俺は屋敷の台所を借り、今日の夕食を作る。
幽々子お嬢様の胃袋はブラックホールなので、とにかく沢山作る。
ハンバーグにステーキに唐揚げに炒飯にラーメンに…とにかく沢山である。
そして妖夢は体が弱っているので、消化しやすいお粥を用意する。お粥といえば、やはり卵粥が妥当だろう。
まずはボウルに卵を割って溶く。続いて鍋に水、白だし、薄口しょうゆ、みりんを入れて中火で加熱し、沸騰したらご飯を入れて加熱。
沸騰したら弱火にして5分程加熱し、ご飯が柔らかくなったら中火にして先程の卵を回し入れる。
全体を混ぜて中火で加熱し、卵が固まったら火を止める。
器に盛り付けたら、最後に小ねぎを散らして出来上がり。
卵粥を完成させた俺は、他の料理をお嬢様にお持ちした後で、妖夢の部屋に持っていく。トントンと軽くノックをすると「どうぞ」と返事が来たので部屋の中へ入る。
「一応飯作ってきた。食欲がないなら無理して食わなくてもいいけど極力食べるようにしろよ?後その…一人で食えるか?」
「た、多分…」
そう言って、妖夢は手を伸ばそうとする。
「…ッ!」
しかし、明らかに痛そうな反応をする。
「分かった。もういい。俺が食わしてやるから手は動かすな」
「ッ!こんな痛みどうってことないわよ!そんなことしなくても」
そう言って妖夢は再チャレンジしようとするが、やはり痛いのか腕を押さえてしまう。
「ここで無理して悪化される方が迷惑だ。恥ずかしいのは分かるがその…今回は諦めろ」
「…わかった」
妖夢は顔を赤くするも了承した。おそらく「迷惑」という言葉が響いたのだろう。
俺はスプーンでお粥を掬い、妖夢のもとへ運ぶ。
「ほら。あーん」
「あ、あーん」
二人とも恥ずかしがっている所為でぎこちなくなっているが、一応成功している。
「どうだ?」
「うん。おいしい。前より腕上げたんじゃない?」
「んなことねえよ」
妖夢は笑顔で感想を述べ、それに対し漣は目を逸らして否定する。
「さ、冷めないうちに食っちまおうぜ」
「ふふ。そうね」
この後も他愛ない会話をしながら妖夢は食事を終えた。その後漣は食器を水につけてから食卓へ向かう。
「あら、お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
すでに幽々子が食事を終えていた。先程まで妖夢の食事を手伝っていた漣は今から自分の食事をとる。
「こうしてあなたがここで食事をするのも久しぶりね」
「そうですね。お二人が幻想入りしてから一人になってしまいましたから」
漣は妖夢と組んでいる時は白玉楼で暮らしていた。その方が連携もとりやすいからだ。
「やっぱりあの後も妖魔と?」
「ええ。やはり相棒が居なくなると調子が狂いました」
戦闘は味方がいるかいないかで戦略が大きく変わる。今まで一緒に戦っていた仲間が居なくなれば調子が狂ってしまうのは当然だ。
「今は何処に住んでるの?」
質問に対し漣が「地霊殿です」と答えると、「へえ」という返事と共にいかにも面白がっているような表情を見せた。
「確かになかなか異質な場所ですよね。面白がるのも無理はない」
「あら、やっぱりあなたは私の考えが分かるのね」
幽々子は心底楽しそうにしている。
「今日は泊まっていきなさい。あなたも疲れたでしょう。片付けは私がするから、あなたはお風呂に入ってらっしゃい。着替えもあなたのものを残してあるから」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
そう言って漣は住んでいた頃使っていた部屋に行き着替えをとると浴室へ向かった。
数年ぶりの冥界での入浴は漣に様々な記憶を辿らせることとなった。
(そういや、俺が入ってるところに妖夢が乱入してきたことあったっけ)
まだ妖夢と共に活動し白玉楼に住んでいた頃の話だ。クールだが若干天然が入っている妖夢は、漣が入浴中なのに気付かず入ってきてしまったことがあった。
その際、騒がれるのを危惧した漣は、気付かれぬように妖夢の背後に回りこみ首に手刀を入れ、気を失ったところを脱衣所に座らせ目を覚まさぬうちに退室した。
(すぐに気絶させたから妖夢からしたら何で脱衣所で寝てたのかって話なんだよな)
因みに、妖夢は目を覚ました後普通に入浴したのだが、脱衣所で自分が寝ていたことがどうしても謎で、今に至ってもたまに悩むことがある。
その後、入浴を終えた漣は寝巻きを着ると妖夢のもとに向かった。翌日永遠亭に薬を貰いに行く話をした後、暫く適当に雑談をし、部屋を後にした。
流石は半人半霊といったところか、既に切り傷などは塞がり始めており、本人は割りと元気な様子だった。
漣は改めてその回復力に驚きながらその日を終えた。