暖簾をくぐって店内に足を踏み入れると、目の前に広がったのは思わず圧倒されてしまうような大量の本が並べられた本棚の数々だった。軽く店内を散策してみると、実に多くのジャンルが揃えられている事が分かる。
あまり深く考えずに棚に並べられた本を見て回っていると、他とは違う雰囲気をまとった本が並べられたエリアにたどり着いた。特別目立った違和感があるというわけではないが、その本からは何か異質なものが伝わってくる気がした。おそらくこれが霊夢の言っていた妖魔本というやつだろう。
「それに興味がおありですか?」
(!)
俺が丁度本に手を伸ばそうとしたとき、近づいてきた少女に話しかけられた。おそらくこの店の店主だろう。
挨拶もかねて返答する。
「ええ。他の本にはない特有の雰囲気に魅了されまして」
「へえ…それが分かる人にご来店いただけるとは。取り扱っている者としても嬉しく思います」
少女は朗らかな笑みを浮かべる。やはりここの店主で間違いないようだ。せっかくなので一つ問いを投げかけてみることにする。
「あなたは妖魔本の解読を行っていると伺いました。いったい何冊の本を?」
「ざっと15冊ほどでしょうか…読めるようになったとはいえ時間はかかるので…」
1冊読めるだけでも十分すごいのだが、彼女はずいぶんと謙虚なようだ。
「妖魔本が読めるだけでも十分すごいですよ」
「あはは…ありがとうございます」
「これ、拝借しても?」
「あ、はい!」
こうして俺は会計を済ませ、予め手にとっていた幻想郷で書かれた小説をレンタルした。読書は前から好きだったので、この世界の小説にも興味が湧いた。会計中に自己紹介をされたが、店主の名は(本居小鈴)というらしい。あの店にはこれから行くことが増えそうだ。
日もだいぶ落ちてきたので、適当な店で食事を取ることにした。八目鰻と書かれた暖簾をくぐり、店内に入る。
「いらっしゃいませ!」
俺がカウンターに腰掛けると、特徴的な耳と背中から鳥の翼の生えた妖怪らしき人物が現れた。
霊夢によると、里内は中立らしいので問題はないだろうが、まさか妖怪が店を出しているとは思わなかったので少々驚いた。
ずっと驚いたままでも仕方ないので、とりあえず注文をすることにする。
「えっと…八目鰻の蒲焼と厚焼き玉子、山菜釜飯をお願いします」
「畏まりました」
すると店主は後ろにある鉄板で八目鰻を焼き始めた。蒲焼のタレの香ばしい香りが漂う中、店主は話しかけてきた。
「お客さんはもしかして外来人の方ですか?」
「そうですけど…なぜそれを?」
「いえ…この辺じゃ見ない顔ですし、なんとなくそうかなって…」
どうやら直感だったようだ。それでも当てられたのはかなりすごいと思う。里に人はかなりいるので、普通に見たことがなかっただけということもありえるのだから。
「それじゃあ女将さんは夜雀さんですか?」
「ええ。夜雀をご存知で?」
「本で見た姿とはかけ離れていますが、なんとなく直感で」
「なるほど。私は(ミスティア・ローレライ)と申します」
「俺は黒葉漣です」
このあと暫く経って注文の品がカウンターに並べられた。どれも絶品の味で、それを言うと彼女は嬉しそうに礼を述べた。彼女とは今日あった事などの話題で盛り上がり、特に鈴奈庵の店主が能力持ちであったことには驚いた。
やはりこの世界は能力持ちが多いと感じ始めたところへここの店主も能力持ちであるという追い討ちを掛けられた。あまり能力に特別さを感じなくなってしまった。
やがて俺は会計を済ませ、ミスティアの店を出た。ミスティアによると、たまに屋台も引いているらしく、そのときは妖怪の客をメインに相手するという。その中には鬼もいるらしい。鬼はこの世界では妖怪の頂点として君臨しているらしく、数々の妖怪から恐れられているのだそう。
いくつかの土産話を思い返しながら、俺は地霊殿への夜道を帰った。