゃあ行こ?」
俺は小傘と一緒に彼女の工房へ向かうことになった。彼女と道中話をしていたが、彼女曰くこれまで一の自信作に仕上がったという。俺は期待の念を持ちながら彼女の自宅兼工房に辿り着いた。
「じゃ、刀を持ってくるからそこに座って待ってて」
俺は指されたベンチに腰掛ける。するとまもなく彼女が刀を持ってきた。しかし…
「…2本?」
小傘が持ってきた刀は2本だった。一つは鞘と刀身が漆黒で、もう一つは鞘が銀色だった。
「うん。それくらい感謝してるってことだよ。黒い方が[黒霊剣]。銀の方が[霊峰剣]だよ」
なんだか霊的な力が宿っていそうでいかにも強そうだ。ネーミングセンスは良いようだ。おれはためしに鞘から抜いて剣を振ってみる。長さも重量も完璧でとても使いやすい一振りだった。
「ありがとう。正直言って最高だ」
「ふふ…そう言っていただけて何よりです」
小傘は優しく微笑んで見せた。
「そういえばお前って能力とかあんのか?」
「……」
質問すると、こがさはいきなり黙り込んだ。若干俯いている。明らかに様子がおかしい。
「まさか…俺に知られたらまずいことなのか?」
「……」
なかなか口を割らない。
「わかった。怒らないから言ってみろ」
「…人を驚かす程度の能力」
「…俺に手伝わせた理由は?」
これがないと俺が手伝わされた意味が成り立たない。
「…なくなった」
「え?」
「まだいけると思って食べずにいたら、妖力無くなって使えなくなった」
聞いてみるととことん間抜けな理由だった。当然俺は…
「…プフッww」
「ッ笑うな///」
「怒らないとは言ったが笑わないとは言ってないww」
俺はこの後気の済むまで笑った。
「じゃ、そろそろ帰るよ」
「うん。また里で会おうね」
「ああ」
こうして俺は小傘と分かれて腰に二本の刀を据えながら地霊殿まで帰った。小傘から説明されたがこの刀はどれだけ霊力や妖力を注いでも耐えられるように鍛え上げているという。つまり刃をいくらでも強化できるというわけだ。
道中獣に目をつけられたので試してみたがその威力は絶大だった。流石は妖怪の鍛えた刀といったところだろう。霊力をまとった刃は獣の体を容易に切り裂いた。まるで切れぬものなど無いといわんばかりに。獣の体は容赦なく二等分されたが、その切り口はまるで裁かれたかのように綺麗で乱れが無かった。
それほどこの刃の切れ味が恐ろしいという証拠だった。鍛錬しだいではどんなものも両断する無敵の刃となれる。俺はそんな可能性を感じながら自宅への帰路をたどっていった。