古明地さとり…その名を名乗ったのは幼い容姿をした少女だったが、それが発する声からはこの大屋敷を束ねる者としての実力と威厳が感じ取れた。
そう…まるで心の底から凍りつくような…
「ふふ…そんなに身構えなくてもいいのですよ?」
さとりはそう言うがやはりこの独特の雰囲気の前では思わず身構えてしまうものだ。
しかし、流石にこのまま圧倒されたままだとキリが無いのでこちらも名乗ることにする。
「俺は黒葉 漣。今日こっちの世界に来て、こちらのお屋敷に住まわせていただきたくお願いに参りました。後この世界には妖怪がいるようですが、俺は人間です」
「これはこれはご丁寧に。まず本題から言いますと、この屋敷に住んでもらうには構いません」
さとりはそう言った後「しかし」と付け足しこう言った。
「条件があります。あなたは…私たちを受け入れられますか?」
受け入れる…とは、おそらく読心のことだろう。しかし、俺にとってはどうでもいいことだった。
「受け入れられないなら、わざわざここまで頼みに来ませんよ」
すると、さとりは一瞬驚いたような表情を見せたが、また妖しげな微笑を浮かべながら…
「そうですね。では歓迎します。ようこそ。悟りの住む大屋敷へ」
こうして俺は、こいし始め地霊殿のメンバーと一緒に暮らすことになった。
「しかし、こいしに感情が表れているのは妙ですね」
「そうなんですか?」
あの後食事などを済ませこいしが自分の部屋に戻った後、二人きりになった居間で皿洗いを済ませた俺にさとりが話しかけてきた。俺的には感情豊かで面白いやつだと思っていたが、案外そうでもないらしい。
「あの子は…感情を失っているんです」
(?!)
衝撃だった。感情を失う…果たしてそんなことが本当にありえるのだろうか…
感情を持たない…つまりは理性を持たず、本能のみに従って動いているということになる。
そう…それではまるで…
「植物…」
「上手い喩えですね」
「あ…すいません…」
声に出てしまっていたようだ。迂闊だった。
「いいのですよ。実際、その喩えが一番しっくりくる状態ですからね。
あの子は、己の感情を司る第3の目を閉じてしまった。その結果、本能のみで動くことしかできなくなってしまったんです」
「なるほど…自ら感情を閉ざしたということですね。閉ざした理由は本人から聞くとして、なぜ彼女に感情が再び表れたのかですよね」
俺は再び考察する。俺とであったときには既に感情が表れていた。そして、さとりさんの話を聞く限りでは、彼女を最後に見たときにはまだ感情はなかった。つまり、こいしは悟りさんの下を離れてから俺と出会うまでの間、もしくは…
俺の影響…
この世界には能力というものが存在している。俺がであったのは指で数えるくらいだが、もしその幻想が、妖怪だけに留まらず、人間にも発現するものだったとしたら…
「さとりさん。能力というものは人間にも発現し得るものなんですか?」
「ええ。私の知り合いにもそういった事例は多いです。というか全員ですが……まさか?!」
「はい…おそらくは…」
もし俺にもその能力が発現していたら…まあまだそうだと決め付けるのは早いが…
「わかりました。可能性の一つとして考えておきましょう。あと、今日はもう遅いですので、今から案内する部屋で休んでください」
「はい」
こうして俺は、余っている部屋の内一つに案内された。
「それでは今日はゆっくり休んでください」
「はい。お休みなさい」
「ああ。それと…」
そう言うとさとりはこちらに振り返り…
「私のことは呼び捨てでいいわ。あと敬語もいらないから」
「?!…ああ。わかった」
返事を返すと、さとりはこちらに微笑みかけ、この場を後にした。
俺は先ほど温泉で入浴を済ませた。流石は地底名物というだけあって良い湯だった。
俺はベッドに寝転がり、思考を巡らせていた。
(俺に能力…か…)
もしこいしの心に俺の能力が干渉したのだとしたらかなり危険だ…
相手の脳に干渉したことになるから。一刻も早くこの問題を明らかにして、もし能力なら制御する必要がある。俺は今後の課題について考えをまとめた後静かに眠りについた。