マウスの苦悩   作:イエローケーキ兵器設計局

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見えるもの。そのすべてが異常。そう思っていた。初めは。妾は代理人しか信じないことにしている。そうしないと壊れてしまいそうだから。


鼠の騎行

 

「……体調の方は問題がないようです。」

「そうか……」

 鉄格子越しに災獣が代理人と会話している。それを見るたびに光景の異常さに腹が立つ。

「マウス、気分はどう?」

「最悪だ。妾は鹵獲されているのか?」

「いいや。君は鹵獲なんかされていない。」

「じゃあ、災獣を鹵獲したとでも言うのか?」

「それも違う。」

 不快だ。敵がそこに居るのも、その敵が代理人と仲良くしているのも。

「いいかい、マウス。何度もこの説明をしているが君は作戦中に頭部へ離反したDOLLSからの砲撃を受けた。」

「そして、君は認識障害を負ってしまった。」

「……。」

「現状、治療法を探っているが……君の気分のとおり、効果はまだ出ていないようだね。」

「妾はまた戦場に立てるのか?」

「その質問はこれで5回目。ここまでの件を含めて、ね。結論はまだ駄目、だ。ARMSのIFF(敵味方識別装置)が正しく働いていない。」

「それは妙だな。」

「本来、ARMSとDOLLSはリンクされていても影響を及ぼし合うはずがない。」

「いずれにしても君をこの地獄からまだ救い出すことができない。すまない。」

「良いんだ、代理人。」

「……あれは妾の不注意だった。」

 重戦車大隊で突撃作戦を仕掛け、防衛ラインを乗り越えたものの、巧妙に偽装された陣地の砲撃で壊滅。なんとか生存者を引きずって帰ってきた。私は数少ない生き残りである。

「実は来客が来ていたのだけれど……ティーガーとの面会はよしたほうが良さそうだね。事情を説明して帰ってもらうよ。」

「すまぬ。戦友が災獣に全て見えてしまうばかりに。」

「早く治るといいな。」

「戦力としてか?」

「……君からして私は何に見える?」

「何って……代理人は代理人だ。」

「……そっか。」

「すまない、マウス、手を貸してくれ。座りすぎて立てなくなってしまった。」

「まったく……戦士の上に立つ者が何をしておる。肩を貸せ。」

 そこに椅子があった事自体忘れていた。

 

 FCS(火器管制装置)IFF(敵味方識別装置)のアップデートにより訓練の参加ができるようになった。

「……妾一人で、か。」

「いや、私もだ。」

「代理人……!」

「名目上は代理人だが……」

 代理人が着けていたバイザーを外し、隠されていた目が顕になった瞬間、目が覚めた。代理人はバイザーなんてものはしていない。

「おはよう、マウス。気分は?」

「……今日も良くはない。」

「そうか……」

 その目は明確に残念さを表していた。

「体調はどう?一応、訓練の許可は降りたのだけれど……」

「本当か!?代理人!」

「ああ。教官は私がやれとのことだが。」

「……は?」

 代理人が?確かに災獣に教わるよりはいいが……

「ま、まあ……30分後にまた来る。移動しながら説明するから。戦闘用の服装に着替えておいて。」

 帽子を被り、服装も整えた。見かけだけなら以前の妾だと思う。

「お待たせ。念の為にこのアイマスクを着けてもらえる?」

 なんの種も仕掛けもなさそうなアイマスクを手渡される。これを着けたからといって、災獣がぼーっと見ている現実も、代理人が妾を期待に満ちた目で見ているのもわからないだろう。

「こうか……?」

「うん。じゃあ、行くよー。」

 目の前に壁が迫ってくるようなそんな風の動きを感じる。

「代理人……?」

「よいしょっと。」

 

 代理人のもとに来てから初めておんぶというものを体験している。代理人の背中はとても大きく感じる。妾が小さいだけかもしれないが。

「揺れるな。風を感じる。」

「すまない。」

「いや、良いんだ。代理人、どんな訓練なんだ?」

「君に災獣とDOLLSの写真をランダムで見せる。DOLLSと災獣の識別がつかないなら訓練メニューが変わる。」

「なるほど……?」

「ここだ。降ろすよ。」

 ゆっくりと降ろされてアイマスクを外すと外に連れ出されたことがわかる。

 1枚目の写真に映るのはDOLLS。おそらくティーガー。2枚目は災獣。鋼玉系統か。3枚目は……確か……星屑のF4U-1。

「なるほど……マウス、どうやらIFFの調整はこれで終わりになりそう。」

「どういうことだ?代理人。」

「今見せたのは……1枚目は鋼玉。2枚目が以前の君。3枚目が……」

「ちょっと待ってくれ。どういうことだ?」

「どうやら認識障害はなかなか嫌な状態になっているようだ。君は敵味方を取り違えて認識している。どう見えているのかはなんとも言えないが……」

「妾が敵味方を逆に覚えている……と?」

「……まあ、そうなる。」

 姉御と呼んでくる同胞と敵を私が取り違えているというのか?

「そこで、だ。IFFの設定を敢えて弄らず、君には"味方"を撃ってもらう。」

「味方……?」

「そう、君にとってかつての仲間に見える敵だ。」

「嫌だ!」

「そうだよな……」

「絶対に断る!」

「参ったな……調達できなかった28cmの代わりに長砲身140mm滑腔砲と専用のAPDS-FS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、60mm機関砲を調達して来てしまったのだが……ティーガーあたりにでもあげようか……」

「……140mm滑腔砲は妾のARMSで使えるのか?」

「君のARMSで運用できるように無理言って開発してもらったからね。」

「わかった……」

「すまない。……実は君の認識障害について知っているのは鉄格子越しに見ていた三号Mと、私、治療に携わるスタッフ数名だけなんだ。」

「秘密兵器が認識障害を起こしているという噂が立てば士気は下がる。そういうことだろう?代理人。」

「……そうだ。」

 

 

 

 

 

 

 




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