足音が大きくなると共にその姿が明らかになる。現れたのは茶色のコートを羽織った男だった。
「流石は妖怪。気付くのが早い」
「誰ですか?!」
さとりが質問すると、相手は不気味に笑った。
「玄狼…それが僕のコードネーム」
そう名乗ると共に相手はナイフを取り出した。相手からは濃い殺気が感じ取れた。
「何が目的ですか?!」
さとりは身震いしていた。いきなりとんでもない量の殺気に包まれたからには無理もない。
相手は不気味な笑みを崩さずに答えた。
「何って…アンタを殺すことに決まってんじゃん?」
はっきりとそう言い、玄狼は一気に距離をつめてきた。さとりは間一髪でそれを回避する。
「いきなりとは酷いですね…なぜ私を殺すのですか?」
そう言いながら、さとりはさらに距離をとる。
「僕たち組織の計画は情報の漏洩はどうしても防がなきゃなんだ。心を読める悟り妖怪は邪魔でしかない」
玄狼は再び襲い掛かってくる。さとりは戦闘が余り得意ではないものの何とか避け続けている。
「因みにその計画とは?」
さとりが質問すると、
「は?知られちゃまずいつってんのに言うわけないじゃん?」
何時の間にか背後を取られ蹴りを入れられる。
「ガハッ…」
流石に避けきれず背中にクリーンヒット。その威力は高く、背骨の辺りから嫌な音が響いた。おそらくひびが入っている。
勢いのまま吹っ飛ばされるが、何とか受身を取る。しかしダメージは大きく、背中を押さえずには入られなかった。
「へえ…引き篭もりって聞いてたけど意外とやるじゃん」
「戦闘の経験がないわけではないので。それにペットたちの遊び相手にもなるので」
さとりは話している間に何とか体制を整える。相手は本気で殺しに来ている。ならばこちらも本気で相手をしなければならない。
「いいじゃん。もっと楽しませてよ!」
そう言って再び相手は襲い掛かってくる。次は背後を取られまいと気を配る。始めから相手の心は読んでいるが、相手の動きが速過ぎて読んでも避けきることができない。
「ッ!」
再び相手が背後に回った。しかし予測していたので避けることができる。さとりはそのまま反撃体制に入った。
想起 「テリブルスーブニール」
唯一持っているオリジナルのスペルを放つ。目が眩むような閃光を放つ無数の弾幕。
「ッ!眩し!」
相手は思わず目を瞑るが、感覚だけで弾幕を裁いていく。しかしこの弾幕の本領は相手にぶつけることではない。
霊炎 「ゴーストフレア」
「ッ!やっべ!」
相手は必死の思いで回避するもいくつか被弾する。さとりのスペルの本領…それは閃光によって相手のトラウマを想起させ、そのトラウマのスペルを再現するというもの。
「……」
相手は少なくとも傷を負っていた。しかし。さらに強い殺気を放ちだした。
「やってくれんじゃねえか…絶対殺す…」
そう言って相手はこちらに突っ込んできた。さっきとは比べ物にならないスピードで。傷を負わされて気が立っているようだ。
流石にスピードに対応しきれず突進をもろに喰らう。バキッという鈍い音を立てて岩に叩きつけられる。
「ガハッ…ゲホッゲホッ」
さとりは耐え切れずに吐血する。満身創痍の状態だ。
「さあ…死ね」
そう言って相手はトドメを刺そうと突進する。
しかし、何者かによってそれは防がれる。
「私のお姉ちゃん…殺さないでくれる?」
「ッ!こいし!」
さとりの妹…こいしが攻撃を防いでいた。
「邪魔だ…退け」
遺伝 「ダブルスパイラル」
「退く訳ないじゃん」
本能 「イドの解放」
二つのスペルがぶつかり合う。しかし玄狼の弾幕が押し始めている。やがて押し切り大きな爆発音が聞こえる。
完全に圧倒した。そうに決まっていると思った。
「隙だらけだよ?お兄さん」
「ガハッ」
完全に油断していた。いきなり背中を何かで刺された。あまりの激痛に思わず膝を突く。
「テメエ…何しやがった」
玄狼がそう聞くとこいしは不適に笑う。
「私は無意識を操る。あなたの無意識を操って気付かれないようにしたの」
圧倒的不利…普通は誰もがそう思うだろう。しかしこの男は違った。説明を聞いた途端、玄狼は口角を吊り上げた。
「何がおかしいの?…ッ!」
こいしはいきなり膝を突いてしまう。暫くその状態が続いた後、こいしはナイフを持って立ち上がりさとりに近づく。そこに表情はなかった。
「?…ッ!」
グサッという音が辺りに響いた。そして…
「こい…し…?なん…で…?」
こいしはさとりを刺しまくった。無慈悲に。そこに感情などないかのように。ただたださとりを刺し続けた。さとりは抵抗すらままならなかった。
さとりはついに力尽きその場に倒れた。
「これで命令は完了。ついでにどんな反応するか見てやるか…クク…」
玄狼がそう言うと再びこいしが膝を突く。そして再び目を開ける。
「え…?」
目の前に血まみれになって力尽きた姉が居た。
「嘘…いったいどういう…ッ!」
そこでこいしは先程の記憶を思い出す。
「う…あ…ああああああァァァァ!!」
こいしは自分のしてしまったことに耐えられず発狂した。