1 旧都郊外の大屋敷
「ここを降りるのか?」
「うん。そう」
こいし宅へ向かうべく俺はこいしの後をついていったのだが、目の前にあったのは思わず後ずさってしまうような光景だった。
「ここしかないのか?」
「そうだよ?ちなみに嘘をつく理由はないからね?」
嘘ではないらしい。しかし嘘と言って欲しかった。
「何の装備も持ってないこの俺にこの大穴を降りろってのかよ?!」
「そうだけど。あれ?もしかして怖いの?」
ニヤついた目でこちらを煽ってくるが、極普通の人間である俺がこの大穴を降りろと言われちゃ怖くて当然なのでなんとも思わなかった。
「そりゃ怖いだろ。あくまで俺は人間で、崖を降りるなんてことしたことないんだ。何が起きるかわからない分、恐れるのが正常な反応だと思うが?」
「あ、そう」
こいしは面白くないといわんばかりの顔をしている。妖怪で長寿な分少しは大人な考えをするのかと思ったが、全然そうでもなかった。やっぱロリだろこいつ。
「・・・・・・」
そう思っていると案の定こいしがこちらを睨んできた。もうスルーしとこう。うん。
「で?そんな俺にどうやってここを降りろと?」
そう聞くと、こいしは俯いて口元をニヤつかせた。嫌な予感がする。
「それはね・・・こうするの!!」
そういうと、こいしは俺を勢いよく突き飛ばした。ですよね~~・・・
俺は一瞬ここで死ぬのかと考えたが、どうせならと思い一つ考察をしてみることにした。
物が何もないのはこいしも同じだった。そしてこいしが自宅へ戻るには、一つしかないこの大穴を降りなければならない。
手ぶらでここを降りるにはうまいこと岩の隙間に足を掛けるか、空でも飛べない限り・・・
(飛ぶ?)
俺は一つの可能性に辿り着いた。ここは妖怪などという幻想が存在する異世界だ。
それなら、生身の人間が空を飛ぶという幻想も有り得るのではないだろうか。
(駄目もとでやるしかねえよな・・・)
そうして俺は、未知の力で体が浮き上がるイメージを浮かべた。
(?!)
だんだんと落下の勢いが弱まっていく。暫くすると地面に足がついた。どうやら成功したようだ。
「はああ・・・マジで死ぬかと思った・・・」
「まさかできるとは思わなかった」
俺が身の無事に安堵していると、こいしが降りてきた。当然俺は怒る。
「テメエ殺す気だったろ!!」
「ごめんごめん本当は途中から助けに行くつもりだったんだけど・・・」
かなり疑わしいが、なぜか見逃そうという気になってしまう。恐ろしい・・・
「はぁ・・・とりあえず行くぞ」
「そうだね」
俺たちは地底を進み始めた。道中は様々な妖怪と出会った。土蜘蛛の(黒谷ヤマメ)。橋姫の(水橋パルスィ)。鬼の(星熊勇義)等。皆個性的で独特な能力を持っていた。旧地獄にある旧都を抜けて暫く歩くと異質な雰囲気を放つ巨大な屋敷の前に辿り着いた。
「ここか」
「そ。ここが私の家で、名を地霊殿と言います」
「わざわざ名前まであんのか。すごいな」
「ふふ。じゃあ入ろ?」
こうして俺は屋敷の中へと案内された。屋敷の中はとても広く、俺はまっすぐに一つの部屋へと案内された。
「ここがこの屋敷の主のお姉ちゃんの部屋」
「姉ってことは悟りか」
「そ。じゃあノックするから返事の後に入ってね?」
そういってこいしは部屋の戸をノックした。
「お姉ちゃん?入るよ?」
「ええ」
そうして部屋の戸が開かれた。
「おかえりこいし。あら?そちらの方は・・・なるほど。幻想入りされて寝る場所がないのですね。
あら、ごめんなさい?勝手に読心を使ってしまって」
そういって妖しげに微笑みながら謝罪をすると、彼女は改めてこちらへと向き直りその独特の雰囲気とプレッシャーを放ちながらその名を名乗った。
「私は(古明地さとり)。悟りの妖怪で、この地霊殿の主です」